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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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80.貨幣制度

ロッコさんとの話はとりあえず終ったので、今度は、バールさんの話を聞くことにした。


バールさんは、何か相談が有ると言っていたな。


貨幣管理部門は、予想通り、本位貨幣を鋳造する部門だった。そんな部門が何故、アトラス領にある国務館に来ているのかと言うと、コンビナートに貴金属の精錬設備が有るからだ。

その精錬設備で生産した、銅、銀、金は、全て、一旦ガラリア王国でお買い上げしてた。要するに、アトラス領は生産した貴金属を、ガラリア王国に、銅、銀、金の本位貨幣に交換してもらっていたんだ。


バールさんは、電解精錬していることで、高純度の貴金属が得られるようになった事を随分と喜んでいた。

王宮では、アトラス領に、大量の鉱石を運び込んだり、従来精錬した銀や銅を運び込んで精錬しなおしたりしていたらしい。


……こっそり、そんな事してたんだ……知らなかった。


金の高純度化について聞いたら、興味があるらしい。うーん。検討した方が良いのだろうか……。

ただ、一旦、金を溶かすとかしないと、金の純度は上げられないよな。


そのうち、何か出来そうな事を考えるか。


何故、純度を気にするのかを聞いたら、偽造を防ぐ為だと言っていた。


貨幣管理部門では、高純度の金、銀、銅に一定の割合で、別な金属を僅かに混ぜて、それで貨幣を作っている。


純金とか純銅って、柔らかいからね。長期使用に耐えられないんだろう。


そして、この純度が変わると偽造だと判断するのだそうだ。

そのためには、もともとの金、銀、銅に混ざりものが無いのが重要。

そうすれば、一定の品質の貨幣が作れる。


これまでは、なかなか純度を上げられなくて苦労していたらしい。感謝されたよ。


成分分析が出来るのかを聞いたら、空中の重量と水中の重量の比で判ると言っていた。

これって、比重測定だよね?


比重の事を聞いたら、それは知らなかった。


まあ、そうかもしれない。重さは簡単に量れるけど、体積を正確に求めるのはちょっと、いや、かなり難しい。


この方法は、秘技として伝わっている方法だそうだ。

昔、賢い人が居たんだね。


貨幣の偽造犯は、融けやすい金属を貨幣を混ぜて、金属を嵩ましして再度鋳造する。鉛か錫を使うのかな?それとも金貨と銅貨を混ぜるのかな?


比重を合わせようとすると、それはそれで、大変だからね。それなりに有効な方法なんだろう。

成分分析すれば、一発なんだけど……それは、この世界の技術を大幅に逸脱しているよな。


この偽造貨幣を判別する方法は、外国の貨幣を使用する商人も知っている。

最近では、テーベ王国の貨幣の質が急速に悪化していることが知られていて、交換レートが悪くなっているんだそうだ。


あれ?昔、ウィリッテさんに教えてもらったときには、テーベ王国の貨幣の方がレートが高かったはずだったけどな。

何かあったんだろうか?


テーベ王国については、貨幣の質の問題以外にも、テーベ王国内の銅の価格が高くなる問題が発生している。そうなると、テーベ王国に、ガラリア王国の銅貨が流れていく事態が発生するそうだ。

貨幣で持っているより、鋳潰して銅の塊にした方が価値が高くなるんじゃ貨幣を鎔かそうとするだろう。


ここまで話を聞いていて、金や銀や銅の金額がどうやって決まるのか疑問に思った。

そもそも、大銅貨の価値のd10倍が小銀貨。大銀貨の価値のd10倍が小金貨になっている。

実際の金や銀や銅の価格が大きくズレたら、さっきのテーベ王国の様な鋳潰しという事態が発生してしまう。

だから、貨幣の重量相当の金属としての価値と貨幣の名目価値が一致してなきゃならない。


「それはですね。王国で産出された金、銀、銅は全て王国が買い取り、大量に金と銀と銅を保有しているのです。

求めに応じて、貨幣の金額に応じた金、銀、銅を下げ渡すのです。

この時に、貨幣に含まれている金、銀、銅より少い量の金、銀、銅を渡します。

これで、国内の金や銀、銅の価格が貨幣の金額とずれないようにするんですよ。」


……それは、また、大変な事をしているな。

前世では、金だけでも大変だったみたいだけど、3種類の金属を管理してるのか?

一体どれだけの量の金属を保管しているんだろう。

それに、毎年、金と銀と銅の産出量の比率だって、変わるんじゃないか?


「そうすると、採掘量の不均衡で、管理するのが大変になるんじゃないですか?」


「それは、貨幣の種類配分の調整とか、色々できることはあるんですよ。」


「でも、どれかの金属が大量に余ったり、不足したりしませんか?」


「最近は、青銅から鉄に移行し始めたこともあって、銅が余り始めました。」


そうだよね。三種類の金属の価格管理なんて大変なだけだ。

そもそも、実金属で貨幣を作るからこんな事になるのだろう。

王国貨幣の信用度を維持するためと、金属価格を維持するために、大量の金属を保有しなきゃならない。

これまではそれで良かったかもしれないけど。

他国から、価格の異なる貴金属が入ってきたら、それも全て買い取って対応しなきゃならなくなるんじゃないだろうか?

それに、商取引が活発になってきたら、大量の貨幣が必要になってくる。そのうち破綻しそうな気がするけれど……大丈夫なのか?これ。

唯でさえ、貨幣の供給量の調整をしなきゃならないってのに、こんな事もしていたのか……。

管理するのを金だけにしたって、全然問題無さそうなんだけどな。


「管理するのは金だけにしたら良いんですよ。」


「えっ?金だけですか?それは、どうやって?小さな金貨を作るってことですか?」


「そもそも、通貨って、王国の信用だけで成り立っている制度ですよね。

そこらへんに転がっている石に、1ガリオンと刻んで、これは1ガリオンとして使えるって王国が宣言すれば、1ガリオンになるんじゃないですか?」


「それは、流石にムリでしょう。」


「でも、その数字が刻まれた石塊いしころを王宮に持ってきたら、同等の価値の金と交換するとすればどうです?」


「えっ?それなら……あっ、それで、王国の信用という話になるんですか。

しかし、そこらへんの石っころって訳には行かないでしょう。」


「まあ、それはそうですが、銀と銅の価格は気にしなくって良くなりません?」


「ちょっ、ちょっと待ってください…………。石に刻んだ数字だけが意味がある……。あっ、そういう事ですか。数字に対応した金と交換できるんであれば、少額貨幣は、銀や銅じゃなくっても良いんですね。」


「高額の貨幣も金じゃなくって良いんですよ。」


「えっ?」


「だって、大事なのは、貨幣に刻まれた数字ですよね?」


「それは……確かにそうですね。王国が刻まれた数字に対応する金と交換すると宣言すれば、数字だけで良いって事ですか……。」


「そうです。

そうすれば、貨幣の素材に拘る必要が無くなります。

そもそも、貨幣を実物の金属で作って、その金属価値を貨幣と同じにし続けるのは無理があります。

そして、これから様々な製品が出てきて、商取引が活発になったら通貨の供給量を増やさなきゃならなくなります。

どれだけの貴金属を保有しなきゃならなくなるのか。

そんな状況で、今迄と同じ方法を採っていたら、そのうち破綻しますよ。」


「それで、石に数字を刻むんですか……。でも、それって大変な上に偽造が増えますよ。」


石塊いしころって言っていたのは、価値の無いもので代用できるって説明のためで、実際に石に数字を刻む必要は無いんですよ。

紙を使ったらどうかと思っています。」


「紙……ですか?」


「そうです。貨幣じゃなくって紙幣ですね。」


「紙幣?」


「そう言えば、手形なんてものもあるんですよね?あれは、現物の金属では無くって書類なんですよね?」


「手形ですか……あぁ、なるほど。紙幣というのは、王国が振り出す手形みたいなものなのかもしれませんね。」


紙を通貨に使うのは、前世で実績のある方法だ。

多分、色々問題もあるかも知れないけど、それは、王宮で検討してもらえば良いだろう。

私達は、実現したり生産したりするのに必要な技術を考えるだけだ。


「ただ、単なる紙ではなくって、特殊な紙を使用して、その表面に特殊なインクで複雑な文様を描きます。

そして、その紙には、1ガリオンとか、d10(=12)ガリオンとか記載するんです。

紙を作る技術は出来立てで、誰も容易に同じものを作ることができません。特殊なインクも、かなり特殊なものを、私達なら準備する事ができます。

偽造は多分無理でしょうね。

それに、紙なら必要に応じていくらでも生産できます。廃棄も容易です、燃やすなり水に溶かしてしまえば良いんですから。」


「何と言えば良いのか……。吃驚しました。

確かに、金額に相当する金と交換するという仕組なら、通貨自体は、何でも良いんですね。

でも、流通している通貨と同じだけの金を持たなければならなくなるんじゃないですか?」


「ええ、そう出来るなら、そうした方が良いでしょうけど……。

そう言えば、流通している通貨の量って、把握できているんですか?」


「一応、発行した通貨の数や回収した通貨の数についての記録はあるんです。

ガラリア王国で貨幣を鋳造し始めたのは、東部大戦の中盤ぐらいです。

今から、d160(=216)年ぐらい前でしょうか。

戦争末期には、大分テーベ王国に攻め込まれたりして、混乱していた時期があります。そのため、戦争終結あたりの記録は、ほとんど失なわれているんです。

それに、それ以前は、他国の貨幣を代用していたり、戦争で滅亡した王国の貨幣が流通していたりしました。

今も、僅かですが、そんな貨幣が流通しています。

そんな訳で、過去の記録から流通している通貨の量を調べるのは難しいんです。

それに、流通していなくて、溜め込まれているだけの通貨も大分あるのではないかと思われます。」


「そうすると、結局のところは、どのぐらいの量の通貨が流通しているのかは分らないという事なんですか?」


「そういう事になります。これって、何とか分る方法ってあるものなんでしょうか?」


その時、生物の実験なんかでは、生体で消費されるエレメントの量を調べる為に、放射性同位体を使うことを思い出した。

一定量の同位体を投与して、時間と共に同位体の比率を調べることで、その系全体で利用されているエレメントの量を算出することができる。


お金の場合だと、意匠の違うお金を流通させて、ある程度時間が経った時に、従来のお金とその意匠の違うお金の比率を調べたら、流通している通貨の量を計測できるかもしれない。


そんな説明をバールさんにしてみた。


「そんな事で分るかもしれないんですね。ただ、意匠を変えると、贋金だと騒ぎになるかもしれませんね。」


「それなら、今後、発行する貨幣に製造年を刻印したら良いんじゃないですか?

それなら、違和感は無いかもしれないです。

そうすれば、その年に発行した貨幣の量から類推できるんじゃないでしょうか。」


「なるほど、それは良いかもしれないですね。検討してみます。

ただ、先程の金の話ですが、金貨の分については、金貨と紙幣を交換することで、金を確保できますが、流通している銀貨や銅貨の分も対応しなきゃならないんですよね。

やはり、今保有している金の量だけでは足らないかもしれません。」


そう言えば、ノルドル王国と戦争になった原因の金鉱山は、そのままだったな。

埋蔵量だけは調べてもらっていて、相当な量が埋まっているらしいけど。

まあ、量に依るけど、なんとかなるかもしれない。


それに、完全に換金するだけの金を持っていなくても良いかもしれないな。

そもそも、全部の紙幣を金に替えなきゃならない時ってどんな時なんだ?


「金に関して言えば、ノアール川流域に大きな金の鉱脈があります。ある程度は対応できるかもしれません。

でも、全ての流通しているお金と同額の金を持っていなくても良いんじゃないですか?」


「それでは、その紙幣というものを、全て金に替えてくれと言われた場合に対応できなくなりませんか?」


「でも、そんな事態になる場合って、王国の紙幣が信頼されなくなった時ですよね?

それって、どんな場合なんでしょう?」


「それは……例えば戦争で負けてしまった時とかですかね……。しかし、その場合は、そもそも、王国そのものが消し飛んでますから……うーん。難しいですね。」


「だったら、そういった事を、この研究室で研究すれば良いじゃないですか。

どの程度、金を確保しておけば良いのかとか。

あっ、そう言えば、バールさんは、何か相談したい事があったんじゃありませんか?」


「それですか……本当は、銀の保有量が減ってきたので、銀を増やす手が無いかを聞ければと思っていたんですが……。

今回の話では、そんな事は飛び越えてしまってますね……。」


「なぁ。ニケさん。先程から話を聞いていたんだけど、世の中が引っくり返りそうな話になっていた様に思うんだが……。」


ロッコさんが、話掛けてきた。


「そうかもしれませんけど。

このまま、金と銀と銅の価格を統制しようとしていくと、そのうち破綻するかもしれませんし。

産業が発達すれば、流通させるお金は沢山必要になるんじゃないですか?」


「まあ、そうなるんだろうな……。」


何とか良い形になってきたかな。

ここは、二人の背中を押すしかないだろう。


「いずれにしても、私には、これを実施した場合にどういった問題があるのかとか、実現出来る様なものなのかとかは分りません。

それは、専門家お二人で、研究してもらうのが良いと思うんですよ。」


結局、今日の話は、それぞれ国務館に持ち帰って、検討することにしたみたいだ。


今後、週に1度、この研究室で検討結果を話し合うことになったんだけど、これからも私が立会わなきゃならない理由が今一つ分らなかった。


何故か聞いたら、


「何を仰っているんですか。ここまで、色々教えてくださったニケさんは絶対に必要です。」


とロッコさんに懇願されてしまった。バールさんも同じだそうだ。

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