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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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7W.経済研究室

魔法研究室の立ち上げを行なった翌日の午後。


今日は、経済研究室の運営方針についての会議だ。


アイルは、学生の数学演習を見に行くと言っていた……逃げられたな……これは。


経済研究室については、まだ、具体的な活動をどうするのか全然決ってなかった。

なにしろ、入学式まで、やることが山積みだったからなぁ。

えっ?自分が楽をするための複写装置の試験をしていただけだって?

ほっといて。


これからメーテスの学生さんたちは数学のお勉強だ。


化学の教育はまだまだ先になる。


数学だったら、アイルに任せておけば良いだろう。

化学では四則演算に時々指数関数を使うぐらいだから、数学に関しては、アイルの方が絶対に適任だ。


という事で、ロッコ・ギウスチさんとバール・アラピさんと三人で経済研究室の居室で打ち合わせをする。


ロッコ・ギウスチさんは、国務館産業管理部門管理官で、バール・アラピさんは、国務館貨幣管理部門管理官だ。

どちらも中年のオジさんだ。

ギウスチさんの方は、40歳ちょっと前の長身で細身のシブオジさん。

アラピさんは、40歳を過ぎかな。一言で言うと巨漢。頭髪は髭の方に完全に移動してしまっている。見事なまでに普通に毛がある部分には毛が無いな……。


「えーと。実は、正式には昨日から、経済研究室は立ち上がっているんですけど、私もアイルも身一つなものですから、実質今日から、経済研究室を立ち上げたいと思います。これから宜くお願いいたします。」


二人共にニコニコしている。


「こちらこそ、宜くお願いいたします。ニーケー・グラナラ様と御会いしてお話が出来るだけで、私は満足です。私の事は、ロッコとお呼びください。しかし間近でお目にかかると、お美しいですな。」


「ええ。そうですね。こんな可愛らしいニーケー・グラナラ様と御会いしてお話できるとは、何とも嬉しいです。私も、バールと読んでください。」


うわっ。このオジさん達、ロリコンとかじゃないよね?


「いえ、そんな……。話が出来るだけでなどとは仰らないでください。

それと、こんな子供ですから、様付けは無用でお願いします。あと、呼び名はニケでお願いしますね。」


「いえいえ、国務館の私の部署の産業管理部門は、男所帯でして。こんな可愛らしいニーケー・グラナラ……ニケさんとお話が出来るだけで、それは、嬉しいものです。最近は、娘と話をしても、全く取り合ってもらえませんからね。

しかも、話相手が英知の女神とも言われるニケさんとなれば、これほど嬉しい事は無いです。

是非、色々お教えていただけませんか。」


「そうですな。私の貨幣管理部門もギウスチさんのところと似たようなものです。

それに、宰相閣下から、ニケさんは、貨幣の発行について、色々お考えの事があると聞いています。是非ご教授いただければと思っています。」


うーん。この感じだと、大丈夫だよね。大丈夫だと思おう。


この二人。共に国務館の管理官なので、一応准教授室が用意されているけれども、ここでの執務はしない。机と本棚があるだけで、空き室のような感じだ。


経済研究室の事務員のコリンナさんが紅茶とお茶菓子を運んできてくれた。


コリンナさんは、年配の女性で、もともとはアトラス領の文官をしていた。

夫はアトラス領の文官をしている。職場結婚だって。

子供が生れたときに、職を離れて、家事に専念することにした。

その頃は、まだ、子育て家庭への支援なんて無かったからね。

二人の子供のうち一人は既に文官として働いていて、下の子供が商店に勤め始めた。子供の面倒を見る必要が無くなったので、職を探していたところに、ちょうどメーテスの事務員の募集があった。

一応、経済研究室の専属の事務員なんだけど、当面は、経済研究室のメンテナンスが主体の仕事だ。

だって、普段、誰も居ないからね。

そのうち、助手の人が増えていけば良いんだけど。


「それで、この経済研究室の実施内容について、話し合いをしたいと思っているんですけど、私はお二方の仕事についてあまり存じ上げないのです。

説明をお願いしても宜しいでしょうか?」


「えーと、それでは何方どちらからにしましょうか?」


産業管理部門管理官のロッコさんが聞いてきた。


「あっ。私のところは、色々相談があるので後が良いですな。ギウスチさんからどうぞ。」


貨幣管理部門は、相談がある?何を相談したいんだ?

まあ、いいや。

どっちにしても、二人から話を聞かなきゃ。

そうしないと、これからどうするか考えることもできない。


「じゃあ、ロッコさんの業務について、教えてくださいますか?」


「はい。私の部門は、産業管理部門と言いまして……」


それから、産業管理という部門の仕事を教えてもらった。


産業を管理するという意味が良く分らなかったんだよね。

そもそも、管理って、一体何を管理するのか。


アイルと私が、色々始めるまで、この世の中は、一次産業オンリーと言っても良い世界だった。

そりゃ、雑貨を作ったり、青銅を中心に金属を加工したり、飲食店でサービス業のようなものは有った。だけど、大半の人達は、日々、農業をして小麦を作ったり、魚を獲ったり、豚や牛や鶏を育てたり、鉱山で鉱石を掘り出したりしていたんだ。


何も変わらず、毎年同じ事をして暮していた。

そう、新しい産業なんて、そもそも無かったのだ。


産業管理部門が何をしていたのかと言うと、各領地でどのようなものを作っているのか、変化があったか。そういったことを調べて、宰相閣下に報告をするのが主な仕事だったんだそうだ。

これは、税収の増減などに関わるため、調査が必要だった。


各領地での税収の内容を調べて、新たにこの領地で畜産を始めたとか、漁獲量が変わったかなんて事を纏めていた。

だから、管理というよりは、監視するのが仕事だった。


それが大きく変化したのは、私達がアトラス領で、新しい製品を生み出したかららしい。

新規産業への対応をすることが必要になった。


一昨年までは、アトラス領だけを見ていれば良かったのだが、最近になって、アトラス領の周辺の領地にも変化が出てきた。


極めつけは、ゼオンとロッサのコンビナート建設だそうだ。


あれには驚かされたと言っていた。


鉄やガラス、紙といったものや、それの加工が、王都周辺にも広がることになる。


監視対象が増えて大変らしい。


私が、ロッコさん達の仕事を知らなくても、ロッコさんたちは、私達が何をしてきたかについては、十二分に知っていた。

何しろ、仕事が増える元になっているのは、私達がしてきた事だから。


震源地がアトラス領という事で、国務館が出来るときに、大半の産業管理部門の職員は国務館に異動してきたんだそうだ。

このロッコさんというのは、元々、王宮の産業管理部門の管理官だった。

王宮の部門は、管理官補佐を管理官に上げて、部門の何人かの職員に任せているという。


ひたすら迷惑を掛けていたんだろうか?


「それは、何と言って良いのか……ご迷惑をお掛けしたんでしょうか?」


「いえいえ。とんでもない。6年前までは、退屈な部門でした。人もそれほど居ませんでしたし、王宮内でも注目されることもありませんでした。

それが、今では、直接、宰相閣下から下命を受けることもあります。

「今度は何が出来たのだ調べろ」と、まあそんな感じですかね。」


なるほど。仕事が増えたことは別に嫌じゃないのか。

なるほど、なるほど。

じゃあ、仕事を増やしても大丈夫なのかな?


「大体仕事の内容は分ったような気がします。

ところで、産業振興という様な事はしないのですか?」


「何ですか?それは?」


産業振興の例として、ゴム、砂糖などを挙げた。農産物を加工することで有用な製品を生み出すことができる。

植物は、気候や土壌の影響を受ける。それぞれ生育に適した場所がある筈で、出来れば、その生産場所で、加工まで実施した方が良い。


他にも、有用な鉱石が採れる場所から、どのように鉱石を工場へ運ぶのか、あるいは工場をその採掘場所の側に作った方が良いのかを検討をする必要もあるだろう。


そういった事をしないのかを聞いてみた。


「すると、これまで状況を見ていただけの我々が、攻めに転じられるということですか?」


「そうですね。

これから私が管轄している化学研究所の鉱物研究室では、王国中の鉱物資源の調査を行ないます。これまで、見過していた有用な鉱物資源が見付かると思いますよ。

あとは、アイルの管轄の物理研究所の気象研究室で、王国中の天候のデータを取る方法を検討する筈です。

国務館研究所の農作物研究所では、産業利用できる作物について研究します。

こういった情報を使えば、どの領地にどんな作物を作って、どんな産業に発展させるか考えていくこともできます。

適切な場所に適切な産業を興していくための指導をしていけば良いと思います。」


「それは……今の人手では全然足らなくなるな。」


「何も一編にしなくて良いと思います。少しずつ進めていって、最終的に王国全体の産業を考えていけば良いんじゃないでしょうか?」


「なるほど。しかし、そんな事が出来るようになるというのは……何だか嬉しくなりますな。」


まあ、本当にそうなれば、巨大組織になるだろうな。

前世でも、経産省は、巨大な省庁だった。

確か院生の頃、経産省の人と会ったことがあるけど……そう言えば、私が発明した特殊樹脂はどうなったんだろう。

その人、あの樹脂で、これからの日本のパワー半導体がどうとか言っていたけど。

完全に無視して、アイルを追っかけて米国に行ったんだよな。

まっ。ちゃんと特許書いておいたから、誰か実現しているだろう。

あれ、特許って、遺族に相続できたんだっけ?


まあ、いいや。終ったことだ。


「そうですか。それなら、これから、どういったことを検討するか、相談していくことにしましょう。

誰か、適切な人を担当に任命してもらえませんか?」


「いえ、私が担当します。」


「えっ?管理官って忙しいんじゃないんですか?」


「いえ、これまでの仕事でしたら、調査だけですから、今の職員だけで何とでもなります。

それに、ニケさんから、こんな話を聞ける機会は逃したくありません。」


うーん。本当に違うよね。大丈夫だよね。

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