77,入学指導
入学式の日。
エリオさんとゼリアさん、カイロス君と4人で入学式に出席するために、講義棟の大講堂へ向った。
入学式の会場になっている大講堂の机には、学生の名札が置かれてあった。
自分の名前がある席に座った。
ボク達4人は一緒の机だったから、学生寮の部屋毎になっているみたいだ。
開始半刻(=5分)前のブザーが鳴って、学生の家族が会場に入ってきた。
その後に、主催者の教員や来賓の人達が入ってくる。
「あれ?お祖父様だ。」
エリオさんが、呟いたのが聞こえた。
「えっ?国王陛下?」
「陛下なのか?」
その呟きで、ボクとゼリアさんが声を上げてしまった。
それを聞いた周りの学生達が、「国王陛下?」などと声を上げる。
それが会場全体に広がっていった。
あっ。不味いと思ったけれど、今更どうしようもない。
親戚の人達のところも騒ついているので、そっちでも気付いた人が居たようだ。
「これより、王国立メーテスの設立式および入学式を執り行う。
全員。起立!」
太めの人が壇の脇で、入学式の開始を宣言した。
「あれ?お父さんだ?何故だろう?」
意外そうに、カイロス君が疑問を口にした。
「カイロス君のお父様が、進行役ではなかったんですか?」
「ええ、先日まで、メーテスの職員の人がする予定だったんですけど……。陛下がいらしたので、予定を変更したのかもしれませんね。」
「お祖父様も、ここに来られる予定では無かったんですよね。」
それから、陛下は、このメーテスを設立した意義、王国が如何に期待しているかを述べられた。その上で、ボク達に入学の祝辞を述べられるとともに、期待しているという力強いお言葉を頂いた。
「やはり、これからの王国のために、私達は、頑張らなければならないという事なんですよね。」
「そうそう。オレも、父親の期待だけでなく、王国の期待まで、背負っていることを強く感じたよ。」
皆、ここで学ぶ事の意義を知って、決意を新たにしていた。
きっと、これを狙って、陛下が来られたんじゃないかな。
ボクも、心機一転頑張ろうと思った。
入学式は、その後、講師の人達の紹介になった。
アイルさんと、ニケさんは、他の講師の人と比べて、はるかに幼ない。
だけど、二人が教授で、他の人は皆、准教授という教授の下になるみたいだ。
この説明があったときには、主に学生の親戚の人達のところでザワザワしていた。
確かに、自分達のところの子供より下の子供が教授として指導するって、変に思えるよな。
多分、ここに居る学生やその関係者の中で、実際にアイルさんとニケさんの魔法を見た人は居ないんだろうし。
紹介が終了して、入学式は終了した。
陛下や宰相閣下、講師の人達は退出して、学生の親戚の人達も退出していった。
これから、昼食までの時間、入学指導があるので、学生だけが大講堂の中に残された。
事務長のバンビーナさんが、声を大きくする道具の前に立った。
「それでは、出席を確認します。呼ばれたら、返事をしてください。」
「エリオ・ガラリアさん。」
「はい。」
その瞬間、会場が騒ついた。
まあ、王族が居るとは思わなかっただろうね。
騒つきが収まらない。
「はい。静かに。先に進めます。」
バンビーナさんが強い口調で話すと、一旦騒つきは収まった。
「カロッツェリア・パスカレーラさん。」
「はい。」
「ムザル・ロッサさん。」
名前を呼ばれたので、ボクも返事をした。
「カイロス・セメルさん。」
「はい。」
それから、順に、学生は、名前を呼ばれていく。
あまり気に止めていなかったけれど、大体男性は3/4、女性は1/4ぐらいだった。
「はい。全員の確認が取れました。入学お目出当ございます。これから、順番に、座学の際に着用するローブと、実験用の衣装を配布していきます。
名前を呼ばれたら、こちらに来て、衣装を受け取って、今座っている席に戻ってください。
では、エリオ・ガラリアさん。」
エリオさんは、席を立って前に歩き出す。
また、一気に大講堂は騒ついた。女性の嬌声も聞こえる。
「はい。お静かに。名前を呼んでも聞こえなくなります。」
また、バンビーナ事務長が命じたのだが、騒つきは収まらない。
ゼリアさんと、ボクは、騒つきの中前に出て、紙袋を渡された。
中には、青い色をしたローブと、実験の時に使うのだろうと思われる変った形の衣装が入っていた。さらに、足の形をしたもの、手の形をしたもの、眼鏡のようなもの、固い帽子のようなものが入っている。
あとは、何枚かの紙が入っていた。
不思議な事に、カイロス君は、呼ばれて、紙を受け取っただけだった。
「カイロス君は、既に衣装を持っているんですか?」
ボクは不思議に思って聞いてみた。
「ええ。そうですね。」
「それはアトラス領の人だから?」
エリオさんが続けて聞いた。
「いえ、そういう訳でもないんです。今回の衣装を決めるため、試作に付き合わされたんです。
中々決まらなくって、何度も着せ替えさせられました。
そんな訳で、ボクの分は既に持っているんです。」
うわっ。何かそれは大変そうだ。
「それは、災難だったね。」
エリオさんが同情気味に声を掛けた。
「まあ、毎回こんな感じですね。」
衣装の手渡しが進むにつれて、騒つきは収まっていった。
最後の学生さんに手渡しが終ったところで、バンビーナさんが紙を手にして、話を始めた。
「はい。それでは、全員に渡せたと思います。
紙袋を受け取っていない方は居ませんね?」
特に誰からも返事は無かった。
「でほ、お渡しした物の説明をさせていただきます。
渡した衣類のリストと、衣類の着方については、1枚目の紙に記載してあります。
寮に戻ったら、かならず一度は着てみて、体に合うか合わないかを確認してください。
不足しているものがあったり、体に合わなかった場合には、かならず事務棟の方へ連絡してください。
2枚目は、これから1ヶ月間の講義内容と、休日について記載してあります。
メーテスの手引きに記載してあるように、メーテスは2週間に1日休日になります。
ただ、休日は、必ず同じ曜日とか限りません。
来月の予定が決まったら、各部屋の連絡箱に配布します。
事務棟、食堂、講義棟にある掲示板にも掲示しますので、各自確認するようにお願いします。
今月の講義は、必修の単位となりますので、全員履修してもらうことになります。
3枚目が履修届です。必要事項を記載して必ず事務棟に提出してください。
講義は明日から開始されます。
今日は、この連絡をもって終了です。
何か質問がありますか?」
少しの間、バンビーナさんは、待って、終了にしようとしたところで、声が掛った。
「あのー。王家の方も在学されているんでしょうか?」
女性の声だった。
「はい。いらっしゃいますが。それが何か?」
かなり強い口調で、バンビーナさんが応えた。
その女性は、消え入りそうな声で、
「いえ。ただ確認したかっただけです。」
と応えた。
「他に質問が無ければ、これで終了します。」
ほとんど有無を言わさない口調で、バンビーナさんは終了を宣言した。
そのすぐ後、女性の嬌声が聞こえてきた。
「なあ、エリオさん。なんか大変そうだな。」
ゼリアさんが冷かし気味にエリオさんに、声を掛けた。
「……困りましたね。何事もなければ良いんですけど。」
大講義室を出て、一旦寮の部屋に戻って荷物を置いた。
道すがら、何か注目されているような雰囲気があった。
ボク達は、午後からは、魔法研究所に行く用事がある。
入学手続の時に、バンビーナ事務長から聞いていた、設立検討会に出席しなきゃならない。
カイロス君は、用事があって、アトラス領の領主館に行くらしい。
昼食を一緒に食べた後、カイロス君と別れた。
宰相閣下が入学式不参加に修正しました。




