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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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20.旋盤

一昨日、オレは、宰相様の呼び出しを受けた。

ルキトを連れて行って、子供達からあれこれ質問をされた。


今度は、領主様に、明日の朝、職人達を連れて来るようにと、呼び出された。


子供の一人が何か準備をすると言っていた。その準備とやらが、終ったのだろうか。


ルキトに声を掛けた。また、行きたくないと駄々を捏ねられる。

そうは言っても、今度の呼出しは、領主様だぞ。

駄々を言って済むものじゃないだろう。


ルキトも今回は観念したのか、工房の職人達を引き連れて行くことを了承した。


翌朝、オレ達は、領主館に、出頭した。


領主様、騎士団長様、宰相様、三人に出迎えられた。


先日、ご子息様方の、機嫌を損ねてしまったんだろうか。不安で一杯になる。


オレ達は、領主館の中ではなく、倉庫が並ぶ場所に連れて行かれた。領主様達お三方も一緒だ。


いくつかある倉庫の一つの前にやってきた。倉庫の扉を開けると、中に何かある。


「ここに2台ある道具が、ソロバンを作るための道具だ。」


と領主様が言われた。


何か準備すると言っていたから、どこかから、必要な道具を運んできたということだな。

こんな道具は見たことがないが、一体どこから運び込んだものなのだろう。


「この道具は、どこからか運んできたもので?」


「いいや、この2日間を使って、ここで作ったものだ。」


作っただと。


この道具、物凄く複雑に見えるのだが。


第一どうやって作ったんだ。見たことのない金属でできている。


この金属は、どこから持ってきたのだろう?


加工は?どうやったんだ?


大体2日で作れるのか?


「ここで、職人達には、使い方を習ってもらう。」


と言った領主様は、そのまま横に立っている。騎士団長様も宰相様も脇に立ったままだ。


「えぇと。お三方がここに居られるのは……。これは何かの罰かなにかで?」


宰相様は、「いや、儂らもこれの使い方には興味があってな。」


領主様は、「オレらは、誰も使い方は知らんのだ。」


騎士団長様は、「これでソロバンを作るところを見てみたいと思ってな。」


と三人三様に仰られる。

一体どういう状況なんだ?


そんなところに、先日会った、お子様三人組がやってきた。

幼児二人は、侍女に抱き抱えられている。


アイル様が、


「ようこそ。お越しいただき、ありがとうござます。

では、作った道具の使い方や注意点。そしてソロバンの作り方をお伝えしましょう。」


そう言うと、ルキトのところの弟子達と挨拶をした。

木工に便利な道具を作ったそうで、貸してもらえることになった。

それらの使い方を聴きながらルキト達は目を輝かせていた。


本体の道具の使いかたをアイル様が説明を始めた。

しきりに言っていたのは、安全に作業するということだった。


この道具は、高速で回転するため、巻き込まれたら怪我をする。

下手をしたら腕や指を失なうだけでなく命も失なうかもしれない。

絶対に回転しているところに体を近づけない。

衣服は体に密着したものを着て、ひらひらしたものは着てはいけない。

回転する方向はかならず同じ方向にする。

何かあったら、クラッチを外し、ブレーキを作動させる。などなど。


ルキトと弟子達は、道具が物凄い勢いで廻っているのを見て、真剣に耳を傾けていた。


実際の加工を始めたときは圧巻だった。

特に、玉と呼んでいる部品を作るときには、固いと言っていた材木があっという間に綺麗に削れていく。

玉と同じ太さの丸い棒になった。


ドリルという名前の工具を取り付けて、押しこんでいくと、これもまた、綺麗な穴が空いた。


バイトという刃物を脇から押し付けると、あっというまに玉ができていく。

カラン、コロンという音とともに、玉が次々と下に置いてあるトレイに落ちていく。


あれよあれよと言う間に、玉、桁などが出来上がっていた。


その後は、枠になる木をカンナという工具で削った。さっきまで、丸棒を固定していたところにドリルという工具を付けて、回転する部分を、枠に押し当てると、どんどん桁を嵌めるための穴が空いていった。


少し待っている間に、ソロバンに使う部品が全て揃っていた。


必要な場所を膠で接着すると、ソロバンが出来上がった。


それまで、言われるが儘に、作業をしていたルキトは信じられないものを見るようにソロバンを見ていた。そして、加工するための道具を嬉しそうに眺めた。


オレも、信じられないものを見た思いで、ソロバンとルキトを見ていた。


感慨に耽っていたオレとルキトに宰相様が声を掛けてきた。


「では、契約をしようか。


まず、ソロバンを作るための道具は、無償で貸与する。

代りに、材料費と人工に多少の色を付けた金額で、領主館にソロバンを納入してもらいたい。

こちらが要求した数量を納入し終えた後は、ソロバンを自由に作って販売して構わない。

道具類は、こちらが定めた時期までは、無償で貸与しつづける。

その後は、返却するか、下げ渡し価格で買い取ってもらう。

貸与している期間は、他の者への貸出、売り払いは禁止する。

不定期に、確認をするので、不正なことはしないように。

破損した場合は、申請するように。貸与期間内はアイル様とニケ様が無償で修理する。」


既に、領主館に収める台数(d460)が記載されている契約書は出来上がっていた。内容を確認すると、納入金額の記述が無いだけで、今、宰相様が言った内容が記載されていた。


「それで、1台あたり幾らで、納入してもらえるのだろうか。」


突然、オレに振られた言葉に、ルキトと相談した。

ルキトは、この道具があれば、3人で、1日d16台は作れると言った。

慣れれば、もう少しいけるらしい。ソロバン1台あたりの人工は1/6ガリオンもあれば十分,材料費は1台あたり、1/12ガリオン。

原価は、1/4ガリオンあれば、良い言う。

道具を借りることもあるから、本来の半分の儲けを加えて3/8ガリオンあれば良い。


「1台3/8ガリオンで納入させていただきます。」


「では、それで契約書を書いてもらおうか。」


オレは、その金額を記載して、契約書にサインをした。少し意外な感じがしたのは、値引きの交渉が無かったことだ。


「出来上がったソロバンは、即座に納入してくれるか。都度金額を支払う。」


それは、有り難い。運転資金を考えなくて済む。しかし、今回は、随分と商人に優しいが、何故だろう。


宰相様は上機嫌で、


「さすがアイル様だ。予算の6割ぐらいで作れる方法を考えてくださった。」


と言う。


その言葉に、一瞬儲けそこなったかと思ったが、それを見透したように宰相様がこう続けた。


「なに、アトラス領主館に納入した後は、思うがままの金額で売れば良い。必要としているのは、我々のところだけではあるまい。

但し、利益に見当った税と、考案税は収めてもらうがな。」


その言葉に、オレは、これからの商売に思いを馳せた。


ふと気になって、聞いてみた。


「考案税は、どなたに、如何程、払うことになります?」


「規定通りの利益の1/72だな。支払い先はアイル様とニケ様だが、その額を二人で折半していただく。」


「この道具類の分は?」


「これか、これは、領地から無償貸与という形になっておるのだから、それに税は掛からない。

考案税も当然払う必要なない。払うとすれば、領主様がアイル様とニケ様のお二人に払うことになる。

材料はニケ様が、構造はアイル様が魔法で作られたので、元手は殆んど掛っていないのだがな。

ただ、契約にあるように、他者への貸し出しも売却も罪に問われるので気をつけてくれ。

他領の者にでも知れれば、やっかいな事になる。」


ソロバンだけでなく、この複雑な道具を、二人の幼児が作り出したものだと?

これ以上は聞いてはまずい事のようだ。


ソロバンは、アトラス領の文官達が使用している道具ということで売れるだろう。

出所や、作り方を聞かれても、販売を委託されているだけということにした方が良いな。


そのあと、ルキト達は、何度か試作を繰り返していた。アイル様が居る内に、手順やコツを完全に掴みたいと思っているのだろう。


昼食の時間を挟んで、6台ソロバンを作ったところで夕刻の鐘が鳴った。


これらの道具は、分解して、明日ルキトの工房に運んで、組み立ててもらえる。


オレ達は、領主館の外に出た。


領主館を出ると、ルキトとその弟子達は、口々に今日あったことを話している。


「あのセンバンと言う道具はスゴかった。あっというまに木が削れていく上、スゲエ綺麗に穴が空く。」


「いや、あのカンナって道具もスゴい。あんなに簡単に木がスベスベになるんだ。」


「ノコギリが何といってもスゴい。あんなに簡単に木が切れるなんて。」


スゴいを連呼しているな。

今日は、飲みに行ったほうが良いな。興奮が収まらないだろう。


「よし!。オレの奢りで飲みに行くぞ。」


皆で連れ立って飲み屋に入った。


オレは、これからのソロバンの商売を思い、興奮が抑えられなかった。


なんて幸運なんだ。


その夜。オレ達は、心行くまで飲んだ。

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