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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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56.ミネア港

「初めまして。ロッサ子爵様。無線機でお話しさせていただきましたが、ミネアの街の代官をしているグロス・セメルです。」


「態々出迎えいただき恐縮です。ラザル・ロッサと申します。この度は、お世話になります。」


私は、家族の紹介をして、待っていた馬車に乗り込んだ。

8人乗りの馬車に、私の一家と代官殿、騎士1名が乗り込み、

もう一台の馬車には、文官達と騎士2名が乗り込んだ。

代官殿と一緒だった騎士達は、馬に乗って、周辺を警備してくれている。


馬車が走り出して、グロス代官が聞いてきた。


「鉄道での移動は、どうでしたか?」


「思っていたより、随分と快適だったな。」


「そうでしたか。それは何よりです。でも、夜は煩くて、眠れなかったりはしませんでしたか?」


「最初は気になったのだが、それも大丈夫だったな。」


「ええ。私もそれほど気になりませんでしたね。」


子供達も概ねそんな回答だった。


まだ、歳が若いのだが、気配りをしてくれるのに好感を持った。


「駅から、領主館まで、少し距離があります。少し迂回するだけで、港を見ることができます。

今、マリムから来ている鉱石運搬船に、瀝青炭を積み込んでいます。

もし、興味がお有りでしたら、寄り道するというのもありますが、お疲れの様でしたら、領主館に直行します。

どうされますか?」


鉱石運搬船というのは、海沿いのコンビナートで見た巨大な船なのだろう。

積み込みをしているのを見たいと思っていたのだが、妻や子供達はどうだろうか。

海沿いのコンビナートで見た巨大な船に、コークスの原料を積んでいると伝えると、妻や子供達も見てみたいと言う。


「それなら、少し迂回して、その積み込みの様子を見せていただけませんか?」


御者をしている騎士に、グロス代官が声を掛けて、馬車は港の方へ移動した。

埠頭には、大量の瀝青炭が野積みされて小山になっていた。

海沿いのコンビナートで見た、巨大な船が停泊している。

瀝青炭は、山の方から、馬車に乗せて次々と運び込まれている。

大勢の人々が、瀝青炭を巨大な船に積み込んでいた。


「この街は、瀝青炭や採掘した鉱石を積み出すために作った街です。

戦争の時には、大量のコークスが必要になったため、積み出し量が突然増えて、大変でした。

今は、落ち着いていますが、少しずつ、使用量は増えています。

運搬船を2隻で運営していますが、そろそろ、限界になりそうです。

今、鉄道を使って運ぶ試みも始めています。」


グロス代官が説明をしてくれる。


「大体1週間掛けて、瀝青炭や近くで採掘した鉱石を、この船に積みます。

その後、この船は、マリムに向います。

こちらの港から瀝青炭等を積んだ船が出港すると、マリムに停泊している船がこちらにやってくる事になっています。

積み込みを人力でやっているので、やはり時間が掛ります。

最初にこの街を作った時には、アイルさんが魔法を使って、一瞬で、山の上にある瀝青炭でこの船を一杯にしていました。

そんな具合に行けば楽なんですけどね。」


苦笑いをしている。


「この作業をしている人達は、街の住人ですか?」


「半数は、街の住人です。通常の3/2の手当を支払っています。

あとは、犯罪奴隷の人です。奴隷になった人を使うのは、色々面倒なことがあります。

ただ、この地は、本当に大陸の東端で、他のどの街からも隔絶されています。

逃げてこの街から離れて、人が住んでいる場所に行くには、2月近く掛ります。あとは、鉄道に沿って、あの山を越えるかです。

ただ、この辺りは魔物が出ますからね。

どうにもならないと思っているんじゃないでしょうか。

比較的真面目に仕事をしてくれています。

評価が落ちれば、奴隷落ちの期間が延びるだけです。」


「魔物が出るのですか?」


「ええ。頻繁に現われますね。これだけの山が、近くにありますから。」


「大丈夫なんですか?」


「ははは。アトラス領は辺境の領地です。魔物の出現は普通の事です。アトラス領の騎士は、鍛えられてます。ノルドル王国を滅ぼしたのは、アトラス領騎士団ですよ。」


ことも無げに言う。

本当に、ノルドル王国にとって、最悪な領地に攻め込んでしまったのだな。


船の近くに寄って、あちこちを見ていた子供達や文官達が戻ってきた。満足したようだ。

それから、再び馬車に乗り、代官屋敷に向った。


代官屋敷は、街の奥の小高い丘の上にあった。

屋敷も大きいが、敷地も大分広い。

万が一の災害の時に、領民が逃げ込めるようにしていると言う。


「改めまして、ようこそいらっしゃいませ。部屋の準備は出来ています。夕食まで、寛いでお過しください。」


私達は、侍女達に案内されて、客室に向った。

案内してくれた侍女さんが、大きな風呂があると教えてくれた。

代官屋敷の裏にある山で、温泉が出ていた。

そのまま、利用しないのも勿体無いので、その温泉を引き込んで大きな浴槽に溜めている。

湧き出している湯の量はかなりあるらしい。


息子と男性の文官、騎士達を誘って、男性用の風呂に向った。妻は娘達と文官のケッカを伴なって、女風呂に行った。


風呂場の浴槽は、d40(48)人が入っても大丈夫なほど大きかった。

奥の方では、多量の湯が流れ込んでいた。

湯船に漬かると、旅の疲れが取れていくようだった。


夕食に呼ばれて、皆で、大広間に向った。


「大きな風呂で驚きました。

お陰で、旅の疲れがすっかり取れました。」


「そう言っていただくと嬉しいですね。さあ、席にお着きください。」


そう言って、私達を上座に案内する。

遠慮しようとすると、爵位では、私の方が上だと譲らなかった。


「実は、貴族の方の接待をするのは、初めてなんです。」


無線で父親の宰相殿と話しているときにそんな事を言っていたな。


「誰も訪ねては来なかったんですか?」


「ミネアまで来てくださる貴族の方は全く居ないのです。

昨年、マリムの街で博覧会を催して、周辺の貴族の方を招待したのですが、ここまで足を延ばして来る方は居ませんでした。

まあ、小さな街ですし、見るほどの物があるとも思えないのは当然なんです。」


「しかし、近くにダムが有ったり、膨大な瀝青炭が埋蔵されている鉱山もありますよね?」


「まあ、それに価値を見る貴族の方は居ないのでしょう。

そもそも燃える石などと言っても、誰も信じないんじゃないでしょうかね。」


「先ほども言っていましたが、本当に瀝青炭を積み出すために、この街を作ったのですか?」


「街を作ったのは、2年前です。

もともと、ニケさんが鉱物資源の調査を提案して、アトラス山脈の東側を調べていたのです。

この場所より北で、瀝青炭とか石炭という燃える石がある事は、随分前から分っていたんです。

その頃は、電気を使うのがあたり前になってきていたんですけど、コークスを使った発電所を作ることになって、海沿いのコンビナートに、コークス工場と火力発電所を作ったんです。

このあたりからは、瀝青炭が採れますが、北部に行くともっと良質の石炭というものが採れます。石炭は、そのまま燃やしてもあまり有害なものは出ないのだそうです。

ただ、その場所は、ここより大分北の方なので、南にある瀝青炭を最初に使う事にしたんです。

そんな訳で、もともとは、その原料を積み出すための街です。」


「戦争とは関係しての事では無いのですか?」


「ええ、最初は、無関係でしたね。颱風で被災した場所に大浴場の湯を作ったり火力発電のために、瀝青炭を採掘してコークスを作り始めたんです。

ちょうど、その頃、国境のあたりで、金の鉱山が見付かったんですが、どうやらそれが砂金として、ノアール川に流れていたようです。

頻繁に、ノルドル王国から砂金を蒐集するために、国境を侵犯する者が増えたそうです。それを警戒するために、この街を作った頃に砦を作ったのです。

あの地は、冬には日も昇らない、とんでもなく寒い場所です。

もともと他の用途だったコークスを、砦を守る騎士が暖を取るために大量に使うことにしたと聞いています。

まさか、コークスで動く道具で、敵を蹴散らすとは思ってもいなかったんです。

あの二人がする事は、非常識と言うか、無茶苦茶と言うか。

結果的にとても助かってはいるんですけど、この4年間、振り回されっぱなしでした。」


苦笑いしながら、説明をしている


「まあ……分るような気はします。」


「この街は、鉱石の積み出し地として作られましたが、豊富な魚介類も取れます。

魔物が多く出てくるので、魔物を素材とした様々な物の生産も行なっています。

ようやく、街らしい街になってきたところです。」


こんどは本当に嬉しそうに微笑みながら話した。

なるほど、かなり若い代官なのだが、苦労しているのだな。

多分、グルム宰相が息子を鍛えるために、ここに置いているのだろう。

なにしろ、今では、侯爵宰相なのだから、跡を継いだときに、肩に掛る重圧は、そこらの領主以上かもしれない。

そろそろ、ウチの息子にも何か考えた方が良いのだろうな。


そう言えば、独身の様に見えるのだが……。


「代官殿は、お幾つなのですか?」


「23歳になりました。」


「ご結婚は未だされないのですか?」


「ええ、未だです。

婚約者は居るのですが、この4年、それどころじゃなかったので。そう言えば、私の婚約者は、ベルチ家の三女なんです。

ロッサ子爵様の領地に近いと思うのですが……。」


「あら、ベルチ家の三女なら、カロリーネじゃありません?」


「ええ。そうです。ご存知でしたか?」


「ええ。可愛らしいお嬢様ですね。どこかの子爵家に勤めると聞いてましたけれど、アトラス領に居たんですね。」


それからは、妻のステファニーアは堰を切ったように、馴初めとか、今どうしているのか、結婚はいつ頃の積りなのかなどを聞き始めた。

上の娘のステリアも、下の娘のステシイも目をキラキラさせている。

こうなると、もう止まらないだろう。


食事が終るまで、話は続いた。お茶を飲んでいる時もその話をしている。

よくもまあ、こんなに話が続くものだ。

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