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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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54.調査

宿に帰って、子供達が寝室に下ったところで、文官達を呼んだ。


急遽、明日、ミネアに足を延ばすことにしたと伝える。唯一ダムを見ることの出来る場所で、コークスの原料になっている瀝青炭を採掘している場所であることも伝えた。


文官達の情報収集の状況を確認する。


ユリアンとフラムル、ルークは、分担して、国務館と領主館に行き、定期船の運行状況や今後の予定を聞き出してくれた。

定期船には2種類あり、王都とマリムを往復する経路と、マリム-バトルノ-ヨネス-キリル-コッジ-ゼオンを順に廻る経路だ。

どの街も港町として大きなところだ。バトルノとヨネスは、領地の穀物を王都に向けて海を使って輸送している。


順に廻る経路の船は、現状では、マリム-キリル-ゼオンを廻っている。理由は、バトルノとヨネス、コッジには大型船を停泊する埠頭が無いからだ。

今、バトルノ、ヨネス、コッジでは港の整備を実施している。

完成すれば、これらの領地にも定期船が廻ることになる。

現状、船は1隻だけだが、利用状況を見て順次増やしていくことになっている。


王都-マリム間は、現状、4隻の船が就航している。この経路は輸送人員も運搬する荷も満杯で、5隻目が就航する予定だ。

船は既に在るのだそうだ。

王都の港に定期船が2隻停泊できないため、問題は、荷の積み卸しの日数だ。

5隻目を就航させるには、現在の港に昼に着いて3日後の昼に出港するという状態から、昼に着いて2日後の昼に出港するように、積み卸し時間を短縮しなければならない。

現在、積み卸しの効率化を検討していて、荷の積み卸しが2日で実現できれば就航することになる。


それ以上、就航する船を増やすには、王都の港に大型船が2隻以上停泊できないと難しい。

現在王都では港の拡張工事を実施している。


こちらに来る時に見た王都の港の工事は、定期船のために停泊できる船を増やして運行する船を増やすためだったようだ。


輸送金額は、重量に比例する。

概ね川船1艘分の荷物で、6ガリオン(=12万円)。

関税は、積荷の金額の1/24で、出港と入港の時の両方で掛かる。

理由は、港湾整備費用という事だ。


この金額を聞いた時に、驚きで息が止まるかと思った。

有り得無い程の低価格だ。


何か間違っているのではないかと思った。


ユリアンが、国務館の交通管理部門で聞いたところ、船員の給与、使用するコークスの金額などから算出したもので、この金額で十分利益が出ると言われた。


これも、アトラス領特有の現象なのだろう。運送費用に、船やコークス工場、港の建造費用は含まれていないのだ。


これでは、王都の隣の領地から、王都に荷を運ぶのと変わらない……。


そして、これまで無かった制度として、保険というものがある。

積荷の1/72の金額を支払えば、万が一座礁などで荷を失なっても積荷の金額が荷主に戻される。

最初聞いたときに、保険とは何なのか全く解らなかった。


船は、海が嵐で荒れた場合には、沈むという事もある。その場合に全額補償するために、この保険金というものを積立てて置く。

それは、全ての荷についてなのかと聞いたら、保険を掛けている荷は全てなのだそうだ。

確かに、海では予測できない事も起る。不測の事態で船が沈み、積んでいる荷を全て失なってしまうこともある。

過去、その所為で身代を失なった商店が、領地には何軒かあった。


上手いことを考えたものだ。

ひょっとして、これもニーケー様が考え出したのかと、聞いたら、そのとおりという回答だった。


やれやれ。本当にどうなっているのだ。


この保険という制度で、商店は、安心して荷を送ることができる。


これでは、これまでの運送方法で荷を運ぶ者は居なくなってしまう。


保険は、ロッサでも実施すべきだろうか?

しかし、海に出た船が沈んだかどうか、どうやったら分るのだろう。

荷を積んだまま、どこかに逃げてしまった場合は……。

なかなか、難しそうだな。


鉄道については、現状アトラス領でだけ運行されている。


運賃は移動する距離に比例する。貨物の費用は距離と重量に比例する。


貨車1台で運べる荷は、予想した通り川船1艘分ぐらいだ。マリムから鉄道の終点になるアトラス川駅までで、貨車1台分の輸送費用は、8ガリオン(=16万円)になっている。


これも、恐しく安い。そんな金額では、ロッサから王都まで荷を運ぶことは出来ない。


マリムから王都までの運用については、未だ決まっていない。

基本的に、アトラス領と同等の運送費になる予定だ。

関税については、どうなるのか分らないそうだ。


どう考えても、ロッサ川の荷は、ロッサで海船を仕立てて運ぶより、鉄道が通る領地で、鉄道に乗せ替えた方が、遥かに安くなりそうだ。


頭の痛いことだ。


ヴァエルと、ケッカは、アトラス領の施策について調べてくれた。

ヴァエルは商業ギルドと工房ギルドに運営内容の確認をしてくれた。

ケッカは、神殿と領主館で、様々な領民向けの施策とその運営内容を聞いてきた。


商業ギルドと工房ギルドは、それぞれ、有力商店や有力工房から人を出してもらい、運営している。

最初は、領主館の文官が仕切っていたのだが、今では、その有力商店や有力工房が費用負担し、合議制で運営している。

大きな契約では、職員が立合い、特殊な紙を使った契約書を作成する。

この特殊な紙での契約の場合に、理由なく契約を不履行を行なった場合、罪に問われ、損害は各ギルドが補填する。


領民向けの施策は、私が聞いてきたものとほぼ同じだった様だ。

実態として、神殿の修道士達が大きく係っている。


領民の為の施策によって、収入の無い家庭が無くなり、炊き出しが不要になっている。そして、病気で運び込まれる乳児が劇的に減った。


手が空いた修道士達が、赤ん坊とか、体が弱った老人の世話をしている。

上手くこれらが噛み合っているのだ。


最初は炭焼きから始まったらしい。

手に職が無くて働けなかったり、働き手を失なって露頭に迷う者が居なくなった。

領民台帳で、そういった家庭の有無が把握できるようになった。

そして、ギルドが職を斡旋して、収入の無い家庭が根絶された。


マリムは、ここ何年も、人手不足の状態なのだと言う。

次々と新しい製品が生まれている。生産量を上げたくても、人手が足りなくて、思うように作れない。

職はいくらでもあるのだ。


上手くやっているとしか言いようがない。


ロッサでは、人手不足になった事は無い。

仕事は、常に同じで、恒久的に人手が不足するということ自体が無い。

川沿いの領地から運び込まれる作物なども、多少の増減があるがそれだけだ。

増え続けるようなものではない。

豊作の年に人手を増やしても、不作の時には人手を減らす。

そのため、職に就けず、路頭に迷っている者がかなり居る。

当然のように、神殿が炊き出しをしていて、そこに人々が群がる。


決定的な違いは、ロッサに新しい産業が生まれないことなのだろう。

停滞しているのだ。

何も変わらない毎日が続いているだけの領地なのだ。


地の利を使って何とかならないかと思う。


難しい話だ。


文官達は、かなり頑張ってくれていた。


情報収集としては、ほぼ網羅されている。

今、既にある情報を精査して、抜けている部分をマリムに戻ってから埋める程度で済むかもしれない。

この状況なら、全員ミネアに連れて行っても良いだろう。


鉄道を使って、ミネアまで行く小旅行に連れていくことも出来るのだが、どうするかを聞いてみる。


皆、歓声を上げている。

これは、一緒に行きたいという事で良いのだろうな?


明日からの4日間の小旅行のために、解散した。

妻と私は、子供達の分も含めて荷造りをした。


翌朝、宿に、これからの予定を伝えて、部屋を借りたままにしてもらう。

何しろ、昨日、ボーナ商店から購入した布の量だ。宿に置いておく他は無い。

そして、4泊の延泊を申し込んでおいた。


昨日、朝食に使った「海の雫」という名のカフェで朝食を摂って、全員でマリム駅に向う。


駅に着いて、総合案内という場所で、名前を告げた。


「ロッサ子爵様ご一行でございますね。既に車両の準備が出来ておりますので、そちらに案内いたします。」


案内の為の駅員が出て来て、我々を駅の外れに導く。


銀色に輝いている車両と、黒い色をしている車両が1台の小振りの機関車に連結して停まっていた。


「こちらが、寝台車でございます。そして、隣の黒い車両は、食堂車となっています。」


銀色をしている車両を指差して、その駅員が説明する。


「子爵様ご一行は、寝台車に乗車したままお待ちください。定刻になりましたら、マリム発、アトラス川駅行きの列車に連結して出発となります。」


繋がっている機関車と一緒に移動するのではないのか?


「機関車が繋がっているように見えるのだが?」


「繋がっているのは、構内で列車を移動させるための小型機関車です。

中に、食事などをお世話する係の者が居りますので、設備の詳細は、その者にご確認ください。」


駅員は、寝台車の扉の脇にある何かを操作して扉を開けながら、応えた。


なるほど、実際に列車を引いていくのは、別な機関車という事なのか。


言われたまま、私達は、その車両の中に入った。


入ったところには、駅員の服を着ている落ち着いた感じの女性が待っていた。


「アトラス鉄道をご利用頂きありがとうございます。客室でお世話させていただきますジョアンナと申します。」

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