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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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51.領主館

領主館に入ると、バルトロという名の家令が迎えてくれた。


「ようこそいらっしゃいました。ロッサ子爵様、ご家族様。どうぞ中へお入りくださいませ。」


私達は、その家令の後に続いて、領主館を奥に進んだ。

なんとも、殺風景、いや簡素な……うーむ……質実剛健な佇まいだ。


屋敷自体は、かなり大きいのだが、侯爵家の豪華な雰囲気はどこからも感じられない。

辺境の領地だと考えれば、こんなものかもしれないのだが……。


応接の部屋に案内されると、アウド・アトラス侯爵様、奥方のフローラ様、ソド・グラナラ子爵様、奥方のユリア様、そして宰相のグルム・セメル殿、奥方のナタリア殿、そして少女が一人と、女性の幼児と男性の幼児が、部屋で待っていた。


なんと、私達の来訪を部屋でお待ちになっていたのか。


「ようこそ、アトラス領へお越しくださいました。ロッサ子爵殿。」


アトラス侯爵が先に声を掛けて下さった。


「こちらこそ、私達の訪問をお許し下さりありがとうございます。

アトラス侯爵閣下、奥方様のフローラ様、グラナラ子爵閣下、奥方様のユリア様、セメル宰相閣下、奥方様のナタリア様。

これは、私の妻のステファニーア、娘のステリア、息子のムザル、末娘のステシイです。

お見知り置きください。」


「これが娘のフランだ。」


「これが息子のセドだ。」


「これは、娘のセリアだ。」


それぞれ、侯爵様、子爵様、宰相様が息子と娘を紹介された。

アイテール様とニーケー様の姿が見えないのだが、どうかされたのだろうか?


「アイテール様とニーケー様がいらっしゃらない様ですが?」


「ああ、私の息子のアイルとソドの娘のニケ、グルムの息子のカイロスは、今、鉄道を敷設しに行って不在なんだ。

グルムの長男は、今は、ミネアの街の代官として務めている。」


アイテール様もニーケー様も不在なのか……色々とお話しを伺おうと思っていたのだが……。


それに、もう鉄道の敷設が始まったのか?


「鉄道と言いますと、アトラス領から王都までの鉄道の事でしょうか?」


「ああ。陛下からの依頼で、王都まで、鉄道を敷設することになった。他領に鉄道を敷設するのは初めてなので、とりあえずバトルノ川まで敷設して戻ってくる予定になっている。」


「左様ですか。その先の予定は決まっているのでしょうか?」


「確か、夏になる前に、キリル川までは敷設すると言っていたな。その先の王都へ繋げるのは、涼しくなった秋以降らしい。」


なるほど。王都に繋がるのは、秋から冬あたりなのか。肝心のロッサ川に鉄道が通るのは、その頃か。

しかし……徒歩で2ヶ月は掛る道程を、一体どのぐらいの日数で敷設するのだ?


「すると年内には、王都とマリムの間を鉄道が繋がるという事なのですね。」


「これも、陛下の強い要請があったからなのだが……多分、そうなると思う。

ところで、どういった経緯で、王国の中央の領地貴族のロッサ子爵殿が、ご家族を連れられて、辺境のマリムを訪れたのだろうか?」


「宮中の晩餐会でも、今はアトラス領の事が話題です。

どんな所なのか興味があったのです。

それに、上の娘が秋には婚姻することになっていまして。

最後の家族旅行と思ったのもあります。」


「あら、それは、それは。おめでとうございます。」


フローラ夫人が、お祝いの言葉を下さった。


「しかし、本当ですか?宮中の晩餐会で、我が領の事が話題になるなど、信じられないのだが。」


「王国の中央の貴族の方々は、ほとんど辺境には興味が無いと思っていました。

定期船が運行を始めて、そろそろ1月ですけれど、どなたもこの屋敷を訪ねて来られませんでしたし。」


それは知らなかった。フローラ様が偽りを述べていることは無いのだろうが、誰も訪ねてきていない?

皆、実際に自分の目で確認したりはしていないのか?

先日の晩餐会では、様々な話が飛び交っていたのだが、あれは、全て噂話ということだったんだろうか?


「いえいえ、そんな事はありません。先日の爵位授与式や婚約式の事などは、大きな話題になっています。

それに、王都までの鉄道の敷設も正式に発表されて、様々な形で話が出ています。

しかし、どうやら、それらは噂話というものだったようで……実際にこの目で確認して驚いています。」


「あら、驚かれたのですか?」


「ええ。それはもう。見るもの全てが、他の領地とは違っていて。

特に、領民の為に実施している施策には、本当に感心してしまいました。」


「施策ですか?それは、また、妙な事を……。」


「妙……ですか?」


「いや、何、昨年、博覧会というものを催した時に、隣接する領主や、王宮の管理官が来訪してきたのだ。

その時に、施策として話が出たのは、商業ギルドの設置についてだけだった。

あとは、電気を通してくれとか、ガラスを作れるようにしてくれなど、産物の話ばかりでな。」


それも、分らなくはない。

このマリムの状況を見たら、富を生み出す産物に目を奪われるだろう。産物を生み出しているのが、普通の領民だから、自領でも出来ると思うのも自然だ。

しかし、実現するには、アイテール様とニーケー様が絶対に必要なのだ。

そう簡単に、実現出来るものでは無い。

もし、仮に出来たとしても、アトラス領の製品に価格で対抗することは無理なのだ。


「そうだったのですね。昨日、マリムを観光で回って、コンビナートや海沿いのコンビナートを見せていただきました。

あっ。そうでした。コンビナートと海沿いのコンビナートの見学の折には、大変なお気遣いをいただいた様で、ありがとうございました。

存分に、見学をすることが出来ました。」


「いや、あれは……。気遣いというものでも無いのだが……。」


何か、困った様子だが?不思議な応答をするな。


「それで、様々な素材を作るのには工場や電気が必要で、その工場を造るには、アイテール様とニーケー様のお力が不可欠だと知りました。

そして、あの不思議な電気というものを作るのにも、どうやら、あのお二人のお力が必要な様です。

それならば、マリムの領民の為に、行われている施策のうち、我がロッサ領で実施できるものを学んだ方が良いと思ったのです。」


「なるほどな。

電気については、我々にも全く理解できていない。便利なものであるのは確かなのだがな。

しかし、あれには、ニーケーにしか作れないものや、アイルが作る巨大な道具が必要だ。

そして、あの工場についても、我々も良く分らない。理解しているのは、アイルとニケとその助手達、コラドエ工房の者ぐらいだろう。」


「そうです。ダムを最初に作ったのを見たときには、度肝を抜かれました。」


これまで、口を開かなかった、グラナラ子爵が話に加わってきた。


妻達を見ると、奥様方やお子様達で話をしている。どうやら、ステリアの嫁入りの事で盛り上っている様子だ。


「度肝を抜かれるとは?どのような事が有ったのです?」


話を聞くと、魔法で、岩山まるまる一つの岩を使って、川を堰き止め、大きな湖を作ったのだそうだ。

何故、川を堰き止めたのかを聞くと、大量の水を高所から落して、発電の道具を回す為なのだそうだ。

しかも、その時のアイテール様は、まだ3歳だった。


そのダムというものを見てみたいものだと、侯爵殿と子爵殿に伝えた。

今、アトラス領には、ダムは、3つあると言われた。


マリムダム、ミネアダム、そして、最近作ったばかりのキリルダムだそうだ。

それぞれ、マリム川、ミネア川、キリル川に作られている。


マリムダムとキリルダムは、川を遡って山の中にあって、容易に近付くことができない。

規模としては一番小さい、ミネアダムは、ミネアの街からそれほど離れていない場所にあるらしい。

今は、鉄道が通っているので、ミネアの街へは、まる1日で行くことはできると聞いた。


ダムというものには興味がある。

川を堰き止めて湖にしたものなど、見たことが無い。この地で見なければ、生涯見ることは無いかもしれないのだ。

往復と観光で、3日、いや、4日だろう。

今回は情報収集が主目的だが、家族旅行というのもロッサ家にとっては重要だ。

観光とは、見たことのない場所への旅の先にあるのだとすれば、ミネアへ行ってみるのも良いかもしれない。

あとで、家族と話してみようか。


昨日、色々と聞いた領内で行なわれている、他領では見聞きしたことのない施策には、ニーケー様が提案したものだそうだ。


司祭が話していた事と少し違っていたのは、上下水道は、幼児のためではなく、肥料を作るために始めていた。

コラドエ工房で手にいれた薬は、ニーケー様が、領民台帳を作る時に行なった疫学調査というもので、領民の死亡原因の大半が幼い子供だという事で作ったのだそうだ。

領民台帳は、グルム殿の話では、それまで、ほとんど人口が増えていなかったマリムに大量の移民がやってきて、住居が足らなくなったり、税の徴収に困ったり、犯罪が増加したのだそうだ。

そこで、住民の把握と、商業ギルド、工房ギルドの設立と併わせて実施したらしい。

今では、子供を産んだばかりの母親の保護や、事故などで働き手を亡くした家庭などが分り、それに対応することができている。

何よりも、領民か他領の人間かの区別が出来るようになって、犯罪などを事前に防ぐといったことにも役立っている。


「ニーケー様は、生れたばかりの乳児や、生活が苦しい家庭など、弱い人々に優しいのですね。」


「そうだ。ニケは、優しい娘だ。」


自慢気にグラナラ子爵が胸を張っている。


「あの、ノルドル王国との戦の時も、敵の兵の命を奪うのをいとうて、空気銃なんていう物をアイルに頼んで作らせたのだ。」


「はははは。あの空気銃には、ソドも敗れていたではないか。」


「あれだけの、ゴム弾を浴びたら、流石にオレでも立ち向かうのはムリだ。」


それから、ノルドル王国との戦争の話を聞くことになった。

この話も、宮中晩餐会での会話からは、噂話しか伝わっていない。


最初は、ノアール川へのノルドル王国の侵攻から始まっている。

アトラス領の最北にあった、金の鉱脈を奪おうとして、d3,900(=6,480)人の大軍が攻め込んで来た。

それに対して、アトラス領軍は、d300(432)人。優にデイル(12)倍以上の戦力差だった。

戦地は、雪が積っていて進軍するのにも難儀する場所だったそうだ。

事前にアイテール殿が雪上車というものを多数作っていた。

砦も、コークスを燃やす発電装置が設置された。発電装置が熱を発するのを利用して暖房にしていた。

ニーケー様が発案した防寒服を身に纏うことで、極寒の地でも快適だったらしい。

ノルドル王国が進軍して国境を渡ったところで、雪上車で、敵を蹴散らした。

敵は雪上車を新たな魔物と思った様だ。敵の騎士達が集まってきて青銅の剣を叩き付けるが、鉄で出来ている雪上車には何の効果も無かった。

2日と待たずに、決着してしまった。


「いやぁ。あの時は焦った。開戦と同時に小型船で王都に連絡をしたのだが、船が着く前に、戦闘が終ってしまったのだ。」


「寡兵で大軍を破ってしまった説明をするのが大変だった。」


ん?何か……変ではないか……。


「開戦の戦では、最終的に、敵兵d3,500(=5904)人を倒した。

それを聞いて、ニケが戦闘で、敵兵を殺さなくて済むようにとアイルに頼んで作ったのが空気銃だ。

あれは、効果的だった。

空気銃というのは拳より少し小さな球形の形をしたゴム弾というものが多数飛び出してくる武具なのだ。

その玉は、鉄の玉が中に仕込まれていて、表面は少し柔らかなもので覆われている。

ちょうど、拳で殴られるような感じだ。

それが、瞬きする間に何個も飛んでくる。

結局、ノルドル王国の騎士達は、雪上車を魔物だと誤解したままだった。

魔物に切り掛ろうとする騎士は、青銅の剣で、立ち向かってくるのだ.剣を振り上げるので、格好の的だったな。近づく騎士は、空気銃の大量の玉を浴せられて倒れてしまう。

まあ、当たり所が悪くなければ、死ぬことはないのだ。

倒れた騎士の脚の腱を切ってしまえば、殺すことなく無力化できた。

あまりに簡単過ぎて、驚くほどだった。

そして、ニケが願っていたとおり、最初の戦以降は、敵の騎士を殺すことなく進軍していった。」


「ちょっと、待ってください……。」


何か変なのだ……。あっ、そうだ。

開戦と同時に小型船を王都に向けて移動させた?

間違い無く同時と言っていた。

王都に小型船が辿り着いたときには戦闘が終了していた。

どうして、マリムに居て、開戦や戦闘が終了した事が分ったのだ?

ああ、小型船で戦地から報告があったのか。


「どうかしましたか?」


「いえ、どうして開戦と同時に小型船を王都に向けて出港させて、連絡できたのかと思いまして。」


侯爵様、子爵様、宰相殿が、驚いた顔をした。

ん?何か変な事を聞いたのか?


「それは……連絡が有ってすぐにという意味だな。戦地からマリムまでは、小型船を使えば、2日で移動できる。」


やはり小型船を走らせたのだな。

なるほど。


「食事の用意が出来ました。」


侍女が声を掛けてきた。

心無し、三人の表情が柔らかくなった様な気がする。

やはり、何か変な気がするのだが……。


妻と子供達を呼んで、食事のテーブルに着いた。


食事を摂りながら、妻と子供達に、ダムの話をした。

子供達は、人の手で、川を堰き止めて大きな湖を作って、そこで電気を作っている事を聞いて、見てみたいと言い出した。

とは言え、マリムに滞在する予定は1週間だ。延ばしても良いのだが、往復で3日掛る。


妻は、宿泊をどうするかを気にしていた。


「あら、それなら、グロスに言って、代官屋敷に泊まらせてもらえば良いですよ。

これから話したら良いんじゃありませんか?」


フローラ様が、妻に代官屋敷の宿泊を勧めてきた。

あれ?

今、話すと言ったのか?

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