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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
244/372

47.コークス

「私も詳しくは知らないんですが、アトラス山脈の海沿いの北の方には、燃える石が大量にあるって話です。」


「石が燃えるのかい?」


「ええ。そうですね。」


そう言えば、コンビナートで、金属の粉と石が物凄い勢いで燃えていたが……不思議なことが有るんものだな……。


「それで、その燃える石ってやつは、燃やす時に酷い臭いがするらしいんですよ。

その酷い臭いの元を取り除いたのがコークスってやつだってことです。

これが、鉄道を動かしたり、船を動かしたりしてるらしいんですが……。

まぁ、私が知っているのは、こんなところです。」


これから訪問する海沿いのコンビナートでは何を作っているのかをサムロに聞いたところ、コークスを作っているという。それで、コークスが何かを聞いてみた。

石が燃えるってことは、何とも信じられないのだが……。

まあ、信じられない事だらけだから、今さらなのだが。


「それで、海沿いのコンビナートには他に何があるんだい?」


「そのコークスってやつを使って、電気を作っていますね。」


「すると、そのコークスってものがあると、電気が作れるのかい?」


「まあ、ざっくりとした話はそうなんですが……。

あとは、その場所で聞いてもらった方が良いでしょうね。」


ふーむ。コークスってやつは、随分と便利なものらしいが。

燃える石ねぇ……。

そんなものを聞いた事は無いな。そもそも、石に火を付けようなんて、思わないだろう。


妻と娘達は、海沿いのコンビナートの後は、いよいよボーナ商店だと衣装の話に夢中だ。


周りは、住宅地なのだろう。殆ど商店は無い。

良く見ると、テラコヤという看板が出ている家がある。

なるほどな。至る所にテラコヤというものがある。


これも、我が領地でやるべき施策かもしれない。

しかし、教える事のできる引退した人は、目が霞んで近くが見えないと聞くが……。

そうか、メガネか。メガネが必要なのだな。

しかし、メガネは、我が領地では売っているところもない。

王都でメガネを誂えようとしたら、とんでもない金額だと聞いたことがある。

メガネを使っているのは、王宮の高級文官とか、大店の主人ぐらいだろう。


なかなか、難しいものだな。


そのうち、街が途切れて、道の周辺は、林や草原だけになった。

林の側には、小屋があって、煙が出ている。


「サムロ。あの小屋は何だ?」


「あっ、あれですか。木炭を作っている炭焼きの小屋ですね。」


「木炭?炭焼き?何ですか?それは?」


「木炭ってのは、串焼きの屋台で使っている燃料ですね。屋台で肉や魚を焼いているのは、木炭の火ですよ。

もともとは、鉄を作る為に、ニケ様が作ったそうです。今も鉄を作るために必要なんですけど、最近は屋台で使っている量が多くなったらしいです。

その木炭ってのは、炭焼き小屋で、薪の木を蒸し焼きにして作るんです。」


「薪の木を蒸し焼き?薪の木をそのまま使ったら良いんじゃないか?」


「いえ。私は詳しくは知らないんですが、鉄を作るには、木炭がどうしても必要らしいです。

あとは、木炭ってのは、薪と比べると火力が強いって話ですね。

鉄を扱っている鍛冶師や、陶器を作っている連中に言わせると、薪は温度が上がらなくて使えないらしいですよ。

その強い火で焼くアトラス領の陶器の質も、木炭のお陰で随分と良くなりました。

あとは、屋台ですが、薪より木炭の方が火の通りが良くて、余計な匂いが付かないんだそうです。あの連中は、そこらへんは真剣ですからね。屋台で薪の木を使っているところは無いんじゃないですかね。」


なるほど、屋台の肉が美味いと思ったのには、そんな工夫まであるのか。

しかし、そんなに木炭とやらを作ったら、すぐに林の木が無くなってしまわないのか?

アトラス領は、未開地が殆どだという事だから、どうにかなるのか。

しかし、この場所は、街から離れていない。

ん?どういう事だ?


「ここらへんは、街に近いのだが、最近木炭を作り始めた場所なのか?」


「いいえ。木炭を作り始めて、そろそろ4年でしょうかね。」


「木材はどうしているのだ?他から運んできているのか?」


「いえ。あの林の木を使っているはずですよ。

あっ。そうそう。これもニケ様が命じているんですけど、使った木の分は、苗木を植えて木を育てることになってるんです。

だから、木炭で使った分は木が育っていくんで、あの場所で、永続的に木炭が作れるんですよ。

今は、新たに植えた木を使って木炭を作ってるんじゃないですかね。

林が痩せてしまっていないかを、時々、領地の文官が調べにきてますね。」


木を使った分だけ植林して元に戻している?

そんな話は聞いたことがない。

普通は、生えている木を切って使うだけだろう。

山地にある領地では、山の木が無くなったら、別な山の木を切るといっていた。

何デイル(12)年か経てば元に戻るから、それで良いと聞いたことがあるが……。


「最初の頃は、鉄の原料として、大量の木炭が必要だったんですよ。

それで、領地周辺の林が無くなってしまう事を危惧したんじゃないかって話だったんですが、今にして思えば、同じ場所で作り続けられることが大事だったんじゃないかって話です。

もともと、炭焼きの仕事は、働き手を無くして、幼ない子供を抱えるために働くことが出来無い家庭の救済が目的でした。

あとは、蓄えと身寄りが無い老人夫婦とかですかね。

あっ。そうそう。その頃は、着の身着の儘でやってきた移民も沢山居ましたね。

ようするに、普通に職に付けない人たちが食べていけるようにって事を考えてたみたいです。

木をどんどん切るだけだと、どんどん街から離れていってしまうことになります。弱い家庭にとって、街から遠くなると、衣食を維持するのが、難しいでしょう。

救済の意味が薄れてしまうんですよ。」


「ひょっとすると、それもニーケー様が考えたのか?」


「ええ。そう聞いています。大量の木炭を作って、職の無い人に職を与えて、その人達が生活基盤の街から離れなくても済むようにしたんでしょうね。良く考えられてますよ。」


今日、何度、ニーケー様が考えたという事例に出会っただろうか。

少し、施策面の調査をしないとならなそうだ。人員をそっちに回した方が良いのかもしれないな。

帰ってから相談だな。


その時、向いから、何かの音が近付いてきた。

鉄道の列車だった。


ガタタン、ガッタン、ダタン、ダタン、ダタン、ダタン、ダタン……


なかなか、すれ違う貨物車の列が終らない。

貨物車には、黒いものが多量に積まれている。それが、何台も連なっている。


「凄い!凄ーい。」


この列車を見て、息子が歓声を上げた。

確かに凄い。


列車とのすれ違いは、しばらく続き、ようやく通り過ぎていった。

途中から数え始めたのだが、d110(156)台は繋がっていた。

貨物車1台で、川船の荷1艘分ぐらいはあった。


列車で、これほどの荷を一遍に運ぶことができるのか?

知らなかった。


ここに来るまでは、大型の船の荷の事を気にしていたのだ。

大型の船がロッサの港に寄港してくれれば、それで何とかなると思っていたのだが……。


背筋に冷や汗が流れている。


ここに来る前に、王宮で、新たな鉄道の経路が発表されていた。

鉄道は、ロッサのずっと北の地で、ロッサ川を通る。

確か、スラス男爵とミセーリ男爵の領地だったな。


当然、川の側に駅が出来るのだろう。

そこで、荷の積み卸しをすることになったら。

ロッサで積み卸しを行なう荷は、大半が川の沿岸からの荷で、その殆どが王都に向っていた。

川からの荷は、ロッサに来ることなく、スラス男爵領か、ミセーリ男爵領を経由して王都に送られるのではないか。


すると、これまで、川船から海船への荷の積み卸しの拠点となっていることで繁栄していたロッサは、どうなるのだ……。


いや、海から川への荷もあったはずだ。

しかし、その量は……。

もし川から海への荷が無くなったとした場合の税収は……。

……。


「旦那、もうすぐ海沿いのコンビナートに着きます。」


サムロの声で、我に返った。


息子が、さきほどの貨物列車の事ではしゃいでいるから、それほど考え込んでいた訳ではないか。


そして、今、考え込んでも、仕方が無いのだと思った。情報が足りない。今、私があれこれ考えたところで、対応する手立てが立つ訳ではないのだ。

精一杯、情報を集めて、領地に帰ってから宰相達と検討する他は無い。


「サムロ。先程の列車だが、あれは何台ぐらい貨物車が繋がっていたか分るか?」


「さて。d120(168)台ぐらいじゃないですかね?」


「鉄道で、貨物車をどのぐらいまで繋げて運ぶことができるのか知っているかね?」


「それは……。先刻の倍ぐらい繋がった列車を見たことがありますね。だからd200(288)台は繋げるんじゃないかと思いますが。

そこらへんは、アイル様でもなければ、分らないかもしれないですね。

どのぐらいまで繋げて動かしたことがあるか、というのであれば、海沿いのコンビナートである程度は把握していると思いますよ。」


何かしなければと焦る気持で、ジリジリとした感覚が有る。だが、まだ時間はある。拙速せっそくに動く必要はない。とにかく情報を集めることに集中しよう。

その上で、対応策を考える。


サムロの言う通りに、それから間も無く海沿いのコンビナートに着いた。


とても大きな敷地の周りを、高い塀で囲まれている場所だった。


海には、大きな船が停泊している。

王都からマリムに移動してきたときに乗った船を巨大だと思っていた、しかし、それの3,4倍はありそうな船だ。


もう、感覚がマヒしてしまっているな……。


入口で警備している騎士に、私の名前と爵位を伝えると、「少しお待ちください」と言って、敷地の奥へ向っていった。

午前中に訪問したコンビナートと対応が似ている。


殆ど待つこともなく、奥に向った騎士に連れ立って、女性がやってきた。

ここらへんも、午前中のコンビナートと同じだな。

それに着ている衣装もそっくりだ。

女性も同じ服装なのだな。


「ロッサ子爵様ですか?」


私が頷くと、


「私は、この海沿いのコンビナートで場所長を務めておりますギウジイと申します。

海沿いのコンビナートへようこそお越しくださいました。

領主館からは、丁重にご案内するようにと言い付かっております。」


また、領主館からの指示があった様だ。

伝令でもあったのだろうか?

何とも不思議だが、場所長に、案内してもらえるのであればそれに越したことは無い。


海沿いのコンビナート入ってみる。

外から見て分らなかったのだが、この場所はとんでもなく広い。

それぞれの場所にある構造物はどれも巨大なのだが、この敷地の隅に有って、その巨大な構造物が細やかなものに見えるほどだ。


敷地の中には、沢山の鉄道の線路が敷設されていた。

その線路の上には沢山の貨車が停っている。

その貨車に、多分コークスなのだろう、沢山の人達が、積み込み作業を行なっていた。


先程の列車の事を聞いたら、今日の出荷品だそうだ。

毎日、あの量を出荷するのかと聞いたら、その通りという回答。

鉄道で、どのぐらい沢山の貨車を引けるのかを聞いたら、それは分らないと言われた。過去d240(338)台の貨物車を引いた事がある。それでも、まだ余裕が有りそうなので、それよりはずっと多くの貨物車を繋げられるんじゃないかと言う。


鉄道というものは、とてつも無く、大量の荷を運ぶことのできるもののようだ。


この場所は、その燃える石からコークスを作る場所。コークスを作る際に出てくる有害な物を無害化する場所。そしてコークスから電気を作る場所がある。


それらを順に案内してもらった。


コークスの原料は瀝青炭と言うらしい。それを船から卸して保管している倉庫を見せてもらった。黒いごつごつとした石が大量にあった。

木のように簡単には燃えはしないのだが、石なのに火が着いて、燃えれば灰になる。


北部にある鉱山で、この黒い石を採掘して、ミネアという街で船に積み込み、ここでコークスを作っている。

あの巨大としか言いようのない船は、鉱石運搬船という名前で、現在2隻がそのミネアとマリムの間を行き来している。


瀝青炭というコークスの原料がどのぐらい埋蔵されているのかを聞いた。あまりに膨大な量で、実際の状態を想像する事も出来なかった。


コークスを作っている工場では、瀝青炭の一部を燃やすことで、温度を上げて有害なものを取り出している。その結果コークスを燃やしても有毒なものが発生しなくなり、コークスが安全なものになるのだという。

その場所では、様々な手段を講じているのだという事は分るのだが、理解できたとは到底思えなかった。

分ったことは、とてつもなく複雑な事をしているという事だけだった。


そして、ニーケー様が、これほどまでに複雑な事を考えられるのなら、様々な料理を考え着くことなど、造作もないのだろうなと漠然と思った。


電気を作っている場所は、コンビナートのボイラーを何倍にも大きくしたものだった。

そして、水から作られた高温の蒸気の力を使って、巨大な発電機を回していた。

理解できたことは、巨大な物を回転させると、電気というものが作れるということだ。その回転のために、水が落ちる力を使っても、高温になった蒸気の力を使っても同じなのだということだった。


妻や子供達は、とにかく巨大なものが回転していたり、とんでもなく高い温度の場所があったりで、ひたすら驚いていた。


一通り説明してもらった礼をギウジイさんに伝えて、海沿いのコンビナートを後にした。


結局、分ったような、全然分らなかったような、不思議な気分になった。


観光馬車は、海沿いのコンビナートを離れて、マリムの街の中心部へ向う。

妻と娘達は、次の目的地のボーナ商店への期待で燥いでいる。


暫く市街地を馬車は進み、段々と商店が多い場所に移っていく。

賑やかなマリム駅前を過ぎて、ボーナ商店の前で、馬車は停まった。


サムロに今日一日世話になった礼をした。

今日一日、名所を巡ってもらって、1ガリオン(=2万円)だった。

色々質問に応えてもらったので、騎士に言って、2ガリオンを支払わせた。

サムロは、恐縮しながらも、その金額を受け取っていた。

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