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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
237/370

40.マリムの街

荷物を持って、埠頭に降り立った。

沢山の人々が降りて、街の方へ、歩いていく。

私達家族、護衛の騎士、文官は、一塊になっているのだが、凄い数の人々が向う方向に流されている。

人々が歩いている方向は、街の方向とは違うように見える。


不案内な私達は、人の流れに任せて歩いていた。


「父さん、皆、この方向に歩いているけれど、街の方向とは違いますよね?」


「マリム旅行代行店から貰った資料には、賃払いの馬車があると書いてあったが……あっ、あそこに馬車が沢山停まっているな。この人達は、皆馬車に乗るんじゃないか?」


見ると、人の流れの先では、次々と馬車に乗り込んでいた。

賃払いの馬車に乗るために、船から降りた人々は馬車乗り場に移動していたのだ。


長かった列も少しずつ減っていき、人々が馬車で運ばれていく。

遂に、私達の順番になった。

文官の一人が、馭者に、馬車には何人乗れるのかを聞いた。

大人8人と言われた。

私達家族5人と騎士2名。文官5人と騎士1名で、2台の馬車に分乗した。


馭者の男に、宿の店名を告げると、馬車は軽やかに動きだした。


馬車というのは、王都でも目にする事はない。当然、ロッサ領にも無い。

馬が曳く荷馬車はあっても、人を運ぶために馬に曳かせるものは無い。


一番の理由は、木で出来ている車軸が悪路では折れやすく、荷物ならばともかく、人を乗せているとどんな怪我をするか分らないからだ。

それに、車軸の動きは悪く、ちょっとした道の凹みでも、動かなくなりかねない。


一人乗りの馬車というものが昔は有ったらしいが、それならば直接馬に乗ったほうが馬への負担も小さい。

今では廃れてしまって、見ることは無い。


馬車が、人を何人も乗せて、軽やかに進むというなどは、有り得ない事なのだが……。

この馬車は、軽やかにマリムの街へ進んでいく。


市街地に入ると、すれ違う馬車が出てきた。

広い道の両側に街路樹がある。

街路樹の外側を人が歩いているのが見える。

どうやら、道の中央は、馬車、荷馬車が通り、外側を人が通るようになっている。


綺麗な街だ。建物は綺麗な白。道の石畳に汚物などは見当らない。


これだけ、馬が道を走っているのに、馬糞が落ちていることがほとんど無い。


そして、街特有の嫌な臭いもしない。


「綺麗な街ね。それに嫌な臭いもしない。」


妻も臭いのことに気付いたみたいだ。


「家が沢山あるんだけど、森の中に居るみたいだ。」


息子の言う通りだと思った。

何区画かに一つ、建物が無く、木が植えられている広場がある。

その場所では、子供達が歓声を上げながら、遊んでいる。

街路樹もそうだが、広場の木もあるので、本当に緑が多い。


「この街は、随分と子供が多いみたいだな。」


「そうですね。子供達の声が至るところで聞こえます。」


馬車は、商店が並ぶ街の繁華街に来たみたいだ。

そろそろ、街の中心部だろうと思っていたのだが、どこまでも、商店が立ち並んでいる。


「随分と商店が多いな。」


「そうですね。なぜだか、いつまでも商店が途切れることがありませんね。」


街の大きさ自体が、ロッサとは違っているのだろう。

馭者の男に、あとどのぐらいで着くのかを聞いてみた。

ようやく道程の半分になるところだと言われた。


今の領都マリムは、王都より大きいと聞いた事はあったが、あれはただの噂ではなく本当の事だったのかもしれないと思い始めた。


段々と行き交う馬車が多くなってきた。

この街には、馬車は一体何台あるのだろう。もの凄い台数の馬車が走っている。

道を行き交う人の数も増えてきた。

街の中心部が近付いてきたのかもしれない。


それからも、しばらく馬車は走っていって、ようやく、宿の前に着いた。


馭者の男に金を預けている文官が料金を払っている間に宿の中に入る。

この宿は、四区画を占めている大きな宿だ。

老舗の高級宿というマリム旅行代行店からの説明を受けている。


受付に居る女性に名前を告げる。


「ようこそマリムへいらっしゃいました。子爵閣下。マリム旅行代行店から予約を受け賜わっております。

お部屋は、最上階の南側、この宿で最高の部屋となっています。」


最上階と聞いて思わず顔を顰めてしまった。

何故、最上階なのだ?

どの宿でも、最も良い部屋は、階段を使わずに辿り着ける、低い階なのに。


「子爵閣下。我が宿では、階段をお使い頂く必要はございません。電動昇降機がありますので、ほんの僅かな時間、その昇降機の部屋でお待ちいただければ、最上階に移動できます。」


説明を求めたところ、この宿は4つの区画を利用しているため、もともとあった道の交差場所に、その電動昇降機なるものが設置されている。

その電動昇降機に乗り込んで、行き先の階のボタンを押すと、その階まで、人も物も持ち上げてくれる。


この宿の南向きの最上階は、広い通りに面していて、見晴らしも日当たりも良いのだそうだ。そして、他の建物越しになるが、マリム大橋が望めるという事だった。


気に入らなければ、部屋を変えることもできると言う。とりあえず、その部屋に案内してもらった。


建物の中央へ進んで行くと、その昇降機という道具があった。

扉を明けて、中の部屋に入る。部屋の広さは、大人18人は余裕で入れる広さがあった。

扉を閉めて6階を示す6の数字のボタンを押すと、その部屋ごと上に移動した。

6階に着くとベルが鳴って、扉を開けることができるようになった。

移動している間は、扉を開ける事は出来無いと説明を受けた。

6階に着いて、その昇降機の正面の扉の部屋が、その南向きの部屋だった。


南側の窓の外にはベランダがあった。

ベランダに出る扉を開けると、日の光が差し込んできて、部屋の中はかなり明るくなる。

中央の居間の続き部屋4つあり、2人分のベッドがあった。

移動してきた船よりは、どの部屋も大分広い。

浴室とトイレが有って、トイレは水洗だった。これは、移動してきた船と同じようだ。

蛇口を回すと水やお湯が出るのも一緒だった。


ベランダに出てみると、下の広い通りが一望できて、西よりの先の方に、マリム大橋が見えた。


階段を昇り降りする必要が無いのであれば、この部屋で何の問題もない。

見晴らしや日当たりを考慮すると、確かに最高の部屋と言ってよさそうだ。

騎士達は、同じ階の私達の部屋の西となり、文官達は、東となりの部屋になった。


部屋の説明を聞くと、船の部屋と変らなかった。


説明が終ったところで、街中の観光をするのに良い方法が無いかを聞いたところ、マリム駅前から観光馬車が出ていると教えてくれた。


貸し切りもできるらしい。

一般の観光客と一緒だと、こちらも同乗した人も気をつかうだろうから、貸切にした方が良いだろうと言われた。


「お支払いはどうされますか?」


最後に案内や説明をしてくれた受け付けの女性が聞いてきた。


「それほど多くの現金を持ってきていないので、手形で頼みたい。」


「それでしたら、お手数ですが、その手形を商業ギルドで確認していただけませんか?アトラス領では、未確認の手形は使用できない事になっています。」


「商業ギルド?何かね?それは?」


「もともとは、ニケ様のご発案だと聞いています。

アトラス領には、領民台帳というものがありまして、領民かそうでないかが分るのです。

そして、領都で商店を立ち上げる者、商人として雇える者は、領民に限定しています。それを管理しているのが商業ギルドです。

このアトラス領は、一気に住民が増えた時期がありまして、他領で犯罪を犯してこの領地に潜んでいる者も多数居たという事でした。

領民台帳や、商業ギルドは、そういった犯罪者を捕えたり、領地から追い払うのに随分と役立ったらしいです。」


領民台帳?領民を全て、把握しているのか?そんな事が可能なのだろうか……。

そもそも住民の記録など、木簡に書いていたら、蔵一杯になって……そうか、紙があったな。それを可能にするには紙が必要だったのか?


それより、手形の確認と言っていたが、何故そんな事をするのだ?


「商業ギルドが何なのかは分ったが、手形の確認とは?どうしてそのような事をするのだ?」


「アトラス領では、高額の商品売買があります。そのために手形を使われるのです。

ところが、中には、手形を現金化できない方が、手形を振り出して、詐欺まがいの事をするとう事例が多いとのことです。

商店でも注意しているのでしょうが、他領の商店の情報となると、なかなか把握するのも難しいのが実情です。

そのため、商業ギルドで手形を振り出す商店の信用性を確認しているのです。

商業ギルドで確認した手形であれば、私どもも含めて、アトラス領の商店で安心して受け取ることができます。

万が一の場合には、商業ギルドで損失の一部を補填もしてもらえます。

そんな訳で、商業ギルドで確認した証書が無い手形は使えないのです。」


そんな仕組みがあるのか。

なるほど。それは、我が領地でも使えそうな仕組みだな。


「しかし、私はロッサ領の領主だ。この私の手形も確認が必要なのか?」


「実際、他領の領主の男爵様が、犯罪者を領都に潜ませるために、男爵様名義の手形を持ち込んだという事例がございました。その犯罪は、アイル様とニケ様を誘拐して殺害するものだったそうです。

その手形を確認をしていた事で、犯行は未然に発覚し、その貴族の方が関与していたことも分ったのだそうです。

そんな事もあって、どちら様の手形も確認することになっております。」


例の伯爵と男爵が共謀してお二人を誘拐しようとした事件のことだな。

まったく碌なことをしないのだな。

まあ、確認だけなら、連れてきた文官にさせれば良いか。


しかし、最初に、ニーケー様の発案と言っていなかったか?

料理もニーケー様の発案と言っていたが……。

一体、どれだけ優秀なのだ?


その後、マリム駅の場所、領主館の場所、国務館の場所などを確認した。

マリム駅は、この宿から北に5区画先にあるらしい。

客待ちの馬車が沢山居るので、すぐに分ると言っていた。


「他に、何かお訊ねになりたい事はございますでしょうか?」


「いや、今のところは無いな。」


「左様でございますか。何時でも何かございましたらお訊ねくださいませ。

失礼いたします。」


そう言うと、その女性は立ち去っていった。

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