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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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38.マリム旅行

「相変わらず王宮の晩餐会は華やかなものだな。」


「ええ。本当に。」


今は3月。

冬が終り、王宮の庭という庭に花が咲き始めていた。

何時見ても美しいと思う。

中々、ここまでの庭を維持するのは、王宮でなければ難しいだろう。


今日は、妻ステファニーア、上の娘のステリア、下の娘のステシイ、息子のムザルを引き連れ立って王宮の晩餐会に出席する。

明日から、家族で、マリムに旅行に出る予定だ。


子供達は、私達より先に会場へ行ったようだ。周囲に姿が無い。

ムザルは前回の晩餐会で、周辺領地の友人と出会ったので、その子供達のところにでも行ったのだろう。

上の娘は17歳。来年には婚約している子爵家に嫁ぐ。王都の北部にある子爵家だ。一緒に晩餐会に出るのは、今回が最後かもしれない。

下の娘のステシイは、姉のステリアといつも一緒だから、どこかに二人で居るのだろう。


前回の晩餐会は1月の中旬、爵位授与式の時だった。

2月の晩餐会は行なわれていない。

3月の晩餐会は早めに開催日が発表された。その日に、鉄道の詳細経路が公表されることになっている。

何家もの領地を通ることになるので、その領地貴族を王都に呼ばなければならないので、晩餐会の日もそれに合わせたようだ。


1月の晩餐会の翌日、マリムと王都の間で、定期船の運行と鉄道を敷設することが発表された。


あの晩餐会の日は、アトラス家とグラナラ家のためのようなものだった。晩餐会の場で発表すると、騒がしい事になるために、避けたようだ。


既に、定期船は、マリムと王都の間で運行を始めている。

この船は、大層人気で、毎月便数が増えているにもかかわらず、予約は半月後も埋まっているらしい。

特殊なルート、王宮からの要求などでは、その限りではないが、領地貴族も半月待たされることになる。


鉄道の経路については、次回の晩餐会の時に合わせて公表されることになっている。


噂では、鉄道を敷設するために詳細な地図が必要で、その地図作成に手間取ったということらしいが、本当なのかどうなのかは不明だ。


通常通りに晩餐会が開催され、国王陛下の入場の際に、大きな紙が、晩餐会会場に張り出された。


鉄道の経路だ。張り出された地図を見ると、これまで見たことが無い詳細な地図だ。地図作成に時間が掛ったというのも、偽りでは無いかもしれない。


鉄道は、王都から真東に直線で延びている。

アトラス領に入ったところで、アトラス領内の鉄道と繋がっていた。


経路の南にある我がロッサ領は、鉄道の位置とは大分離れている。


まあ、前回の晩餐会で収集した情報の通りだった。


定期船の運行で、ロッサ港に寄港する事を期待していたのだが、ガラリア湾の対岸に位置するゼオンに寄港するので、今の所、ロッサ港は蚊帳の外だ。


ロッサの街もそれなりに繁栄していると思うのだが、流石にゼオンの街には及ばない。仕方の無い事だ。


あれから、鉄道について、知人達と話をしたが、知人は皆王都の周辺の貴族なので、詳細な事は何一つ知らないのだ。


そんな訳で、妻と約束していたとおりに、定期船を使ってマリムに、家族そろって訪問することにした。

アトラス領に行けば、実際にこの目で見ることが可能だろう。


妻と娘はマリムに行く事を喜んでいた。今は王都よりマリムなのだそうだ。

王都で流行している、服もアクセサリーも、もともとマリムで流行しているものが王都に流れてきたもの。

今、流行の最先端は、マリムなのだそうだ。


定期船の運行以降、王都周辺からマリムに行く人が増えたことから、王都には、旅行を手助けする店が出来た。マリム旅行代行店という名前の店らしい。

旅行の手助けと言っても、王都とマリムを移動する場合に限定されている。

その店では、定期船の予約、行き先の宿の手配を代行してくれる。

これも、船が運行して、王都とマリムを2日で移動できるようになったことが大きい。

その手助けをしてくれる店は、マリムの支店との間で手紙をやりとりして、様々な事を調整してくれる。


ただ、他の領地に旅行する場合はそんな訳にはいかない。

旅行は半年ほど前に計画して、自ら先方と何度も手紙のやりとりだ。

まあ、領主なら配下の文官に任せるのだが、それにしても思い立って直ぐにという訳にはいかない。

全く知らない土地へ旅をする事はかなり難しい。その土地を知っている人を探し出して、その人の伝手を頼む他無いのだ。


何とも便利なものだ。

そして、なかなか上手いことを考えたものだと感心した。


今回私達は、私と妻と娘二人に息子の5人に、マリムを調査するための領地の文官5名、護衛のための騎士3名が同行する。

それらの人員の手配は、そのマリム旅行代行店に全てお任せだった。


完全に想定通りだった鉄道の経路の発表を晩餐会で見た翌日、我々一行は船に乗るために、ガリア港に向った。

大きな船だった。

前に見たアトラス侯爵1世号より二回りほど大きい。

先頭船腹には、「アトラス1」と書かれている。

これが船の名前なのか。一体アトラス領では、この規模の船を何隻所有しているのだろう。


港では魔法使い達が、新たな桟橋を造るために、大掛かりな工事をしていた。

この規模の船を最低でも2隻、出来れば3隻停泊できるようにするのだそうだ。


船の船腹の中央に乗り込み口があり、そこまで、簡易的な階段が繋がっている。

それを昇って、船に乗り込むのだな。

船腹を少し叩いてみたら、金属の板の音がした。やはり、この船は鉄で出来ているのだろう。

水に沈む金属で船を作って、大丈夫なのか?いや、今、ここで鉄の船が水に浮いているのだから、問題は無いのだろうが……。

私の所で所有している船は木造だ。というより船は木造が基本だ。金属で船を造るなど聞いた事もない。

なにしろ木は水に浮ぶ。木造の船が川でも海でも浮んでいる事に何の違和感もない。

この大きさの木造船を作ったら……どのぐらいの太さの竜骨になるんだ?水に浮べる前に竜骨が折れそうだな。やはり鉄で作ったほうが良いのか?

鉄は青銅と比べると遥かに丈夫だと聞いていた。頑丈さを採るのなら、鉄の船になるのか?

鉄はアトラス領でしか生産できない。大陸中のどこにも鉄の船が無いのは、ある意味、当たり前か。

しかし……何故浮かんでいる?


何ともモヤモヤした気持で、船の中に入った。


入口を入ってすぐのところに、女性が立っていた。一風変わった衣装を着ている。腕のところが筒状になっていて、とても簡素な衣装だ。


「いらっしゃいませ。どちら様でしょうか?」


その女性にロッサ子爵だと告げた。


「ロッサ子爵様ですね。お待ちしておりました。ロッサ子爵様は1等船室で6名様。お付きの方8名は2等船室と受け賜わっております。」


頷くと、その女性は、別な女性を呼んだ。その女性も同じ服を着ている。どうやら船員は同じ衣装を着ているようだ。


「お待たせしました。それでは、お部屋まで案内させていただきます。お付きの方々は、そちらの女性の案内で移動をお願いいたします。」


「あの騎士達は、私の護衛だ。一緒に私達の部屋まで来てもらわなければならない。私達を案内した後に、騎士達を部屋に案内してもらえるか?」


「かしこまりました。それではこちらです。」


女性の後に付いて、階段を昇る。

そういえば、入った時に気付かなかったが、船内がやけに明るい。

灯火が灯っているのかと思ったのだが、灯りに揺らぎが無い。


「この船内が明るいのは、ひょっとするとマリムの街が夜でも明るいのと同じ仕組みなのか?」


「はい。子爵様は良くご存知でいらっしゃいますね。左様でございます。船内で電気を作って、それで光らせています。」


案内をしている女性は柔やかに応えてくれた。


「それは、どうやって光るのだ?」


「申し訳ありません。そのご質問に答えるのは、私共には荷が勝ちすぎております。

どうして光るのかを理解されているのは、アイル様とニケ様、そしてお二人の助手様方ぐらいです。

王国で、いえ、大陸でもd10人程しか居りません。」


なるほど。それほど容易に理解できる事では無いのか。

まあ、知らなくても別に不都合は無い。しかし、そのような特殊な道具が、船内には沢山あるのだな。


部屋に入った。


付いて来た騎士達が、全ての部屋の確認に向った。


部屋はなかなかのものだった。とても船の中とは思えない。

床にはカーペットが貼られ、大きなソファーがあった。

見事な装飾が為された低いテーブルがソファーの前にある。

そして、大きな窓がある?


光が差し込んできている窓に近寄ってみた。硬い透明な板だ。ひょっとして、これはガラスなのか?


「これは、ガラスの板なのか?」


「はい。この船の全ての窓は、指の太さぐらいの厚さのガラスの板になっております。」


なんと。今、この船の全ての窓と言ったな。ガラスは貴重品だ。それだけで、どれぐらいの費用が掛かるのだ。

それに真っ平らだ。綺麗に外が見えている。

これも魔法で作ったという事なのか……。

呆然としていたら、声が掛かった。


「それでは、お部屋の説明をさせていただいても宜しいでしょうか?」

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