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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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33.二人の子供

アトラス侯爵とグラナラ子爵を、初めて見たのは爵位授与式の時だった。


爵位授与式は、先のノルドル王国との戦いでの論功行賞の場だ。

そして、爵位授与式は、テーベ王国やノルドル王国との停戦協定を結んで以来行なわれた事は無い。かれこれ80年は行なわれなかった式典だ。


テーベ王国やノルドル王国とは、あくまで停戦状態なのだが、停戦後、戦争らしい戦争は無かった。

そう、ノルドル王国がアトラス領に攻め込むまでは、平和だったのだ。


今回の爵位授与式に参加する前に、戦争の経緯を知っておこうと思って、ロッサ神殿に、ノルドル王国との戦争について纏めている内容を見せてもらった。

それで、ようやくどんな戦争だったのかを知ることができた。


ノルドル王国が、アトラス領北東部に見付かった金鉱山を奪おうとして、ノルドル王国とガラリア王国の国境線となっているノアール川を越境して侵攻した。


d3,900(=6,480)人の大軍だった。


ノアール川の岸で待ち受けていたアトラス領騎士団は、たったのd300(=432)人ほどの寡兵だった。

どう考えても、アトラス領軍が勝てる訳が無いのだが1日半ほどでノルドル王国軍を殲滅してしまっている。


ノルドル王国の騎士は、捕虜約d500(=720)人を除いて、戦死したか敗走している。

季節は冬で、極寒の地であったそうだ。敗走した兵は生死不明とは言え、生きて戻ることは難しかっただろう。


ノルドル王国の停戦協定違反を犯したとして、ガラリア王国は、ノルドル王国に反攻することになる。

ガラリア王国軍は、ガラリア王国北部に軍を集め、ノルドル王国南部を窺う。

しかし、ガラリア王国軍の本体は、アトラス領騎士団と王国騎士団の混成軍で、アトラス山脈北部からノルドル王国に攻め込んだ。


その後、2ヶ月も掛らず、ノルドル王国の王都ノルドルは陥落した。


記録に記載されているのを要約すると、こんなものだろう。


ノルドル王国の侵攻から、僅か2ヶ月で、ノルドル王国を攻め滅ぼしてしまった事になる。


王国騎士団が合流しているとは言え、主戦力はアトラス領騎士団であったらしい。

そして、それを指揮していたのは、アトラス領騎士団長のソド・グラナラ殿だ。


この戦果に対して、子爵だったアトラス家が侯爵に、騎士爵だったグラナラ家が子爵にそれぞれ2階級の陞爵するのも分らなくは無い。


ただ、この記録、おかしな事だらけなのだ。


私には、軍や戦争の事は分らない。

戦闘でノルドル王国が僅かなガラリア王国軍に敗退することは、意外だと思っても、有り得ないとまでは思わない。

実際に、ノルドル王国は滅亡しているのだから。


しかし、どうしてノルドル王国が国境を越境侵攻した3日後に、国王陛下が反攻の勅令を発布しているのだろう。


私は、大陸東部の地理には詳しく無いので、ノアール川が何処に在るのかは知らない。

しかし、ノルドル王国とガラリア王国の国境となると、かなり北の果てだったはずだ。

そして、常識的に知っている事として、アトラス山脈は険しい山脈で、西側と東側は隔絶されている。山脈を越える事は出来なかったはずだ。


そうすると、最初にノルドル王国の侵攻が有ったことを王都に伝えるには、アトラス山脈の東側の海沿いを南下し、マリム辺りから王都へ向かわなければならない。

戦場から王都まで、普通に移動して、2ヶ月近い日数が掛るはずだ。

王都で、北の果てにある国境で戦闘が有ったことを、3日という短時間で知ることができたのだろう。


反攻の速度も疑問だ。

反攻を決定して、アトラス山脈の北部へ移動し、アトラス山脈の北側から迂回して、王都ノルドルに侵攻するのにどのぐらいの日数が掛るだろうか?

戦闘などをする事無く、ただ移動したとしても間違い無く、4ヶ月近い日数が掛る筈なのだ。

なぜ、たったの2ヶ月で王都ノルドルを陥落できたのだろう?


この疑問が浮んだときに、この記録に記載されている事を実現するのは不可能だと思った。


詳細を調べようと思ったら、ガラリア王国からの秘匿要求があって、詳細を開示することが出来ないと言われた。


何がが隠されている。


別に隠された秘密を暴きたいとまでは思わないので、この不思議な事を起こす事ができる何かが、きっとあるのだろうと思った。


この時、アトラス家が、マリムと王都を2日で移動出来る船を持っているという噂が有ったのを思い出した。


しかし、そんな船が有ったとしても、最初のノアール川での戦闘について、王宮で知ることが出来るのは、4日後になるんじゃないか?


ただ、地上を移動する事を考えると、少しはマシになる。


何か知られていない魔法でも有るのだろうか。


アトラス領が絡むと、不思議な事だらけだという事だけは分った。


そして、何れにしても、高速で移動できる船が有るに違いないと確信した。

水上輸送を手掛けているロッサ家にとっても、高速の移動手段は欲しいところなのだ。


今回、アトラス家は晩餐会に出席する。

晩餐会の主役なので、話する機会があるかは分らないが、何とか食い付いてみようと思った。


爵位授与式に、妻のステファニーアと息子のムザルを伴なって出席をした。

15歳になった息子は、興奮状態だった。

やはり男の子にとって、戦争は何か気持が逸るところがあるのだろう。


爵位授与式が始まった。

今回の戦争の経緯説明が近衛騎士団からあった。

その説明で、神殿の記録を調べた時に不可能だと思っていた事が可能なのだと解った。

装甲車という物があって、それが高速で地上を移動したようだ。

そして、その装甲車などの装備はやはりアトラス領で製造されたようだ。

それで、あんなに迅速に、ノルドル王国を滅ぼすことができたのか。


今回の爵位授与式で陞爵するのは、アトラス家とグラナラ家だけだ。

他は、今回の戦争や過去の行いによる領地の拡張の恩賞だ。


恩賞を受ける者にとっては、陛下から直々のお褒めの言葉があるので名誉な事なのかもしれないが、私のように全く関係の無い者にとっては退屈この上もなかった。

長い時間、多数の貴族達が報奨を受けとっているのを眺めていた。


ようやくソド・グラナラの名前が呼ばれた。


「ソド・グラナラ。」


「その方は……

戦功としては第三功。

……」


会場がザワついた。

ソド・グラナラが第三功?

どういう事なのだ?第二功ではないのか?


続いて、アウド・アトラスの名前が呼ばれる。


「アウド・アトラス。」


「その方は……

戦功としては第二功。

……」


アトラス侯爵の戦功が第二功だと?


それでは首功は誰なのだ?

会場は大きくザワついている。


「アイテール・アトラスおよび、ニーケー・グラナラ。」


名前からは、アトラス家とグラナラ家の者のようだ。

それまで、玉座に並ぶ王家の方々の端に座っていた子供二人が中央に移動している。


何だ?あの子供は?


二人が中央に移動したところで、陛下が二人の紹介を始めた。


その説明に愕然とした。


あの幼ない子供が、鉄やガラスや紙などを作り出したのだ。

噂されていた「新たな神々の戦いの時に生まれた子供」というのは実在していたのか。


新たな神々の戦いの時に生まれたのであれば、まだ6歳ではないか。


「……先の戦争での首功は、この二人である。」


こんな幼ない子供二人が戦争の首功?

信じられない。


その後も陛下の説明が続いている。


鉄道の敷設と言ったな。それは何だ?

自走高速船というのは、マリムと王都を2日で移動する船の事か?


その上、6歳でありながら、二人は大魔法使いらしい。

そして、これまで無かった魔術師の称号を得た。

特級魔法使いだと?


一級魔法使いですら、王国内には、何人も居ない。

特級など、王国始まって以来無かった。いや。大陸中を探しても居ないはずだ。


陛下の説明が終った。

会場に居る誰もが、信じられない表情をしている。


最後に、陛下が宣言された。


「そして、アイテール・アトラス、ニーケー・グラナラの両名が婚約することも決まった。

とき(=午後2時)より、この場にて、二人の婚約式を執り行う。」


会場の全ての人が呆気に取られている。

二人の婚約式?


一体何が起こっているのだろうと思った。

すぐに、陛下の意図に気付いた。

多分、出席している貴族は皆気付いたのだろう。

いたるところで、息を飲む音がした。


幼い二人の才能を認めた陛下が、貴族達の余計な干渉を排除するために二人の婚約を認めたのだ。


爵位授与式が終っても、玉座の間から離れる貴族は少なかった。

あちこちで固まって、話をしている。

きっと、あの二人の幼い子供の事を話しているのだろう。


私もロッサ領も、これまで、アトラス領に関する情報を入手するのを怠っていた。

陛下の説明からすると、あの幼い二人は、今後の王国にとっても重要な者になることは明かだ。

これからでも情報を入手しないとマズい事になりそうだ。


妻と手分けして、知り合いの貴族達から情報を得ることにした。

息子は、昼食をどうするのか頻りに聞いてきていたが、放置するしかない。


「始めて姿を見ることができましたな。あんなに幼なかったのには驚きました。」


「アイテール殿は、アトラス家の長男。ニーケー嬢はグラナラ家の長女らしいですな。」


「鉄道は、博覧会の時に乗りましたが、あれは間違いなく、この世界を一変させる事になります。高速で人が移動できるだけでなく、大量の荷を運ぶことができるのですよ。」


「今回、キリル家は、アトラス侯爵1世号で、王都まで移動してきたようですな。今も王都の港に、アトラス侯爵1世号が停泊していますが、あれほど大きな船は見たことがありせん。しかも、鉄で出来ているらしいです。鉄などという重い金属で出来た船が海に浮んでいるのか理解できません。」


貴族達の様々な会話から、段々と陛下が話されていた内容が理解できるようになった。


昼食の時間になって、玉座の間から貴族達が食事を摂りに行ったときに、妻と息子と合流して、食事が提供される場所に移動した。


妻が聞いてきた話と統合すると、あの幼い二人は、生れて半年程で会話をするようになったらしい。

2歳の時から、様々な製品を生み出していて、ガラスや鉄などは、最初は魔法で作り出した。

その後、領民がそれらのものを自力で作り出せるようにしたのだ。


最近では、巨大な高速で自走する船を魔法で作り出している。

その大きさは、とてつも無いものらしい。

普通の船と比較すると、巨大な魔物と鼠ほどの大きさの違いがあると言っていた。

今、王都の港に停泊しているそうだ。アトラス家とグラナラ家が領地に帰る時にはその船で戻る。

明日の朝、停泊している内に見に行かなければ。


そして、良く分らなかった鉄道は、地上を高速に移動し、大量の貨物や人を運ぶことのできるものだそうだ。

アトラス領が、南北に長く、海に面していない領地を拝領したため、あの二人の子供が作り出したのだそうだ。


そして、ロッサにとって、看過できない話を聞いた。

高速自走船を王都とマリムで定期運行することが決まった。

王都とマリムの間にある領都の、幾つかの港街には既に打診があって、寄港することが決まったそうだ。

王都にとって、重要な港を持っているロッサには、何故か声が掛からなかった。


そして、王都とマリムの間を鉄道で継ぐことも決まったらしい。

その経路にあたる領地には既に打診があったそうだ。

これも、ロッサには声が掛からなかった。


迂闊うかつだった。

ロッサとアトラス領は離れていて関係する事は無いと考えていたのだが、どうやら、その認識は改めないとならない様だ。


完全に出遅れている状況にあると気付かされた。

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