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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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26.家族写真

翌日の朝、領主館から、カメラと写真機材一式がコモド商店に届いた。

写真乾板や、現像液、定着液も一緒に運ばれてきた。


両親と兄達は、興味津々だ。


まだ、写真というものは、あまり知られていない。

コラドエ工房周辺で、色々検討を始めたばかりのものだ。


昨日、ニケ様やアイル様に教えてもらった内容を両親と兄達に伝える。


「すると、この道具を使うと、ほんの僅かな時間で、道具に映っているものが記録できるのか?」


上の兄のバドルがそう聞いてきた。


「そうなんだ。でも、まずは使える様にならないと。」


「でも、それって、何の役に立つんだ?」


下の兄のバムデが怪訝そうに聞いてきた。


ふむ。役に立つ……か。

写真も似たようなものだが、そもそも、絵なんて、何かの役に立つものなのだろうか?


貴族や大店の主人が自分の姿を絵に残すのって……何かの役に立てようと思ってのことなんだろうか。

世の中には、何かの役に立つものと、何の役にも立たないものがあるが。

絵は、どうなんだ?


役に立つか立たないかといえば、何か特殊な用途でもなければ、役に立つため描くものではないな。

でも、名高い画家の絵には、心に響く何かがあるんだが……何かの役に立っているとは思えない。

役に立つ立たないとは別な価値があると思うんだけどな。


「うーん。役に立つ訳じゃないが、そういった基準とは違う良さがあると思うんだけどな。」


「何だ?それは?」


「まあ、オレにも良くは分らないが。絵にして残しておきたかったりするものが有るんじゃないのかな。」


「ふーん。」


何だか納得はしないみたいだ。


そうだ。領主様のところみたいに、家族写真を撮ってみたらどうだろう。

どっちにしても、使えるようにならなきゃならないんだから、練習だと思ってやってみようと思った。


「なあ、みんな。折角だから家族写真を撮ってみないか?

オレも、この道具に慣れたいから、練習台になると思って協力してくれないか?

昨日、領主様のところで、ご領主様一家の写真を見たんだ。

領主様達は、その写真を大切にしていたな。」


「へぇ。そうなのかい?

ご領主様は家族で写真を撮ってたのかい。

それをウチでもするって?」


母さんは乗り気になったみたいだ。


「それは、ちょっと興味があるな。オレの姿が、残るのか?」


父さんも興味があるようだ。

両親が写真を撮ると言えば、皆一緒に撮るんじゃないかな。

上の兄は、追従した。

下の兄はしぶしぶ参加する事にしてくれた。


あっ、三脚が無いな。

仕方が無いので、商品を運ぶ時に使う木箱を積み重ねて、その上にカメラを置くことにした。

三脚は、後で木工工房で作ってもらおう。


店の前に箱を置いて、店の入口に両親と二人の兄に並んでもらった。

像を見て、上手く像が映るように焦点を合わせて、絞りとシャッター速度を適当に選んで、写真乾板をとりつけた。

丁稚を呼んで、合図とともにシャッタボタンを押してもらう様に頼んだ。

オレは、家族の脇に並んで合図した。

設定に不安が有ったので、シャッタ速度を変えて3枚ほど追加で撮影した。


撮影した後で、暗室を用意しないといけないことに気付いた。

父と兄に頼んで、店の奥の部屋を1室空けてもらった。


スレンレス製のバットと木箆きべらは、店舗にあったものを貰った。

電気の配線をして、赤い照明とネガから写真を作製するための照明を設置した。

最近は、銅線をゴムで覆っている電灯線が普及してきた。

これは便利だ。


4枚のネガを現像して、続いて定着した。

やはり、シャッターの時間が長いものは、濃淡が全体に濃くなる。

まあ、理屈通りなのだろう。

天気とか、その場所の明るさとかで調整が要るのだと思った。


ネガから写真を作製するための照明は、光る時間が調整できるようになっている。

濃いネガは短い時間にして、薄いネガを長い時間にしたら、写真は殆ど同じ濃さになった。

なるほど。これも理屈通りだ。

中々面白いものだと思った。


出来上がった写真を、事務所に居た母のところに持っていって見せた。


母は写真を見て、感激していた。記念になると頻りに言っている。

母は、店の中で仕事をしていた父と兄達を呼びに行った。

家族で、写真を見た。

意外だったのは、下の兄も満更ではない表情だったことだ。


嬉しいものだな。家族で一緒に写真に写っている。

何年か歳月が過ぎて、この写真を見ると、今日のこの時の事を思い出して話が弾むかもしれない。


なるほどなと思った。


オレはこれまで絵を描いてきた。

しかし、絵描きに絵を頼む人が、何を思って絵を描いてもらいたいのか、考えた事が無かった。


人は何故、自分や家族の姿を絵として留めて置きたいのだろう。


多分、それに思い至ることができなかった所為で、オレは絵描きとして芽が出る事が無かったのかもしれない。


オレは、描き方とか、色使いとか、絵描きとしての腕を上げることばかりを考えていた。

何でもっと早くこの事に気付けなかったんだろうと思った。まあ、今更だな。


顔馴染みの木工工房に三脚を依頼して、昼食を食った。


昼過ぎに、コラドエ工房を訪問した。


これから、写真の事を学んで行こうと思ったら、必要な費用がどのぐらいになるのかは知っておきたいと思った。


「現像液と定着液の価格は、こんな感じですね。ただ、肝心の写真乾板は……。」


「かなり高いんですか?」


「写真乾板の金額ですよね?

うーん幾らにするのが妥当なんでしょうか?」


「えっ?金額が決まってないんですか?」


「ええ、そうなんです。

それには理由があってですね。アイルさんの魔法でしか、写真乾板用のガラス板は作れないんですよ。」


「写真乾板って、アイル様が作ってたんですか?」


驚いた。それじゃぁ、そう簡単に写真なんて撮れないじゃないか。


「いえ。ガラス板だけです。

写真乾板に使えるガラス板をあちこちに頼んではみてるんですけど、なかなか平坦なガラスの板って作れないんですよね。」


確かに、写真乾板のガラスの板は見た事が無いほど平坦だったな。ガラスに泡が入っているって事もなかった。

なるほど、アイル様が魔法を使って作っているのか。なんか納得だ。


「すると、写真乾板が欲しくても、アイル様がガラス板を作らないとダメってことですか?」


「今は、未だカメラもアイルさん以外にマトモなものを作れる職人も居ませんから、消費する量は、たいした事は無いんですけど。

そうですね。これからバールさんが写真を撮るために写真乾板を購入されるのだとすると、金額を決めておかないとなりませんね。

うーん。困りましたね。

でも、一番困るのは、バールさんでしょうから……どうしましょうか?」


金額が決まっていないとは。困ったことだな。


「それなら、幾らにするのか、アイル様に相談するってのは?

どうせ、今日、オレは、領主館の夕食に招かれていて、行かなきゃならない。」


「おや?それじゃ例のお抱え絵師の件、引き受けたんですね?」


「いやいや。まずはオレの絵を見てからってことにしてもらったんだよ。

だから、オレが描いた絵を持って、また訪問しなきゃならない。」


「そうだったんですね。

それじゃ、私も関係する事なんでご一緒しても良いですか?」


「オレは別に構わないけど、そう度々工房を空けて大丈夫なのか?」


「今、私が直接何かしていることは、それこそ写真に関わる事ぐらいですよ。

工房に出ているのも、街の様子を少しは知りたいと思ってです。

仕事の大半は、腕の良い人に任せてますからね。

まあ、そんな訳で、工房を空けても大丈夫ですよ。」


「なら、良いけど。

でも、何で、写真は、ヤシネさん自ら関わってるんです?」


「本当は、この写真も誰かに預けたいんですよ。

バールさんみたいに写真に興味を持つ人が居なくて。

あっ。愚痴ってもしかたないですね。」


何か、由々しき事を聞いた。

何故興味を持つ人が現われないのかを訊ねてみた。


すると、何の役に立つのかと聞かれるらしい。

ヤシネさん自身、上手く説明できない。

と言うより、ヤシネさん自身、写真が役に立つ用途を見定められないらしい。


そもそも写真というのは、アイル様が、星の動きを調べたくて作ったものらしい。

オレには、それに何の意味があるのか分らない。

ヤシネさんもそうらしい。


ニケ様に、家族の写真を見せられて、凄いとは思ったんだそうだ。

ただ、後で、冷静に考えると必要なものかと言うと、必要なものとも思えない。


しかし……また、「何の役に立つのか」か。


ヤシネさんのところでやってる事は、貴金属のように、そのもの自体が価値のあるものもあるが、他のものも、何かの原料になっていたり、無いと支障が出るものばかりだ。

コークスなんかは、それが無いと鉄道や船が運行できない。

最近立ち上げた砂糖は、領民皆が喜んでいる。


そう言う意味では、写真の仕事には、遣り甲斐が見付からないんだろうな。


まあ、愚痴りたくもなるか。


ヤシネさんのところで、領主館に先触れの連絡をしてくれるというので、オレは家に戻った。

最近描いていた絵を持って、領主館に向った。

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