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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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23.彩色写真

写真乾板に彩色するのは、比較的簡単だった。

染料が上手く染み込んでくれる。

問題なのは、滲みをどうやって避けるかだ。

染料の濃度や水を油に変えたりして試行錯誤した。


そして、一旦色を着けたところの修正ができない。

一発勝負になる。

まあ、ダメだったら、勿体無いけれど、ネガからの現像を遣り直すしかない。

でも、それが出来るんだと思った。


凄いモノだ。これは。

肖像画を描こうと思ったら、普通に2週間は掛かる。

描く人にも、毎日、毎日、1刻ほどじっとしてもらわなければならない。

パトロンを持っている先輩が、忙しい主人の場合、書き写すための時間がもらえなかったり、幼ない子供を描かなければならない場合にはじっとして貰えず、とても大変だと言っていた。

この方法だったら、半刻もあれば、肖像画が出来上がってしまう。


オレは、4枚の写真を使って、貰った写真に様々な色付け方法を試してみた。

大体満足行くようになったところで、最後の1枚にとりかかった。


初夏の明るい街を描ききった。街中を歩く人々の明るい姿、重層感のあるマリム駅。渾身の出来だった。


オレは、その写真を持って、ヤシネさんのところを訪問した。


「また……これは……素晴しいですね……。

色が着くだけで、こんなに美しくなるのですね。」


ヤシネさんに、オレの彩色写真を気に入ってもらえたみたいだ。


「それで、相談があるんです。

まず、カメラというものは、入手可能なのでしょうか?

あと、現像や定着の方法を教えてもらえませんか?」


「カメラですか……。先日出来たばかりのカメラですが、やはりアイルさんが作られたものと比較するとまだまだです。

それに、あの大きさのレンズは、中々作るのは難しいんですよ。」


「そう……なのですね。金はともかく、何とか入手できないものでしょうか?」


「そうですね……。

それなら、アイルさんとニケさんに相談してはどうですか?

この彩色された写真をお見せすれば、相談に乗ってもらえると思いますよ。

それに、カメラの仕組みも、現像や定着の仕組みも、お二人以上に詳しい人は居ませんからね。」


「えっ、それは……あまりにも、畏れ多いです。

平民で、仕事も碌にしていないオレみたいなものが、侯爵閣下の嫡男や、その婚約者で、子爵閣下のお姫様にお会いするなんて。

それに、王国で最も偉大な魔法使いだとも聞いていますよ。」


「はははは。そんなに畏まらなくっても大丈夫です。

お二人とも気さくな方ですよ。

それに、バールさんのその写真を見たら、喜ばれると思うんですけどねぇ。

あっ、そうそう、今、領主館の人が居ますから、見てもらったらどうです?」


「えっ?領主館の人?」


「ええ、私とニケさんとの取次をしてくれている人なんですけどね。

ボルジアさん。ちょっと良いですか?」


「はい。何でしょう?」


声を掛けられて、赤茶色の髪の若い女性がやってきた。目は青緑。身長はそれほど無いが、魅力的な容姿をしている。


「こちらは、バール・コモドさん。ガラスや陶器で有名なコモド商店のご子息だ。

これを描かれて来たのだけど、どう思う。」


「あらっ。綺麗。素敵ですね。これ、マリム駅でしょ。

普段見ている駅よりも印象的に見えますね。

写真に彩色するとこんなに素敵になるんですか……。

これ、どうやって、彩色したんですか?」


オレは、このボルジアさんの容姿に見惚れてしまっていた。


「えっ、彩色の方法ですか?」


「ええ。写真に彩色したのは初めて見ました。ねぇ、ヤシネさん。これって、ジーナさん案件になりますよね?」


ジーナさん?誰だ?それは?


「あっ。そうだな。私も写真に彩色するなんてものを見たのは初めてだな。確かに考案税に申請できるな。」


「でしょ。じゃあ、これから、ジーナさんの所に行きませんか?ヤシネさん、時間あります?」


「ああ。今日は、大丈夫だな。私もどうやって彩色したのかは興味がある。ここで話をするより、国務館の方が良いだろう。」


えっ?国務館?

何がどうなっているんだ?


オレも国務館という場所が出来たことは知っている。王宮の文官が居るらしい。噂では諜報機関の出先だとも聞いていた。

何で国務館なんて単語が出てくるんだ?


「えーと。バールさんでしたっけ?時間大丈夫ですか?これから国務館に向いますけど?」


何が起こっているのか全然理解できない。ただ、オレは基本暇だからな。時間が無いなんてことは無い。


「あぁ。オレは特に何もしていないから、時間だけはいくらでもあるんだけど。一体何が……」


「じゃあ、その写真持って。国務館に行きますよ。」


ボルジアさんは、有無を言わさず、そのまま外に出て、国務館に向っていく。

何か上機嫌だ。

オレとヤシネさんは、その後を付いていった。


「ヤシネさん。そのジーナさんって人は、何者なんですか?」


「ああ、バールには、あまり馴染が無いんだろうな。考案税申請書の調査官で、国務館では管理官をしている。」


「考案税ですか?えーと。そうすると、写真への彩色って、考案税の対象になるって事ですか?」


「そうだな。写真へ彩色するなんて、私でも見た事が無いから、考案税の対象になるんじゃないかな。

それに、そのジーナさんて人は、アイルさんやニケさんとも馴染があって……」


道すがら、そのジーナさんや、国務館の話を聞いているうちに、国務館の前に着いた。

入口で、ボルジアさんが、警備の騎士さんに挨拶をしたら、そのままオレ達は国務館に2階に移動した。

ほとんど顔パスなんだな……。


2階の奥の扉を中に入ったところには、沢山のお役人が居た。

オレとヤシネさんを入口のところに残して、ボルジアさんが一番奥の机で作業している女性の元に行き何か話をした。


二人は連れ立って、オレ達のところにやってきた。


「初めまして。ジーナ・モーリです。考案税調査官で管理官をしています。」


挨拶をした女性は、少し背が高くて、薄い茶髪というか銀髪。目は薄い青だった。柔やかに挨拶した容姿は、美人というよりは、可愛いという感じだ。

ボルジアさんほどではないが、出るところは出て、括れているところは括れていて、立ち姿の美しい女性ひとだ。


「何か素敵なものをお持ちなんですよね?詳しくお話を伺いたいです。

あっ。まずは会議室に移動しましょうか。」


オレ達は、その部屋を出て、会議室と言っていた場所に移動した。

どうやら、この階には、沢山の会議室があるみたいだ。

その一室に4人で入った。


「えーと、バールさんですよね?その素敵なものを見せていただけますか。」


そう言われて、彩色した写真をジーナさんに渡した。


「これは、綺麗ですね。

マリム駅ですね。

これ、えーとバールさん?貴方が描いたのですか?」


この時、挨拶をしていなかったことに気付いた。


「はい。えーと挨拶をしてませんでしたね。コモド商店の三男のバール・コモドです。

実は……」


それから、オレが、王都で5年ほど絵の修行をしていたこと。芽が出なくて、5年ほど前にマリムに戻って、家業の手伝いをしていたこと。

最近はやる事もあまりないので絵を描いていたこと。

先日、ヤシネさんに、写真を見せてもらって、彩色してみたいと思ったことなどを話した。


「なるほど、それで、これが出来たんですね。

ヤシネさん、写真に彩色した例ってあるんですか?」


「いや、初めて見たな。

そもそも、バールが色を着けられないかと聞いてきたんだ。

私にも色が着くのかどうか分らなかったから、バールに写真を何枚か渡したら、これを持ってきた。」


「そうですか。ヤシネさんも初めて見るんですね。ボルジアさんは?」


「私も初めて見ました。だから、ここに連れてきたんですよ。」


「なるほど。一番写真に詳しい二人が初めて見るものなら、十分考案税の対象ですね。しかも、思い付いたのも、バールさんで、実現したのもバールさんなら、単独申請です。ヤシネさん。それで良いですか。」


「勿論だよ。これは、バールの考案だ。」


「それを聞いて安心しました。えーと、バールさん。彩色の方法の詳細を教えていただけますか。考案税の申請書を作りますが如何です?」


考案税については、例の赤いガラスで煮え湯を飲まされていた。あまり良い印象がない。


「えーと。考案税については、あまり詳しくないのですが……」


「あっ、そうだったのですね。」


それから、ジーナさんは、考案税について教えてくれた。


考案を促すために、考案をした人が生きている限り、ほとんど同じ製法で製品を作った場合に税金という名目で、考案した人にお金が支払われる制度なのだそうだ。

製法を公開するかどうかは、考案した人次第だと言う。

例の赤色のガラスについて聞いてみたら、特殊な製法なので、容易に真似が出来無いので、レオナルドは、秘匿していたらしい。

ただ、ニケさんが関わっている考案については、公開するように指導が入る。

それで、先日赤色ガラスの製法が公開されたのか。


オレの彩色写真は、よほど特殊な製法を使っていない限り、公開してお金を得た方が良いと教えてもらった。


「すると、考案税の申請をして、公開して、同じ事をして作品を作る人から金を貰えるってことですか。」


「ええ。これは素敵ですから、きっと真似をする人が出てくるでしょうね。

考案税を申請して承認されれば、彩色した写真を作った人が商品として売った場合、貴方の権利として、売った利益の一部を貴方が受け取れます。」


これは、有り難い。今、オレは仕事らしい仕事をしていない。

オレの真似をする人が出てきたら、オレはそいつから、金が貰えるのか。


「どうしますか?考案税の申請をします?」


「はい。お願いします。」


それから、オレは、彩色する方法について説明をした。

ジーナさんは、紙に説明した事を書いていった。

不思議だったのは、ダメだった方法も聞いてきたことだ。

理由を聞いたところ、考案税を受け取る権利が発生するのは、考案を開示した場合で、他の人も同じように作ることが出来るというのが大事なのだそうだ。

ダメと解っている事も公開されていれば、ムダな努力をするより、同じ方法で作る方を選ぶものなのだそうだ。


なるほどと思った。


考案税申請書の作成に、1ガリオン掛ると言われた。

手持ちが無かったのだけど、ヤシネさんが金を貸してくれた。

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