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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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21.遭遇

オレはバール・コモド。

長年、マリムで雑貨を扱っているコモド商店の三男だ。

三男だった俺は、かなり自由にさせてもらっていた。

昔から、コモド商店は、領主様とはいかずとも固定客も居て、そこそこ繁盛していた。


10年ほど前、絵を描くのが好きで、絵描きになりたかった俺は、両親に頼み込んで、王都までの路銀と多少の生活費を出してもらった。


王都に行って、王都の絵画工房で絵描きの修行をさせてもらった。


ただ、なかなか芽が出なかった。


絵なんてものは、絵を買ってくれる貴族に気に入られなければ、なかなか独り立ちできる職業じゃない。

先輩達の中には、パトロンを見付けて独立する人も居たが、オレにはなかなか難しかった。


絵というものは、上手く描けていれば良いというものではないのだと思い知った。

買い手が望んでいる事と、自分が描きたいものの匙加減が大事だ。

どうも、オレは、自分が描きたいものが全面に出てしまうようだ。


それを好んでくれる貴族が居れば良いのだが、出会えなければそれまでだ。


反省して、買い手が望んでいる様な画風にしてみたことがある。こびた画風が、どうにも鼻に付くらしくて中々気に入ってもらえるものは描けなかった。


なかなか難しい。


5年間、絵の修行をして、才能の限界を感じていた。

そろそろ、区切りを付けようと思った。

長い間、俺を援助してくれていた、父も60歳を越えた。

少しは親孝行した方が良いと思ったオレは、5年ほど前に、マリムに戻って、実家の店を手伝い始めた。


マリムは、ガラリア王国内でも、特殊な場所だった。

この5年ほどの間に、街の様子は、すっかり様変りしてしまった。


最初は、ソロバンだった。そして鉄。他のどこでも見た事の無いものが生まれつつあった。


父はソロバンを扱いたがったが、領主様が貸し出している工具が無いと作ることもままならい。

ソロバンの製造で、有名になった、ルキト工房が作ったソロバンは、全て商売敵のエクゴ商店が扱っていて、入り込む余地がなかった。


父と二人の兄は、指を咥えて見ている他なかった。

そして、みるみるうちに、エクゴ商店は大きくなっていった。


鉄の時には、取り扱っている商品とあまりに違うので、これも手が出せなかった。

鍛冶師達の工房がどんどん大きくなっていった。


その次は、ガラスだった。


ガラスの壺やガラスの瓶は、王都に居た時に、博物館で見た。

淡い色合いで、透き通っていた、その遺物は、現在でも輝きを失なっていなかった。

美しい物だと思った。


そして、ガラスは、製造方法を失伝してしまっていたため、国の宝に指定されていた。

割れてしまえば、二度と手に入れることのない、貴重なものだ。

至宝と言う他無いと思っていた。


そのガラスが、アトラス領で作れるようになったのだ。


ソロバンの生産が始まって、1年も経っていなかった。


王都に行ったことの無い商人達は、ガラスを見た事が無かった。

オレの父や兄達もそうだった。


王国の宝として大切に保管されている物品だ、という噂を聞いていただけだったのだ。


オレは、ガラスに飛び付いた。


陶器工房の連中と組んだ。

オレが王都で目の当たりにした国宝について語った。

何人もの工房の連中がオレの話を聞きにきた。

熱弁するオレを見て、父と兄達も高価なガラス製品を扱ってみることにした。


それからは早かった。

みるみるうちにコモド商店は大きくなっていった。


そのうち、釉薬に絵付けする陶器も生産されるようになった。

オレは、王都に居た頃の知識を使って、陶芸工房と組んで、売れる商品を開発していった。


今、コモド商店は、相変らず、父と二人の兄が切り盛りしている。

まあ、オレに商才を求められてもムリだ。


オレが出来ることは、貴族や大店の店主がどういったものを好むのかを知っているという事だけだった。


この情報は、ガラスや彩飾陶器を扱い始めた頃のコモド商店には役に立った。

コモド商店は、この4年程で、ガラス製品と彩色陶器を扱う、王国内で最大規模の商店になった。

多角経営しているエクゴ商店ほどの規模は無いが、まあ、大店と言っても良いかもしれない。


今は、どういったものが貴族や大店の店主に好まれるかといった情報が溢れている。

既に、オレの貢献できる事は殆ど無い。


それでも、家族は、オレの事を大切にしてくれている。

ここまで店が大きくなったのはオレのお陰だと。


まだ暫くは、オレが役に立つ事もあるだろうが……その先は、どうしたものだろうと考えていた。

幸い、オレが王都に行った時と比べると、家業は大きくなっている。

オレひとり、好きな事をしていたところで、問題は無いだろう。


そんな理由わけで、時間がある時には、オレは好きな絵を描き始めた。

主に、子供の頃のマリムを思い出して描いている。


昔のマリムは、古い建物だらけで、道も狭かった。

それでも、長い年月変わらなかった風情があった。


今のマリムは、半年も経つと、街の風景が様変りしてしまう。


昔はこんな勢いで変わっていくという事は無かった。


昔が良かったなんて言うつもりは無いんだ。

オレも、今のマリムが好きだ。

活気があって、新しいものがどんどん生まれていく。


ただ、昔の面影が完全になくなってしまう前に、昔の街の様子を書き留めておきたいと思った。


街の発展は、アイル様とニケ様のお陰だそうだ。

二人を戦勝パレードで遠くから見かけた事はあるけれど、随分幼なく見えた。

ちょうど、マリムに戻る前に有った新たな神々の戦いの時に生まれたそうだから、幼ないのは当り前なんだろうけれど。


お二人は、国王陛下から、特級魔導師の称号を頂いたのだそうだ。

オレは魔法の事は詳しくないが、王国はおろか、大陸でも稀有な魔法使いらしい。

その二人が、協力して、様々なものを我々が使えるように導いてくれている。


電灯も、鉄道も、マリム大橋もお二人が作られた。


最近、注目を集めているのは、金を使ったガラス工芸品だ。

金をガラスに融かすことで、真っ赤なガラスが作れる。

ニケ様の発案で、レオナルド工房が開発して、賞賛を集めていた。

残念なことに、エクゴ商店に先を越されて、しばらく独占状態が続いた。

オレ達には、手が出せなかった。

それが、考案税の公開が行なわれたことで、様々なガラス工房が手掛け始めた。

早速、贔屓にしている工房と、赤を取り入れたガラス製品を開発した。


原料の金は、マリムでは、他領地と違い、高い純度の金を大量に生産している。

かねさえ払えばきんも入手するのは簡単だ。


ちなみに、金の生産に携わっているのは、コラドエ工房だ。

この工房は、ニケ様の生み出している様々な素材を生産している工房だ。


エクゴ商店やボーナ商店の様な華やかさは無いけれど、マリムで生み出される様々な物品を支えている、ある意味、マリムにとって、最も重要な工房だ。

オレも、仕事では、釉薬顔料などで、随分と厄介になっていた。

時々、訪問して、新しい素材を教えてもらったりしている。


ある時、圧縮発火器という道具を見せてもらった。

ニケ様が、考案したものだそうだが、簡単に、火を点けることができるというものだ。実際に動作しているのを見て、これは売れると思った。

これから生産出来る工房を探すと言っていたので、実際に生産する時には、生産工房を教えてもらえるように頼み込んだ。


新しく作ったゴムという素材が重要らしい。これをコラドエ工房が、海沿いコンビナートの工場で生産して提供するのだと言っていた。


後日、工房を教えてもらって、店で売ることを父や兄達に提案した。

これは良く売れた。

オレは店の事にはあまり関わってなかったのだが、他領にある支店でも、飛ぶように売れたらしい。


まあ、時にはこうやって、店の役に立ったりはしているんだが、基本、何をしている訳でもない。


最近は、随分と暇になってきた。


あの日は、絵に使う絵の具を購入するためにコラドエ工房を訪ねた。

いつも通り、買い物ついでに、何か新しいものが無いかをヤシネさんと話していた。


その時、ふと、店に飾られていたガラスの板が目に入った。


「これは、何ですか?」


「それは写真です。アイル様からお借りしたカメラというもので、ウチの従業員を撮影したんですよ。」


ヤシネさんが、嬉しそうに説明してくれる。


「写真」や「カメラ」、「撮影」という言葉の意味が解らない。

近くで良く見ると、何人もの人の中に、ヤシネさんと瓜二つの姿があった。


しかし、こんなにそっくりの絵を描くのは、随分大変だったのだろうと思う。

というより、オレには、こんな正確な絵を描くことなんてできない。全くいびつなところがないのだ。

背景は、どこかの部屋なのだろうか、人物の周りの調度品もとても丁寧で、正確に描かれている。


ガラスに絵を描いている方法が解らないが、こんな細かくて、正確の絵が描けるのは、相当な技術を持った絵師なのだろう。


「これは、また、見事な絵ですね。」


「絵に見えますよね。でも、これは絵じゃないんですよ。」


「絵じゃない?いえ、これはどう見ても絵じゃないですか?」


「そう思いますか?

……そう言えば、バールさんは、王都で絵描きの修行をされていたのでしたね。

絵の具を買いにきたのでしたら、今も絵を書かれているのですね。

バールさん、今日、お時間はお有りですか?」


「ええ。今日は、特に用事は無いですね。

最近は、店の方の仕事も順調で、手伝うこともあまりないんですよ。

そんな理由わけで、一日中絵を描いていたりしてます。

今日も、これから絵でも描こうかと思って、足りない絵の具を買いに来たんですよ。」


「そうですか。それでは、その写真を作るところを見てみませんか?」


「えっ、この写真というものは、作るんですか?」


「作るというか、撮影して現像すると言うか。まあ、その作業を見ると、驚きますよ。

実は、そのカメラというものを、メガネ工房に制作を頼んでいたんですけど、ようやく出来上がったんです。

それで、性能の確認を頼まれているんです。

これから、試験してみようと思っていましてね。

お時間があるんでしたら、是非ご覧になったらいかがでしょう?」


この日、オレは初めてカメラと出会った。

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