19.魔導師会
引きも切らずやってくる、求道師達に辟易している。
だって、本当に変だよ。
エセ科学ってやつなのかな。
証拠や裏付けの無い思い付きで、様々な事象を説明できていると信じているんだ。
最初の人のインパクトが凄かったけど、あとも似たり寄ったり。
そういう意味では、最初の人が一番まともだったかもしれない。
うーん。あまり変わらないかな。
そんな時に、魔導師会の人がやってきた。
義父様に聞いたら、魔法のランクを認定して、魔法使いに職を斡旋したりしている組織だと言っていた。
前世で日本技術士会って組織があったけど、そんな感じだろうか?
何しに来たんだろう。
最近の流れだと、やっぱりメーテスなのかな。
多分そうなんだろう。
今回は、義父様が面談に付き合ってくれた。
まあ、最近良く来る得体の知れない人達とは違うからね。
面会も、ちゃんとした応接室だ。
応接室へ向うと、ウィリッテさんと、年配の男性が待っていた。
その男性は、細身で、身長がある人だ。
褐色の髪に白髪が混っている。
「これは、侯爵様。ご無沙汰しております。」
「誰が来たのかと思えば、ジェメーラ代表ではないか。久しぶりだな。
ジョルジ。昔通り、アウドと呼んでもらってかまわない。」
「そうか?じゃあ、昔の様に話させれもらうよ。」
「特級魔導師のアイル様、ニケ様。お初にお目にかかります。魔導師会の代表を務めておりますジョルジ・ジェメーラと申します。お見知りおきくださいませ。」
「アイテール・アトラスです。初めまして。」
「ニーケー・グラナラです。宜しくお願いいたします。」
「しかし、陛下や宰相様の申請で、年齢を拝見してはおりましたが、お二人は、本当に幼……お若いですな。
これで、大魔法使いで、伝承魔法の使い手とは。
今回、王都から船を使って、たったの2日でマリムに移動しました。
巨大で、風の有る無しに関わらず航行できるとは、真に素晴しい船ですな。
あの船は、お二人が魔法で造られたと聞き及んでおります。
いやはや、驚くしかありません。」
「それで、ジョルジ。マリムの街はどうだった?」
「噂では聞いていたんだが……随分と様変りしたな。
以前、ここに来たのは、アウドが家督を継いで間も無くだった。
あの頃は……言っては何だが、辺鄙な田舎街としか言いようがなかった。
人口が少なく、魔法使いの斡旋も断られた。
まさか、たった10年で、これほど発展したマリムを目の当たりにするとは。
魔法が、これほどまでに世の中を変えるとは、思いも寄らないことだ。
この時代に生きて居ることは、喜びしかないな。」
「実際には、5年でございますよ。ジェメーラ様。」
「そう言えば、ランダン殿は、このお二人の教育係をされていたと聞いたな。5年か。そんなに短かい期間でここまで、街が変わるもなのか?
やはり、二人の魔法の所為なのだろう。」
何か、魔法の所為で街が変わったって言っているけど、実際は、領都の人達が努力したからだと思うんだけどね。
私もアイルもサポートしただけだ。
「ところで、ジョルジは、どんな用件で、態々王都を離れて、こんな辺鄙な田舎まで来られたのかな?」
ふふふ。義父様が皮肉を言っているね。
「いやいや、今では、辺鄙な田舎なのでは無いだろう?
街の人口は王都を遥かに凌いでいるというではないか。
新しいものは、全てマリムで生れているとも言われている。
それに、定期船のお陰で、王都の近郊の領地に行くよりも楽に移動できる。
それに、もう直なのだろう?
鉄道も王都まで引かれると聞いているぞ。」
「まあ、アイルとニケ次第ですがね。
今は、休息中ですね。」
「噂では、鉄道がマリムまで通った領地は、随分と栄え始めたということだが?」
そう言えば、どこかの男爵が、まだ通っていない鉄道の御礼を言いに来たことがあったな。
そんなに、影響があるんだね。
「共存共栄というやつでしょう。それまで、マリムに運ぶことが出来なかった特産品がマリムで売れるようになって、金が入る。その金を使って、マリムの物品を購入してくれる。
商売が盛んになってくれれば、領地も潤い、税も多くなる。」
「税と言えば、関税を取っていないと聞いたが?」
「それは、そのとおりだ。
その理由の一つは、アトラス領には、十分な文官の人員を確保できないからなんだが。
船や鉄道で大量に運んでいる物品に関税を掛けるためには、それを調べる文官が必要になる。
今のアトラス領には、それに割けるだけの文官が居ない。
商売したことで上げた利益から税をもらうから、そちらに集中した方が手が掛からないんだよ。」
「まわりの領地から、不満が出ているのでは?」
「いえ。今のところ、それは無いですね。
関税を別途掛けている領地は有るかもしれませんが、自領の製品をマリムへ安く提供した方が多く売れますから。
結果的に自領の繁栄に繋がります。
鉄道の恩恵を受けられないところは分りませんが、それでも、運送や関税による値上りは、最寄りの駅まで運べば良いので、歓迎されていると思ってますよ。」
「それならば、良いのだが……。」
そういえば、義父様から聞かれた事がある。
領内に運ばれてきたり、運び出したりする、大量貨物をどうするかって話だった。
これまで、陸送している商品には関税は掛けなかった。そもそも、アトラス領にはそんな余裕が無かった。
ただ、今回は、アトラス領で貨物を預って荷揚げ、荷卸しをする。
領地間の貨物に関税を掛けようと思えば掛けられる。
そして、それが良い税収になるんだそうだ。
今は、金が沢山あるから、文官を雇えば、関税を掛けることもできると言っていた。
ただねぇ。文官が絶対的に不足しているから、悩んでいたみたいだ。
金を出したところで、文官は、そんなに増えない。
読み書きソロバンが出来る人がそんなに居ないし、商業が発展している中、商人になる人の方が遥かに多いんだから。
私とアイルは、運送費用を取っているのだから、それ以上に関税は掛けない方が良いと説明した。
楽市楽座だね。市と座が何かは憶えてないけど。日本史を学んだ事も役に立つんだね。
関税を掛けない事で、商業が盛んになって、結果的に領地が潤うと説明した。
何しろ、運送費は、これまで、人を雇って、荷物を移動させるのと比べて破格に安い。
流通革命だよ。
物量も破格の多さだし、運送費も破格の安さだ。
「何か、懸念する様な事があるのか?」
「いや、表立ってという訳ではないのだが……アトラス領の繁栄を妬む者が居るという事を聞いている。
こんな仕事をしていると、嫌でも耳に入るものだからな。」
「そうですか……そういう事もあるかもしれない。
ただ、今のアトラス領の状況を生み出したのは、アイルとニケのかなり特殊な魔法に依るものだ。
妬まれたところで、どうなる訳でもないでしょう。」
「二人が使う魔法が、伝承の魔法だということは、皆、知っている。
それが分らぬ魔法使いは流石に居ないとは思うのだが……。
ただ、繁栄を目の当たりにすると、妬ましいとは思うのだろうな。
特に、領主クラスの魔法使いであれば、自分達もと思っても不思議では無い。」
「それが容易に出来るものなら、誰も苦労しませんわ。」
「ランダン嬢。お二人以外で、伝承魔法を使えるのは、貴方だけですが……。
やはり、容易には使えない魔法ですか?」
「ニケさんから、詳しく教えていただいて、分離魔法の本当に初歩的なものが使えるようになりましたけれど、それでさえ、とても苦労しましたから。
ニケさんが実現している魔法は、全く別物という程に高度な魔法です。
アイルさんの魔法は……私には全く真似できませんわ。」
「なるほど。やはりそうですか。1級魔導師のランダン嬢でさえ使えない魔法ですか……。」
「あのぉ。教えてもらっても良いですか?」
「ニケ様。何かお聞きになりたい事がお有りですか?」
「随分前なのですが、ウィリッテさんから、私とアイルが既に1級魔導師に認定されているって聞いたのです。それは、どういった経緯でそうなったのですか?」
私の質問に、義父様とジェメーラさん、ウィリッテさんが一斉に目を泳がせた。少しの間、三人で凝視め合っていた。
ジェメーラさんが、私の方を見た。
「あー。今から4年ほど前ですかな。魔導師会に、宰相閣下と近衛騎士団長殿から、伝承魔法が使える幼子が居るという報告がありまして……。
ここに居るランダン嬢に色々と問い合わせた事があるのです。
容易には信じられなかったので、実際に調査する事になったのですよ。
魔導師会の者をマリムに派遣して、えー、コンジ?コンビナ?……。」
「コンビナートですね?」
「あっ。そうだったな。ありがとう。ランダン嬢。
そのコンビナートをお二人が建設している時に、お二人の魔法を魔導師会の者が確認したことから、お二人を1級魔導師として認定したのです。
ただ、お二人が幼いことから公表するのは控えていたのですよ。」
へぇ。そんな事が有ったんだ。
でも……変だな。
あの時は、侍女さんと騎士さん達ぐらいしか居なかったよね。
あっ、川の対岸に農家の人が居て、こっちを見ていたかも。
うーん。この世界は、至る所にスパイが居るんだな。
「そういう理由だったんですね。」
「ニケ様。他に何か聞きたい事があればお答えしますが?」
「今日、こちらに来られたのは、メーテスの事でしょうか?」
「あっ。そうそう。先ほどもアウドの質問に回答してませんでしたな。
そうです。王国立メーテスに関して、相談が有って来たのですよ。」




