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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり2
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14.地動説

アイルと王国立メーテスの教育内容を話し合った翌日には、食いしん坊司教さんがやってきた。


司教さんを呼ぶのは、簡単だよ。厨房侍女さんに、新メニューを作ってもらえば良いだけだ。


やっぱりスパイが居るよね。絶対だよ。


前回、クリームシチューが好評だったので、ビーフシチューを作ってもらった。

デミグラスソースを作って、牛の角切りと芋や根菜をことこと煮込んだものと合わせる。

この根菜は、色が赤くは無いけど、ニンジンみたいなものだ。大根じゃないよね?


初めて作ることもあって、結局2日もかかってしまった。

その所為で、昨日の内に、司教さんを釣る餌をぶら下げることはできなかったんだよね。


にこにこしながら、夕食を待っている司教さんに、少し相談したい事が有るとお願いした。

声を掛けたところで、デミグラソースの香りを漂わせて料理が運ばれてきた。


それでは、夕食の後でとお願いした。


久々のビーフシチューは、美味しかった。家族や司教さんにも好評だった。

香りが違うよね。

侍女さん達がソワソワしているから、給仕が終って食べたいんだろうね。

相変わらず、司教さんは一口一口味わって食べている。


デザートには、シャーベットを作ってもらった。

コッテリ系の食事だから、シャーベットが良く合った。


「それで、どのようなご相談なのでしょう?」


司祭さまから声を掛けてもらった。

あとは、しばらくアイルに質問をしてもらおう。


「神殿では、この大地の形を、どう考えているのですか?」


「大地の形?ですか?ユーノ大陸があって、周りに海がありますね。

北の方の大地がどうなっているのかは、見た者が居ませんので、判りかねます。

海の先がどうなっているのかも、判りませんね。」


「それは、実際に見た事が無いものは判らないという考え方なんですか?」


「それはそうですよ。誰も見たことの無いものは判りません。

最初、大陸の西の方に居た私達は、開拓をしながら東の端までやってきました。

そのまま大地が永遠に続くのかも知れないと思ってはいたんじゃないでしょうか。

でも、残念ながら、海があって、その先は判らなくなりました。」


何だか凄くマトモだよ。

大亀の上に巨象が居て、その象が大地を支えているなんて言われたらどうしようかと思っていた。


「神殿は、確認できた事が正しいと考えるのは、普通なのですか?」


「まあ、そうですね。確認できたのなら、それが正しいのでしょう。

ただ、予想したり、想像する事は有りますよ。でも、それが正しいかどうかは判りませんよね。」


「では、大地は平坦ではなくて、丸いということが判ったらどうなります?」


「えっ?大地は山や海が有って、平坦では無いですよね?丸いってどういう意味なのですか?」


「説明が不足していましたね。えーと。そうそう、大地はこのテーブルの上に山があったり、海があるという状態だと平坦だという事です。

丸いというのは、巨大な球状のものだという意味です。」


「そうですね。神殿では、どうなっているという教義が有る理由では無いですから、そうなっていると判れば、それを正しいものとして認めると思います。

ただ、テーブルのようなものの上に山や海があるというのが一般的な感覚でしょうか。」


「大地の形については、特に、神殿では、教義の様なものは無いんですか?」


「ええ。だって、判っていない事を教義になんて出来ませんよ。

正しいと判ったことが教義になっていくんです。」


何か、とんでもなくマトモじゃない。吃驚だよ。

前世と何が違うんだ?

そう言えば、この世界で、聖書なんて聞いたことがないな。

多神教と一神教の違いなんだろうか?

日本なんかと考え方が似てるのかもしれない。

日本人って、地球が丸いことを知っても、地動説を聞いても大騒ぎにはならなかったのかな?

どうなんだろう?

何となく、証拠があるんだったら、そうなんだろうぐらいの認識だったのかもしれない。それに、日本だったら、そこに神様は出て来ないよね。


「そうなんですね。」


「ところで、何故、大地の形の話をされているのですか?

ひょっとすると、測量とかで、大地の形が判ったんですか?」


「ええ。まあ、そうですね。」


心無しかアイルの元気が無いかな?

あんだけ、気を張って、話し始めたのに、肩透かしを食ったみたいなもんだからね。


「それは、どんな事が判ったのですか?

是非、教えてください。」


それから、アイルは、ポツポツと、この大地が巨大な球状だという事や、その大きさを伝えていく。


「すると、大地神ガイア様がお守りになられている大地は、それほどまでに大きく、球の形をしているのですか。

それは素晴しい。素晴しいですよ。

大地は、そんなに大きいんですね。

そして、その形が球ですか。

大きくて、美しいではありませんか。

それで、何故、そう判断されたのですか?」


段々とアイルは質問攻めを受け始める。

すごいね。ダムラックさん、伊達に司教をしていないよ。


アイルは、アイルの頭ぐらいの大きさの球を持ち出して、説明を始める。

この球は、中空になったアルミニウムで出来ている。

肉薄にしてあるので、私が持っても軽いと思う。

表面にアルミナの粉末が固着してあって、真っ白な球だ。


電気でライトを光らせて、球に当てて、昼と夜、場所による日の出や日の入りの時刻の違いを説明する。

この球には、回転軸の場所、つまり北極と南極に穴が空いていて、アルミニウムの細い棒が差さっている。

そして、マリムの経緯度、ミネアの経緯度、王都の経緯度に相当する場所に印が付いている。


マリムとミネアの距離が測量で解っているため、大地の球の大きさが分ることを説明した。


「なるほど、そこまではっきりとしているのですか。

ひょっとすると、マリムと王都で時刻が違っているのは、この所為なのでしょうか?」


やっぱり気付いていたんだね。

そりゃ、王都の朝の会議で、司教さん含めて、マリムに居た人は昼近くまで待たされたんだ。

気付くよね。


アイルが、球形の模型で、時差の説明をする。


「それで、王都とマリムでは時刻が異なっていたんですか。

実は、あの時、本当に不思議だと思っていたのですよ。

その後、侵攻が決まって、神殿でも、様々な対応に追われてしまいましてね。

今日まで、完全に忘れていました。

あれ、でも、私達と反対の場所に居る人は、どうなるのです?

空中に落ちて……ぷっふふ。

いや、想像したら少し奇しくて、大地に居られなくなりませんか?」


「いえ。大地がとても大きいので、表面に居る人は、大地の中心に引き寄せられるんです。

大地のように大きなものは、他のものを引き寄せる力があるんです。

そのため、空中に落ちていったりはしないです。」


「それは、神の国の知識なんですか?」


「ええ。そうです。」


「すると、この世界も、神の国の世界と同じような世界なのだという事ですか?」


「ええ。今のところ、相違は見付かってません。魔法が有る事ぐらいです。」


「ひょっとすると、北の大地で起こる、白夜や極夜という現象も説明できるのですか?

その話を騎士の方達から聞いたとき、これも不思議な事だと思ったのですよ。

なぜ、南で見えているヘリオが、北だと見えなくなるのか?

南の地で、日が沈んだ後も、北では沈まずに見えるのか?」


この説明には、自転を話さなきゃならないんだけど、自転とか公転とかって説明しても大丈夫なんだろうか?


なんか、全て、説明しても大丈夫な気がしてきたんだけど。


そもそも、なぜ前世の中世ヨーロッパで、地動説があれほど嫌われたんだろう。


アイルも大丈夫だと思ったみたいだ。


大地が自転していることを説明する。そして、大地の星とヘリオが互いに廻っていることで、地軸の傾きによる光の当りかたに季節差があることなどだ。


「すると、大地は、1日に1回廻っていて、大地とヘリオは1年周期で互いの周りを廻っているのですか。」


「ええ。そうなります。」


おお。完全に地動説になっちゃったよ。


「ひょっとして、大陸の南の海流は、大地が回転していることと関係があったりしますか?」


「ええ。大地が回転している事が原因になっていると思いますよ。」


「なるほど。あっ、そうだったんですね。昔から、あの流れている水は何処に行くのだろうと思ってたんですよ。

ぐるっと、大地を一周しているだけなんですね。

なるほど。なるほど。

謎だった事が解ったように思います。

あのまま、海水が西に流れていったら、西に海水が余って、東は海水が無くなってしまうんじゃないかと思っていたんですよね。

きっと、どこかで戻ってるんだろうと思っていたのですが。

そうか。ぐるっと廻っているだけなんですね。」


司教さんって、科学者の素養があるかもしれない……。


「ところで、セレンも、互いに周りを巡っているのですか?」


「ええ。セレンは、この大地の周りを巡っています。」


それから、暫く、司教さんは中空を見ていた。


「おお!この世界はなんと美しいのでしょう。互いに互いの周りを巡りながら、神々の恵を受けているのですね。

すると、セレンの形も球なのですか?

ひょっとすると、セレンの形が変わるのは、その所為では?」


ふーん。神様は居ることが前提なんだな。まあ、私にも神様が居るのか居ないのかは判らないから、それでも良いんだけどね。


「ひょっとすると、他にも、互いに巡っている星々は有るのですか?」


……


「それらの星々にも人は居るのでしょうか?」


……


それから、様々な質問が出てくる。

アイルは、適切に応えていたと思うよ。一応科学者だからね。分らない事はちゃんと分らないと言っていたし。


最後には、ヘリオやセレンの大きさや、どのぐらい離れた場所にあるのかまで聞いてきた。

ヘリオがとんでもなく大きい事に驚いていた。


ふと、気になって、創世神話といったものが有るのかを聞いてみた。


「ダムラック司教様。神殿では、この世の始まりについては、どう考えているんですか?」


「言い伝えでは、ガイア様が、大地を生み出して、光を欲してヘリオを生み出したと伝わっていますね。

生み出されたヘリオには、ヘリオ様が神として宿ったのだそうです。

その後、暗い夜を少しだけ明るくするためにセレンを生み出し、人や動物も必要に応じて生み出されていったことになっています。」


「すると、星々には神が宿っているのですか?」


「ええ。そういう事です。」


アイルが口を開いた。


「すると、この大地の星に名前を付けるとするとガイアで良いんですか?」


「そうなりますね。」


アイルはなんかほっとした顔をしていた。

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