14.ソロバン
今日は、この話が短かいため2話公開です。これは2話目です。
あの後、ウィリッテさんがアウドおじさんに魔法教育の内容を報告したらしい。
その時に、おじさんは、アイルが作っていた道具に興味を持ったようだ。
明日の朝は、朝食の後、領主様の元へ行く様にとお付きの侍女さんから言われた。
翌日の朝、アイルと朝食を食べたあと、アウドおじさんの執務室に向う。アイルは数字とソロバンの説明をする気満々だ。
アイルは、ここが地球じゃないことが判ってから、この宇宙がどういった宇宙なのかを知ることを目指している。
幼児でしかない私達二人で、出来ることは限られている。他の人達の助けがどうしても要るのだ。
そのための第一歩として、この世界の人達の技術レベルを上げたいのものだ。
上ると良いけど。
ソロバンだけじゃダメな気もするんだけど。
執務室に入ると、領主のアウドおじさんの他にソドお父さんとウィリッテさんも居た。
侍女さんに、昨日作製したソロバンを持ってきてもらっている。ソロバンを執務室の中央にあるテーブルに置いてもらった。
大人用のソロバンが5つと、わたしとアイル用の小さなソロバンが2個だ。
領主様が、ソロバンの一つを手にとって、光に翳して見ている。
「ずいぶんと綺麗に輝いているな。これは宝石なのか?」
この世界で、シリカ結晶の石英って宝石なのだろうか。うーん微妙だ。分らない。
「計算を簡単にする道具です。」
「計算?簡単?道具?これは道具なのか?」
「はい。そうです。」
それからは、アイルは必死に説明を試みていく。
アウドおじさん、ソド父さん、ウィリッテさんが、話を聞いている。
うーん。傍目八目かな。説明が下手すぎる……。
「アイル。まず、『数字』の説明をした方が良いよ。」
アイルは、数字を見せながらソロバンの玉を移動させる。
桁と数字の並びの説明をする
簡単な数字の足し算をして見せる。
桁上りがある場合の足し算をしてみせる。
計算をする二つの数字とソロバンで足し合わせる操作を見せて、出てきた結果を数字にしてみせる。
ソドお父さんが、私にこっそりと話をしてきた。
「オレも興味があるから聞いていたのだが、途中から分らなくなってきた。ニケは、あの数字とソロバンは分るのか?」
モチロンと応えると、「悪いがオレが分る様に教えてくれないか。」とお願いされた。
ソドお父さんは、筋肉だけで仕事をしていると思っていたのだが、そういう訳ではないらしい。
騎士団長をしていると、騎士団の予算作成、騎士の運用経費の集計、騎士の昇給に伴なう申請、消費した剣や防具の補充費用計算……。
様々な場面で計算が発生して、その結果を見なければならない。計算そのものは、お付きの文官に任せる。しかし、結果が正しいのかのチェックは、自分の責任でする。
計算に不具合が見付かった場合は、計算を見直す。自分で計算をする事も多い。
部門を束ねる長は、頭を使わないとならない。
へぇ。少し、見直したよ。
そういうことならと、アイルのペースよりは随分とゆっくりとソドお父さんに数字とソロバンを教えた。いつの間にか、ウィリッテさんが後ろから覗き込んでいたので、二人いっしょに教える。
小学校の低学年の子に算数を教えているようなものだね。
この世界年齢では、私は2歳だから、2歳児が大人に教えているというとんでもない状態だ。ただ、実は私は36歳、お父さんが20歳半ば、ウィリッテさんが20代前半なので、10歳以上私の方が歳上だ。まあ変という訳でもないのかな。
ただ、この歳になって、小学生に算数を教えようと思っても、分らない肝の部分がどこにあるのか分らない。
私にとって当然になってしまっている部分の中に理解困難なところがあるのだろう。
とりあえず、質問に耳を傾けて、分らない部分を探りながら教えていく。
まあ、この部屋の絵面は、相当に変な感じだろうなというのだけは分る。
数字とソロバンの玉を比較させて、ソロバンの玉で数字と対応付けしてもらう。
ソロバンに何も置いていないときの値を『ゼロ』ということを教える。
いくつかの数字を書いて、ソロバンの玉で数字を置いてもらう。
桁の数が無い時には、その桁に数字の0を書くことを教える。
この時、ウィリッテさんが、
「あっ、あのときアイルさんが質問していたのは、この事だったんですね。」
と言ってきた。
そうそう、アイルがそんな質問をしていたね。雰囲気が悪くなりそうだったから途中で止めたけれど。
「なるほど、数字で数を書くことにすると、この『ゼロ』というのが無いと上手くいかないんですね。」
流石、インテリ侍女さんだね。解ってくれて嬉しいよ。
その後、簡単な足し算をソロバンでしてもらう。
上手く計算ができると、感激してもらえる。かなりうれしい。
少しずつ足し算を難しくする。お父さんは結構悩みながら、ソロバンを使っている。ウィリッテさんはある瞬間から吹っ切れたのかサクサク計算ができる様になった。
それから後は、ウィリッテさんと二人で、お父さんを指導した。
なんとか二人共足し算をマスターした。
教える内容を、引き算に移行する。足し算よりは手間はかからず、マスターできた。
その頃、アイルとアウドおじさんは掛け算を練習していた。
簡単な掛け算のために、新しい木簡にエバ・エバの表を作ってみせる。日本の九九の表だね。
その表をつかって、ソロバンで掛け算をする。一桁掛ける二桁から始めて、二桁掛ける二桁が出来ると、あとは、三桁かける三桁までは自然と出来た。
そのころアイルとアウドおじさんは、割り算が出来る様になったみたいだ。小数点はどうするのかと思っていたら、割れなくなったら余りとして分数で逃げたみたいだ。
まあ、それが良いだろうね。
小数のことを説明しようとすると、かなりややこしくなる。
こちらのチームが割り算に移ろうとした頃には、「宰相を呼べ」という声が聞こえてきた。




