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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
プロローグ
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2.神崎恭平

オレは、神崎恭平、独身、三五歳。


高エネルギー重力研究所に勤める物理学者で、主席研究員をしている。


この研究所は、物理学の2大理論である、相対性理論と標準理論を融合させ、物理にあまたある、矛盾と説明不能な領域について追求することを目的としている。

相対性理論は、時空と重力についての完璧な理論だ。標準理論は、素粒子の振舞を完全に記述することができる。


ただし、この2つの理論は、まあ、ぶっちゃけた話、水と油で混ざり合わない、合わせられない。そして、ここは、この二つの理論を上手く融合させることができないかを考える場所だ。


小学生の頃、相対性理論を知ったときに不思議だと心底思った。


高校になり、量子論のことを知って、さらに不思議だと思った。


その頃、ゲーデルの不完全性定理を知った。ペンローズの「皇帝の新しい心」を読んで、知性の成り立ちがコンピュータの原理と違っているんじゃないかと思い始めた。


物理にとても興味を持っていたので、大学では物理学を専攻した。


物理学を更に深く学びたいと考えて、米国の大学で博士号を取った。


その後、職を探していたら、ちょうど、日本の理論物理学を研究する研究所が設立された。応募して今に至っている。



ここで研究を続けることで、個人的には、かねてから、知りたいと思っていることの回答を得ることができればと思ってはいる。ただ、生きているうちには無理かもしれない。


ひとつは、時間についてだ。物理学では、時間については完全に対称に見える。

通常通りに時間が流れている状態を説明するのも、逆向きに時間が流れている状態を説明するのも全く同じ理論で説明できてしまう。


とはいえ、割れた卵は元に戻らないし、老人が若返って赤ん坊になることもない。あまりにもありふれていて、誰もが当然だと思えることも、まだ、物理学では説明ができていないことがある。


唯一熱力学の第二法則では、時間を戻すことが出来ない縛りがあるが、それが通常の理論とどう結びついているのかは誰にも判っていない。



そして、もうひとつは、何と言えば良いのか分らないことだ。AIが人類を越えるという話が普通に語られるようになっている。


高校生だったころ、数理物理学者で後にノーベル物理学賞を受賞したペンローズの著作をいくつも読んだ。そこには、ゲーデルの不完全性定理と人の脳の活動の事が書いてあった。

コンピュータで人間の脳は決して模倣できないと。これは大バッシングされたみたいで、続刊として「心の影」という本で、反論している。


ちなみに、ゲーデルが証明したことは、整数論の公理系をどう定めても証明が出来無い命題が生れるということだ。今のコンピュータはAIであっても、基本的にチューリングマシンだ。全て同じ原理で動作している。


ここで、ゲーデルの役割をコンピュータが代行できるんだろうかという疑問が起る。単純なロジックで動作しているコンピュータが、ゲーデルの発想を産み出せるのかは、オレは専門家じゃあ無いので何とも言えない。


ただ、難しいような気がする。もし、脳がコンピュータと同じような動作しかしないのであれば、脳の他になにかが有るかもしれない。



ダライ・ラマという人がいる。生まれ変って、生まれ変わり以前の記憶があると言われている。脳が記憶装置、知性の根源だとすると、生まれ変わりが前世の記憶を持つことはありえない。


とりあえず、脳なのか、他のものなのか判断できないが、魂というものがあるのではないかと漠然と思っている。



小難しいことを説明したが、要するに、「時間は何故戻らないのか」「人間の魂とは何なのか」ということだ。まあ、こんなことを正面から研究しても、何も成果が得られない。そんな訳で、今は、少し真面目に反重力の実現可能性を探っている。


幼いころ、バック・トゥ・ザ・○○という映画を見た。

古い映画で、オレが生れた時にはシリーズの最終話が、既に上映された後だった。好きな映画だったけれど、主役をしていた役者が、病気になってしまい、3話までしか作られなかった。


そのシリーズの2作目で、2015年に自動車は空中を飛んでいたし、スケボーは空中に浮いていた。オレは、子供心に、2015年になれば、空中に浮かんだスケボーに乗れると思っていた。


しかし、2000年も30年以上過ぎようとしている今になっても、空中浮遊する道具は存在していない。


いきなり、反重力を作ることなどできないので、その前段階として、重力波の発生装置を作ろうとしている。


重力波を作るのは、ある意味とても単純だ。とてつもなく重いものを高速で振り回せば良い。

ただ、重いものも生半可な重さではダメだし、速度もそんじょそこらの速度ではダメだ。


オレは、大量の鉄原子をクラスタ状のビームとして打ち出して、そのビームに磁場をかけて円周軌道に載せ、光速の何分の1という高速で周回させる装置を作った。


鉄の原子を使用するのは、鉄の原子核は多少お互いに衝突しても、原子核が分裂も融合もしにくいことにある。核子で結合力が一番強いのは、原子量が62のニッケルなのだが、地球では同位体比率で4%ぐらいしかない。


一方、それに匹敵する結合の強い鉄の原子核は、原子量56の鉄で、同位体比率で92%になる。


鉄はニッケルに比べると、地表に沢山存在する。ニッケルは希少金属だ。そういうことで、鉄は、地球で容易に手に入れられる元素の中で最も安定だ。


加速器で物質を光速度に近い速度に上げていけば、その質量はどんどん大きくなる。そう、とんでもなく重くなるのだ。



大量の鉄のビームを発生させる装置には、超超高純度の鉄のプレートが必要だ。

オレは、手伝ってくれる優秀な化学者を拝み倒した。そしてこの装置で使用する超超高純度の鉄のプレートを作ってもらった。


ビームを周回軌道にする装置では、強力な磁場を発生する超電導磁石を使う。

そして、微妙な調整が必要だ。物凄い数の鉄の原子核粒子を扱っていると、こちらの思い通りに動いてくれない粒子が発生する。


これらの粒子が、周回しきれずに装置の弱い部分に衝突すると実験は失敗する。このはぐれ粒子を元の羊の群れに戻してやらないといけない。


多数の強力な超伝導電磁石を経路の至る所に配置することで調整しようとした。

そのためには、とんでもなく大きな電流を非常に高い周波数で制御しなければならない。


巨大な半導体ユニットで電流制御をしようとして、何度もボヤ騒ぎを起した。あまりの電流の大きさと周波数の高さで、半導体を設置している電子基板が持たないのだ。セラミックスで作ったところ熱衝撃で簡単に割れてしまった。


それを解決してくれる物凄い樹脂があった。その樹脂は、いつも協力してくれる優秀な化学者が発明したものだ。


高温でも極めて安定なこの樹脂のさらなる耐熱性の向上を、その優秀な化学者に何度も何度も何度も拝み倒して実現してもらった。


ようするに、何を作るのかを考えて、組み立てたのはオレだが、実現するために必須の重要な材料は、全て優秀な化学者に丸投げしているとも言える。ちなみに、協力してくれた化学者は、オレの幼馴染だ。


上條杏樹という。


こいつは、本当に天才だ。

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