133.爵位授与式
昨日は一日のんびりしていた。
サンドル伯爵の館周辺の庭を散策したり、親戚の子供達とおしゃべりをして過した。
お祖父様が昼過ぎには帰ってきたので、家族写真を撮ったりした。
今日は朝から慌ただしい。
2時(=午前8時)から爵位授与式だ。
日が昇り始めるより前に、食事をした。
私とアイルは、宰相閣下から贈られた衣装を着る。
アイルの衣装は、礼服という感じ。私の衣装はドレスだな、これは。
子供体型なので、何ともチグハグ感が漂う。
やたらに装飾が多いので、一人では着られなかった。
サンドル家の侍女さん達まで加わって、着付けを手伝ってもらった。
屹度、これは、最初から、雛壇に乗ることを想定していたんだよ。
1時半(=午前7時)より前に、馬車に乗り込んで、王宮へ向った。
私の両親も、アイルの両親も、言葉が少なく、表情が固い。
緊張しているのかもしれない。
馬車は、一昨日と同じ経路を辿って、式典館の前で停まった。
式典館の周囲は、沢山の騎士さん達が居る。
警備の為だそうだ。
今日は、王国内の主要な貴族が勢揃いする。何か有ったら大変なことになる。
式典館の入口周辺にも人が居る。
中に入ったら、アーケードみたいな通路に人が沢山居た。
受付の人が、私達を認めて近寄って来た。
「アトラス領とグラナラ領の皆さんですね。ご案内致します。」
そう言うと、左手の奥へ向っていく。私達はその後を付いて行った。
こっちは、厨房とか宿泊施設が有ると言っていた方だな。
少し歩くと、右手に通路が有って、玉座の間の方に続いている。
案内の人は、スタスタ歩いて行く。
私の歩幅では、追い付けない。
この衣装を着ていると、走る事は、ムリだ。
「お母さん。もう少しゆっくり歩いて。お願い。」
歩く速度が早い事を訴えたら、お母さんが案内の人に伝えてくれた。
やっと、普通に歩くことができるようになった。
暫く一向歩いていくと、一昨日に王座の間への扉が有った、丁字になっている通路に出た。右手の先に、大きな扉と、沢山の人が扉の前に居るのが見えた。
案内の人が左手に曲って、少し進んだところにある扉を開けてくれた。
「アトラス領とグラナラ領の方は、こちらでお待ち下さい。」
この部屋は、私達の待合室の様だ。先日、陛下達と会談した部屋と同じ造りの部屋だ。中央にテーブルがある。インテリアが大分違っている。
それから、今日の爵位授与式の式次第を教えてもらう。
予定では、2時ほど時間が掛るらしい。
アウドおじさんやお父さんが関係するのは、一番最後だった。
参加者は、終るまで、玉座の間の広間で立って式に参加する。
椅子を置いてあるのは、玉座の場所の周りだけなんだそうだ。
それで、一昨日、雛壇で座って待っているように言われたんだね。
廊下の方から聞こえていたざわめきが大きくなった。開場したのかな。
ほどなくして、私達は呼ばれた。
お父さん達は、入ってきた扉から出ていった。
私とアイルは、先程の案内をしてくれた人に付いて、別な扉から部屋を出た。
この廊下は見覚えがある。一昨日別室に移動した時に使った廊下だった。
少し歩いた先に、また扉が有って、扉の先は布が下がっている。
布を出たところは、玉座のある場所だった。
玉座の他に、いくつもの椅子が置いてある。私達の他には誰も居ない。
一番端に、子供用の椅子が2脚あった。
「こちらで、お待ちください。陛下が着席するまでは、席には着かないで立ってお待ちください。」
目の前の広間には、大勢の人が居る。説明の通りに、席が有る訳ではなく、皆立っている。
お父さん達は、案内されて、私達の眼前にやってきた。
ゼオンで会った、ケンドン・テルソンさん達もその側に居る。
どうやら、玉座の間の側は高位貴族が居て、後ろにいくに従って、低位の貴族が居るようだ。
部屋の一番奥の方は、誰が誰やら人が多すぎてよく見えない。
まあ、知り合いは、ほぼ皆無なんだけどね。
部屋中の視線がこっちに向っている。
あの子供は誰なんだみたいな声や視線がある。
私達、目立ってるな。
こんな場所に居ていいのかな?
なんか恥しいよ。
しばらく玉座の間で待っていたら、王族の人達が布の後ろから姿を現わした。
それまでの、ざわめきが収まる。
アイルのお祖父様の宰相閣下と私のお祖父様は陛下と一緒だ。
国王陛下には会ったけど、他の人達は良く知らない。
陛下の隣に居るのは、お后さんかな。
両側に大人の男性と女性が二組。
子供が何人かいるけれど、多分成人しているんじゃないかな。
私達以外、幼ない子供は居なかった。
国王陛下が玉座に座る。
他の王族の人達が席に着いたので、私達も椅子に座った。
「今日、これから、昨年行なわれたノルドル王国との戦いの論功行賞の式典を実施する。
冬季の短期間の戦闘により、我がガラリア王国は、ノルドル王国を滅ぼすことが出来た。
ガラリア王国の北部の領地は、全てガラリア王国に帰属する事となった。」
宰相閣下の宣言で、爵位授与式が始まった。
それから、年配の文官さんが出てきて、戦いの経緯を説明していった。
従軍したお父さんから経緯は聞いていたけれど、第三者の目から見るとまた違うんだね。
「……先行していたアトラス領軍は、寒冷地対応装備に身を包み、装甲車で進軍。ノルドル王国北部にある、ノアール川の戦闘で戦死した敵の領主が領有していた、マルケス領、ペレーラ領、コルチ領、ボノーミ領、サッサーリ領、レアレ領を攻略。
ここで、アトラス領より貸与を受けた、耐寒装備を纏い、装甲車及び空気銃で武装した、王国軍d1,000名が合流。
合流に合わせ、ノルドル王国南部より、ガラリア王国軍が……と……と……の3ヶ所から北上。
ノルドル王国の兵力を南部に足止めすることに成功した。
……
北部と東部から、ノルドル王国を攻略して、……を制圧、続いて……を制圧……
……
アトラス領、王国連合軍は、ノルドルに到達。空気銃にて武装した装甲車240台にて包囲。
城門を装甲車の突入により突破し、王都ノルドルを制圧しました。
王城の門を……
」
ふーん。装甲車大活躍だね。アイルの方を見たら、アイルは俯いていた。
まあ、戦争に役立ってもね。あんまり誇らしくもないよな。
でも、最初の戦闘はともかく、その後は、相手の騎士さんの極力無力化に努めていたらしいから、戦死者はそれほど多くないだろう。
最後に、西部で唯一抵抗していた、どこぞの伯爵さんの城が落ちて戦争は終了した。
こちらの被害は、ほぼ皆無だった。
お父さんに聞いたのは、ノルドル城の陥落までだから、その後もしばらくは王国軍が戦争を続けていたんだね。
王城が陥落すれば戦争は終りなんだろうけれど、戦闘が完全に終結する前に、お父さんやアトラス領の騎士さん達は帰ってきてたんだ。
「それでは、これより、論功行賞を伝える。呼ばれた者は、前に出てくるように。」
先ず、ノルドル王国の貴族で恭順の意を示した家への貸与領地の証文を渡していた。
続いて、これまで功績が有っても報奨を渡せずにいた貴族家、南部から戦闘に参加した貴族家への貸借地の変更や報奨を与える証文の授与が続いた。
皆、名前を呼ばれると、階段の下で跪く。そこへ、証文を持った文官さんが下に降りて手渡す。それが繰り返されていった。
毎回、報奨を受ける貴族に、陛下が声を掛けていた。
仕事とは言え、全員覚えてるんだね。
凄いかもしれない。
証文を運ぶために、降りたり登ったりする文官さんがちょっと気の毒になった。
あっ、三人で代わり番こにやってるんだね。
でも、なんか何時までも終りそうにない。
この後、三人とも、足腰が大変なことになりそうだな。
延々と繰り返される同じ光景に、段々飽きてきた。
立って、これを見ていたら、途中でバテたかもしれない。
椅子を用意してくれたのは、本当に感謝だよ。
雛壇にいるから、あまりダラけた姿勢も取れない……拷問みたいだ。
「ソド・グラナラ。」
おっ。お父さんの番になった。うーん長かった。
あとは、アウドおじさんの番が来るとやっと終りだ。
その後、何か言われるかもしれないけれど、終りの見えない繰り返しってのが一番疲れるよ。
小学校の時の校長先生の訓示を聞いている気分だった。
お父さんが、雛壇の下で跪いた。
「その方は、ノアール川で戦闘が発生することを予期し、準備を行ない、初戦にて、ノルドル王国の大軍を退けた。
その後、ガラリア王国軍の司令官として、ノルドル王国北東部から侵攻。
ノルドル王国の領地を切り取り、ノルドル城を陥落せしめた。
そして、ノルドル王国騎士団長リゾオ・コンタンゾを倒し、ノルドル王国を滅ぼすことに成功。
先のノルドル王国との戦争において、多大な貢献をした。
戦功としては第三功。
その方の娘は、大魔法使い、息子は齢4つにして、四元素魔法を使い熟している魔法使いである。
これらのことから領地貴族家となる条件を満していると判断した。
よって、現在の騎士爵から、子爵とし、旧オルシ伯爵領を貸与する。」
少しザワついた。
その後、誰かの拍手が響いたあとは、会場中が大きな拍手と歓声に包まれた。
拍手と歓声が収まったところで、陛下とお父さんが会話を交した。
アウドおじさんの番になった。
「アウド・アトラス。」
呼び掛けられて、アウドおじさんが、雛壇の下で跪いた。
「その方は、アトラス領の繁栄に力を尽した。息子とグラナラの娘の力を借りて様々な物品を開発。戦争準備の為、銅鉱山を開発し、多額の戦費を生み出した。
先のノルドル王国との戦争では、自領の兵力により、初戦のノアール川の戦いで大軍を退け、ガラリア王国の領地を守り切った。
その後、ノルドル王国へアトラス領軍を送り、みごとノルドル王国を打ち破り、広範な領土をガラリア王国に齎した。
戦功としては第二功。
この功績により、東部の地を治める侯爵に任じ、アトラス山脈周辺の領地を貸与する。」
かなりザワついている。
さっきのお父さんと同じ様に、誰かの拍手が響いて、会場中が拍手と歓声に包まれた。
拍手と歓声が収まったあとは、会場中がザワザワしている。
アウドおじさんと陛下が会話を交している間もザワついている。
何でザワついているんだろう?
うーん。分からないなぁ。先刻、論功行賞の説明で、何か変な事言ってたかな?
「アイテール・アトラスおよび、ニーケー・グラナラ。」
おっと。呼ばれてしまった。
紹介すると言っていたけど、ここでか?
晩餐会でだと思ってたよ。
でも、どうすれば良いんだ?一旦雛壇を降りて、跪くのか?
こういう事は、事前に言ってくれないと、どうしたら良いのか分らないよ。
先刻、この場所に案内してくれた人が、私達のところにやってきて、椅子から立ち上がるように促される。
そのまま、雛壇の上を移動した。
会場のザワつきは、さらに酷くなっている。
えっと、下に降りるのか?
階段を降りようとしたら、そのまま前へと言われた。
国王陛下の玉座の前に連れていかれた。
跪くのかと思っていたら、そのままで、と言われた。
会場は、ザワついている。
私とアイルは、会場の方を向かされて、立っていた。
いつの間にか、国王陛下が隣に来ていた。
「静粛に。」
陛下の呼び掛けで、会場のザワつきが収まる。
あれ?宰相閣下が話をするんじゃないんだ。
静かになった会場に向けて、陛下が話し始めた。
「ここに居る、アイテール・アトラスは、アトラス侯爵の息子で、宰相の孫である。
ニーケー・グラナラは、グラナラ子爵の娘で、近衛騎士団長の孫である。
この二人は、「新たな神々の戦いの時に生まれた、神々の知識を持つ子供」として知られている。
アイテール・アトラスも、ニーケー・グラナラも、幼児の頃から、変形の魔法、分離の魔法の使い手であり、2歳の時に、1級魔法使いとして認定されていた。
この二人は、我が国に、ソロバン、鉄、ガラス、紙など様々なものを齎してくれた。
昨年のノルドル王国との戦いの際には、装甲車、空気銃、耐寒装備を作製し、我が国を勝利に導いた。
先の戦争での首功は、この二人である。」
会場全体で、息を飲むような音がしたと思ったら、盛大な拍手と歓声が聞こえてきた。
ヤバい。何かとても恥しいよ。
陛下が手を上げた。
拍手と歓声が収まる。
「既に知っている者も居ると思うが、アトラス領の鉄道の敷設、自走高速船などもこの二人が魔法を用いて作製したものである。
この事からも、二人は絶大な魔力と、類い希な魔法を使う事が出来る。
そこで、この度、二人を、これまで無かった等級の、特級魔法使いとして認定し、称号を与えることとなった。」
「アイテール・アトラス。そなたを、特級魔導師と認定し、特級魔導造形学者の称号を与える。」
後ろに居た、文官さんから、陛下が羊皮紙とメダルの様な物を受け取り、アイルに差し出す。
アイルは、貴族の礼をして、それを受け取った。
「ニーケー・グラナラ。そなたを、特級魔導師と認定し、特級魔導素材学者の称号を与える。」
えっと、礼をして受けとれば良いのか?
教えられた女性の礼をして、羊皮紙とメダルを受け取った。
また、会場中が拍手と歓声に覆われた。
再度陛下が手を上に挙げた。
歓声と拍手が収まった。
「そして、二人の望みから、この王国に、神の国の知識を学ばせる場所を設立することになる。
王国立の知識の施設であるメーテスである。
施設の名前は、知識の女神メーティから名前を採った。
設置場所は、アトラス領に決まった。
就学・採用要件など詳細は後日発表することとなる。」
会場がまたザワついてきた。
まあ、この説明だけじゃ何の事だか分からないよね。
やれやれ、でも、これで長かった爵位授与式が終ったよ。
また、陛下が手を挙げた。ザワつきが収まる。
「そして、アイテール・アトラス、ニーケー・グラナラの両名が婚約することも決まった。
5時(=午後2時)より、この場にて、二人の婚約式を執り行う。」
なっ、な、何ですって?