127.オルムート・ゼオン
来週、陞爵の式典を行なうこともあって、最終調整のため、昨日は、国王陛下と会議をした。
今日、マリムから、娘一家と、アトラス領の騎士団長をしているソド・グラナラの一家がやってくる。
今朝、王都を出てマリムからの客に会うために、領都に戻った。
居間に向うと、息子や娘たちの家族が居た。
孫達は、部屋の隅で、何やら変った沢山の板の様なもので遊んでいる。
中央のテーブル席には、息子や娘達が集まって熱心に話をしていた。
同じテーブルに、幼い子供が二人居るが、あれが孫のアイテールと、同い年のニーケー・グラナラなのだろう。
「あっ、お義父さん。ご無沙汰しています。」
「宰相閣下、ご無沙汰しておりました。」
娘のフローラの婿のアウドと、ソド・グラナラが立ち上がって挨拶をしてきた。
アウドと直に会うのは本当に久々だ。
確か、父を亡くして、領主を継ぐために、娘のフローラとマリムに移って以来だな。
もう、11年経ったか?
最近は、ムセンキを使って、話をする事も増えたので、然程久々という感じは無いのだが。
ソドとは、昨年、ノルドル王国との戦勝報告を聞いて以来だな。
「お祖父様、宰相閣下。アウドの息子のアイテール・アトラスです。初めてお目にかかります。アイルとお呼びください。」
「宰相閣下。ソド・グラナラの娘のニーケー・グラナラと申します。お見知り置きください。私の事は、ニケとお呼びください。」
二人の子供達が挨拶をしてくれた。
見掛けは幼ないのだが、落ち着いている。年相応の幼なさは無いな。
世の中を大きく変えているのはこの二人だ。
これから、私は、アイルの祖父ではなく、宰相として二人から話を聞かなければならない。
二人との会談の結果を陛下に報告をする為に、執務を置いてゼオンに戻ってきたのだ。
「談笑しているところ悪いが、夕食の前に、アイルと……ニケさんか、二人と話がある。ジョセトと二人の両親も一緒に、執務室へ移動してくれないか?」
ジョセト、フローラ、アウド、ソド、ユリア・グラナラと、アイルとニケを連れて、執務室に向かった。
ユリア・グラナラは、近衛騎士団長のシアオ・サンドルの娘だったな。
皆が、席に着いたところで、声を掛けた。
「アイルとニケさんが、前世の知識を持ったまま、この地に生れたとは聞いている。それに間違いは無いのかね。」
アイルが、少し緊張した面持ちで、こちらを見ている。ニケさんは、私を見た後で、アイルの方を向いた。
その後、不思議な言葉で、二人は話を始めた。
『アイル。ほら、何か応えないと。』
『そうなんだけど、これからどうなるんだ?』
『そんな事、話をしてみないと判らないでしょ。
取り敢えず、質問に応えないと。』
『正直に話すしかないよな。でも、またオレか?お前が応じても良いんじゃないか?』
『何言ってるのよ、アイルのお祖父様じゃないの。アイルが応えた方が良いに決まってるわよ。』
『やっぱり、そうなるのか。仕方が無いな。』
意を決したのか、姿勢を正してアイルが、普通の言葉を話した。
「やはり、その話になりますよね。その事を証明するのは難しいのですが、間違い無いです。」
「いや、君達がしてきたことを見れば、証明は不要だろう。
それで、その記憶は、この世界のモノでは無いと聞くが、この世界とは違う世界の記憶なのかね?」
「ええ。その通りです。別な世界の記憶です。」
「君達は、生れて直ぐに言葉を話したと聞いている。この世界の言葉の記憶が有ったという事では無いのか?」
「いいえ、ここの言葉は、全く知らない言葉でした。生れて直ぐに赤ん坊になっている事に気付いたので、何とか状況を知りたくて、必死に覚えました。」
「ふむ。先程二人で話していた言葉は、その別な世界の言葉なのか?」
「ええ。ボクとニケは、同じ世界に居ましたので。その世界の言葉です。」
「では、別な世界だという事は確かなのだね?」
「ええ。これまで、星を観測した結果とか、色々な理由から、全く違う世界だと判っています。」
「そうか。それで、その違う世界はどういった世界なのだ?お前の両親からは神の国という言葉も出ている。神の国なのか?」
「いいえ、神の国などでは無いです。この世界と同じ、人によって築かれた世界です。
ただ、随分と様子は違います。」
「そうなのか。神の国では無いのか。様子が違うと言ったが、どの様に違うのだ?」
「まず、あちらの世界……。
こちらの世界、あちらの世界というのは混同しそうですから、こちらの世界をガイアと呼びましょう。そして、私達が前に居た世界を『地球』と呼びますね。
地球には、魔法なんていう便利なモノは無かったです。その代り『科学技術』が進んだ世界でした。』
「その『科学技術』というのは一体何かな?」
「一言で説明するのは難しいんですけれど……。
鉄を例にしましょうか。
ガイアでは、鉄は未知の金属だったはずです。しかし地球では、鉄は様々に利用されていて、有り触れたどこにでもある金属です。
建物も鉄で補強していました。
他にもガイアで知らていなくて、地球では普通に使われていたものが沢山あります。
こういった物を作ったり、加工したりする知識は、科学技術の一部です。」
「鉄道とか、自走する船とか、装甲車なども、その地球の科学技術なのか?」
「そうです。ただ、現在のガイアの状況に合わせて、大分変えているところがあります。」
「他にもその地球の科学技術に係わるモノが有るのか?」
「ええ、これまで、ニケが生み出した素材も、ボクが作ったモノも、極極一部でしかないです。
空を飛ぶ道具、海の底へ行く道具、今の鉄道の何倍も早い鉄道、100階を越える建物。
ニケの分野では、鋼の何十倍も強い素材とか、えーと、ここらへんは、ニケじゃないと。ボクは詳しくは知らないので……。」
「おや、どういう事なのだ?アイルが出来ることは、ニケさんにも出来て、ニケさんが出来ることは、アイルにも出来るんじゃあないのか?
二人とも、分離魔法と変形魔法が使えると聞いているのだが?」
「ええ、魔法自体は、二人とも分離魔法と変形魔法を使えるんですけれど、ボクは本当に簡単なものしか分離は出来ません。知識が無いので。
逆に、ボクの様な変形魔法は、ニケにはムリでしょう。簡単なものならニケも作れるようになりましたけれど、鉄道を動かしているボイラーやモーターは、ニケには無理だと思いますよ。」
「そうです。私にはアイルほど複雑なものは作れないです。」
アイルとニケさんが、御互いに相手が出来る事で、自分には出来ない事があると言い出した。
これは、どういう事なのだ?
二人の両親からは、二人ともに抽出魔法と変形魔法が使えると聞いていた。
「それは、どうしてなのだ?二人とも地球の科学技術の知識があるのだろう?」
「上手く説明できるか自信が無いんですが……。
ボクとニケは、分野の異なる科学技術の専門家だったんです。
ボクは『物理学』という分野の専門家で、ニケは『化学』という分野の専門家です。
物理学というのは、物の仕組や、動作を理解するためのもので、道具を作るのに役立つんです。
化学というのは、素材を理解して新しい素材を作るのに役立つものです。
だから、アトラス領でも、鉄や鋼やガラスといったものは、ニケが作りました。
ボクは、ニケが作ってくれた素材を使用して、道具を作っていたんです。」
「すると、アイルは、ニケさんが作り出した素材を利用して、鉄道とか船とかを作っていたというのか?」
「そうです。
そうそう。最近写真機というものを作りました。人の姿や風景を写しとる事ができるものです。
光の当り具合で濃淡が出来る素材をニケが作ってくれました。
ボクは、まわりの風景を映す光をその素材に上手く当てるための道具を作ったんです。
二人が協力しないと、これは作れませんでした。」
「今は、そんな道具が有るのか?」
「お儀父さん、これが、アトラス家の写真です。」
そうアウドが行って、板の様なものを見せてくれた。
私は、メガネを着けて、その写真というものを見た。
そこには、娘のフローラが笑顔で、アウドやアイル、フランに囲まれている姿が有った。
手の平に乗るほどの大きさのガラスの様なものだ。
フローラの姿は、正に生き写しだ。
そして、衣装のドレープの一つ一つ、足元の草の一本一本が正確に写し取られている。
これは、凄いものだな。
こんな絵を描くことが出来る者は居ないだろう。
「父さん、それ、何時も持ち歩いているんですか?」
「そりゃぁ、大切な家族が写っているんだ。持ち歩くだろう。」
「おう。オレも持っているぞ。これは宝物だ。」
続いて、ソドが見せてくれたのは、グラナラ家の家族の姿を写したものだった。
ソド、近衛騎士団長の娘のユリア、そして、ニケさんと、幼い男の子。皆、笑顔で寄り添っている。
「お父さんも写真を持ち歩いてるのね。」
ニケさんが、呆れた様な顔で、ソドを見ている。
ふむ。宝物だと言いたくなるのはとても良く分る。
私も家族を写した写真というものが欲しくなった。
「お祖父様。今、アトラス家から、写真を撮るための助手さん達が随行してます。まだ、夕刻にはまだ時間がありますから、これから、皆さんで写真を撮りませんか?
あっ、色々と聞きたい事があったんでしたね。」
「写真を撮るのは、賛成だ。一つだけ聞いても良いかな。
もし、アイルだけ、ニケさんだけだったら、どうなっていたんだ?」
「その場合は、今のようにはならならなかったと思います。ボクには鉄やガラスを作ることはできません。鋼が無ければ、ソロバンを作るための道具も作れなかったでしょう。
逆に、ニケだけだったら、剣やガラスは作れても、船や鉄道は作れないですし、紙を作るための工場を建てることはできなかったと思います。」
「すると、アイルだけや、ニケさんだけでは、アトラス領の発展は無かったということなのか?」
「そうですね。せいぜい、剣が作れたかどうかというところです。
昨年の戦争でも、寒冷地で敵を待ち受けられたのは、ニケの知恵で、防寒装備を作るための道具やジッパーをボクが作れるようになったことが大きいです。
どちらか一人だけだったら、隣国に攻め込まれて、大分領地を失なっていたと思います。」
「分った。それでは、写真というものをお願いできるかな。
もう少し話をしたいので、続きは夕食後にお願いする。」
なるほど、これは、善く善く考えないとならない事だ。
陛下は、ニケさんを皇太孫のエドク殿下の妻にという事を考えておいでだったが。
二人は補完する役割をしていたのか。
この二人、引き離してしまってはマズいかもしれんな。
ガラリア国王家の家系図を、「惑星ガイアのものがたり【資料】」のep12に載せました。
URL : https://ncode.syosetu.com/n0759jn/12/




