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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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125.従兄姉

翌日の朝、伯母の一家が乗船した。


キリルは、ガラリア湾の入口にある街で、交易が盛んだと聞いた。キリル家の爵位は子爵だ。

カザル・キリル子爵の妻のローザさんが、父さんの姉だ。これまで会ったことは無かった。

少し年嵩の子供達が同行していた。ローラ、アントニー、カミールという名前だった。この三人は、従兄姉になる。年齢は16歳、14歳、13歳なのだそうだ。

15歳で成人扱いのこの世界では、ローラさんは、十分に成人。他の従兄姉達もそれに近い年齢だ。


両親とフランと4人で出迎えて、記念撮影をした後、部屋で少しの間、話をした。


キリル子爵は、親戚が侯爵に陞爵されたのが目出度いと頻りに言っていた。


一方で、従兄姉達は、オレを睨み付けて、何かと上から目線で話をしてきた。

マウントってやつなんだろうか。10歳近く年齢が違うのだから、そんな事をしなくっても良さそうなものなんだが……。


両親と分かれて、従兄姉達を連れて子供部屋に戻った。

部屋の子供達は、もう、トランプには飽きたのか、紙に鉛筆で絵を描いていたり、紙飛行機を飛ばしたりして遊んでいた。

ニケは、セドと魔法で水や火を出しながら、踊っていた。


何人かの子供も一緒に踊っていたけれど、魔法は上手く制御できてないみたいだ。

時々手元に水が出るが、すぐ消えている。


うーん。これだけの人数の子供が居ると部屋の中はカオスになるよな。


一緒に来た、キリル家の三人は、部屋の中に入ったところで立ち止まってその様子を見ていた。


「あんな、小さな子供が魔法を使っている……。ひょっとしてアイルくんも魔法は使えるの?」とローラさん。


「ええ。使えますよ。あそこで、魔法を使って中央で踊っているのが同い年のニケで、その隣の小さな子がニケの弟のセドです。いつも、フランと一緒に踊りながら、魔法を使ってますね。」


いつの間にか、一緒だったフランも踊りに合流して、魔法を使いながら踊り始めた。


「アイルは、踊らないのか?」えーと、上の従兄だから、アントニーかな?が聞いてきた。


「ボクは、ちょっと、あれは……」


「じゃあ、魔法は使えるだけか?」今度は下の従兄が話し掛けてきた。えーとカミールだったかな?


「ええ、魔法は使えますけど、踊るのは……。」


なんか、三人とも変な笑みを浮かべている。何なんだろう?


「本当は、魔法をまだ使えないんじゃないの?」


ローラさん達は、どうやら、魔法が使えるかどうかを値踏みしているみたいだ。


少し魔法を見せれば、この意味の分らない状況を打開できるのかな。


遠くの紙の束から、魔法で、紙を一枚引き寄せて、目の前に移動させる。魔法で紙を正方形に切り取って、目の前で、魔法で折り鶴を折って見せた。その後、紙を元通りにして、兜を折って、また紙を元通りにして、千石船に変えて、また紙を元通りにして、紙飛行機にして、ニケの方に飛して、ニケのおでこに当てた。


目の前の三人は、固まっている。


紙飛行機が当ったニケは驚いて、踊るのを止めた。

こっちを見た表情は、少し怒っているみたいだ。

ニケは、紙飛行機を手にして、こっちへやってきた。


「アイル。セドくんと、フランちゃんと踊ってたのに、何ジャマをしているの?」


「ああ、ごめん。ごめん。ボクの従兄姉が来たので、紹介するよ。」


そう言われて、ようやく、ニケは、傍らに立っていた三人に気付いたみたいだ。

少し驚いた表情をした後、腰を落して、挨拶をした。


「ニーケー・グラナラと申します。」


この世界では、女性が挨拶の時に腰を屈めて頭を下げるという事はしない。

オレは良く知らないが、カーテシーというのに近いみたい所作をすることになっている。

王都に行って、高位の貴族と挨拶する事になりそうなので、ニケはその所作を叩き込まれていた。


従兄姉達も、グラナラ家については知っていたのだろう。

グラナラ家は、アトラス家同様、今回陞爵する家だ。

従兄姉達は、順番に、ニケに挨拶をした。


「それで、ボクの従兄姉達は、ボク達が、どのぐらい魔法が使えるのか興味があるみたいなんだ。」


「へぇ。そうなの。」


と言った瞬間、ニケが手にしていた紙飛行機が空中に浮んだ。そして突然消えた。


「これ、差し上げます。」


ニケはそう言うと、砂粒みたいな透明な石をローラさんに手渡した。


「とっても小さいけど、ダイヤモンドです。」


「えっ、ダイヤモンド?えっ、今のは何?」


「魔法よ。紙を分解して炭素にして、その炭素からダイヤモンドを作ったの。」


「ニケは分離魔法が得意なんだ。ちなみにボクは変形魔法。」


「分離魔法と変形魔法?それって、伝承の魔法じゃない。それに、分離魔法って役に立たない魔法って話よね?」


「そう言われているみたいですけど、とっても役立ってますよ。」


それから、従兄姉の三人は黙り込んでしまった。

炭素と言われても何が何だか分らなかったかな。


立ちっ放しなのも何なので、テーブルの席に案内した。


三人共、何だか、変な表情で、黙っている。

お菓子や、ジュースを侍女さんに頼んで、出してもらった。


「あっ、ありがとう。

アイルくんの先刻の魔法は、変形魔法なの?」

ローラさんが口を開いた。


「うーん。どうなんだろう。紙を切ったのはそうかもしれないけど、あとは変形魔法なんだろうか……?」


「アイルは、何をして見せたの?」

ニケが聞いてきたので、先刻さっきの折り紙を説明した。


「相変わらず、器用な事ね。」


「それで、アトラス領の子供達は、皆、幼ないのに魔法が使えるの?」


先刻から変だったのは、オレやニケ、フラン、セドがあまりにも幼ないからだったみたいだ。

そして、黙り込んでしまったのは、オレやニケが6歳で、見たことも無い魔法を使ったことが原因だ。


どうやら、従兄姉達は、オレ達4人が、ガラリア王国の辺境の子供なので、かなり見下していた。

その4人が魔法を使っていたので、かなりショックだったらしい。


三人ともそれなりの年で、随分と長い間、魔法の練習をしている。

それでも、ようやく水玉を作れるぐらいしか魔法は使えない。


フランやニケや、セドの様に、踊って水玉を動かすなんて、とても出来ない。


いろいろ話をしていくと、どうやら、ガラリア王国には、貴族のための教育機関があると言う。


伯爵以上の高位貴族は、家庭教師を雇って教育するので、あまりこの教育機関は利用しない。概ね、子爵以下の貴族の子弟が利用している。

基本、寄宿学校なのだが、王国で役職を兼務している貴族は、王都内に家があるので、そこから通うこともあるそうだ。


6歳で入学して、10歳までの王国立幼年学校。

ここは、読み書き算術、王国の歴史、地理、制度などの基本的な事を学ぶ。

オレ達には、ウィリッテさんが教えてくれていた様な内容だ。


10歳からは、適性に応じて、王国立文官学校、王国立騎士学校、王国立魔法学校に振り分けられて、成人年齢の15歳になると卒業する。

基本的な学力がある事が前提で、入学試験がある。

王国立幼年学校を卒業していれば、無試験で入学できる。


王国立文官学校は、文官育成のための学校だ。魔法が使えなかったり、剣技が不得意な貴族の子弟が入学する。この子供達は、領主や騎士には成れないので、文官を目指す。文官の中では、最上位の王宮文官を目指すための教育機関だ。

但し、そのまま王宮の文官に成れる訳ではない。


王宮文官になる為には、文官登用試験があり、その試験に合格しなければならない。

これは、ジーナさんの上司の管理官さんから聞いていた話と同じだ。


王国立騎士学校は、王国騎士団、各領地の騎士団の中核となる騎士の養成を行なう。


王国騎士団に入団するには、やはり試験があり、それを目指すための教育機関になっている。


王国立魔法学校は、魔法が使える子供が入学する。領地貴族は、魔法が必須なので、領主候補生だ。

アントニーとカミールは、この王国立魔法学校に通っている。今は、進級時の休みで、領地に戻っていた。

ローラさんは昨年卒業した。

3人とも、残念な事に、成績は下の方だ。


成績の上位者がどのぐらいの魔法を使うのかを聞いたところ、水魔法であれば、最初にニケが使った大魔法ぐらいの威力の魔法を使う様だ。

ただ、この学校に通っているのは、子爵以下の子供達なので、魔力自体、高位貴族の子弟よりは小さいのかもしれない。


学校では、魔力の大小で序列が決まるため、自然と魔力の大小で人の優劣を考えるようになる。

オレが、踊るのを躊躇したので、オレは魔法が得意じゃなく、自分達より劣るかもしれないと思った。

でも、目の前で、魔法を使って、折り紙を作るのを見て、吃驚したそうだ。


普通の魔法使いの子供がどの程度魔法が使えるのか、オレ達は知らなかった。

比較する対象と会ったことが無いからなのだが……。


まだ4歳のフランやセドは、全属性魔法をきちんと制御して使える。これは、どうやら王国立魔法学校の標準的な卒業者ぐらいの能力の様だ。

つまり、標準的な子供の年齢で比較すると、フランやセドですら規格外らしい。


ニケが、あの踊りで、セドが魔法を使える様になったと伝えると、三人は一緒に踊りたいと言い出した。


キリル家の跡継ぎのアントニーとカミールにとって、大魔法が使えるかは切実な問題だ。

王国立魔法学校での成績がふるわなかった場合、キリル家は跡継ぎのために、親戚から魔力の大きな子供を養子にするかもしれない。


ローラさんは、成績が良くなかったため、同格以上の貴族との縁組は絶望的らしい。

良くて男爵家領主の妻、高位貴族の侍女として勤める将来が待っている。

侍女として勤めるとしても、魔法に長けているのに越したことは無いんだそうだ。


この世界では、魔力の大小が、その人の将来を決めてしまうという現実がある。

魔法で統治や社会が成立しているため、魔力至上主義になるのもしかたが無いのかもしれない。

科学技術を進めれば、世界が変わっていくかもしれないなと漠然と思った。


その話を遠巻きに聞いていた子供達も、一緒に踊ると言い始めた。

それからは、ニケを中心に子供達は歌って踊り始める。


オレは、付き合えないので、カイロスさんと部屋の外に逃げた。


船は、ガラリア湾を横断している。キリル領の対岸にある、コッジ領に向っている。


海図を作っている部屋へカイロスさんと移動した。

今は、ガラリア湾の海図を作っているところだ。これまでの作業を確認する。


カイロスさんは、オレと一緒の時間が長いので、まだ9歳だが、測量の仕方を熟知している。


それからは、測量結果の集計と海図作りをしている文官の人達の測量計算を手伝って過した。


昼直ぎになって、コッジの街に着いた。


コッジ伯爵一家が船に乗り込んできた。

当主は、マウロ・コッジ伯爵。その妻はカチア・コッジ夫人。子供は4人、カミアさん15歳、カリスさん13歳、マロルさん10歳、カリンさん8歳だった。

マロルさんが男の子で、他の三人は女の子だった。


また、子供に似た名前を付けている。

記憶力を試そうとでもしているんだろうか?

そういう風習なんだろうか?


コッジの街は、ガラリア湾の入口にあり、キリル領との間で交易が盛んな場所だそうだ。


子供部屋に4人を連れて行ったら、相変らず、皆で踊っている。


まあ、オレには関係無いから良いけど。


新たに参加した子供達も、魔法が上手くなる踊りだと言われて早速参加する事にしたみたいだ。


午後一杯オレは、測量計算を手伝ったり、文官の人の計算の相談を受けたりして過した。


夕食の時間は、これまでに無いにぎわいだった。

大人達13人、子供達20人で大テーブルを囲んだ。


キリル家の人達は、大分前に父さん達からカトラリーを贈られていて、上手に食事をしている。


慣れない伯爵3家族は大変そうにしている。


食事の冒頭で、ニケが、子供達が、魔法を使いながら、歌って踊ったことで、魔力操作が見違えるほど上達したと報告した。


それまで、水魔法しか使えなかった子供が、ほぼ4属性魔法が使えるようになったり、魔法制御で苦労していた子供が、綺麗な水球や火球を出せるようになったのだそうだ。


これには、一緒に食事をしていた大人達は驚き、喜んでいた。自分の子供達に成果を聞いて一様に微笑んでいる。


食事の後で、成果報告を見せる事になった。年齢が様々な子供達17人が一列になって、ニケの合図で、歌って踊り始めた。


当然、オレと魔法が使えないカイロスさんとセリアさんは不参加だ。


確かに、今朝見た時と比べるて格段の進歩を遂げている。

あの時は、水球を出してもすぐに消滅していたのだが、水球が体の周りで踊りに合わせて動き廻っている。

火球や、風の操作なども上手く出来ている。


子供達が操る魔法を見て、親達は大喜びだ。


ローザ伯母さんは咽び泣いていた。


「ローザ伯母さん。大丈夫ですか?」


「ええ。嬉しくて。あの子達、魔法が上手く使えなくて苦労していたから。

アトラス領では、あの歌と踊りは、良く行なうの?」


「いいえ、あれは、ニケの独自の踊りです。もともと、2歳だったフランとセドを喜ばせようとニケが踊って見せたら、フランもセドも一緒に踊って、魔法が使えるようになりましたね。」


それに、あれは前世で流行っていた曲だし、歌詞はいいかげん、踊りは適当だ。


「あら。そうなの?でも、それでフランちゃんとセドくんは、あの年齢であんなに上手に魔法が使えるのね。」


歌と踊りが魔法の発現や制御に効果があるというのは不思議だ。


それから、子供達に混って、乗船してきた他領の親たちも踊りだした。

しばらく、船の中は、笑顔と踊りでにぎやかだった。

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