124.船旅
年が開けて、いよいよ、陞爵の爵位授与式が王都で開かれる時期になった。
理由は不明だが、オレとニケも呼ばれている。
ウチの家族と、ニケの家族は、そろって、王都に向うことになっている。
留守の間は、宰相のグルムさんや、騎士団副団長のグラジアノさん、警務団長のエンゾさんにお任せだ。
無線機があるから、何か有っても対応できるだろう。
セメル家からは、カイロスさん、カイロスさんの姉のセリアさん、母親のナタリアさんが同行することになった。
最初は、セメル家からは、カイロスさんのだけの予定だった。
セリアさんが王都に行きたいとゴネまくったらしい。セリアさんが同行することになったので、二人の面倒を見るために、ナタリアさんも同行することになった。
アトラス領の外に出るのは、オレもニケも初めてだ。
少しだけ楽しみだ。
普通に王都まで移動するには、丸二日の航海なのだが、途中、伯母さんが嫁いでいるキリル領や、3ヶ所の伯爵領に立ち寄るのだそうだ。
ウチの船で、王都まで移動したいという希望が届いていたらしい。
不思議な事をするなと思ったのだが、父さんが、侯爵ともなると、下位爵位の領主の要望にも応えないとならないと言っていた。
今のところは他人事なんだけど、大変なんだな。
何となく気が重い。そのうち引き継ぐことになるんだろう。
侍女さん達は、博覧会が終ったあたりから、移動のための準備をしていた。
同行する侍女さんの選別に、熾烈な争いがあったらしいが、どうやって決めたのかは良く分らない。嬉しそうにしている侍女さんと、悔しそうにしている侍女さんが居るだけだ……。
写真を撮るための、カメラや写真乾板、現像液なども積み込んだ。
大抵のものは魔法で作り出すこともできるけれど、寒天はムリだというので大量の寒天を積み込んでいた。
オレとニケの助手さん達は、臨時撮影隊のクルーになって同行する。
王都まで一緒に行けると聞いて、助手さん達は大喜びだった。
大抵の人は領地から外に出ることが無い世界だ。
ましてや王都などは、一生のうちに一度行けるかどうかだろう。
出港の日になった。
旅客船は、マリム港に停泊している。
博覧会の時に、王都からの視察団を輸送した船だ。
大分船の数が増えたので、一応名前を付けた。
アトラス侯爵1世号という、前世の西洋にあった島国王国の旅客船のような名前になっている。命名したのはニケだ。
この船は、大型客船とまではいかないが、かなり大きなフェリーぐらいの大きさがある。
ニケは朝からテンションが高い。
船に乗り込んだ後は、甲板で、フランとセドを引き連れて歌って踊っている。
曲は、何となく聞き覚えのあるものだから、前世で流行っていた曲なんだろう。歌詞は、適当にアレンジされている。
フランとセドは、普通に魔法が使えている。
まあ、毎日踊りながら練習していたんだから、慣れてきてるんだろう。
出港前に、旅客船の前に勢揃いして、写真を撮影した。
船内の一室に写真の現像などの作業が出来る場所を作っておいた。
何かのイベント毎に、写真を撮っていくことになる。
マリム港を出港して、右手にグラナラを見ながら海岸沿いを西に向う。
小型の船8艘が随行している。
小型船が随伴する目的は、寄港する場所での人員輸送と、海岸周辺の海図の作成だ。
海図に関しては、他の領地の沿岸を、あまり、大々的に探索するのは控えていた。
今回は、寄港することもあって、王都と相談して、海図作成のための調査をしている。
小型船全てにソナーを積み込んだ。
沿岸を航行しているアトラス侯爵1世号が、座礁しないように、海底の様子を調べながら、船団はゆっくり西に向かう。
ゆっくりと言っても、停まる事無く、時速30kmぐらいで進んでいるので、陸を移動するのと比べると、遥かに早い。5日ほどの航海だ。
寄港するのは、4ヶ所。但し、基本、港に接岸はしない。今は未だ、港の水深が分らないからだ。
バトルノ、キリル、ヨネス、コッジに立ち寄り、我々は、一度オレの祖父の領地のゼオンで下船する。
各地で乗り込んだ貴族関係者は、そのまま王都ガリアまで移動して下船。
その後、戻ってきたアトラス侯爵1世号に乗って、王都ガリアへ向う。
ガリア港は、何度もアトラス領船籍の船が寄港しているので、安全な停泊場所がある。オレ達が帰途に就くまで、船は停泊して待つことになる。
2日目に、アトラス侯爵1世号は、バトルノの街にある港の外に停留した。
ここは、グラナラ領の西隣に領地を持つバトルノ伯爵家の領都だ。
領都は、バトルノ川の河口近くにある。
領有している貴族の家名、領都の街の名前、領都を流れる川の名前が同一なのは、ガラリア王国では普通の事のようだ。
先の戦争で、領地替えになった領地は、次々と街や川の名前が変わったらしいので、領主の名前を付けることになっているのだろう。
ちなみに、アトラス川というのは、マリム川とは別にある。大河ガリア川の支流の一つで、旧ノルドル王国の王都を流れていた川だ。アトラス鉄道の終点付近を流れている。
ひょっとすると、マリム川をアトラス川と命名することができなくて、街と川の名前をマリムにしたのかもしれないな、と漠然と思った。
バトルノ伯爵家の一行が乗り込んできた。
当主が、アジム・バトルノ閣下、奥様が、ヤネット・バトルノ夫人。
3人の子供が同行していた。
上から、長男のアジル・バトルノ、次男のアラム・バトルノ、長女のヤナミ・バトルノだ。
挨拶をしたのだが、なんで、親の名前と間違えそうな名前を付けるのだろう。覚え難くて困る。
乗船した記念に、バトルノ伯爵家の人達の写真を撮る。
現像出来次第、写真を渡すことにしている。
ネガが残るので、ネガは、記録として残すことにした。
大人達は、大人達だけで船の大きめのキャビンの一室で話込んでいるので、子供同士で纏められてしまった。
ヤナミ嬢は、オレ達より1つ上らしい。
なんか、オレの前で、モジモジしているのだが、オレとしては、ニケ一択なので、どう対応すれば良いか分らない。
ニケは、可愛いというよりは、美人なので、上の二人の男の子供に人気だ。
上が13歳で、下が10歳らしい。
特に、次男のアラムがニケを見る目に熱が籠っている。
ただ、ニケも、オレ一択らしいので、相手にはされないだろうな。
そもそも、オレもニケも中身はアラフォーなのだから、子供の面倒を見ているようなものだ。
頼みの綱だったはずの、セリアさんは、何処に行ったのか、姿が見えない。
会話をしても、話が合う訳もなく、仕方が無いので、トランプをして時間を潰した。トランプは、ニケが魔法で紙を固めて、複写魔法で裏表の絵を描いたものだ。
まだ、アトラス領では菓子折り用のボール紙は作っているが、トランプにするほど薄くて硬い紙は作られていない。
トランプと言っても、ポーカーやブリッジをする訳ではない。7並べとか、神経衰弱とかだ。
フランとセドは、見様見真似で参加している。
バトルノ家の長男のアジルは、負けが込むとイライラし始めるので、適当に勝たせてやる。
まあ、この集団だと、最年長だから面子もあるんだろう。面倒な事だ。
夕食の時間になって漸く解放された。カトラリーに慣れていない子供達には、骨付きの鶏の空揚げや、串焼きが出された。
バトルノ夫妻は、ハンバーグやパスタを四苦八苦しながらカトラリーを使って食べていた。
食べるのには苦労したみたいだが、料理自体は絶賛された。特に、ニケが考案した酵母で膨らませたパンは好評だった。
今日は、半日子供の世話で、疲れ果ててしまった。意外とニケは元気だったな。
フランとセドの相手を毎日しているから、慣れているのかもしれない。
翌日の昼前に、ヨネスに着いた。
ヨネスは、ヨネス伯爵家の領都だ。ヨネス周辺は、大河は無いものの、小さな川の多い所だ。穀倉地帯で、豊かな領地らしい。
ヨネス伯爵家の一行がアトラス侯爵1世号に乗り込んできた。
当主は、アルト・ヨネス伯爵。奥さんは、エリア・ヨネス夫人。
同行している子供は、上から長女のエリス・ヨネス、長男のオルト・ヨネス、次男のオズム・ヨネスの3人だった。
やはり記念に家族写真を撮った。
父さんの話では、ヨネス伯爵は、写真の説明に興味津々だったようだ。
過去に撮った写真を見せたところ、絶賛していたらしい。
ただ、これは、まだ、アトラス領でも、一部の人しか知らない技術だ。
カメラはともかく、写真乾板は容易に量産することは、まだできないだろう。
様々な人が、色々な対象をカメラに納めることができるようになるには、まだ暫くかかることになりそうだ。
オレについては、結局昨日と同じ状況になる。
オレとニケは、大人の中に混っていても、会話の内容は問題なく理解できる。
ただ、どうにも異常にしか見えないので、子供部屋に軟禁されることになる。
ただ、ヨネス家の子供は、長女が15歳、長男が14歳、次男が12歳と比較的年齢が高い。
トランプをもう2組用意して、子供部屋は、長女のエリスさんと、長男のオルトさんにおまかせにした。
ニケはすっかり馴染んでいる。こういう所は、本当に羨ましい。
オレは、ここまでの海図の作成状況を確認するために、部屋を離れることもできるようになった。ヤレヤレだ。
しかし、この調子だと、子供部屋に一体何人の子供が集結するのだろう。
オレには、とてもムリだ。ニケに任せるしかなさそうだな。
ガラリア王国東部南岸の都市の位置を記載した地図を、「惑星ガイアのものがたり【資料】」のep10に載せました。
URL : https://ncode.syosetu.com/n0759jn/10/




