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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
159/368

10W.子供服

「あら、ジーナさんは、ニケ様の担当さんなのね。それは……大変でしょ?」


「何か皆さんに言われますね。やはり、大変に思えますか?」


「えぇ。それはもう。

アイル様が作るものは、難しいものもありますけど、見ただけで何となく分るんものが多いんです。だけど、ニケ様のものは、説明を受けても、結局分らなかったりしますからね。

最初に漂白剤の話を聞いた時も、白い染料があるのかと思いました。

その後で、何度か説明してもらいましたが、見ることが出来ないほどに小さなものが変化しているらしいですね。

どう変化しているのか、どうしたら分るのでしょう。大抵は、どこかで、分かろうとするのを諦めてしまいますよ。

でも、とても役に立つのだけは確かなんです。

理解できなくても役立つから、それでも良いんですけどね。」


見えない小さなものが変化するですか。

そうですね。エレメントというのは、とても小さなものだと教えてもらいました。

それが、様々な変化をする事を使っているのがニケさんの考案です。

何となく、分ります。

本当のところが解っているのかというと……分かってないかもしれませんが……。


「あっ。ミシンを見せてもらっても良いですか?」


「あら、そうね。ミシンを見せに来たんですよね。色々話をしていて、うっかり忘れてましたね。」


それから、リリスさんは、ミシンの説明をしてくれます。

一通り、道具の各場所の働きを教えてくれました。

リリスさんは、随分詳しいです。


「今は、布ではなく、革を縫うために、丈夫な太い針と太い糸が付いているんです。

ちょっとだけ待ってくださいね。針と糸を布用に取り替えますから。」


そう言うと、リリスさんは、針と糸、ミシンの中にある釜の部分を交換しました。

とても慣れた手付きです。


「ジーナさん、これで布が縫えるんですけど、やってみますか?」


「えっ。使わせてもらって良いんですか?」


「ええ。もちろん。使ってみると、色々思うところが出てきますよ。」


そう言われて、私はミシンの前に座ります。

練習用の布として、布を二枚貸してもらいました。


「そうそう。そうやって、布を合わせて、ここに挟むんです。」


それから、リリスさんに言われるがままに、ミシンを操作していきます。

カタカタカタカタ。ミシンは、軽快な音を立てて布を縫っていきます。

何度も試してみます。何かとても楽しいです。

しばらくミシンを堪能して、ミシンを止めます。


「すごいです。速いです。綺麗です。」


「そうでしょ。私はミシンで縫い物をするのが大好きで、ミシンを動かしているだけで、幸せな気分になるんです。」


「分ります。」


私も貴族の娘だったので、母から、裁縫を教えられました。

繕いものをするのは、とても根気の要る作業です。

思ったとおりに縫い物をするのは、とても時間が掛ります。

母には叱られてしまうかもしれませんが、とても焦れったく感じてしまうものです。


でも、ミシンは、思い描いたとおりに、素早く縫い物ができます。

なんだか、万能になったような気分になります。


「今年の春前に、戦争がありましたでしょ。

去年の冬前の時期は、隣国と睨み合いの状態だったと聞いています。

その頃に、宰相様と騎士団長から騎士様達の装備の依頼があったんです。

北のとても寒い場所に居る騎士さん達が、冬の間、凍えないような装備が必要で。

納期は短いし、数も多かったんです。

宰相様と騎士団長様の依頼ですから断わることもできません。

その上、どんな装備にすれば良いのか、依頼された時には分らなかったんです。

どうやって乗り切ろうかと思っていたら、アイル様とニケ様が、ミシンを作って、沢山貸してくださいました。

装備自体は、ニケ様の指導で、形になったんですけど、それがとても複雑な、見たこともない装備なんです。

ミシンが無ければ、とても作ることができませんでした。

でも、そのお陰で、領地の騎士さんたちは、一人も欠ける事無く、元気に戻ってきてくれました。

領地のお役に立てたのは、とても嬉しい事です。でも、それはお二人の助けがあっての事でしたね。」


「そうだったんですか。そのためにミシンが考案されたんですね。」


「アトラス領と隣国の戦争が終わったら、今度は王国軍と一緒に隣国を討伐すると言うじゃないですか。沢山の王国軍の騎士さん達がやって来ました。

そして、その騎士さん達の装備も急遽作ることになりました。

その頃には、ウチのお針子さん達も、ミシンの使い方が上達していて、直ぐに対応できたんです。

ウチのお針子さん達のミシンの腕前が上がったのは、騎士さん達の装備を作ったからですね。

今では、意匠を凝らした服でも、四分の一(とき)(=30分)もあれば、作れるようになってます。

手作業の縫製だと、半日以上の時間が掛りますから、もう、ミシン無しで、服の縫製する事は、考えられなくなってます。」


「そんなに早く服が作れるんですか?吃驚です。」


「ふふふ。でも、あのお二人には、吃驚させられっぱなしです。

紙を作る時だって、あんな工場が建つなんて思ってもみませんでした。

ニケ様に依頼されて手伝いの者を出したんですけど、次にその者達と会ったときには、工場を運転できるようになってましたね。

ニケ様の指導が良かったんでしょう。

ところで、ご覧になりました?コンビナートの製紙工場は?」


「ええ。一昨日、ニケさんとアイルさんに案内してもらいました。

あの工場もコンビナートも、見た事も無いもので溢れていました。

デンキについては、申請書で読んだり、アイルさんから話を聞いたりして分ったつもりになっていただけなんだと思い知らされました。」


「そうそう。デンキって不思議ですよね。最初に、マリムの街に電気が通ったのは、今から、丁度二年ほど前ですね。

あの日の事は、忘れられないです。

宵闇が迫ったころに突然街中が、昼のように明るくなったんですよ。

街中が大騒ぎでした。

後で、色々聞いた話では、騎士団長様と警務団の偉い方が、街で頻発していた盗難を防ぐために、作ったんだそうです。

そのために、川の上流に、とても、とても大きな湖を作ったらしいですよ。地形を変えてしまうような大魔法だったそうです。

私なんかには、想像も出来ない事なんですけどね。

今となっては、デンキが無い生活には戻れませんね。

ミシンも電気で動いていますし、アイロンという道具も電気です。

私達みたいに魔法が使えない平民が、魔法を使うことができるようになった様に感じます。」


「そうなんですね。二年前のその日を私も見たかったですね。

あっ。そう言えば、あのふわふわパンも電気を使って作っていると聞きました。」


「あら、ジーナさんは、とても詳しいんですね。

あのパンは、1年ほど前に、串焼き屋台のお披露目で、領主館でいただきました。ニケ様が作られたそうです。とてもとても美味しくて、串焼きの肉を挟んで食べたときには、なんて美味しい料理だろうと思ったものです。

今では、海浜公園の屋台で普通に食べられるんですけど、ジーナさんは、お食べになられました?」


「ええ。お肉をパンに挟んで食べました。とても美味しかったです。」


「なぁ。そろそろ、移動しないと、昨日のようになるぞ。」


それまで話を聞いているだけだった管理官が、話し掛けてきました。

あっそうですね。なんだか、随分と話し込んでしまってました。


「あら、そうですね。ジーナさんと話をしていると楽しくて、時間を忘れてしまいました。まだお時間は大丈夫ですか?」


「ええ、昼頃、お暇できればと思ってましたので、まだ大丈夫です。」


「それじゃ、考案のお礼を何も受け取ってもらえないという事ですので、誠心誠意、店の案内をさせていただきますね。」


ボーナ商店には、3棟の建物があります。

それぞれの建物は、一つの土地区画全体で一つの建物なので、とても大きいです。

真ん中の大きな入口のある建物は、主に布と服を販売しています。

正面の右手の建物は、少し特殊な服を扱っています。

そして、左手の建物は、紙の製品を展示、販売しています。

どの店舗の1階部分が店舗で、2階より上の階は、倉庫や事務所なのだそうです。


リリスさんと会ったのは、中央の建物で、ミシンを見るために移動した場所は、右隣の建物でした。


「それじゃまず、中央の店舗から案内しますね。ここは、見てのとおり、布と衣服を商っています。」


そう言って、リリスさんは、扱っている布の説明をしてくれます。

やはり、人気なのは、漂白したアトラス布なのだそうです。

染色した布も様々な色があって、蝋纈染めの彩飾も人気があるそうです。

これらは、他の領地に高額で、大量に売れています。

この店には、他の領地から買い付けにくる商人さんが沢山居るんだそうです。


「あとは、服ですね。

ここでは、最近になって、ちょっと変ったことをしています。

マリムはとても子供が多い街です。その特殊性から、服は、子供用がとても多いのです。

どんどん増えていく子供に衣装を提供するために、一人一人を採寸して衣装を誂えるのではなく、子供の体格別にあらかじめ作った服を提供しているんです。」


「えっ。衣装は、採寸して作るものじゃないんですか?」


「大人用でしたら、それが良いのですけれども、子供ってすぐに大きくなってしまいますでしょ。

採寸した結果は、次には使えないため、採寸する利点がありません。

それに、子供は活発に動きまわるので、衣装の、損耗も激しいんです。

直ぐに寸法が合わなくなることも合わせて、どうしても衣装代が増えてしまいます。

そこで、同じ型紙で大量に衣装を作ることで、安く提供できるようにしています。」


「でも、それだと、売れ残りが出たりするんじゃないですか?」


「それは、売れ行きを見ながら調整しているんです。

ただ、今は、売れ残りよりも、不足する方が気掛りです。それほどに、マリムの子供達は増えているんですよ。」


「同じ様に布を使っていて、同じ様に裁縫するのであれば、値段ってそんなに変わらないと思うのですけれど。」


「お針子さんが、1着ずつ別の衣装を作るより、同じ衣装をミシンを使って作った方が遥かに効率が良いんです。大体3倍以上の衣装を作ることができます。

それに、同じ型紙を使うのであれば、無駄になる布も工夫次第で減らすことができます。」


えっ。そうなのでしょうか。

確かに、同じ作業を繰り返した方が速くなりそうです。でも……3倍以上ですか。

凄いですね。良くこんな方法を思いきましたね。感心しました。


「それは……素晴しいですね。本当に安く提供できそうです……。

良くこんな事を思い付かれたなと感心してしまいました。」


「ふふふ。ありがとございます。でも、これはニケ様に教えていただいた方法なんですよ。あの方たちは、本当に不思議な事を思い付きますよね。」


「これも、ニケさん達が関係してるんですか……。」


「衣装代を安くするという点では、もう一つあるんですよ。

親戚が沢山居れば、着古した衣装を他の子供さんに回すこともできるんでしょうけれども、ここマリムでは、両親と子供だけという家庭が多いんです。

その事から、古着の買取も行なっています。

同じ型紙で、大量に安く作った衣装を、古着と交換で購入してもらうことで衣装代金をさらに、節約できるように工夫しています。」


「でも、古着はとても安く取引していますよね。穴を繕ったり、洗濯したり、手間も掛りますよね。ボーナ商店に利点があるんですか?」


「そうですね。古着を商うだけだと利点はあまりありませんね。

仰るとおり、新しい衣装を買ってもらったほうが良いんです。

でも、ボーナ商店には紙があるんです。」


「紙ですか?それで何かがあるんですか?」


「紙の原料はご存知ですよね。亜麻、麻、綿です。

マリムは温暖なので、毛を使った衣装は殆どありません。

古着で補修の手間が掛りそうなものは、バラバラにして、紙の原料にしてしまうんです。

安く、紙の原料を手にいれたのと同じ事になるんです。」


増え続けている子供の衣装を大量に安く作って、ボロボロになった服は買い取って、紙にして消費してしまうんですか……。


多分、大陸中、どこを探しても、ボーナ商店に対抗できる衣料品店はありませんね。

あれ?


「ひょっとすると、その古着の話も……。」


「ええ、ニケ様ですね。紙の生産を始める前に教えてもらいました。古着も紙の原料になるって。」

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