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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
156/368

108.耐熱レンガ

レオナルドさんに、改めて、私達の職務の説明をしました。


私がニケさんの考案申請の担当と伝えたところ、何とも言えない微妙な表情をされてしまいました。


「それは……なんと言って良いか……。

それで、ニケさんの考案を理解されているんですよね?」


そこで、先日まで、ニケさんに教えを乞うていたと伝えると、何となく納得した表情です。

やっぱり、全ての人にとって、ニケさんの考案は分り難いんですね……。


私が、ニケさんの担当ならと言って、耐熱レンガを作る苦労話をしてくれました。


「ニケ様が、鉄の次に、ガラスを作ったとボロスさんから聞いて、急いで研究所に駆け付けたんです。それで、最初に依頼されたのが、耐熱レンガでしたね。」


「当時から、レンガを作っていたんですか?」


「いいえ。その頃は、一応、アトラス領では名の知れた、陶器工房でした。

当時のアトラス領の陶器は、焼成温度が低くて、まぁ、陶器とは名ばかりで、レンガみたいなものですよ。

今にして思えば、よくも、あんなものを食器として提供していたなと思います。」


自虐的に、そんな事を言います。


「今のアトラス領の陶器は、別格ですよ。昔ながらの陶器を焼いている領地はとても多いでしょう?」


「いえ。まあ、そうなのかも知れませんが。木炭ができるまでは、薪で焼いていましたら、陶器を焼く温度も低かったんです。

その当時の陶器は、脆くて、水が染み込むのが当り前でした。


そして、ガラスを作るためには、炉の温度を上げなきゃいけないんですが、その温度に耐えるレンガは無かったんです。

鍛冶工房でも、青銅から鉄に変わろうとしていました。こちらも鉄を鎔かすための温度に耐える炉が無くて、苦労してました。」


「それで、耐熱レンガだったんですか?」


「そうなんでしょうね。その時には、ニケ様の真意は分ってなかったので、何故、レンガなのかと思いました。

でも、目の前に本当にガラスが有って、ガラスを作るのにそれが必要だって言われたら、従いますよ。

ガラスですよ。ガラス。

職人ですから、そんなモノを作る事ができるんだったら作りたいと思うじゃないですか。

ニケ様の指導で、なんとかガラスや鉄が鎔ける温度に耐えられるレンガができました。

それからですね。ガラスや鉄を自由に作ることができるようになったのは。

陶器も緻密になって、当時とは比べものにならない程良くなりました。

でも、それも、この3年間の出来事ですからね。

驚くような速度で、進んでいます。」


「ガラスや鉄は既に作れるのに、今も耐熱レンガの耐熱性能を上げているのは何故なんですか?」


「それはですね。全てニケ様への対応なんですよ。

あそこに、カンタル線というのがあるでしょう。

あれは、ヒータと言って、電気で高熱を発生させるのに使うんです。

ふわふわパンを食べた事はあります?」


「ええ。あれ、とても美味しいですよね。」


「ふわふわパンを作るのに、オーブンという道具が必要になるんです。

ニケ様発案のパンで、領主館の侍女さん達から作り方が伝わったんです。

最初、薪や木炭でパンを焼こうとしていたんですけど、温度の管理が難しくて、なかなか上手く行かなかったんです。

領主館では電気を使って焼いていると聞いて、ガゼルさんが、オーブンの仕組を聞いてきたんです。

そうしたら、あのカンタル線というものが必要だって言われたんです。

原料は、コンビナートで作られているフェロクロムとアルミニウム、そして鉄なんですけど、鎔かして鋳物を作るのに、dN50(=1500)度の温度が必要なんです。

とても、鉄やガラスを鎔かしている温度じゃ足らないんです。

カンタル線を作る為には、その温度に耐える耐熱レンガが必要なんですよ。」


「でも、レオナルドさんのところは、陶器やガラスが専門なんですよね。

なんで、カンタル線を作ってるんです?」


「まあ、鋳物作りとガラス作りは作業自体は良く似てるんですよ。

出来たばかりの耐熱レンガは高価なので、今は、耐熱レンガを持っている私のところで作ってます。そのうち、今回展示しているような耐熱レンガが普及していくので、あちこちで作るようになると思います。

なにしろ、今、オーブンはとても人気の製品ですからね。

まあ、これは一例で、他にも金属を加工するためのハイス鋼とか、ステンレス鋼とかも、高い温度が必要なんですよ。

これも、ニケ様が作り出したものですね。」


「それで、耐熱温度を上げていっているんですね。どこまで温度を上ていく心算なのですか?」


「そうですね……それもニケ様次第なんですけど……。

ニケ様に聞いた話では、コンビナートで作っているアルミナで、とても硬い焼き物が作れるらしいんですよ。

是非作ってみたいじゃないですか。

ちなみに、ガラスを作るのに使っている坩堝はニケ様とアイル様が魔法で作ったもので、アルミナ製で、とても硬くて、熱にも強いんです。

アルミナが鎔ける温度が、d1,248(=2,072)度らしいんですよ。そこまで耐熱温度を上げられたらとは思ってます。

ただ、そうなると、その温度に負けない素材が必要ですし、どうやってその温度まで炉内の温度を上げるかというのも問題でしょうけどね。

でも、実は、あと少しなんですよ。

ウチにある炉は、d1,1N0(=1,992)度まで上げられるようになりましたから。」


「えっ。あそこにある製品の耐熱温度は、d1,000度でしたよね。それより高い耐熱温度のレンガがあるんですか?」


「製品でd1,000度の耐熱レンガにするためには、それよりずっと高い温度で焼く必要があります。当然、ウチの炉は、今回製品として出したレンガよりずっと高い温度に耐えますよ。」


「そうなんですね。

あれっ。ちょっと分らなくなってきました。今の炉の耐熱温度を上まわるレンガを作ろうと思ったら、今の炉の耐熱温度より高い温度で焼かないとならないって事なんですよね?

あれれ?

どうやったら、耐熱温度の高いレンガを作ることができるんでしょう?」


「その時の最高温度の耐熱レンガを使って炉を作り、その耐熱温度を遥かに越える温度でレンガを焼くんですよ。

当然、炉は一回でダメになるんですが、上手くいけば、耐熱温度の高いレンガが出来ます。

まあ、上手く行かない事の方が多いんですけどね。

そうやって、少しずつ耐熱温度を上げていって、今、やっと製品の耐熱温度が大台に乗ったんですよ。」


「それは……大変な作業ですね……。何か凄いことをしているのだけは分りました。

色々説明していただいて、ありがとうございます。

そう言えば、あの赤いガラスは、ニケさんと共同名義の申請でしたね。」


「流石に良くご存じですね。

あの考案は、もともとニケ様の助言だったんですよ。

私が赤いガラスを作りたいと相談したんです。

まさか、あんな金属を混ぜるなんて思いもしませんでした。

ただ、一筋縄ではいかなくて、かなり試行錯誤しました。

ようやく出来上がったときに、もともとニケ様の発案だから、ニケ様の名前で考案の申請をする様にって、私は言ったんです。

でも、私は何もしてないからと言われて、結果的に共同申請になりました。」


「なんかニケさんらしいですね。それにしても綺麗な赤い色ガラスですよね。」


そう私が言ったときに、レオナルドさんが立ち上がって、展示物の方に移動しました。

帰ってきたときには、濃い赤い色をしたガラスのコップと、ピンク色をしたガラスのコップを二つずつ手にしています。


「例の金属の濃度を薄めると、このような色になるんですよ」

と赤のコップとピンクのコップを見比べられるように見せてくれます。


「これも綺麗な色ですね。」


「これ、お二人に差し上げます。」


「えっ。そんな、申し訳ないですよ。それに、レオナルドさんの考案税の調査をしているので、そんな物を頂く訳には行きません。

管理官。これを頂いたりしたら、賄賂を貰った事になったりしますよね?」


「いや、もう調査は完了しているから問題は無いと思う……微妙ではあるが……。」


「ははは。何かをしてもらいたいという意図は全くありませんから。

ニケ様への対応をするのに苦労している戦友へのプレゼントですよ。」


折角のご好意なので、綺麗なガラスのコップを頂きました。

私としては、初めて手に入れた、ガラス製品です。

本当に綺麗です。しかもこれはきんが鎔けているんです。


これ、王都で入手しようとしたら、一体幾らするのでしょう。

ちょっと、背筋が寒くなりました。


それから、ガラス製品の作り方や、陶器の新しい作り方など、ガラスや陶器の話を聞きます。

私は、やっぱり、モノ作りの話が好きです。


気が付いたら、神殿が6とき(=午後4時)の鐘を鳴らしています。

あれ?マズいです。ボーナ商店にこれから行くと、夕食をグラナラ城で食べるのに間に合う鉄道に乗るまでに殆ど時間がありません。

それに管理官のメガネも受け取らないとならないです。


「おや。6時になったみたいだな。なぁ、ボーナ商店はどうする?明日に回さないと、これはムリだぞ。」


「そ、そ、そうですね……。えーと、管理官に明日も付き合ってもらっても良いんでしょうか?」


「まぁ、しょうがないよな。それじゃ、そろそろ御暇しないとだな。」


それから、長い間、色々な話をして頂いたこと、ガラスのコップを頂いたことのお礼を言って、レオナルドさんのところから御暇をした。


物産展はまだまだ賑っていて、かなり苦労しながら、例の看板のところまで戻りました。


「そう言えば、食事と物産展でしか公園内を見ていませんでしたね。

折角ですから、海の側まで、行ってみませんか?」


「おう。そうだな、海は、こっちか?」


二人で連れ立って、海の側まで歩いて行きました。


「本当に、海の側なんですね。この公園は。」


公園の南の端に着くと、石垣の先に砂浜があります。

砂浜には沢山の子供が、袋を持って、うろうろしています。


「ん?あれは、何をしてるんだ?」


「あっ、あれは多分、砂から砂鉄を取ってるんですよ。それを原料にして、たたら場で鉄を作ることができると、鉄の考案申請に記載がありましたよ。」


「へぇ。そうなのか。砂鉄を取ると、お小遣いぐらいにはなるのか?

でも、時々砂に手を突いているぐらいで、何かしてるようには見えないぞ。」


「砂鉄を取るのには、磁石というちょっと不思議な石を使うんですよ。手を突いたときに、磁石を砂の中に沈めるんです。

ほら、あの子、手に持っている皮袋に付いている黒いものを他の袋に入れましたよね。」


「あっ、本当だな。あの黒いのが砂鉄なのか?」


「私も初めて見たので、確証は無いですけど、あの黒いのが酸化鉄という鉄を含んだものだと思います。」


確認するために、近くに居た子供に声を掛けてみます。


「ねぇねぇ。君。ここで何してるの?」


「ん。砂鉄を採ってるんだよ。」


「ほら、管理官、言ったとおりでしょ。」


「そうだな。ところで、これは、お金になったりするのか?」


「うん。この袋一杯にすると、d400ガント(=7千円)で、領主様が買い取ってくれるんだよ。」


袋を見ると、それなりの大きさがあります。


「でも、それを一杯にするのって、大変じゃないの?」


「あっ。一杯にならなくっても、重さを量ってお金をくれるから、大丈夫なんだ。」


でも、こんなに沢山の子供達が居たら、砂鉄を取り尽してしまうんじゃないでしょうか?


「砂鉄が無くなって、取れなくなったりはしないの?」


「うーん。どうなんだろう。騎士さんが、海が荒れれば、どこかから運ばれてくるって言ってたかな。」


アトラス領は、今回の領地貸与で、大陸の東端を全て領有することになります。

海岸線の長さは、想像を絶するほどです。

そう簡単には、砂鉄が枯渇することは無いんでしょうね。


そう言えば、アトラス山脈も全て、領有する事になりました。


これから、ニケさんの豊富な知識で、鉱山や鉱石の開発を進めると……。

それで、鉄道や船なんでしょうか。


アトラス領が、ますます発展していく姿しか、思い描けません。

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