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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
154/368

106.ガゼル工房

ルキト木工工房の隣の展示場所を訪問します。

ここは、ガゼル鍛冶工房です。


展示物を見ると、鍛冶工房らしく、鉄やステンレスの製品が並んでいます。

奥の方には、剣が3本飾られていました。


剣の説明には「アトラス領品評会優勝」と書かれてあります。

それぞれ、別な年ですね。3年前から連続して優勝しているんですか。


でも、品評会ですか……剣の品評会って何でしょう?

良く、お酒なんかの出来具合を競うのに、品評会をしたりしますが……。

これは剣ですよね。


「管理官。品評会で3度の優勝らしいですけど……。何なのでしょうね?」


「あれは、剣だよな。剣の品評会って……何だろう?」


剣は、かなり属人的な道具です。

誰かにとって、良い剣が、他の人にとって良い剣とは限りません。

人によって体格が違いますから、適切な剣の重さや長さは人によって違ってきます。

どうやって剣の善し悪しを判断するんでしょう?


お酒も人によって好みが違ったりしますが、美味しいお酒は、かなりの人にとっても美味しいお酒です。

品評会というのが成り立ちます。


やっぱり話を聞いてみたいですね。


説明をしている若い人に先程と同じ様に声を掛けて、私達が王都から来た視察団の一員だと伝えます。


「それで、あの品評会優勝って書いてある剣について教えて欲しいんですけど。」


「あっあれですか。あれは親方が鍛造した剣です。親方の腕は、アトラス領随一なんですよ。」


「剣の品評会って、何を競うんですか?」


「えぇっと。それは……ちょっと親方呼んできますね。」


ルキト工房と同じ様に、布で覆われた場所に若い人は入っていきました。

あそこは、何があるんでしょうか?


ふと気になりましたが、まあ、関係無いから良いですかね。


中から、メガネを掛けた大柄な人がやってきました。


「王都からの視察団の方達ですか?ガゼルと言います。ようこそアトラス領にいらっしゃいました。」


「ご丁寧にありがとうございます。王都で考案税調査部門の管理官をしているヘンリ・ダナと申します。」


「はじめまして。同じく調査員のジーナ・モーリです。お会いくださりありがとうございます。」


「それで、剣の品評会についてお聞きになりたいとか?」


「ええ。こちらは、剣の品評会で3回も優勝されているんですよね?」


「まあ。運が良かっただけだよ。」


なんか謙遜していますね。あれ、そうでもないのかな。微妙な表情をしている気がします。


「それで、剣の品評会というのは、何を競うんですか?」


「そりゃ、剣の善し悪しだな。」


「良い剣と悪い剣って、どうやって判断するんです?剣で実際に戦うんですか?でも、強い騎士さんと、弱い騎士さんが戦ったら、剣じゃなくって、騎士さんの実力になっちゃいますよね?」


「お嬢さん、良い剣って、どういう剣だか分るかい?」


良い剣って、多分、戦いやすい剣ですよね。振り易いとか、軽いとか……あれ、重い方が良かったりするかもしれません。

んー。何でしょう?


「難しいです。どういう剣が良い剣なんですか?」


「実は、ニケ様が鉄を作られてから、剣に対しての考え方が大きく変わったんだよ。

以前の剣は、青銅製で、曲らない、折れない、適度に重いってのが重要で、その為には青銅の産地なんかが重要だった。

ニケ様の話だと、銅に鎔けている金属の種類と量が違うんだそうが、まぁ、見た目では熟練の鍛冶師でもなけりゃ判断は出来なかった。でも、その程度の違いぐらいしか無かったんだ。

それが鉄になったら、青銅と比べて遥かに折れないし曲らない。

それに、刃が付いたため、切れる。

騎士のヤツらに言わせると、戦い方も変ったらしい。

剣ってやつは、この前みたいな戦争でもなけりゃ、大抵魔物討伐に使うんだ。

青銅の剣は、重くて、刃先が細くなっていりゃぁ魔物を弱らせる事ができる。

騎士の腕力で曲ったり折れたりしなきゃ、それで良かったんだ。

ところが、鉄だと刃がついてるから、魔物を切ることができる。首でも切っちまえば、そのまま魔物は死んじまう。

青銅の剣のように、何度も何度も殴らなくっても討伐できるようになった。」


なるほど、青銅の剣と、鉄の剣は、そんなに違うんだ。

それで、騎士の人達は、鉄の剣が欲しいと思うんだな。

そんな状況で、良い剣っていうのは……。


「それじゃ良く切れる剣っていうのが良い剣なんですか?」


「ははは。包丁じゃねえんだから、それだけじゃだめなんだ。

良く切れるのを目指すと、刃先は鋭利になっていく。剣ってやつは、魔物と戦ってる間に、魔物の爪を防いだり、牙を防いだりするだろ。

鋭利な刃だと刃毀れが起りやすくなる。刃毀れを防ごうと思うと、刃先をあまり尖らせられない。そうすると切れ味が悪くなる。

これが戦争だったら、相手の剣と打ち合いになる。鋭利な刃だとすぐ刃毀れする。」


ハコボレですか?また聞き覚えのない言葉です。


「ハコボレって何ですか?」


「ああ、聞き覚えが無いだろうな。これはアイル様とニケ様が言っていた言葉なんだが、刃先が欠けることを刃毀れと言うんだそうだ。そうなると、剣は切れなくなっちまう。」


「難しいんですね。それで、良い剣っていうのは、どういう剣なんですか?」


「今のところは、よく切れる、折れない曲らない、刃毀れしないってところだな。」


よく切れるのと刃毀れし難いというのは相反する性質で、折れないのと曲らないのも相反する性質ですよね。

加減が難しいってことなのですね。


「そうすると、切れ味と硬さの加減が難しいってことなんですね。」


「いいや。それも違う。」


えっ。そういう説明でしたよね。


「これもニケ様から聞いた話なんだが、刃の部分をねばり強い鋼を使って、その周りを柔らかい鉄を巻いて、全体を硬い銑鉄で補強するとニホントウという切れ味が良くて、刃毀れしにくく、折れたり曲ったりしにくい剣になるらしい。

オレ達は、鉄を使い始めたばかりなんだが、分ったことは、鉄はもの凄く奥が深いってことだけだよ。

青銅の頃のように、ただ鍛造すれば固くて折れ難くなるという単純なものじゃない。

素材の鉄がどういったものか、どのぐらいの時間加熱するか、どう鍛錬するか、どんな鉄を重ねたか、焼入れの温度をどうするか、刃先はどのぐらい尖らせれば良いか。

オレ達鍛冶師は、日々研鑽を繰り返しているんだ。

その上で、よく切れる、折れない曲らない、刃毀れしない、そんな剣の作り方を見い出したら品評会で評価されるんだ。」


なんと、単なる性能ではなくって、作製方法を競っていたんですか……。


「それでな、オレとかルキトとかボロスは、アイル様やニケ様と早い時期から顔見知りで、色々質問したら、教えてもらえるんだよ。

他の鍛冶師は、畏れ多いって、お二人に質問なんかしねぇんだ。

だから、オレが品評会で優勝してるのは、お二人のお陰なんだ。」


あっ。それが、先刻の微妙な表情だったんですか。


「それは、ニケさんが、鉄を作ったばかりの頃に、ガゼルさんに、何かを依頼されたんですね。」


「いや、オレは……研究所に……怒鳴り込みに行った。」


へっ?


「それは……また、何でです?」


「いや、その頃ソロバンを作っている道具が、見たことの無い金属でできていて、ルキトは、その金属の事を鋼って言っていた。

興味はあるんだが、他の人に貸出禁止の契約があるとかで、見ることはできても何だか皆目かいもく分らなかったんだ。

そのうち、騎士団の上層部の剣が鋼の剣に変わったって聞いたもんで、いてもたっても居られなくなったんだよ。

ニケ様が、鋼を魔法じゃなくって作ったって聞いて、ボロスの紹介で、会いに行ったんだが、会ってみたら、まだ二歳の赤ん坊だよ。

でもオレは、頭に血が上ってたんだろうな、そのニケ様を怒鳴り付けてた。」


「……。」


「でもな、ニケ様が凄ぇのは、オレが睨もうが、怒鳴ろうが平然としてるんだ。赤ん坊に大人気ないとは僅かには思ったんだが、泣き出すでもなく、ニコニコしながら、本当に平然と受け答えしてんだ。

赤ん坊だぜ。こんなオレみたなのが、睨んだり怒鳴ったりしたら、普通泣き出すだろ。

これは、敵わねぇって思ったよ。

鉄を見せてもらって、これはとんでもねぇモノだってのは直ぐに分った。

怒鳴り込んできたオレに、オレ達が使っている鍛冶道具で、鉄を加工できるか確認してほしいって頼まれて……。

それからの付き合いだな。」


「なんと……。」管理官が呟いてます。本当に何と言ってよいのか……。


「それから、オレ達は、オレ達に出来ることは、何でも手伝うことにしてるんだ。

この公園に沢山屋台が出てるだろ。

あれの大半は、オレとルキトが作った。

ニケ様が、串焼き屋台を流行らせたいって言ってたからな。

まあ、ボロスのヤツが、商売に目の色を変えてたってのもあるが。

アイル様が作る、鉄道や鉄橋や鉄の船なんかは、流石にオレ達にはムリだ。

それでも馬車なんかは、オレ達でも作れるようになったんだよ。」


話を聞けば聞くほど、この領地は面白いです。


それから、これまで木工に使っていた旋盤という道具で鉄の加工が出来るようになったとか、そのためには、精錬工場で作った、クロムとかモリブデンとかを鎔かさなければならなくて大変だとか、炉の材料の性能が上がってきて、かなり高い温度で金属を鎔かすことができるようになったとか様々な事を教えてもらいました。


どれもこれも、ニケさんたちの考案申請にあったものです。

それでも、どんどん進んで行ってます。

それは、この領地の人達の努力の賜物です。


二人の申請内容は、実際に、世の中で使われているんですね。

申請書だけだと、絵空事としか思えない様なモノでしたが。


これは、王都に居たら分らなかった事です。


時間を作ってもらった事に感謝を伝えて、ガゼルさんと分れました。

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