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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
15/363

W.数

昨日と同様、アイルの家に泊まる。


領主館へのお泊りは、高級リゾートホテルに宿泊するより快適かもしれない。

我が家から付いて来てもらった侍女さんと、領主館の侍女さんにお世話してもらう。

幼女なのだから当然かもしれない。


顔を拭いてもらい、着替えをしてもらって、アイルと朝食を食べる。

昨日と同じく、アイルの部屋に移動して、しばらく待っている。


今日から、アイルの提案で、日本語で話しているときに、恭平呼びと杏樹呼びをやめようと言ってきた。


恭平曰く、日本語で杏樹と言っていると、こっちの言葉で、つい杏樹と言ってしまいそうになるのだそうだ。


まあ、それは理解できる。私も間違えそうになったから。それで、どちらかに統一するのであれば、今の名前にしてしまったほうが良い。


『で、アイルは、この世界の数字は知っているの?』


『いや。こちらから話題を振ったことがないからね。会話の内容をこちらの興味のあることに誘導するのがせいいっぱいだったよ。』


『相変わらずコミ障なのね。』


『単語が分からないと、質問もできないんだよ。』


『それは、そうね。誰かに相談もできないしね。』


『だから、話してくれたなかで分らない単語の意味を聞いて。そうすると、さらに分らない単語が出てきて。そんな中には数字のことがあんまり出てこなかったんだよね」


『そう。私もこの世界の数字については、全然ね。あまり数字を聞いたことがないのよ。1とか2とか3とか4とか、10とか100とか1000とかは聞けば解るれど、どう書くのかは全然分らないわ。』


『それじゃ、ニケは、オレより詳しいんじゃない。昨日、何年前みたいな話が多かったじゃない。あれ、あんまり解らなかったんだよね。たぶん時系列に話していたんだろうと思っていたから、話自体は理解できたけど。

それで、こんなんじゃダメだなと思って。

オレ達こんな歳じゃない。何か調べようと思っても、今は一人じゃ何もできそうにないよ。

人に何か頼むにしても数字がきちんと伝わらないと上手くいかないだろうし。』


私もこの世界の数字には興味がある。

いちおう科学者だからね。


でも、これまで、赤ん坊に数字を話しても意味が無いと思われていた節がある。

数が出てくる会話でも、1,2,沢山という感じだった。

赤ん坊は、3つ以上は数えられないと思っていたのだろうか。

誰もが、皆そういう対応だった。

ただ、大人同士で話しているのを聞いても、そんな感じだった。


ひょっとして、この世界の人は、数字に凄く弱いのだろうか。


ウィリッテさんが、侍女さんを連れて部屋にきた。けっこうな荷物がある。


「じゃあ、数について勉強しましょうか。」


手元には、沢山の木でできた円盤がある。色が塗ってある。赤と青と黄色だ。


「では、まず、数の数え方です。」


ウィリッテさんは、赤い円盤をテーブルに1枚置いて、「ウノ」と言った。

そして、1枚ずつ円盤を加えていきながら、「ジノ」、「トリ」、「テトラ」、「ペンタ」、「ヘキサ」、「ヘプタ」、「オクト」、「ノナ」、「デカ」と順に唱えた。


フムフム、ギリシャ語数詞と似てるね。


そしてさらに円盤を置いて、「エバ」と言ったあと、


「そして、もう一枚で、ウノ デイルです。」


『えっ。十二進法?』


アイルの呟いた声で、アイルの方を見てしまった。私も吃驚だよ。


この呟きと私達の様子を見て、ウィリッテさんが少し驚いた顔をしていた。


科学者は、数字を扱う。

それも、高度な計算のために数字を利用する。

2桁の掛け算ぐらいなら、暗算で、即座に答えを出すこともできる。ただ、それは、10進法であったならである。


この世界は、困ったことに、12進法が数の表記方法になっているようだ。

地球でも、12進法を使うことがある。鉛筆の本数を数えるときには、ダースという単位を使う。12本の鉛筆は1ダースだ。12ダースの鉛筆144本は、1グロスと呼ぶ。


このまま、三人で固まっていると不味いね。


アイルは、何か考えこんでしまっている。


「あっ、すみません、続けてください。ウィリッテさん」


「こちらの青いのをウノデイルとして、ジノデイル、トリデイル、テトラデイル、ペンタデイル、ヘキサデイル、ヘプタデイル、オクトデイル、ノナデイル、デカデイル、エバデイル、そして、ウノクアトになります。」


「そうすると、デイルがデイルあると、クアトなのですね。」


「えっ、ええそうです。」


「クアトがデイルあると、何になるのですか?」


「それは、サンドです。」


「デイル、クアト、サンドの続きはどうなるのでしょう?」


「デイル、クアト、サンドの先は、デイルサンド、クアトサンド、ミロ、デイルミロ、クアトミロ、ボロ と続きます。」


なるほど、3桁ごとに呼び方が変るようだ。これは、英語なんかと同じだね。12進法じゃなければ。


「クアトボロの次は、どうなるのですか?」


「えっ、クアトボロの次ですか……。それは……、私は聞いたことがないですね。」


うーん。ひょっとするとあるのかもとは思うけれど、無いのかもしれないな。


英語だとトリリオンになるけど、12進法だと、さらに何桁か大きな数になるね。そんな数字は、地球でも、大きめの国の国家予算ぐらいじゃないと、お目にかからないからね。まあ良しとしようか。


ふと、黄色の円盤が出番を失なっていると思って聞いてみた。


「ウィリッテさん、その黄色い円盤は、何に使う予定だったんですか。」


「あ、これですね。これは、クアトを数えるのに使うつもりだったのですが。ひょっとすると、説明は要りませんか?」


「多分、大丈夫な気がします。」


「そうですね……。私も……そんな気がします。」


多分、普通の意味でなく、ウィリッテさんがショックを受けているような気がするけれど、折角の機会を逃してはダメだよね。


というよりアイルサン。復活してよ。もう。


「ウィリッテさん。数は文字で書いたりはしないのですか?」


「ええ、文字で書いて記録します。」


「じゃあ、ノナ クアト ペンタ デイル ヘプタ(957)を文字ではどう書くのでしょう?」


「ノナ クアト ペンタ デイル ヘプタですね。」


と復唱しながら、ウィリッテさんは、石版に、


ΣΣΣΣΣΣΣΣΣXXXXXIIIIIII


と書いた。ウィリッテさんは、書いた文字の数を何度か数えていた。


「こう、書きます。」


わぉ、ローマ数字の劣化版だよ。これだと、数が同じかどうか確認するだけでも大変だね。


これを見て、またアイルが固まってる。おーい。戻ってこいよぉ。


ここは、返事をしておかないと。


「はい。解りました。」


まぁ、難しいことはないよね。列記しているだけだし。


この後、デイルサンド、クアトサンド、ミロ、デイルミロ、クアトミロ、ボロ、デイルボロ、クアトボロを表わす文字を教えてもらった。


単純で、解りやすいといえば解りやすいね。だけど、桁数が増えると、驚くほど文字数が増えるね。困ったもんだ。


とりあえず、整数についてはマスターしたな。多分これ以上の情報は無いだろう。

そういえば、小数ってあるんだろうか。


「ウィリッテさん、今度は違う質問なんですけど。クアト個のものをオクトに分けた場合の数は、どう言うのでしょう?」


「えーと、それは、オクト分のクアト(12/8)ですから、ウノとテトラ分のオクト(1+4/8)ですね。」


「あれ、それは、ウノとジノ分のウノ(1+1/2)ではないですか?」


「あ、そのとおりです。約分しなかったですね。」


そうか。分数か。12進法のメリットは、約数が多いことだもんね。小数より分数で表現したほうが良いってことか。


「あのぉ。ニケさん、足し算の方法とか引き算の方法を教える必要はあります?」


ウィリッテさんが、遠慮がちに聞いてきた。


聞く必要があるかというと、あまり必要は無いのだが、折角なので教えてもらおうと思った。


「ぜひ、お願いします。」


こころもち、ウィリッテさんの顔色が良くなったような気がするよ。よかった。よかった。


「足し算と引き算の場合には、この道具を使います。」


大量の短い棒のようなものを出してきた。


なんとなく見覚えがあるなと思ったら、麻雀の点数棒がとても良く似ている。


私は麻雀は全然やらない。好きな人は好きみたいだけど、なんか時間がもったいなくて。

実は、私が高校に入る前ぐらいに、お父さんが、私と妹とお母さんの4人で麻雀をしたいと言い出したことがある。

あれは、家族麻雀をしたかったんだろうな。

妹が小学校6年生で、計算がそこそこ出来ると思ったんだろう。


私と妹は、何回か付き合って、飽きてしまった。それからは、二人ともお父さんの誘いに乗らなくなった。お父さんは、この世の終りみたいな顔をしていたけれど、お母さんに慰められていたな。


これ以上無理強いをすると、娘達に嫌われますよとかなんとか。


その時に使った、点数棒みたいなのを沢山出してきたんだけれど、さっきの円盤と同じで、赤、青、黄色に塗り分けられている。


もう、見ただけで、何をしようとしているかは丸解りだったんだけど。

明日は魔法を教えてもらわないとならないので、付き合って説明を聞いていた。


案の定、点数棒を数えて、足すときには、纏めて、12本になったら、別の色の点数棒と取り替えて……。


まあ、最後まで付き合いましたよ。結果は解ってました。


「かけ算の場合はどうなるのです?」


「それは、足し算を繰り返して計算します。」


「ウノデイル ノナとテトラデイル ペンタを掛ける場合は?」


それは、といって演ってくれたことは、(19×45 = (10+9)×45 = 10×45 + 9×45)だったよ。


10×45のところだけ、45の点数棒を上の色に置き換えて、後で足していたな。


なるほど。これは大変だ。筆算の方が早いね。絶対。


ただ、数字の表記方法があれだと、こうなっちゃうんだろうなぁ。


どこかで数えまちがえたら、とんでもない事故になってしまいそうだよ。


割り算の方法を聞こうか迷ったんだけど、やめておいた。


説明を聞くだけで疲れそうだったから。


とにかく判ったことがある。この世界の人は、数にとんでも無く弱いんだ。

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