表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
138/368

W2.マリム大橋

お母さんが、まさかのオネダリをしてきた。


「ユリアおばさん。グラナラって、旧オルシの街の事ですか?」


「そう。領地を貸与されて、今は、グラナラになったのよ。これから、鉄道を使って、色々運ぶことになるんでしょ。

グラナラの海産物とかも、先々はゴムの原料とかも、鉄道でマリムに運びたいのよ。」


話を聞いていくと、今、アトラス領は、増えた領地への対応が急務で、旧オルシ伯爵領のことは、後回しになっていらしい。


一応、共同統治することになってはいる。


ただ、お父さんは、アトラス領の騎士団長の仕事主体で、あまり拝領した所には積極的に動いていない。


お母さんがどうにかしなければと頑張っていたようだ。


ふーむ。仕事第一で、家庭を顧みない夫という、よく有る構図だ。


お父さんも、アトラス領がやたらに広くなって、アトラス山脈全体を統治することになったから、魔物対策や騎士の配置やら忙しい。


仕方が無いと言えば無いんだけどね。


ゴムの木は、温暖な気候が良いという事で、お母さんは、早くから目を付けていて、今、絶賛植林中のようだ。

ただ、人手が無い。人を送ろうと思うと、馬を使っても移動に何日も掛ってしまう。


旧リシオ男爵領のような廃領地状態よりはマシと言っても、なかなか良い手を見付けることができないでいた。

旧リシオ男爵領のあった場所には、鉄道が通った。

今後発展していく可能性がある。

何よりお茶の木の植林が進んでいる。

グラナラ領の北部は、お茶の木の植林と鉄道で、どうにかやっていけそうだ。


すると、南部をどうするかという事になる。ゴムの木の植林は人手不足で遅々として進んでいない。海産物を大消費地のマリムに輸送しようにも、輸送に何日もかかるため干物ぐらいしか売り物にならない。


「そういう話なら、海沿いに鉄道を通した方が良さそうですね。海産物を運ぶんだったら、『冷凍車』を作った方が良いでしょう。」

アイルがお母さんに応えている。


「レイトウシャ?それは何?」


「食品を冷して、保存するための冷蔵庫って、厨房にあるじゃないですか。あれが、貨車になっているものです。」


「それがあれば、グラナラ領で獲れた新鮮な海産物をマリムに送ることができるのね。」


「アイルとニケには、先日までの長い間、アトラス領北部に鉄道を作ってもらって、それが完成したばかりだ。

そんな状況で申し訳ないなのだが、グラナラ領の為にも、力を貸してくれないか。

これまで、ユリアと少数の文官達だけで、グラナラ領の対応をしていたけれども、中々上手くいってはいない。

なにせ、こっちは、アトラス領への対応だけで、手一杯なんだ。」

アウドおじさんから頼まれる。


その翌日から、お母さんと、グラナラ領の為に働いてくれた文官さん達と鉄道の敷設について話し合った。

海岸線あたりの測量はできていた。これは大きい。


アトラス領の北に向けて鉄道を作っている時には、測量の結果はほとんど無かったので、ひたすら力技で真っ直ぐな線路と電力用の洞道を敷設していった。

駅も、文官さん達の情報だけで、隣接する領地があるところに、適当に作っていっただけだ。

ただ、駅の位置が不都合だったら駅の位置を変えりゃいい。そもそも日本の駅と違って、ヨーロッパや米国によくある様なホーム無しの駅だ。

それに、駅の場所が不都合でも、私達の知ったことでもない。

あとは文官さん達がどうにかするだろう。


漁港がある場所を聞いて、今回は、きちんと駅の位置を決めていく。


ここで、アイルが唐突に、マリム川の河口に橋を作ると言いだした。


「前から、設計はしていたんだよね。それに、マリムも大きくなってきたから、川の対岸の農地からの作物をマリムに運ぶために、橋が欲しいと言われてはいたんだ。

今は、コンビナートの場所までいかないと橋が無いから、態々(わざわざ)北上して運び込んでいたんだって。

コンビナートにある橋は、今は随分と混み合っているらしいよ。

マリム川の河口に鉄道を通せば、コンビナートあたりの物流とも干渉しないんじゃないかな。」


「それは……そうかもしれないけれど、あんなに長い距離、石橋って訳にはいかないでしょ。どうするの?」


「設計した橋は、『吊り橋』だよ。」


そう言って、『吊り橋』の形を絵に描いてみせてくれた。


お母さんも、文官さん達も声が無い。

橋だという事は判っても、見たことのない形の構造物だろう。


私たちだとお馴染の構造だ。


サンフランシスコにあるゴールデンゲートブリッジとかの様な形だ。

また、この世界に有ってはいけないモノの様な気がする……。


皆が吃驚している隙に、日本語で確認していく。


『これ、どんだけ鋼が必要になるのか判ってるの?』


『それも計算してある。今のクロム産出量だと、十分に対応できるよ。』


『クロム?対応って……。ひょっとすると、私が対応するの?鋼じゃなくって、ステンレス鋼で作るの?』


『だって、海沿いだろ。普通の鋼だと、錆びるんじゃない?

それに、領地の鉄の生産を圧迫するのはマズいだろ。

鉄道を敷設するのと同じで、ニケに作ってもらった方が速いし。』


『でも、この橋に列車を通すんでしょ。強度は大丈夫なの?』


『昨日、話が有ってから、強度計算をやり直してみたんだ。元々の設計より、橋脚の太さとか、ワイヤーの太さ、梁の数を変更すれば、余裕で大丈夫だよ。

それに、気象データも取ってあるから、以前襲来した嵐にも余裕だ。』


『だけど、そんな大きな構造物をどうやって組み立てるのよ。

魔法で浮べてたものの上で騎士さんが作業なんて危なすぎるわよ。』


『組み立てる時には、少し工夫が必要だけど、基本的に足場が浮いている状態で作業してもらうつもりは無いよ。

騎士さん達には、先に建てた橋脚で取り付け作業をしてもらう。

ワイヤーの長さなんかの微調整は魔法ですることになるんじゃないかな。』


ふーん。作る気満々だな。


1分の1ジオラマ鉄道模型に吊り橋があるのは、なかなかに魅力的なんだろうな……。

男の子のロマンってやつか?


『まあ、いいわ。お母さんの為でもあるしね。じゃあ、それで、鉄道の経路を決めましょうか。』


経路は、直ぐに決まった。問題は、吊り橋を設置する場所だけだ。


マリム駅から西に進んで、マリム川の手前で南へ。何処かに設置した橋を渡って、あとは、海沿いに鉄道を敷設する。


結局、問題は、マリム川を横断する吊り橋の場所だ。


測量した結果を基に、線路の敷設の容易さと橋の作り易さを考慮して決めた。

これまでの経験があるので、鉄道の敷設は直ぐに出来るだろう。先に吊り橋を作ることにした。


大量のクロム鉄鋼と酸化鉄を橋の建造場所に運び込んだ。


例の如く、岩を沈めていって、土台を作って、その上に、橋脚を作った。

間隔は、400mぐらいだろうか。それを60ヶ所作った。

その上に、橋脚を乗せていく。


流石に、数と量が多いので、1日目はそこで終了した。


翌日、橋脚を見ると、総ての橋脚が海側に倒れるように、斜めに傾いていた。


「アイル。見てよ。なんか、橋脚が傾いているわ。」


「うーん。土台から斜めになっているみたいだな。理由は何だろう。

というより、これだけ大規模のものを作るんだったら、土壌調査しないとダメみたいだな。」


橋脚を総て撤収して、土台だけにした。ステンレスの橋脚は、纏めてステンレスの巨大な塊にした。


一番近場の土台のあたりの水を堰き止めて、土台周辺の川底が見えるようにした。とは言っても、このあたりの水深は深い。魔法で作った厚さ2m、高さ20mぐらいの石壁で周りを囲って、中の水を全て外に出した。


「ふーん。このあたりの川底は、砂地なんだ。水流で、土台の下の海側の砂が流れてしまったんだな。

川底の土壌がどうなっているか調べないとダメだな。

失敗したな。土台の安定性まで考えてなかったよ。」


大規模な囲いを作って、川底の土壌を調べることにした。魔法で川岸の川砂を固めて、岩に変形させて、壁の厚さ2m、直径20mで高さ20mの円筒を作った。

筒が縦になるように川に沈めた。中の水を魔法で除いた。

船を円筒の脇に停め、外壁に階段を作った。階段を登って、円筒の上に登った。

内壁にも階段を作って、川底に降りてみた。

円筒が地面に接しているところから、水が吹き出しているので、水を凍らせて、水が吹き出ないようにした。


川底の地面は、大量に水を含んだ砂地だった。


「なんか、砂だらけだね。」


「そうだな。この砂は、どのぐらいの深さまで砂なんだろうな?」


地球で、ビルを建てる時には、鉛筆みたいな形のコンクリートの杭を打ち込んでいたような気がする。あれは何だったんだ?


『ねぇ、アイル。地球で、ビルを建てるときに、コンクリートの杭みたいなのを打ち込んでたじゃない。あれって何だったの?』


『あぁ、それはコンクリートパイルだな。地盤が弱い所や、高い建物を建てる時の土台を作るのに使うんだよ。

オレも、そんなに詳しくないけど、多分岩盤みたいに硬いところまでコンクリートパイルを打ち込んでたんじゃないかな。』


『ここでも、それをした方が良いの?コンクリートが必要?』


『いや。コンクリートは要らないよ。この砂を固めて岩にしちゃえば良いから。でも、どうしようかな。岩盤までどのぐらいの深さが有るのか分らないし、水だらけだからなぁ。』


そうだね。水を取り除いたはずなのに、地面からじわじわと水が出てくる。水圧で、砂を通して水が浸み出てくるんだろう。

水をどうにかして、あとは、砂を掘っていく?


あっ、これだと上手く行くかも。


『ねぇ。アイル。私が水や塩分を魔法で取り除いていくから、残った砂をアイルが、この円筒の塊の内側や下に固めていくのはどうかしら。そうしたら、岩盤のところまで、この円筒を下に伸ばしていけるんじゃない?』


『なるほど。それだったら、上手くいくかな。ただ、深くなるにつれて水圧が増えるような気がするな。中で作業すると危なそうだから、一旦上に登ろうか。』


私達は、円筒形の構造物の上に戻った。これからは、アイルと共同作業だ。私が塩を含んだ水を取り除いていくのに合わせて、アイルが底の砂を円筒形の内壁に固めつつ、円筒を下に伸ばしていく。


砂の層は厚かった。だいたい、30mほど掘り進んだところで、砂礫の層になった。その後も、同じ作業をしていったら、50mぐらいで、円筒の底が硬い岩になった。

もう、水が滲み出てくる事もない。


『随分と砂や砂礫の層は深かったな。でも、これで、頑丈な土台が出来るんじゃないかな。』


アイルは、川岸で塊にしてあったステンレスで柱を作って、この円筒の中に設置した。その後、円筒の岩の塊を、川の流れに合わせて流線型の形に押し潰して固めた。

130mぐらいの高さの鉄の柱が、土台の上に直立している。


その後、8ヶ所の土台をこの方法で作り直した。アイルは、助手さんたちに、柱の先端の位置を測量で正確に測定してもらっていた。


「また、傾いたりすると、マズいから、これはこのままにして、様子を見たいな。

先に、鉄道の敷設の方を先に済ませてしまおうかと思うんだけど、どうかな?」


それは、私も賛成だ。巨大な構造物が出来上がってから傾いたりするのはゴメンだ。


敷設するための資材を運搬するために、コンビナートの西側から、鉄道を分岐させて、川沿いに鉄道を敷設した。


この線路があれば、吊り橋は不要なのではと思ったりもした。


ただ、吊り橋は、人や荷車なども通るようになるので、必要なのは必要なんだろう。


それから、2週間ほどの期間は、海沿いの鉄道を敷設していった。


途中川があったけど、マリム川の河口ほどの幅は無い。

この川は、上流でマリム川が分岐した川だ。

以前は、オルシ伯爵領とアトラス子爵領の境界になっていた。

アイルは、あっと言う間に簡単な鉄橋を作ってしまった。

アーチ状のトラス構造って言うのか?三角形が組合さったものだな。


他の線路の敷設が終ったので、吊り橋の建設を再開する。


アイルが助手さんたちに、柱の先端の位置を測量させた。今度は、傾いたりはしていなかった。


残りの52ヶ所の土台を作るのに4日掛った。最後には、大分慣れたものの、やはり手間は手間だ。それなりに時間が掛る。


結局、どの場所でも、岩盤まで川底から50mぐらいの深さがあった。


ようやっと、全ての土台に橋脚が立った。


ここから先は、アイルと騎士さん達の仕事だ。私は、素材が不足した場合の補充要員だ。


この頃には、領都から沢山の人達が川辺に見学にやってきていた。アウドおじさんや、お母さん、グルムおじさんも、視察に何度も訪れていた。


橋桁や、それを固定して吊り下げるためのワイヤーの設置などをしていって、1週間ほどで、吊り橋は完成した。


橋桁は2段になっていて、下の段は人や馬車が通る。上の段には鉄道の線路を敷設した。橋を通る線路と川の側まで敷設していた線路を継げて、グラナラへ向う鉄道は完成した。


その後、アイルと助手さん達は、吊り橋に吹き付ける風の速度と、橋の歪みや揺れを測定していた。

設計通りになっていると言っていた。嬉しそうだった。


ふふふ。よかったね。


吊り橋の安全確認が終った。


一番列車がグラナラに向けて、走ることになったとき、吊り橋の脇で、祝賀式典をすることになった。


また、例によって、線路脇の広場に、テーブルを並べて立食パーティだ。


アウドおじさんが、ちょっと高くなった場所に立つ。フローラおばさんが、拡声の魔法を使っているらしい。


「もう皆が知っていると思うが、この度、アイルとニケのお陰で、アトラス道が運行することになった。

当面は、北に向うアトラス線と、途中で分岐して海まで延びているミネア線、そして、グラナラ子爵領のグラナラへ向うグラナラ線で運行する。

最後のグラナラ線が完成し、マリム川の新しい橋が完成した。

このマリム大橋は、これまで、大陸のどこにも無かった、鉄で出来た巨大な橋だ。

橋の上段には鉄道が通り、下の段は人や馬車が通行できる。

これまで、北部のコンビナートを経由しなければマリム川を渡ることができなかったのだが、マリムの近く、河口に橋が出来た。

これで、西への移動や物流が画期的に便利になる。

領都の皆と完成を祝いたいと思う。」


その後、乾杯になって、式典が開始された。

集った人たちは、マリム大橋を実際に渡ってみたりしている。


上空に掛っている橋から、下を覗き込んでいる。

こんなに高い場所から下の川面を覗き込むことは、普通は無いだろう。


川幅は、20km、橋の長さは、25kmほどあるので、歩いて渡るだけで、2とき(=4H)以上掛る。

皆、それほど奥までは行かずに、途中で戻ってきて、見て来たものを口々に感激とともに語り合っていた。


式典の最中に、汽笛を鳴らしながら、一番列車が橋を渡っていく。沢山の貨物車両の中には、多くの冷凍車両が繋がっている。

グラナラの港で獲れた魚介類を積んで戻ってくる予定の貨物車両だ。


列車は、80km/hぐらいの速度を出しているけれど、列車ですら、この橋を渡り切るには1/6時(=20min)の時間が掛る。

地球でもこれほど大きな橋は、そうそう無かったかもしれない。

アトラス鉄道グラナラ線の路線図を「惑星ガイアのものがたり【資料】」のep9に載せました。

URL : https://ncode.syosetu.com/n0759jn/9/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ