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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
135/368

NW.お茶会

王都からの使者が帰って、少し経った頃、セアンさんが大量の葉っぱを研究室に運び込んできた。


あっ。お茶の葉だ。


いつの間にか、季節は春を過ぎていた。

相変らず色々有り過ぎて、お茶のことは、完全に忘れてた。

去年、セアンさんに頼んでおいたのは正解だったな。


それから、急遽、助手さん達、付いてきていた侍女さん達、護衛の騎士さん達、セアンさんとそのお手伝いの人達、総出で、お茶作りに邁進した。


セアンさんは、緑茶が好みだったな。

でも、お母さんたちと飲むんだったら紅茶かな。


配分をどうしようか。とりあえず、緑茶を1に対して、紅茶を5ぐらいにしておこうかな。


茶葉を水でよく洗って水を切る。


ここまでは、緑茶も、紅茶も同じ。綺麗に洗うのは基本だね。


紅茶は、この後、葉っぱを萎らせるために置いておく。空いている部屋の床に紙を敷いて、葉が重ならないように並べた。

これは、このまま、明日の朝までかけて萎らせていく。


その作業が終わったあと、緑茶を作ることにする。


まず、茶葉の中にある酸化酵素を失活させるために加熱する。

150℃ぐらいに温度を上げたホットプレートの上に、水をよく切った茶葉を広げ入れて、薬匙を使って、混ぜながら炒めるようにする。

シオシオしてきたら、広げた厚めの紙の上に広げて、押し潰さないように柔らかに揉む。

この段階では細胞をなるべく壊さないようにするのが肝心。


しばらく揉んでいると中の水分が外に出てきてペタペタ手に付くようになるので、この水分を飛すように再度ホットプレートの上で加熱する。


そして再度揉む。

そしてホットプレートへ。


これを繰り返す。水分がだんだん無くなってくる。

揉む力も少しずつ強くして、中に籠っている水分を押し出しながら、揉む、乾かす、揉む、乾かす、揉む。


最後は、ポキンと折れるぐらいなって完成。

残っている茶の葉も処理して、全ての葉っぱが緑茶になった。


結構な量の緑茶が出来た。


半分をセアンさんに渡す。セアンさんは、量が多いと断わってきたけど、セアンさんが居なかったら、お茶のこと忘れたままだったから、感謝で一杯なんだよ。


それに、セアンさんは、緑茶が好きだったからね。


セアンさんの提案で、セアンさんに渡した茶葉でお茶を煎れることになった。


フラスコでお湯を沸かして、少し冷ます。


ビーカーに茶葉を入れて、お湯を注ぐ。底に綿を詰めたロートに色付いたお湯を流した。


出来上がったお茶を皆で分けて飲んだ。


あぁぁ。香りが良い。去年作ったものとは雲泥の差だよ。

新茶は美味しいね。


セアンさんは、あまりの香りの良さに、絶賛していた。

手伝ってくれた人たちにも好評だった。


うーん。茶器が欲しいよね。

アイルに頼んで作ってもらおうかな。


アイルに夕食の時、ティーポットや急須が欲しいとお願いした。


『えっ。お茶でも煎れるの?』


『そう。お茶が出来たのよ。明日は紅茶を作るの。』


『へぇー。それって、本当にお茶なのか?』


『本物よ。お茶の木を見付けたんだから。』


『えーと。ティポットと急須だけで良いのか?

ティーカップとかソーサーとかも必要なんじゃないの?

あと湯呑みとか?』


『あっ。そうね。そういうのも必要だわね。お願いできる?』


『ああ。良いよ。急ぎの用事は、戦争が終って無くなったから。

明日、研究室で良いか?』


『お願いね。』


翌日


紅茶の製造を開始した。

一晩置いて、シナシナになっている葉っぱを揉む。

あまり力を加えてはいけない。


葉の内部に残っている水が染み出てきたところで停止。


この後、発酵させる。


ふっふっふっ。私のところには、オートクレーブが有る。


普通、オートクレーブは100℃以上の温度で使用するのだが、ウチのアイル製のオートクレーブは、低温設定が可能なのであった。優秀だ。


湿度100%で、温度を27℃に設定して、その中に、揉んだ葉を入れて発酵させる。


そのまま、1ときほど放置してから取り出した。


紅茶葉の発酵を停止するために、ホットプレートの上で加熱する。


この発酵というのは、茶の葉の中にある酵素による分解反応だ。

高温にして、葉の中に含まれている酵素を壊す。


そのまま、ホットプレートの上で、時間を掛けて、水分を飛ばしていく。


緑茶同様、折り曲げるとポキンと折れるぐらいに乾燥させて出来上がりだ。


この作業は、全て、助手さん達と、侍女さん達、騎士さん達に実施してもらった。


幼女の私に、出来る訳ないじゃない。


セアンさんとそのお手伝いの人たちも参加した。


その間、私は、アイルとティーポットや急須や、ティーカップ、ソーサーを作っていた。


本当は白磁にするというのも魅力的だったんだけど、何分にも陶石といった原料が無い。

まあ、石英だったら、熱湯を掛けても割れたりしない。

それに、原料がほぼ只だしね。


まあ、透明で中が見えるのも、面白いだろう。


出来上がった、ティーポットや急須を使って、紅茶と緑茶を煎れてみる。

うーん。風情が……ある。


フラスコとビーカーもなかなか乙だけど、こっちの方がずっと良いね。


うーん。いい香りだ。


セアンさんは、昨年の紅茶を知っているので、今回の紅茶の香りに驚いていた。


「若い葉から紅茶を作ると香りが深いですね。」


ん。緑茶派から、紅茶派に鞍替えしたのかな?


なんか気に入ったみたいだったので、緑茶と同じぐらいの紅茶をセアンさんに差し上げることにした。


なんか、凄く恐縮されたんだけど、これ、セアンさんが育てている茶の木の葉だからね。その上、葉っぱを収穫してくれたのは、セアンさんだから。


アイルは、紅茶に砂糖をたっぷりと入れて飲んでいた。


ほう。アイルは紅茶は砂糖を入れる派なんだね。

私は、ストレートだよ。


緑茶と紅茶の製造が上手くいった。


よーし。これからが本番だ。


私は、領主館の厨房に依頼して、明日の午後に、クッキーやケーキの準備をお願いした。

最近は、ケーキもチーズケーキやパイ、ミルフィーユっぽいものまで、多種多彩になりつつある。

うーん。この紅茶に合うのは、ベリーのタルトかな。パイ生地で作ってもらおう。


あとは、侍女さんに、紅茶の煎れかたをレクチャーする。


夕食の時に、フローラおばさん、お母さん、ナタリアおばさん、セリアさんに声を掛ける。

「明日の5刻に、クリスタルパレスで、『お茶会』をしましょう。」


「あら?ニケから、お誘いって珍しいわね。オチャカイって何なの?」とお母さん。


「ふふふ。明日のお楽しみですよ。」


「あら、まあ、何かしら。じゃあ楽しみにしてますね。」


翌日になった。


今日は、勝負の日だ。

この世界で、初になる、貴族女性による貴族女性の為のお茶会の日だ。


私も目出度く、子爵令嬢になったからには、お茶会の主催は義務であり、嗜みなのだ!


天気は良い。

アイルに聞いたら、気圧は高めで、今日は一日天気が良いらしい。

風も、微風で、周辺の観測点でも同様。

今日は一日、おだやかな日になるだろうと言われた。


よっしゃぁ。


厨房に寄って、準備の具合を確かめた。よしよし。ケーキは上手く出来ている。

クッキーも沢山準備した。


侍女さんにお願いして、クリスタルパレスの脇に、丸テーブルを準備してもらった。

流石にクリスタルパレスの中は、暑くて、お茶を楽しむ事ができない。


ただ、周りは、初夏の花々が綺麗に咲いている。


アイルに頼んで、アルミニウムで日除けの大きな傘を作ってもらった。ビーチパラソルみたいなものだ。傘に布を張って、ほどよく日差しを遮ってくれる。


5刻(=午後2時)になった。


ご招待した、お母さんたちは、一緒にクリスタルパレスまでやってきた。


「あら、何か、素敵ね。これで、日陰になるのね。」とフローラおばさん。


「今日は、新しいケーキが出てくるんでしょ?」とセリアさん。


席に案内して、私も座る。侍女さんに手伝ってもらった。


うーむ。この面子だと、私だけお子様だな……。


「今日は、お茶会にいらしていただいてありがとうございます。

では、お茶会を初めましょうか。」


その私の言葉で、侍女さんたちがキビキビと動きだす。

ゲストの前に、クッキーの大皿を出して、ベリーのタルトを切り分けて出す。


そして、紅茶も。


「あら、ジュースじゃないのね。」とお母さん。


「そうね。この琥珀色のものは何?」とナタリアおばさん。


「これは、お茶です。お茶を飲むので、お茶会です。」


「不思議な感じね。これは、暖かな飲み物という事?」とフローラおばさん。


「そうです。冷しても良いんですけど、今日は、熱い紅茶にしました。

少しだけ苦みもありますから、苦味が苦手でしたら、砂糖を入れて甘くしても良いです。

でも、ケーキが甘いので、私は、このまま飲むのが好きなんですよ。」


そう言ってから、私は、クッキーを齧りながら、紅茶を頂く。


うーん。クッキーと紅茶が良く合う。


フローラおばさん、お母さん、ナタリアおばさん、セリアさんは、戸惑いながら紅茶を口にする。


「あら、いい香りがするわね。」とフローラおばさんが言う。


そうでしょ。お茶の香りって良いよね。


「ニケ。これは何なの?」とお母さん


それから、このお茶誕生の秘話を説明する。


レペの木が私の記憶にある茶の木と良く似ていたこと。

お茶がレペと呼ばれる木の葉を加工して得られること。

加工そのものは、誰でも出来ることなどだ。


こういう情報交換も、お茶会の大事な要素だ。


「こうやって、お茶を飲みながら、お菓子を食べて、情報交換するのがお茶会なんですよ。

お代りが欲ければ、言ってくださいね。

お茶は、糖分等が無いので、お代わりしても大丈夫です。」


だんだんと、奥様ズの目の色が変っていく。


えっ?何事?


「この飲み物は、神の国でも飲まれていたの?」


「レペの木というのは、生垣に使っている冬に白い花の咲く木のこと?」


「レペの木の生育条件は?」


「お茶を煎れるには、あの様な形の容器が必要なの?」


「お代りしても、太ったりしないの?」


質問責めに会った。

なんか、圧が凄いのですが……。


えっと、お茶会は、優雅に、貴族女性の恋バナとか、人気の催しものの情報交換とかするのでは……。


何度目かの、お茶のお代わりの後、聞きたいことを聞き終えたらしい、ご婦人ズはこの場を去っていった。


セリアさんだけが残って、残り物のケーキとクッキーを食べていた。


何が起こったのか、全く理解できなかった。一体何事なのだ?


セリアさんが、満足して席を立ったのに合わせて、お茶会を終了した。

これは、失敗だったんだろうか……。


お茶には満足していたみたいだったんだけどな。


4日ほど経った夕食の時、グルムおじさんが話かけてきた。


「お茶を作ったのは、ニケさんだと伺いました。」


話を聞いていると、フローラおばさんや、お母さん、ナタリアおばさんの指示で、旧リシオ男爵領から、オルシ伯爵領の北部に掛けて、レペの木を大量に植栽する事業の検討が始まった。


知らなかったのだけど、領地や家系の予算作成権限を持っているは、ご夫人ズなんだそうだ。

つまり、男性は執行官で決められた予算の範囲内で活動する。

予算の決定権は女性だ。

財布の紐は、奥さんが握っていたんだ。


負債にしかならない資産が発生した場合に、それに対処する予算を決定するのは、領主夫人の責務。


ウチも、土地有り貴族になったことから、資産管理を強化しなきゃならない。

ところが、もらった領地は、没落の一途を辿っている。


お母さんは、旧オルシ伯爵領の南部で、温暖な条件を好むゴムの木を育てることを文官達に検討させていたみたいだ。


問題は、旧オルシ伯爵領の北部と、旧リシオ男爵領だ。


麦などの一般的な穀物を育てるにしても、農業従事者を集めなければならない。

他で生産しても変わらない作物を、態々人が居なくなった土地で作ることは無い。


となりのアトラス領の方で農作業した方が、消費地にも近くて良いにきまっている。


もう、あきらめて、不良資産は不良資産として、投資しないで塩漬にするしか無いと思っていた。


何か金を生み出す特産品を考えなければ、発展する事のない不良資産のままだ。


そんな時に、私がお茶の事を伝えた。


旧リシオ男爵領から、旧オルシ伯爵の一帯は、南に下っている丘陵地帯だった。

茶の木、ここではレペの木は陽樹なので、日当たりの良い場所を好む。

レペの木を栽培するのに、かなり適している。


そして、誰も知らないお茶の作製方法。その上、魔法は要らない。

そんな美味しい投資案件が目の前に出てきた。


そういう事らしい。


そして、御夫人達は、夫人達だけで会話が出来る演出を渇望していた。


お客様が来ても、食事の時に会話するしかない。

その時には、夫が居て、女性だけの話はなかなかできない。


男性は、仕事の話の時にも、食後の酒の席でも、互いに秘密の話ができる。


女性も食後に女性だけで話をすることもできるが、飲み物のジュースか水しかない。

何度もお代りをするのも、お代わりを勧めるのも、なかなか難しい。

すると、必然的に、ゆっくり話をするのが難しい。


私が作ったお菓子類やお茶は、そういった御夫人達に、絶大な支持を受けると直感的に判ったみたいだ。


どこをどう見ても、国中の御夫人達に流行るだろう製品が爆誕していた。


そうか……。話を聞けば聞くほど、居ても立ってもいられくなっていったんだ。

なるほどね。


まだまだ、この世界の事は、知らない事だらけだな。

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