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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
132/368

N8.戦勝報告

まずは、戦勝の報告を無線機で王都にしておくか。


「あー。ソド・グラナラであります。先程、ノルドル王国の王宮は陥落しました。

現在、王族を順次捕えているところです。」


「ソドか。まずは、良くやった。

ところで、国王と宰相を捕えたのは、誰であるかな?」


げっ。舅殿が出てきた。

なんか、マズい予感がする……。


わが側近達であります。」


「では、質問を変えよう。ノルドル王国近衛騎士団長を倒したのは、誰であるかな?」


完全にマズい。誤魔化しても、誰かがチクるのに決まっている……。いや。既に誰かがチクっているぞ。これは。


「……ノルドル王国近衛騎士団長のリゾオ・コンタンゾ殿を打ち取ったのは、私であります。」


「ほぅ。それは、それは、大層な武功を上げたな。ところで、お主の軍での役職は何であったかな?」


「はっ。司令官であります。」


「ほぉ。軍の司令官の業務に、敵の首級を上げるというものが有るとは知らなかった。何時から、軍規がその様に変わったのか、教えてもらえるかな?」


「……。」


「おや。ツウシンキの具合が悪いのかな。声が聞こえないが?」


「いえ。その。あれは、偶然と言うか、何と言うか……。」


「なるほど。国王や、宰相や、近衛騎士団長が、敵の軍の司令官の前に偶然やって来たと。そう言うのか?」


それから、四半時ほど、くどくどと、軍司令官の職務についての薫陶くんとうを頂くことになった。


通信機は、軍の運用には、この上もなく便利なものだ。

ただ、舅殿達の事を考えると、始終監視されている様で、何とも居心地が良くない。


あれは本当に偶然の事態だった。


王宮に、攻め込み、探索を開始した際に、オレは、王宮内で、部下達の差配をしていた。

その時、目の隅に、一瞬だけ、瀟洒な身形みなりの男を庇うように移動している一団を見掛けた。差配もそここそに、その一団を追い掛けたところ、それが当りだった。

こういった、宮殿には、万一の場合に、高貴な人を逃すための抜け穴が作られていたりする。

そういった処に逃げ込まれると、探索に苦労するのだ。


だから、偶然というのは、嘘でも偽りでも無いのだが……。それが司令官の仕事かと言われれば、反論できない。

司令官が、万一討たれたりしたら、攻勢が劣勢に変ってしまう事など良く有ることだ。


そういう意味では、ニケとアイルが、オレの為に作ってくれた剣には感謝する他ない。


コンタンゾとの戦いは、どちらが勝っても不思議では無いほどに、力が拮抗していた。敵の剣が砕けなければ、こちらが殺られていたかもしれない。


その日、王族や高級文官達を全員捕縛するのに、かなりの時間が掛った。

王宮は広く、それらの者達は、至る処に隠れ潜んでいた。


全員を捕縛し終えたのは、その日もかなり遅い時刻になった。

その際に、電気の照明は、王宮の中を昼の様に明るくする事が出来てとても役立った。


その翌日。ガラリア王国王宮からの命令で、それらの者達を装甲車で王都ガリアに移送することになった。


南部での戦闘は、ノルドル王国王宮が陥落した事を触れ回り、敵の武装解除を勧告していると無線機で聞いた。

多分、敵には、情報が伝わっていない為、そうは簡単に行かないだろう。

とは言え、ノルドル王国がノアール川の国境を侵害した事から始まった一連の戦争は、これで一段落だ。


ノルドル王国の王族や、高級官僚を乗せた装甲車は、高速で王都ガリアへ移動していく。4日目には、ガラリア王国の王宮に辿り着いた。


王宮に到着して、虜囚りょしゅうを騎士団に引き渡す。ここから先は、オレの仕事ではない。

これまでの経緯を報告すれば、アトラス領に帰って、あの可愛いニケやセドに会える。

やれやれだ。

マリムを2ヶ月以上離れていたな。2ヶ月もニケに会わなかったのは、初めてのことだ。


帰着の報告を求められ、王宮の謁見室に呼ばれた。

謁見室には、国王陛下、宰相閣下、舅殿の他に、4人の侯爵、多くの伯爵が揃っていた。


「おお。ソド。来たか。随分と活躍したようだな。」

入室してすぐに陛下に声を掛けられた。

これは、少々ヤバい感じがする……。


それから、報告を促されて、ノルドル王国侵攻の経緯と、捕縛したノルドル王国の王族、高級文官達の内訳を伝えた。


「すると、ノルドル王国の近衛騎士団長以外は、総て生け捕りにしたということだな。

この短期間に、想像以上の成果だ。」

宰相殿だ。


近衛騎士団長を生け捕りなど、出来る訳がないだろう。


どうやら、オレがコンタンゾ殿を打ち取った事が、完全に、伝わっているようだ。

無線機がある。当然と言えば当然だ。


「娘のニケも、息子のセドもあの歳で、魔法が使えるらしいな。

羨しいことだ。

特に、孫娘のニケは、大魔法使いで伝説の魔法を使いこなしていると聞いているぞ。」

舅殿だ。


ん。何故、ここで子供達の魔法の話になる?


「今回の成果は、アトラス領で新たに作られた不思議な道具によるものだ。

無線機にしても、雪上車、いや装甲車と呼ぶのか?にしても、鉄の武具、高速で移動する船、耐寒の服、電気という不思議な事象での照明や暖房。

数え切れない数々の物の威力だ。

これらは、其方の娘のニケと、儂の孫のアイルが作ったものらしいな。」

今度は、宰相閣下だ。


何故、子供達の話になっているのだ?


「ソド。そう困惑顔をするな。別にお主にとって、悪い話をしようというのではない。

本当にアウドやお主、その子供であるアイルやニケに感謝しているのだ。」

陛下から、お褒めの言葉を頂いた。


「はっ。ありがたき御言葉であります。」


「それでだな。今後、ノルドル王国の地は、我が王国のものとなる。

ただ、全てを国王直轄地にするには、少々大きすぎる。

領地には、魔法使いの領主が必要になる。

今後、論功行賞をするのだが、事前に、アウドやソドの希望を聞いておきたいと思っていたのだ。」


周りに居た、領主貴族たちがざわめいている。


今回のノルドル王国征伐の主力は、北部から攻め込んだ、ガラリア王国軍とアトラス領軍の混成軍だ。

南部からの軍勢は、ある意味、陽動のための軍隊だった。


論功行賞となると、アトラス領が首功になる。


その所為で、周りの貴族達は、ざわめいているのだろう。


しかし……。


確かに、ニケは言うまでもなく、セドも魔法使いなのだ。そうなると、わがグラナラ家は、魔法使いを輩出する家門になった。領地貴族になる道もある。


しかし、グラナラ家は、代々アトラス家の譜代の騎士だ。我家系わがかけいの祖のモナド・グラナラの意思もある。


どう、応えるべきなのか……。


迂闊うかつだった。こうなる事は、想定できたはずだ。事前にアウドやユリアやニケに相談しておくべきだった。


「我グラナラ家は、東部大戦の後より、アトラス家の騎士の家系。そのままアトラス家の騎士でありたいと願っております。

もし、我が家が領地を拝領することがあったとしても、アトラス家に寄り添える場所であって欲しいと願います。」


「左様か。分った。そう言うと思っておった。此度の戦功には、しっかり酬いなければならん。本当に大義であった。」


陛下のそのお言葉に、周りのざわめきが、さらに大きくなった。

陛下、宰相、舅の近衛騎士団長が退席した。


とりあえず、これで良いのだろうか?


周りに居た貴族達から、戦勝祝いの言葉をもらった。

ただ、今後の事を考えると、少し気鬱になってくる。

一体、この後、どうなるのだ?


その日は、時刻も遅くなったので、諸事は翌日回しにした。


王都に来ないと会えない親しいヤツ等と会おう。

嘗ての同僚で、今はオレの後釜として現近衛騎士団副団長をやっているロス・ギウリオと、王国騎士団に所属している弟のシンド・グラナラを誘って、王都の街に繰り出した。

妹のジュリエッタも舅殿のところで侍女をしているのだが……誘わないのが良さそうだ。


「これで、兄さんも、領主様ですかね?」


「アトラス家も陞爵することになるんじゃないかな?」


二人は、勝手な事を言って、囃し立てている。

そんな、どうなるか分らない事を酒の肴にするなよ。

とは言ってもムリだろうな。


ひとしきり、今回の戦争の論功行賞についての話題で盛り上っていたが、アウドとオレが何かを貰うんじゃないか、という以上には何も分らない。

しだいに、話が堂々巡りになって終った。


「兄さんの剣は、不思議な色をしていますね。これは銀では無いんですよね。」


「そうそう。オレも気になっていたんだ。この剣は、どうして銀色をしているのだ?」


「これは、娘のニケが素材を作って、アイルが剣に仕上げてくれた特別製だ。

ニケが言うには、鋼より硬くて、錆びない金属だって話だ。」


「えっ、この剣は錆びないのか?じゃあ、手入れをしなくても良いのか?」


「いや、汚れが着くと錆びると言っていたな。汚れたら石鹸で洗えって。」


「油を塗るんじゃなくて、石鹸で洗うのか?油を落すってことか?不思議な剣だな。」


「兄さんは、いいなぁ。叔父さんのオレにもプレゼントしてくれないかなぁ。」


そう言えば、シンドの二人目の、娘のセレドは、ニケと同い年だったはずだ。


「そういえば、お前の娘のセレドは、ニケと同い年じゃなかったか?

可愛い盛りだろう。うちのニケも可愛くてなぁ。」


「いやいや、兄さんのところの、ニケちゃんとは比べないでくださいよ。ウチのセレドは、いたずら盛りで、スネたり、怒ったりで、親の言うことなんか、何も聞いちゃいないですよ。」


「ニケさんて、あのニケさんですよね。幼女なのに、鉄やガラスや紙を作ったって噂の。」


噂になっているのか?あまり公表していない筈なのだが……。


「おい。そんな噂があるのか?」


「ええ。商人達の間では有名ですよ。最近王都の商店も、マリムから、様々な商品を持ってきていますから。

領主の幼ない息子のアイルさんと、騎士団長のやはり幼い娘のニケさんの話は、噂話としては有名なんですよ。

ただ、信じているのは、半分も居ないでしょうね。まだ、5歳になったばかりだってところで、殆どの人は、ホラ話だと思ってしまいますから。

そもそもソドの娘だってところでナイなと思ってたんですけどね。」


「何だと、ニケは凄いんだぞ。その上可愛い。」


「そうそう、国王陛下も礼を言っていたって噂になってましたね。今回の、進軍だって、二人が作った……」


シンドの話が、ニケとアイルが作り出した兵器に及びそうになったところで、ロスが口に手を当てて、口をつぐむような仕草をした。


「その話は、ここではご法度です。」


そうだな。鉄やガラスや紙ならまだしも、装甲車や空気銃の話は、こんな飲み屋で話して良いものじゃあない。


それからも、領都マリムが、どんな具合に変わったのかを二人は聞きたがった。特に、シンドにとっては、生まれ故郷の話だ。


話はなかなか尽きなかった。

深夜まで、飲んで、二人と別れた。


翌日から、真面目に報告書を作っていた。概要が纏まったところで、残りは、同行した王国騎士達に丸投げした。


もう、御役御免でも良いだろう。舅殿に、マリムに戻りたいと伝えたら許された。


これで、ニケやセドやユリアに会える。

マリムからやってきた小型船に乗って、ようやっとマリムに帰った。

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