N5.無線会議
アイルと私が、無線機のある会議室に戻ってきたときには、未だ、国王陛下たちは、無線機の前には居なかった。
アイルと私には、色々ややこしくなるから、その場に居ても、声を出さないようにとアウドおじさんとお父さんに言われた。
舅達が、孫の声を聞かせろと言い出すと、会議が会議じゃなくなってしまうんだそうだ。
それから程なくして、スピーカーから声が聞こえてきた。
「ソド・グラナラ元副団長、ご無沙汰しております。ロス・ギウリオです。聞こえていますか。」
「おう。ロス。久しいな。良く聞こえている。準備は整ったのか?」
「はい。今は国王陛下、宰相閣下、近衛騎士団長が揃っておられます。」
「アウド・アトラスであります。国王陛下には、この様な形でお伝えする事をご容赦いただきますようお願いいたします。」
「ああ、良い良い。このムセンキというものが王宮に運び込まれたという事は、ノルドル王国が攻めてきたという事なのだろう。
それで、今の戦況はどうなっているのだ?」
おっ。これが国王陛下の声なのか。なかなか渋い声をしているなぁ。
「それが……ですが……既に撃退しております。」
「なに?ノルドル王国は、寡兵にて攻めて来たという事なのか?」
「いえ。敵の総数は、d3,900 (6,480)人と大軍でありました。」
「おい、アウド。嘘を言うものではない!
こちらの兵は、d300人程度と聞いているぞ。
この短い時間に、その人数で、大軍を打ち破ったと言うのか?」
「おっ、お義父さん!……失礼致しました、宰相閣下。嘘など申しておりません。
ここに、ダムラック司教が居られます。司教猊下から、戦闘の経過を説明していただきます。」
おっと。こちらは、宰相閣下か。アウドおじさんは……逃げたのか?何となく怖そうな人みたいだな……。
「司教を勤めております、ヘントン・ダムラックと申します。慎しんで、今回の戦闘経過をお伝えいたします。」
それから、ダムラック司教は、開戦時からの経緯を説明していった。
「それは、神殿の正式な記録という扱いになるのですかな?」
国王陛下が、ダムラック司教に問い掛ける。
「はい。私は、開戦当初からの無線通信を全てこの耳で聞いております。
今お伝えした内容は、その無線通信で話された内容の記録となります。」
「つまり、ノルドル王国は、停戦で合意した協定に反して、我領土を侵害したということですな。」
「はい。陛下。残念ながら、ノルドル王国は、協定に反したことになります。」
「そうですか。司教猊下、ありがとうございました。」
「おい!ソド。1時ほどの間に、dN00 (=1440)人もの敵を倒したとあるが、容易には信じられぬ。こちらは、たったd300(=432)人ではないか。
これが、鉄の剣の威力なのか?
その上、こちらの被害は皆無と言うではないか。
一体どうなっているのだ!」
おっ。第三の人が出てきたけど。ん。これは近衛騎士団長かな?するってぇと、私のお祖父さんなのか?
「こっ、近衛騎士団長殿。こ、今回の戦いでは、殆ど剣は使っておりません。
実は……雪上車という道具がありまして……」
うーん。お父さん、相当にビビっているな。
ふむふむ。やはりお祖父さん達には、アウドおじさんも、お父さんも敵わないのか。
しかし、この説明、相当に難しそうだよな。
相手の兵を轢き殺してやっつけちゃいました。
なんて、意味不明だよね。
それから、二人は、シドロモドロになりながら、国王陛下やお舅さん達に説明していたけれど、これは時間が掛りそうだ。
そもそも、今回の戦闘で勝利したのは、アイルが作った、有り得ない機械の所為だからね。
まっ。勝ったんだから、面倒な説明をしなきゃならないとしても、叱られるような事じゃない。
お父さん達ガンバレー。
長引きそうだったので、私とアイルは、途中で抜けて、夕食を食べて寝た。
翌朝になった。
また、新しい花が花瓶に活けてある。
今日の花も綺麗だ。
朝食を食べに行ったら、アウドおじさんと、お父さんが居た。
二人とも目は赤くなっていないから、久々にちゃんと寝たんだね。
ただ、二人ともに疲れ切った表情をしている。
「昨日は、何時まで、会議だったんですか?」とお父さんに聞いてみた。
「9刻過ぎまで掛った。なあ、王都と、ここでは時刻が違うみたいなんだが。何故か分るか?」
ああ、時差があるんだね。どのぐらい時刻が違うのかを聞いたら、1時と4刻ほど違っていたらしい。当然こっちが東なので、時刻は先に進んでいる。
「前に、アイルがこの大地の形の説明をしたでしょ。西の方が時刻は遅れるのよ。
ねっ。アイル。」
あとは同席しているアイルに説明を振った。
昨日、一通り、戦法についての説明をしたんだそうだ。
ただ、結局解ってもらえたのかどうかは分らなかったみたいだ。
王都の方で、8時(=午後8時)になったので、会議は翌日に持ち越すということになった。
その時、マリムでは、9時4刻(=午後10時40分)だったので、時刻が違うという事に気付いたんだって。
「それで、今日は何時から会議なの?」
「王都で、2時(午前8時)からという事になった。だから、3時4刻(午前10時40分)あたりからだな。
早めに軽く昼飯を食って、会議に参加することにするよ。」
「今日の会議も、昨日の説明の続きなの?」
「いや。もう、流石に昨日の話の繰り返しは無い。今後、ノルドル王国をどうするかというのが議題だ。
興味が有るんだったら同席しても良いが、昨日と同じで、発言はしないでくれ。」
この世界の人たちが、どんな考え方をするのか興味はあるな。
特にやる事がある訳じゃないから、参加するのも良いかもしれない。
ふーん。でも、午前中は時間があるんだね。
あっ。その時間に、昨日の空気銃の試射を騎士さん達にしてもらうのが良いかもしれない。
「ねぇ。アイル。午前中に、昨日の『空気銃』を騎士さん達に使ってみてもらったらどうかしら?」
「あぁ。そうだな。使うのは騎士さん達だから、意見を聞いた方が良いかな。」
「おい。ニケ。そのクウキジュウというのは何だ?」
あっ。そうそう。騎士さん達を借りるんだったら、お父さんに説明しておいた方が良いな。
アイルと二人で、昨日作った空気銃について話した。
敵を殺害をしないで、無力化をすることを目的にした武器を作ったと説明した。
お父さんと、アウドおじさんは、興味津々だった。
昨日の舅さん達への説明で、相当溜っているのかもしれない。
気晴らしになるんだったら良いかな。
お父さんには、成る可く器用な騎士さん達を選んでもらった。
試してみるのは、研究所の1階だ。ゴム弾を撃つと散らばるので、閉鎖された空間の方が面倒が無い。
騎士さん達には、狙いを定めて、人型の模型に弾を撃ってもらった。
アイルは、照準と着弾位置の調整をしている。
「なあ、ニケ。これは、人に向って撃つんだよな。だったら、オレに向けて撃ってみてもらえないか?
威力がどの程度あるのか、これじゃ分らない。」
「えっ、でも、危ないよ。」
「いや。危いぐらいの威力が無いと使い物にはならない。
おい。アイル。オレが人型の処に立つから、オレを狙って撃ってみてくれ。」
これは、言っても聞く耳を持たないな……。
それから、アイルとお父さんの攻防が始まった。アイルが攻撃で、お父さんが受け手。
なんか、馬車の時に似た光景を見たような気がする……。
お父さんは、射出音がしてから動いて、器用に避けている。
「あー。ダメだ。ダメだ。もっと速く出来ないのか?」
それに対応して、アイルが調整していく。
だんだんと避け切れなくなって、盾や剣で防いでいる。
「ふーむ。衝撃が軽いな。もっと重くしてくれ。」
そんなこんなで、大分空気銃の危なさが増大していった。
「まあ、こんなものかな。ただ、これじゃ、あんまり役に立たないかもしれんな。」
「えーと。おじさん。連射をしても良いですか?」
「なんだ?それは。」
「沢山弾を撃てるんですよ。」
「ほう。じゃあやってみてくれ。」
アイルは、連射モードにした。パパパパパパパパパ……。
弾が大量に、お父さんに襲い掛る。
今度は、お父さんは防戦一方になった。最初、弾を弾いていたが、そのうち間に合わなくなる。
右肘に弾が当たって、剣を落してバランスを崩した途端、腹部や頭に弾を受けて、倒れた。
「お父さん!大丈夫!」
思わず叫んでしまった。
「ふっふっふっふ。あはっはっはっは。」
あれ?笑ってる。
「おいアウド。どう思う?」
「ああ。面白いな。ソドが倒れるほどだったら、十分使えるんじゃないか。」
「そうだろう。これは面白い。これで、相手の騎士が倒れたら、足の腱でも切ってしまえば、しばらく兵としては役に立たなくなる。
ニケが言うように、無駄に殺すことなく無力化できるな。」
「雪上車で轢き殺すのに比べたら、よっぽど騎士らしい戦い方だ。」
お父さんは起き上がった。顔に擦傷と打撲跡がある。痛そうだな。
「おい。アイル。
この武器を、雪上車の屋根に取り付けられるようにしてくれ。
前方に向けてと、後方に向けて2台設置するからな。
周辺一帯に向けて撃てるようにしてくれ。
あと、弾は、出来るだけ沢山用意してくれ。
これで、次に攻めてきたら、思い切り後悔させてやる。
殺しちまったら、後悔させられないからな。」
お父さん達二人は、笑いながら、騎士さん達を引き連れて研究所を去っていった。
何となく、黒いものが見えたような気がするけど……。気の所為だよね……。




