N4.空気銃
戦闘が終った後、軍議になった。
3回の戦闘で、敵の半数以上を倒すことができた。
会議の席は、和やかな雰囲気だ。
そんな中で、アウドおじさんと、お父さんは、渋い顔だ。
何か、良くない事があったんだろうか。
「このままだと、王都に無線機が着く前に、決着が着いてしまうな……。」
「うーむ。舅達が、煩いかもしれない……。」
何の話だ?
「いや、何だ。今、王都に向けて無線機を運んでいるのだが。この調子だと、無線機が着く前に戦闘が完全に終ってしまうかもしれない。
まあ、早く終るのは、全然、悪いことではないし、先方が攻めて来たんだから、防戦から反撃しているのは一向に、構わないんだが……。」
お父さんが何とも歯切れが悪い。
そう言えば舅と言っていたか?
舅って何だ……?
あぁ。アイルのお祖父さんと私のお祖父さんの事だね。
宰相閣下と王国近衛騎士団長か。
昔二人の上司だったって話だから、結構微妙な関係なのかな。
「だったら、最初から、無線機を王都に送っておいたら良かったんじゃないの?」
「いや、事前に無線機を向うに設置しておくと、舅達があれこれウルサイからな。」
とアウドおじさん。
「それに、使う事になるとは限らなかったし、維持するには、発電機用の燃料も必要になるじゃないか。」
とお父さん。
要するに、二人共、舅の祖父達が苦手ってことなんだね。
そして、アイルが作った雪上車ならぬ、装甲車が思いの他優秀で、大戦力を相手にしているのに、サクサク片が付いちゃってるってことなのか。
次回の戦闘は、6時経った後になった。それでも無線機は王都には着いていない。悪足掻きかな……。
結局、今度も、私とアイルは就寝時間なので、結果は明日の朝に聞くことになった。
翌日。別の新しい花が飾ってあった。セアンさん、ありがとう。
昨日と同じく朝食の後、会議室に合流した。
結局、4回目の戦闘で、d700(=1,008)人近い兵たちが無力化されて、ノルドル王国軍は、壊滅した。
残っていた騎士達は、敗走したんだそうだ。
今は敵の生き残っている騎士さん達を回収して治療していると言っていた。
捕虜なんだろうな。
d350(=492)人ぐらいだと無線の報告が有ったそうだ。
ようやく終ったよ。
ちなみに、王都に通信機は着いたけど、未だ国王陛下の元には届いていない。
国境の砦に、補充の騎士さん達も到着したらしいが、戦闘は終了していた。
無線連絡で、船で移動していた騎士さん達は、戦況だけは把握していた。
これからの国王陛下や宰相閣下との話合いで、どうするのかが決まるので、現場待機している。
王都では、官僚機構内を盥回しされてスッタモンダを繰り広げている。
まぁ、何千kmも離れたところから、話をしたいって言われても、信じられる筈が無い。
高速で移動出来る鉄の船だって、十分に怪しい。
この世界では、伝達手段も移動手段も、とてものんびりしている。
一応、この小型船の騎士さんは、アウドおじさんや、ダムラック司教の親書を持っている。
それでも、ガラリア国王の北東の辺境で3日前に発生した戦争の内容を伝えに来たと、言われたら……怪しいだろうね。
フローラおばさんや、お母さんも借り出されて、なんか混沌になっていた。
私たちは、付き合ってられないので、大人の事情は、大人に任せた。
その間に、今回の戦争での戦い方をアイルに日本語で聞いていた。
ずっと無線通信を聞いていて、モヤモヤしていたんだ。
『無力化に成功とか言ってたけど、あれって、掴まえたとかじゃないよね?
戦えなくなるぐらいヤッツケちゃったってことは、殺しちゃったってことだよね?』
『ソドおじさんと、今回どうやって戦うかについては議論したんだ。
勝手に向こうが、攻めてきてるのに、こっちに被害が発生するのはイヤだったんだ。
だから、雪上車に乗り込んで、戦場を走り回らせれば、立ち向かってきた兵士に怪我人が出るだろうって。
青銅の武器で攻撃されたぐらいじゃ、あの雪上車は何という事もないからね。
もし、雪上車がどこかに嵌って動けなくなっても、10人の騎士さんたちが乗ってるからどうにでも出来るだろうと思った。
雪上車の台数も、それで決まったんだ。
なにしろ、砦には合わせて400人ぐらいしか居ないから。
雪上車に乗っていない騎士さん達は、物見で戦場を見渡して、こちらに攻めて来そうな場所に、無線で、雪上車を向わせていたんだ。
問題になったのは、強力な魔法使いが居た場合なんだ。どのぐらいの質量の岩が飛んでくるか解らなかったからね。
それで、魔法使いが現われたら、白兵戦で倒すことになってたんだ。』
『えーと、それじゃあ、雪上車で敵の騎士さんたちを撥ね飛してたってこと?』
『そうなるね。今回、想定より遥かに大量の敵兵が現われたから、かなり頑張ったってことなんだろうけど……。
考えていたのより、随分と早く終ったんだよ。
雪上車を魔物だと思って、沢山の敵の騎士が雪上車の周りに集って来たんじゃないかな。
当初の想定では、毎回200人ぐらいの怪我人を出していたら、10日ぐらいで敵が諦めて撤退するだろうと思っていたんだ。
それに、それだけ長い間戦っていたら、敵の兵士達は雪眼になって、戦闘が困難になるだろうしね。
結果的に、想定していたのとは、大分違う進み方になっちゃったんだ。
それで、父さんや、ソドおじさんは、無線機が王都に届いていないって慌てているんだよ。』
大体様子は判った。だけど、なんて戦い方をしていたんだ……ちょっと酷すぎるかもしれない。
『ねぇ。アイル。戦争なんだから仕方が無いのかもしれないけれど、雪上車で、轢き殺していくのって、あんまりだよ。』
『まあ、そうだよな。
とは言っても、そのお陰で、今回こちらの被害は出ていないんだけどね。』
『アイル。次もまた有るかもしれなじゃない。どうにかならないの?』
『うーん。そうだな……。』
アイルは、しばらくの間、考え込んでいた。
『じゃあ、ゴム弾を連続射出できる空気銃を作ろうか。
以前、シーケンサを作った方式で、連続射出できると思うんだよな。
それなら、相手を殺害する事無く、無力化できるかもしれない。
まあ、当たり所が悪ければ、死んでしまうかもしれないど……。
白兵戦になれば、確実に相手を殺しちゃうんだから、それと比べてかなりマシだよ。
でもなぁ。相手は、こちらを殺しに来てるんだから、それで良いのかってのはあるんだけど……。』
会議室での混沌状態は続いていた。
私達に出来ることは何も無いので、空気銃を作るために、研究室に移動した。
研究室に行くと、助手さんたちが不安そうにしていた。
戦争の事が気になるよね。
戦闘は終って、こちらの被害は皆無だった事を伝えると、一様に安心していた。
これから、アイルを手伝って、新しい兵器を作ると言ったら驚いていた。
「えっ。もう戦争は終ったんですよね?」とキキさんが言う。
「だけど、また攻めてくるかもしれないでしょ。今度は、もう少し相手の被害が少なくなるような兵器を作ります。」
「でも、今回、こちらの被害は無かったんでしょ。攻めてくる相手に被害を与えるのは当然じゃないですか?」とギウゼさん。
「それは、その通りなんだけれど、相手の兵士も、きっと上からの命令で戦っているだけでしょ。
命の遣り取りをしなくても降参してくれればそれが一番良いんですよ。
戦争だからって、殺し合いをしなくても、相手が戦えない状態に持ち込んで済ませるのが一番良いと思いませんか?
きっと敵の人にも家族が居るでしょ?悲しむ人を増やす必要は無いんです。」
助手さん達は、何となく微妙な表情をしている。
多分、この世界の普通の考え方とは違っているのだろう。
地球でも、一旦戦争になれば、兵士だけじゃなく、一般人も沢山死んでしまう。
でも、出来ればそれは避けたい。
「それが、神の国の考え方なんですね。素晴しいです。」とヨーランダさんが言う。
そうなんだろうか?地球では、宗教の違いや、主義の相違などで、紛争や戦争がしょっちゅう起っていた。そうだとは……全然言えない……。
「今回、敵の騎士さん達が沢山亡くなりました。出来れば、そんな戦い方をしたくないんです。それだけです。」
納得してもらえたのかどうか分らないけど、アイルと空気銃を作る作業を始めた。一応、助手さん達は手伝ってくれている。
アイルは、既に何種類かの空気銃を作っていた。
私は、ゴムだね。どうしようか。
今は冬だから、もう、あまりゴムの木にストレスを掛けたくない。
仕方が無い、魔法で作るか。
結局、ピンポン玉ぐらいの鉄の芯が入ったゴム弾になった。
2cmぐらいの厚さの木の板に向けて撃つと、酷く凹むけれど、一発で砕けることは無い。
うーん、当ったら痛そうだ……。
まあ、本物の銃と比べると、当っただけで、死ぬような事もないから良いかな……。
午後遅くに、会議室に戻ってみると、やっと王宮と連絡が着くようになっていた。それでも、まだ、国王陛下や宰相閣下とは話が出来ていない。
ある程度偉い人に取次が出来てからはサクサク進んだらしいが、それまでが、大変だったと教えてもらった。
ようやく、国王陛下や宰相閣下、近衛騎士団長と会話が出来るようになったのは、6時(=午後4時)になった頃だ。
5時(=10時間)もムダに時間が経過していたみたい。
とりあえず戦争は終ってるから、どうでも良いけどね。




