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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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92.ミシン

工房から、一旦ボーナ商店に寄って、色々な糸と厚めの布を貰って帰った。


既に、ボーナ商店は、戦場と化していた。


そりゃねぇ。グルムおじさんが、費用は幾ら掛っても良いなんて言うから。


貴金属を大量に生産できる領地の強みだよね。


でも、北方に居る騎士さんたちの命が掛ってるんだから、出せるんだったら金をケチってはダメだよ。


研究室に戻ってきた。


私の助手さん達には、クリスタルパレスで育てているゴムの木から、樹液をなるべく沢山取ってきて欲しいと頼んだ。


騎士さん達の靴を作るためだ。


今、クリスタルパレスの中は、ゴムの木だらけになっている。

来年あたりから本格的に栽培しようと思って、苗木を育てているところだ。

それなりに育っているのだけど、まだそれほど大きくはなっていない。

とりあえず、取れるものは採取しておきたい。

背に腹は代えられない。


足りなければ、最悪、また魔法でゴムを作ることになるかもしれない。

硫黄は、海コンビナートで作っている。それをもらってくれば良いだろう。

あとは、摩耗防止のためにカーボンブラックか。普通の炭素の粉でも良いのかな……。


さあ、作戦会議だ。


まずはミシンかな。

ミシンは、製造装置だから、早く準備できれば、それだけ作業が早く終る。


アイルの研究室で、アイルに、ミシンの仕組を教えていく。


肝心なのは、縫い針の先に糸通しの穴がある事だ。


事実かどうかは分らないけれど。

発明した人が、縫製機械を作るとき、悩みに悩んで、寝ているときに夢を見た。

夢の中で異民族に襲われた。その異民族が使っていた、槍の先に穴が開いていた。

その夢から覚めて、ミシンの仕組を思い付いた。

なんて話を聞いたことがある。


多分、後で作られた創作だろう。詳しいことは知らないし、確かめようもない。


そして、次に重要なのは「釜」だ。縫い針が布の下に差し込まれたときに、針に付いている上糸を絡め取って、下糸をその中に通す。


確かに、この仕組を考え出すのは、容易じゃないよ。スゴいね。

知ってしまえば、大したことじゃないのかも知れないけど、コロンブスの卵だね。


そして、上糸と下糸の張力を保つための様々な仕組。

布を自動的に移動させる仕組などが組合さって、バランスが取れないと、上手く縫えない。


とりあえず、アイルは仕組を理解してくれた。


ここから先は、私は口を出さない方が良い。


アイルが試行錯誤している間、私はファスナーの構造を絵に描いていた。

そう言えば、前世でも、真鍮製のファスナーはあまり見なくなっていたな。

樹脂をスパイラルにしたものや、チェスのポーンが潰れた格好をしたものを良く見るようになっていた。


真鍮で作ることになるので、真鍮製のファスナーで良く見かけたパターンを絵にしていった。


平らな板の下面に窪みがあって、上面に突起があって、それが互い違いに嵌り合っている。


ジーンズのファスナーは、真鍮製のファスナーだったな。


布の伸縮性で、斜めに広げると外れて、斜めになっている状態で嵌めこんで真っ直ぐになると外れなくなる。


上着用のファスナーだと、分離できるようになってないとならない。

ファスナーの下の方に、嵌合する部分があったな。


そんな絵を描いていたら、アイルが基本的な構造が出来たと声を掛けてきた。


剥き出しの回転機構や、ロッドが見えているけど、平な板の上に、上下する針がある。

アイルが糸をセットして、布を縫い合わせてみせてくれた。


私が知っているミシンとは形が違っているけれど、布を縫い合せた状態は同じだ。

助手さんたちは、興味津々だね。

ある意味凄く便利な道具だ。単純な縫い物だったら、手作業と比較すると縫い目の綺麗さと速さが違う。


上糸と下糸の張力も調整出来るようになっていると言っている。

確かに構造を見ると出来ているみたいだ。


布を送る方法も、私が説明したとおりになっていた。


「アイル。すごいね。ほとんどミシンになっているよ。」


「いや、ニケが説明してくれたとおりに作ってみただけだよ。

ただ、オレも、ミシンで布を縫うところは見たことがあるけど、こんな風になっていたのは知らなかったな。」


「あとは、縫い子さんが、使い易いように、可動部を上手く隠してくれれば良いかな?

動力は、どうするの?」


「一応DCモーターで電圧を変更したらスピードが変わるようにしたんだけど、どうかな?」


「いいんじゃない?でも電子回路が必要でしょ?それは?」


「ああ、この程度だったら、もう作れるようになっている。」


へぇ。もう電子回路は作れるようになってるんだ。無線機を小型化しようとして随分いろいろやってたから、そんなものか。


「でも、何台も必要になるよ。何台分も作れるの?」


「他の物と変わらないから大丈夫。」


電子回路は、他の物より大分複雑だろ?

まあ、今さらだよな……。

ミシンも構造が決まったら、一瞬で作っちゃうんだろうな。


「あとね、ファスナーの構造を思い出したものを描いておいたんだ。」


そう言って、ファスナーの構造を説明した。


「材料は、真鍮で良いと思うんだよね。」


「ふーんファスナーはこんな構造だったんだな……。」


それから、アイルの助手さんに真鍮の板を持ってきてもらって、アイルはファスナーのチェーンを大量に魔法で作り出して、厚めの布の端部に固定していった。


その布を半分に切って、金属の出っぱりの方向を合わせて、スライドする金具をとりつけた。


「うん。ジッパーになっているな。すると、この端部のところに、構造を作れば……」


なにやらチョコチョコ弄って、本当にファスナーになっていた。


「なあ、ニケ。大体、こんな感じだったかな?」


そう言って、出来上がったファスナーが、私の手に渡された。


「そうね。だけど、やっぱりアイルはジッパー派なのね。

どっちかの名前にしないと混乱するんじゃないかな。

うーん。

もうジッパーで良いかな。

あと、騎士さん達が、剣を振っても壊れないようにするのには……。

そうそう、こんな形のジッパーも有ったわね。

樹脂で作られていたけど、真鍮でも大丈夫じゃないかな。」


そう言って、ポーンを潰したような形のジッパーの絵を描いた。


「あっ。これも見たことがあるな。」


そんな事をやりながら、結局、真鍮を素材にして、樹脂で良く見た、ポーンを潰したような形で、大きめののジッパーを作った。


「記憶では、この歯の部分を固定している布の端部って、他の部分と違っていたような気がするんだよな。」


「確かにそうね。生地が厚くなっていたような気がするわね。

布の端を折り曲げてしまったらどうかしら。」


布の織り方をどうにかする方法は分らないので、明日、またリリスさんのところに行って、聞いてみることにした。


アイルは、ジッパーの目処が立ったので、ミシンの仕上げをした。


侍女さんにお願いして、明日の2とき(=午前8時)に、リリスさんの店を訪問すると伝えてもらった。


夕食の時に、ミシンとジッパーを公開した。


侍女さん達は、目を輝かせていた。話を聞いた、部屋担当の侍女さん達もやってきた。繕い物は、侍女さんたちの仕事だものね。気になるよね。


お母さんや、フローラおばさん、ナタリアおばさん、カイロスさんのお姉さんのセリアさんも食い付いてきた。

奥様ズは、繕い物なんてするの?


いろいろ話を聞いたら、みなさん花嫁修行で縫い物は得意なんだそうだ。

結婚して侍女さんたちが居るので、しないだけで、こんなに綺麗な縫い目を速く縫えるのは魅力らしい。

あれを作れる、これを作れると話に花が咲いていた。


セリアさんは、ナタリアおばさんに、まずは、手作業で綺麗に縫い物が出来るようになるのが先、と言われてへこんでいた。


ん。ひょっとすると私も花嫁修行とやらをすることになるのか?


いやいやいや。そういう事は、得意な人に任せるのが一番だよ。


それに、私は、アイルと結婚する予定だから、侍女さん達に任せれば良いじゃない。


私は私が得意な事をするよ。


グルムおじさんに、このミシンを沢山作って、リリスさんのところに貸し出すと話したら、喜んでいた。

服飾分野でも、アトラス領が革命を起こすとか大袈裟な事を言っていた。


明日、2時にまたリリスさんのところを訪問すると伝えたら、ベスミルさんと同行すると言ってきた。


ジッパーは、反応が薄かった。実際に使っているところが想像できないんだろうね。凄く便利なのにな。


居間に居た人たちの中で、唯一お父さんだけ反応が乏しかった。

ふーん。一番恩恵を受けるのは、お父さんのはずなんだけど……。


翌日の朝。助手さん達と、グルムおじさん、道具の貸出担当のベスミルさんとリリスさんのところを訪ねる。


「アイル様、ニケ様、お出でいただき申し訳ありません。呼んでいただければ、こちらから伺いましたのに。」


「いえ。見ていただきたい物があって、相談も必要だったので。こちらこそ、昨日に引き続いておじゃまして申し訳ありません。」


騎士さんにお願いして、ミシンをテーブルの上に置いてもらった。結構重いんだよね。


「これは、ミシンという道具です。昨日、研究所に戻ってから作ってみたんです。説明は、動くようにしてからしますね。」


それから、アイルの助手さんたちが、ミシンのセッティングをする。

リリスさんの店は、電気のコンセントがある。


以前、アイルが電気の説明をしたときに、アイロンを作って見せたことで、服飾関係の店に普及していた。ヒーターは街灯に使っている炭素の棒だ。

これも、カンタルに変えた方が良いんだよな。

クロムを精製できるようにしないとだな。


「随分と変った格好をしている道具ですね。えっ。糸と布ですか。はい。これを使ってください。」


リリスさんが、準備している様子を興味アリアリの様子で見ている。


「じゃあ、ヨーランダさん。布を縫ってみせてあげてください。」


昨日、研究所で、ミシンが完成したときに、皆が試したがって、ミシンを使ってみたんだけど、真っ直ぐに縫うのは少し難しかった。

ミシンも使えるようになるのは、大変なんだよね。

ヨーランダさんだけが、綺麗に縫うことができていた。

女子力が高いというか、器用なんだろうね。


カタカタ音をさせながら、布を縫い合わせる。

縫い終えた布をリリスさんに渡して見てもらった。


「ニケさん!この道具は……。」


絶句していた。この道具が何をするものかは説明の必要は無いだろう。一目瞭然だし、リリスさんなら、なおの事だ。


「それで、この道具を沢山作るので、使ってもらえませんか?

あれだけの数の騎士さんの装備を作るのは大変でしょ。

きっと役に立つと思うんですよね。」


「ええ。それは勿論。是非お願いします。

昨日、番頭とも話をしていて、どれだけの針子が必要か悩んでいたのは確かです。

それにしても、縫い目が綺麗ですね。これほど綺麗な縫い目は、相当な熟練者でないと無理です。それに、縫うのが速いですね。

ちょっと、私にも縫わせてもらえませんか。」


助手さんたちの説明を受けて、リリスさんも使ってみた。

使ってみたいよね。


自分で縫った布地を見て、嬉しそうだ。ニコニコしている。


リリスさんが、ミシンを使っていると、店中の従業員が集ってきていた。

それからは、助手さんたちが、店の従業員の人に使い方の説明をしていた。

大騒ぎだった。


「それで、リリスさんには、別な相談があるんです。

貸与の条件なんかは、番頭さんでも大丈夫ですか?」


「ええ。それは大丈夫です。」


ボロスさんと、ベスミルさんが、番頭さんに、具体的な貸与条件を打ち合わせを始めた。

基本、騎士の装備を作っている間は、無償貸与すること。その後も継続利用する場合には、協議の上有償貸与になるという説明だ。

今回の騎士さんの装備を作るのに必要な台数を決めてもらわなきゃならない。


「それで相談というのは?」


アイルがジッパーをリリスさんに渡して見てもらう。

アイルにどうやって使うのかも説明してもった。


リリスさんが、ジッパを開け閉めしてみている。


「アイルさん。これも、また、とんでもないものですね。」


それから、私達が昨日、疑問に思っていたことを聞いてみる。

特殊な織り方で、布の端を厚くすることはできるみたいだけれど、これから織るんじゃぁ間に合わない。


色々と相談して、帯状の布を真ん中で折って、ジッパーを作ることにした。

アイルは、ひょっとすると、ジッパーを領地で作ることもできるかもしれないと言っていた。

でも、それまでは、アイルにしか作れないからね。頑張ってね。


ミシンは、結局36台を貸与することになった。

持ち込んだ1台はそのまま貸与して、昨日訪問した工房で針子さんたちが練習する。


研究所で、アイルは、ミシンとジッパー、小型発電機を作ることになった。

私は、ゴム靴用のゴム材料だな。ゴムブーツを作るのは、またアイルだ。

アイルは大忙しだね。


私は、ボロスさんにボーキサイトを依頼した。

金属クロムやステンレスをそろそろ領都で作ってもらいたいからね。


約束の1週間が経ったので、工房を訪ねた。

騎士さんに着てもらって、修正点を確認する。

実際に剣を振ってもらい、動き難い場所が無いかを確認する。

出来上がっているジッパーを取り付けてもらうとともに、修正点を直してもらうことにする。


そして、そのその翌週も工房に向った。

動き易さは、問題無いほどに改善されていた。ジッパーも上手く取り付けられている。

今回は、防寒特性の確認だ。

小部屋の中を、魔法で、気温をー40℃まで下げて、しばらく待機してもらう。

熱が逃げる場所を見付けて、毛の充填物の場所を調整する。

アイルが、アルミニウムを布の表面に付着させると断熱性能が上るというので、実施してみてもらう。

修正点を列記して、翌週また訪問することにした。


その翌週、靴が出来たので、装備を全て装着してもらい、最終確認をする。

問題が無さそうなので、この仕様で作ってもらうことになった。

本格生産の前に、小柄な騎士さんと、太めの騎士さんの分を作ってもらうことにする。

二人の寸法を計ってもらって、同じ仕様で作ってみてもらうことにした。


翌週、また訪問することを告げた。

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