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惑星ガイアのものがたり  作者: Tossy
はじまりのものがたり 1
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86.石炭

石炭の資源調査をしていた調査員が戻ってきた。

石炭は、領地の北の方に鉱床がある。

たしか、最初に見付かったのは、50番目の調査隊だった。


探索チームを編成したときに、あまり遠いところの探索は、鉱石が見付かっても入手するのが困難なため、近場に沢山のチームを派遣した。


そのため遠隔地の探索は、かなり粗い。

50番目で、大体、領地の真ん中ぐらいだったはず。


50番目から59番目までの調査範囲は、領地の中央ぐらいから、最北に近いところまでのかなりの広範囲だ。


調査に向かったのは、昨年の夏なので、戻ってくるのに、ほぼ1年かかっている。

けっこう遠くて、広範囲だったから大変だったんだろうな。


何が何時いつ、石炭の元になったかは不明だ。

あっ。今は顕微鏡があるから、組織観察してみよう。


調査隊で、石炭の埋蔵量を算出してくれたみたいだけど、d1,000,000,000,000キロを遥かに越えるのだそうだ。


以前、ウィリッテさんに、数字の呼び方を教えてもらったとき、クアトボロの次の桁の数字はどう呼ぶのかを聞いた。ウィリッテさんは、聞いたことが無いといっていたソレだ。


サンドボロと言っていた。ボロの上の読み方が無いのかもしれない。


とりあえず、とんでも無い埋蔵量だということだけは、判った。


調査してくれた人は、数字が無かったら、計算する気にもならなかったと言っていたけど……。


まぁ、そうだろうね。


ほぼ、露天掘りで採掘できる範囲での埋蔵量を調べたと言っている。

地球でも、石炭を露天掘りできる鉱山があったから、別に驚かないけど。

地面の下に掘り進まなきゃならない鉱床と比べたら恵まれている。


さて、これをどうするか。

埋蔵量が大量にあるんだから、火力発電所を作っても良いけど……。


木炭とどう棲み分ければ良いんだろう……。


まっ。そういうメンドイ事は、領地のお偉いさんに考えてもらえば良いんだよ。

幼児や幼女が考えることじゃない。


調査してきた人達は、大量の試料を持ち帰ってきている。

まず、その分析かな。


石炭は、北に行く程、品質が良くなっていた。

見た目で違いが分る。

北部で採れた石炭は、黒光りしている石だ。

南部で採れた石炭は、灰色っぽい粗い石で、多分、瀝青炭と呼ばれるものだろう。

不純物が多いんじゃないかな。


顕微鏡で観察したら、生物由来に見える。

組織構造に特徴があった。


年輪と思われる構造のあるものもあった。

やはり、植物の化石なのかな……。


分析したら、見た目通りで、北部のものは、揮発分が少ない石炭だった。

南部のものは、硫黄や揮発分が多い。

炭の含有量は、3/4から4/5といったところだ。


まさに瀝青炭だった。


偉いさんに丸投げするつもりだったんだけど、許してもらえなかった。


まあ、そうだろうなぁ。燃える石なんて……「そりゃ何だ」ってもんだ。


使い道はおろか、それが意味するところが判らない。


仕様が無いので、アイルと相談した。


石炭の使い道は沢山ある。


電気が使えるようになって、安心してしまっていたけど、いろいろ足りないのは確実だ。


そして、今は、北のノルドル王国と睨み合い状態が続いている。

このまま何も無ければ良いが、紛争になる可能性は高い。

備えていた方が良いんだろう。


石炭は、炭素や含有物を利用するのではなく、エネルギー源として考える。


石炭エネルギーの利用方法の一つは、移動手段への対応だな。


今、北の国境で睨み合いをしていて、状況は無線通信のお陰でリアルタイムで把握できる。しかし、兵員を輸送するのは、海流と風頼みの木造船だ。

自力移動できる訳ではない。


国境まで、船で北上すると、状況が良くても5ー6km/hの速度で、半月以上掛るらしい。

帰ろうと思ったら、海流に逆らうことになるので、2、3ヶ月は平気で掛る。


蒸気機関を作って、自力移動できれば、船の場合、60km/hぐらいにはなるのかな。

鉄道を敷設したら、100km/hぐらいまで出せるんだろうか。


移動時間が2、3日ぐらいに短縮される。


この差は物凄く大きい。騎士さんたちの命に関わることだ。


そして、石炭エネルギーの利用方法の次は、輸送手段だ。


アトラス領は、資源の宝庫だ。ただ、人口は南の端に固まっている。

人の居るところまで、人力で、鉱物資源を輸送するには、輸送量に限界がある。


鉱石運搬用の蒸気船を作れば、北部の石炭採掘所から領都へ、大量に運搬することができる。


これも効果が大きい。


最後は、暖房だ。


領都マリム周辺は、海沿いなのもあって、寒暖差がそれほど大きくない。冬でも着込めば、暖房は不要だ。


しかし、北部の国境あたりは、アイルが指示して、現地で天体観測した結果から、その場所は北極線の北にある。

気象観測の結果から、冬はものすごく寒くなるはずだと言っていた。

真夏の今の段階でも、最高気温が10℃ちょっと、最低気温は0℃あたり。


今でもストーブが欲しい状況じゃないかな。


このまま睨み合いが続いて、越冬なんてことになって、なにも手を打たないでいると、騎士さん達は凍死するかもしれない。


そんなこんなで、石炭は有効利用することにした。


石炭を燃料にする蒸気機関を作ることにしたアイルは、「産業革命だね」と言っていた。

水力発電所を作った段階で、既に大概だ。


私は、瀝青炭の改質をすることにした。


もともと、火力発電所を作る可能性も有ったので、マリムの北東の海岸近くの場所に第二のコンビナート用地を選定してある。

広さは、先に造ったコンビナートとほぼ同じ。


以前、コンビナートを作った時にあった、工場用地と耕作地の問題は、ほぼ解決している。

農地は、北と西に広がっていて、肥料の提供や三圃制農業も順調に進んでいる。

収穫量は格段に増えている。


もう、耕作地を気にして、工業用地をどこにするかという問題はほとんど無い。


貴金属の精錬工場が出来たこともあって、領地では、積極的に化学工業を発展させたいと考えている。


海沿いの新しいコンビナートの場所に、瀝青炭からコークスを生産する工場を作ることにした。

海のそばなので、荷揚げの港を整備すれば、原料を船から直接、運び込める。


まずは、実験室でビーカーテストをする。


瀝青炭を乾留してコークスを作る。その際に、硫化水素、アンモニア、芳香族系の有機物などが出てくる。


そういった揮発性ガスの残りカスがコークスだ。


有害成分オンパレードだ。

とにかく、効率より安全性が第一だな。


この世界で、大量の化学品を野放しにすると、どんな事故が起こるか分らない。


揮発ガスは水で冷却して、その後冷凍機を使って液化する。


硫化水素と水素だけは、ガスのままだ。

このガスの半分を燃やして硫化水素を二酸化硫黄にした後で、相互に反応させて硫黄にする。


クラウスプロセスとして知られている方法だ。


液体になった排気ガスは、蒸留して、アンモニア、各種有機化合物に分離した。

フェノールも取れるので、精製して、アセトアミノフェンの原料にもしてもらうのも良いかもしれない。

多種多様な有機物をどうするかは……後日考えることにする。


とりあえず液化した状態で保存だ。


室温でガスになる有機化合物は、低級炭化水素でそれほどの量は無い。加熱のための燃料にしてしまう。


ビーカーテストでも、プラントは、かなり複雑になった。

特に、瀝青炭の乾留で発生するガスの分離、硫化水素の処理の手順が多い。


反応条件を変えて、プラントにするための条件を決めていった。


この状況。もう、助手さんたちも慣れたね。

大抵、次を予測して動いている。

優秀だな。


条件が決まったので、あとはアイルに頼む。

2日で工場が出来た……。


もう驚いたりしないけど……魔法は、反則だと熟々(つくづく)思う……。


反応で発生する高温ガスの最初の冷却は水を使う。これは純水を循環することにした。

熱で高温蒸気になった水を使ってタービンを回す小型発電機を作った。

その電力を使って、揮発したガスの冷凍装置を動かした。


純水の冷却には、間近にある海水を使った。


海水の取り込みも電力を使ったポンプで行なった。


原料の瀝青炭の乾溜は、発熱反応なので、コークスを作りながら、工場の動力を賄える。

この熱は、硫黄の生産にも使った。

熱が足らない場合には、作り出したコークスを燃やせば良い。


完全自立工場だね。


大型の船を停泊させて、鉱石の引き上げをするための、港と埠頭も建造した。


私の作業とは別に、アイルは石炭やコークスを使用する蒸気機関を検討していた。


私が検討した工場の構造を見たアイルは、動力を取り出すのではなく、蒸気で発電する小型発電装置を作ることにしたようだ。

その方が、いろいろと応用が利くと言っていた。


石炭かコークスを燃やして、高温高圧水蒸気を作り、それでタービンを回して発電する。

水は循環させるので、新たに供給することは無い。

この装置に供給するのは、燃料の石炭かコークスだけだ。


ひたすら小型化に執念を燃やしていた。


最終的に、大人の人ぐらいのサイズで、出力は100kWぐらいの小型発電ユニットが出来上がった。


発電ユニットの燃焼炉から一酸化炭素が発生する心配があったので、燃焼室に、強制的に空気を送って完全燃焼させた。


コークスを使っている限り、硫黄系の排ガスは殆ど出ない。


唯一、窒素酸化物が出来るのだけれど、白金系の三元触媒を使って無害化した。


ここらへんは、私が手伝った。


この装置自体がかなり熱くなるので、ストーブとして使えると言っていた。

流石に室内で使うんだったら煙突が必要じゃないかと言ったら、屋外で使うんだそうだ。


ファンで蒸気を空冷した空気を取り込んで室内の暖房にしたり、タービンを回した後の高温水を引き回して、温水暖房にする。


FFストーブと呼ばれるものに近い。それで発電機なのは結構お得かもしれない。

ん?発電機で発生する熱を空調に使うという方が正しいのかな?

どっちでもいいか。


電力を発生する装置なので、温風を作るバリエーションが色々有る。


北部国境で使用するのに便利なように考えたみたいだ。


ここまで、いろいろ準備して、結局のところ、石炭の輸送が問題になる。


これは……多分……大きな輸送船が要るよね。

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