重なる新緑
倉木風音 双子の姉。 カメラを愛し、密かに写真家を目指す優等生。 実は授業中に容赦なく寝る。
蓮見優月 コンピュータが得意で無口な奴。 一見陰キャだが、バカげたこともやるし、とにかくよく吹っ切れる。
橘真白 お調子者。 バカ。 言われ放題なムードメーカー。 やる時はやるけど、気分次第。
東清珠 フワフワとゆるゆるの化身。 4人の中で唯一彼氏持ち。 ちゃんとノリがいい。
私は、弟と同じへまはしない。
「高校を卒業したら、大学へ通うと同時に、都内へ引っ越そう。そうすれば、晴れて自由の身……」
どちらにせよ、東京の大学に行くなら、勉強しなくちゃいけないか。
ドンッと背中から衝撃がはしる。
「なーにブツブツ言ってんの? 風音」
「あー清珠……。え! 清珠⁉︎ なんでこんな朝早く学校来てんの⁉︎」
フワフワの清珠に驚きながらも、喜ぶ。正直メッチャ嬉しい。これは、清珠の彼氏に勝ったかもしれん。
「今日も朝練あるでしょ? 現に風音も来てるじゃない」
「私はいつも来てるけど! 清珠は朝練なんて一度も出なかったのに。 最近どうしたの?」
「失礼だなぁ。 私だって、大会近くなったら朝練も出るよ」
テスト前のワークは提出しないくせに、という言葉を飲み込む。
「やっぱり、彼氏となんかあった?」
一番聞きたかったこと。少しだけ感じる、なんか焦ってるんだろうなって空気。
これはきっと、女の感ってやつ!
「なーんもないよ。 ちゃんと付き合ってるし」
はずれた。じゃあ大会前だから、なのかな。
「そう! 大会前だから、ホンキでやらなきゃ!」
ナチュラルにこっちが考えてることを当ててくるなぁ。
「あ、おーい! ましろー!」
清珠が、私の後ろに手を振る。
「ヤッホー!!」
パタパタとやって来たのは、傷だらけの真白だった。
「また兄弟と喧嘩したの⁉︎」
額には、絆創膏がグシャッと貼ってある。
「……おにーさん強いもんね」
「だーれが、弱いって?」
「「言ってないやーん」」
清珠と同時に背中を叩いてやる。バンッ。おお、結構いい音したな。
「おっ前ら、オーバーキルすんなよ! いってぇなぁ」
「あっははッ!」
……大学も地方でいいかな。そしたらさ、こんな感じで、清珠と、真白と、悠月と一緒にいられるよ私は、弟と同じへまはしない。
「高校を卒業したら、大学へ通うと同時に、都内へ引っ越そう。そうすれば、晴れて自由の身……」
どちらにせよ、東京の大学に行くなら、勉強しなくちゃいけないか。
ドンッと背中から衝撃がはしる。
「なーにブツブツ言ってんの? 風音」
「あー清珠……。え! 清珠⁉︎ なんでこんな朝早く学校来てんの⁉︎」
フワフワの清珠に驚きながらも、喜ぶ。正直メッチャ嬉しい。これは、清珠の彼氏に勝ったかもしれん。
「今日も朝練あるでしょ? 現に風音も来てるじゃない」
「私はいつも来てるけど! 清珠は朝練なんて一度も出なかったのに。 最近どうしたの?」
「失礼だなぁ。 私だって、大会近くなったら朝練も出るよ」
テスト前のワークは提出しないくせに、という言葉を飲み込む。
「やっぱり、彼氏となんかあった?」
一番聞きたかったこと。少しだけ感じる、なんか焦ってるんだろうなって空気。
これはきっと、女の感ってやつ!
「なーんもないよ。 ちゃんと付き合ってるし」
はずれた。じゃあ大会前だから、なのかな。
「そう! 大会前だから、ホンキでやらなきゃ!」
ナチュラルにこっちが考えてることを当ててくるなぁ。
「あ、おーい! ましろー!」
清珠が、私の後ろに手を振る。
「ヤッホー!!」
パタパタとやって来たのは、傷だらけの真白だった。
「また兄弟と喧嘩したの⁉︎」
額には、絆創膏がグシャッと貼ってある。
「……おにーさん強いもんね」
「だーれが、弱いって?」
「「言ってないやーん」」
清珠と同時に背中を叩いてやる。バンッ。おお、結構いい音したな。
「おっ前ら、オーバーキルすんなよ! いってぇなぁ」
「あっははッ!」
……大学も地方でいいかな。そしたらさ、こんな感じで、清珠と、真白と、悠月と一緒にいられるよね。
でも、悠月は学校に来なかった。
4人が3人になってから、もうすぐ二週間が経つ。
悠月は、今までも学校をあまり休まなかった。特別体が弱いやつではない。
なんか、嫌な予感がするな。
悠月の家を訪ねようにも、どこかわからない。こんなことになるなら、聞いとけばよかったな。
私たち4人は、小学生の頃からずっと仲が良いと思っていたのに。いざとなると、悠月が何が好きなのか、何処に行きたいのかすら、わからない。
家に、帰りたくないな。
いつものことだけど、今日はやけに憂鬱。委員会終わるの遅すぎるよほんと。夜じゃん。あと1時間早く終わってれば、3人で帰れたかもしれないのに。
西光橋に差しかかった時だった。
「うっわぁ……」
綺麗。
この前撮った川に、街灯が反射している。
アパートや、家の小さな灯りが、星みたいにパチパチと輝く。
まるで裏側の世界を覗いているようだ。
パシャッ。
カメラ。持ち歩いていてよかった。
弟と同じへまはしない。
このカメラだけは、絶対に守る。
そう、思っていたのに。
「あのカメラ? ああ、捨てたわよ」
……は?
「壊れていたから。 写真を撮りたいなら、スマホでも十分でしょう?」
「データは?」
「……スマホに移しておいたわ。 何も問題はないでしょう?」
あのカメラは、父さんからもらった大切な……。
父さんが失踪してから、もう8年。理由は、知らない。口にしないのが暗黙の了解。
スマホの写真ホルダーを開く。
足りない。50いや、70枚くらい消えてる。
消えているのは、ほとんど小さい頃に私が撮った写真だ。
「……ッ!」
「ぁっ! 風音⁉︎」
玄関のドアを体当たりする様に開ける。ドンッと大きな音が鳴って、肩がジンジン痛くなる。
傘を刺すほどでもない小雨が鬱陶しい。
身体中にまとわりつく何かを振り払うかのように、走る。
父が失踪した理由を探す唯一の手がかりがなくなった。ほんの微かに残る父との記憶を頼りに、家の中を漁っても何も見つからなかった。
父の声も、顔も、名前すらも思い出せない。
けれどもあの人がいた頃の家は、少なくともあたたかかった。
今とは違う、家族の形。いつかそれを取り戻すために。
地域のゴミ捨て場に着く。そこには、予想していなかった人がたたずんでいた。
「悠月……」
悠月の手には、あのカメラが大事そうに乗せられていた。
顔には雫がついていたけれど、カメラは全く濡れていなかった。
「これ、お前が大切にしていたカメラ。 ……だよな?」
悠月に見せたことなんて、あったっけ。
「俺が知ってる風音は、ここに、こんなもの置かないと思って」
うん。私じゃない。
悠月はポンッとカメラをこっちに渡してきた。
「俺、しばらく学校休む。 だから、真白と、清珠のこと、頼む」
なんだろう。既視感。
『弟と妹のこと、よろしく頼むよ。 風音』
前にもこんなこと言われたことあるような……。遠くに行ってしまう嫌な予感が。
「連れてって」
勝手に口が動く。動いて、これが本音だったのかもと思ったら、最初からそう望んでいたかのような気持ちになった。
「……楽じゃないよ」
「今よりはマシ」
間髪入れずに私が答える。
悠月は真剣にこちらを凝視したあと、軽くため息をついた。
「家から、必要なもの持ってきな。 そのよく動く頭で考えて、自分が大切だって思うもの」
やっと、光が差したような気がした。カメラをきゅっと握りしめる。
「ありがとう悠月」
「ここで待ってる」
回れ右をして、走り出す。その道で、右ポケットの中で揺れるスマホ掴んだ。
電話をかけるとすぐにつながる。
「あ、真白? 悠月いたよ。 ……私もしばらくそっちには行けない」
なぜか自分の声が明るく聞こえた。
清珠:心中って素敵だよね〜
真白:おっまえ正気か⁉︎
優月:どうせ死ぬなら、一緒がいい……
風音:寂しがりやかよ
優月:真白……もしもの時は頼む
真白:ぜってー、い・や・だ‼︎
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
次回もお楽しみに♪