群青の中で
倉木風音 高一のJ K カメラの使い方はピカイチ 言いたいことはハッキリ言う派
蓮見悠月 風音のクラスメイト 油断するとボーッとしてしまう ニュースは新聞派
橘真白 悠月の親友 笑顔がトレードマークのやんちゃっ子
ショートケーキの苺は最後に食べる派
東清珠 風音の一番気が合う友達 少し遠くの居酒屋でバイトをする 決断したら、即行動する派
パシャッ。
思ったよりいい感じに撮れたな。夏特有の入道雲と、河川敷のひまわり、遠くの西光橋を添えた一枚。川に入道雲が映っているのが美しい。スマホで撮ったから上手く写らないと思っていたんだけど。
うっとうしい汗が滴る朝の時間。7月の太陽を恨む。こんな暑いなら、ハンディーファン持ってくればよかった。
あ、
ふとそんな予感がした。これは来るなーって予感。
「ぅわっ!!」
「わあー、おはよー清珠ー」
自分よりもちょっと小さい友達が突進してくる。
「ねー棒読みじゃん。 絶対びっくりしてないでしょ」
清珠が肩をくっつけてきた。ちょっと暑いけど、可愛いからどうでも良くなる。
清珠の三つ編みが揺れて、石鹸の香りが鼻をくすぐった。
「バレバレなんだよ。 清珠が驚かすのヘタなだけー」
「リベンジ待っててね、風音」
まぁ、いつ来ても結果は同じだけど。
「てか、吹部の朝練に清珠が来るの珍しくない?」
「ふーん。 まるで私がいつもサボってるみたいな言い方ですけど風音さん?」
行く手を阻み、上目遣いをする姿は女子にもこんなに効果があるのか。
きっと彼氏も幸せだろうな。こんなにコロッとして、ゆるっとして、フワフワな子と一緒にいられるなんて天国だろ。っ羨ましい。
その彼氏と毎朝登校したいからって朝練に出ていなかったはず。当然「なんで?」と聞いた。
「えー。 んーなんていうか……。 気分だよ、き・ぶ・ん!」
明らかに濁してるよなぁ。聞かれたくないのかもしれないし。何があったかは知らない。けど、
いつも清珠のつめに塗ってあった、(うちは名前わからないけど)透明なマニキュアが剥がれていた。
クラリネットを片手に、爽やかな朝を迎える。優雅に音楽を奏で、楽器で会話をする。そんな妄想をしてる運動部は誰だよ。
夏になると、室内でも湿気が鬱陶しい。運動部の想像なんてすぐにぶっ壊れる。ポニーテールに髪を結んでも、汗でくっつくし、こそばゆいしで朝から気分は最悪。
「髪さ、切っちゃえばいいじゃん」
前に真白が言っていた言葉を思い出す。
切れたら良かったんだけどな。母さんが過剰に嫌がる様子が目に浮かぶ。私が髪を短くすることに、何度も反対された。理由なんて知らない。
「風音は、髪が長いほうが絶対に似合うわ。 だから、短くしないでちょうだい?」
って。髪ぐらい自由にしても良くないか⁉
「倉木ー。27小節目のリズム違うぞー」
「あ、はい! すみません」
「もう一度、20小節目からー!」
「「はい!!」」
合奏中だった……最悪。
「ごめん、風音。 ゴーグル貸してくれないか?」
プールの授業が始まる寸前、プールサイドで悠月が頼んできた。
またか……。
悠月は、私がゴーグルの予備を持っていることを知ってから、よく借りてくるようになった。だからもう、あらかじめ、うちの手には2つのゴーグルがある。
「はぁ、悪いと思ってないなら、謝らないでよ」
ポイッと投げ捨てるように黒い方のゴーグルを渡す。
「サンキュッ」
と、受けっとた悠月の後ろから、真白が追いかけてきた。
「ゆーづーきー! ラッシュガード忘れてるぞー!」
「橘! プールサイドをはしるな!」
「サーセン! せんせー!」
怒られながらもラシュガードを悠月へ投げる。
「サンキュー真白」
「悠月さぁ、首のアザんとこ、焼けると痛くなんだろ? 忘れんなって」
「ごめんごめん」
「悪いって1ミリも思ってないだろ!」
先生が号令をかける。悠月はいつもどうり、うちと真白の共同サポートにより、完全装備で授業を受けることができたのだ。
透き通るような蒼い空の下、うちらの高校生活は進んでいく。
授業、他愛のない会話、部活、自主勉強、睡眠。
また授業、部活、清珠と悠月、真白とのおふざけ、塾、弟妹の世話、睡眠……。
その繰り返し。作業のような日々に、少しの楽しみ。高校は楽しんでる、楽しんでるけど!
「十時間勉強はれっきとした労働基準法違反だろ!!」
高校から家についたところで、本音が溢れ出る。
もういいや、今日は勉強も、クラリネットの練習もしないもんね。
そうしてベッドの中にダイブした。横にかけられたカメラを手にする。
小学生の頃から使っている、父さんのお下がりのカメラ。そんなに高いやつじゃないけど、愛用しているカメラだ。
今まで撮ってきた写真を見返す。学校には持っていけないから、旅行の写真が多いけれど、一番多いのは空や、雲の写真。
季節や、時間帯によって七色に変化する空は、いつ見ても飽きない。
「おっと」
あっぶな。カメラ落とすところだった。レンズや画面を確認する。
これって……。
そこに写っていたのは、幼い頃の私と、顔がそっくりの男の子だった。うちの家、今の私の部屋で撮られた写真だ。
タンクトップ姿の男の子。その首には見覚えのあるアザが広がっていた。
スマホを引っ掴む。気づいたら、埋もれていたあいつの電話番号にかけていた。
真白:双子の親からは双子が生まれやすいらしいぜ!
清珠:あー、風音の弟妹とか?
悠月:……二人は、双子に生まれたら何したい。
真白:ガチの喧嘩!
清珠:ガチの喧嘩
風音:二人とも野蛮すぎ!!
ここまで読んでいただいてありがとうございます!
次回もお楽しみに!