この上なく透明で
11月8日19時30分。
約束の時間。約束の場所。
白い月を眺めながら、風に吹かれていた。
三人を待つ間、ちょっと思い出した、透明だった頃のお話。
「それじゃ、みんなが待ちに待ったテスト返しをしまーす」
「はー、ついにきたかー」「うわ最悪」「明日だと思ってた」「ヤッベ今日命日かも」「お前もか! あの世で会おうぜ」
先生の一言に、クラスがざわめく。
そっか、もうテストから一週間たったんだ。
「出席番号順に取りにきてください。……今村ー。 ……岡野ー」
天に無駄な祈りを捧げるやつ。ギリギリかもと心配するやつ。それを誤魔化すやつ。
少しピリついた空気だけど、ちょっとニヤけちゃう。
「倉木ー」
「あ、はい」
人間観察に夢中で、先生の声が聞こえてなかった。ガタガタと椅子を引いて答案を取りに行く。
先生から例の答案を受け取り、自分の席へ戻る。途中、清珠に声をかけられた。
「風音。今回は勝てそ?」
勝つ……? 誰に?
「悠月くん」
あー……ね。その人は、机の上で突っ伏していた。
「僕は余裕です」ってことか? ちょっとハラタツけど仕方がない。実際点数は高いのだから。
「今回、私頑張ったほうだから、もしかしたら、ね」
自分の席である清珠の後ろに座る。85点、かぁ。苦手な数学にしては頑張ったほうだよね。これは接戦になりそう。
「次、蓮見ー。 蓮見悠月ー。 寝てないで取りにこーい」
多分ひいき。悠月にだけ先生は優しい。そこもズルいなあって、毎回のように思う。
「なあなあ悠月、おまえ何点だった?」
悠月の周りに男子が群がる。
「今回のクラス平均点は、62点。前回より5点くらい上がってますね。よく頑張りました」
次だ、次の言葉で決まる。悠月のほうをチラッと見る。気怠げそうな眼で先生を見ていた。周りの男子も注目している。
「えー、それとクラス最高点は85点で……」
「よっしゃぁ!! 悠月が一位だ」
「すげえよ悠月! 天才天才!」
先生の話を遮り、悠月の周りの男子が盛り上がる。悠月は眠そうに、「ありがとね」とか声をかけている。
「おめでと」
前の清珠が振り返る。笑顔とピースサインを添えて。
「よくわかったね。うちも85点だって」
「そりゃあ風音のことだもん。そのくらいの点数は取れるでしょ?」
あー、ニコニコしている清珠かわいい。点数とか順位とかどうでも良くなるわ。なんでこんなに私の親友かわいいの?
「悠月くんもだったっぽいけど、総合したら風音のほうが点数高いよ。 悠月くん数学以外は壊滅的だし」
「そだね」
「ちょっとちょっと、ひどいんじゃないの? お二人さんっ」
うお、びっくりした。
「真白くん、びっくりしたなぁ」
「俺のたーいせつな相棒君をけなしてるのは誰ですかー」
前かがみになる真白を、悠月が引き止めた。
「清珠の言ってることは事実だよ。それより、自分の心配したらどうだ。真白」
真白の顔がギクっとなる。
「こ、今回は、赤点回避したし!」
「私は勉強だけが全てじゃないって思うけどね」
清珠がフォローする。
「やめろぉー。 俺が悲しくなるだろぉ」
「あっはは!」
なんだかんだ四人であつまれば笑うんだよね。
そう、これはうちらが透明で、輝いていた頃のお話。
─蒼が霞んでゆく前に─