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皇后が皇帝陛下からの愛を確かめるため死んだフリをしたら、「犯人を見つけ出すため世界中に戦争を仕掛ける」「亡き妻のために巨大な墓を建てる」とガチでヤバイことになりました

 この私マーガレットが、世界屈指の強国ルーガイア帝国に嫁げたのはまさしく幸運だったわ。

 たまたま我が国に来ていた若き皇帝ルファス・ルネビス様が私を見初め、そのまま婚約、結婚することができたの。

 皇后となった私は帝国に馴染もうと努力したわ。お城の人とは積極的に交流して、町で気さくに市民たちと話したり、兵士の方々を励ましたり。努力といっても、私は元々こういうことが苦にならないタイプの人間だったけど。帝国の人たちも皆いい人で、こんな私を受け入れてくれた。

 だけど、不満もあった。

 ルファス様は大帝国の皇帝らしくご多忙で、私と会える時間なんてほとんどない。

 会話できるのは食事の時ぐらいだけど――


「マーガレット、この国はいい国か?」


 ルファス様がさらさらとした金髪で青い眼をした、美丈夫といえるお顔を私に向けてきた。ただし表情はなく、氷のような印象を受ける。


「はい、とても素晴らしい国です!」


 私は精一杯の笑顔で答える。


「そうか」


「……」


 ルファス様は淡々と食事を終わらせる。


「ごちそうさま。では政務に戻る」


 全く会話が弾まない。私も遠慮してしまって、上手く話を広げることができない。

 こんな毎日だと、やはりこんな不安が沸き起こる。

 私はルファス様に愛されているのだろうかと――



***



 日頃私の世話をしてくれるソニア・トリンという侍女がいる。

 栗色の髪に栗色の瞳を持ち、可愛らしくも活発で、私とはとても気が合った。

 他愛ない雑談をしたり、お化粧し合ったり、宮廷内の親友といっても過言じゃない。

 そして、私はソニアにこんな相談をしてみた。


「私はルファス様に愛されているのかしら」


「もちろんですよ!」


 ソニアは即答してくれた。彼女の立場からすれば、そう答えるしかない部分もあるでしょうけど、嬉しかった。

 だけど、やっぱりソニアからの言葉だけじゃ物足りない。


「ありがとう、ソニア。でも、なかなかその実感を得られないのよね」


「マーガレット様……」


「どうにかして、ルファス様からの愛を確かめる方法ってないかしら」


 無理は承知で聞いてみる。

 すると――


「ご病気のフリをしてみる……というのはいかがでしょう?」


 なかなかいいアイディアだと思った。

 例えば咳き込んだり、体調が悪いフリをしてみて、ルファス様が私を心配してくれるかどうかテストしてみるのはアリかもしれない。

 ソニアったら、やるじゃないの。

 だけど私はもう一歩踏み込んだ案を思いついてしまった。


「死んだフリ……というのはどうかしら?」


 私は死んだということにして、ルファス様の反応を見る。かなり悪趣味だけど、病気以上に愛を確かめられる気がしたの。

 これはさすがにソニアに咎められる気もしたけど――


「面白そうですね!」


 この子ったら結構乗り気だった。


「どういう死んだフリをしますか?」


「そうねえ……ベッドの上で横たわるなんてのはどうかしら?」


「だけど、それだと眠ってるだけにも見えますよね」


「それはそうね。一目で死んでいると分かるような工夫がしたいわ」


 ソニアが一計を案じる。


「でしたら、血糊ちのりを口につけるというのはどうでしょう? 口から血を流していればインパクト抜群ですよ!」


「血糊……いいわね! でも、どこにあるの?」


「私、演劇をやってたことがありまして。それで持ってるんですよ~」


 ソニアの意外な過去が明らかに。

 それにしても血糊だなんて、この子もノリノリね。

 だけど、血糊があれば相当リアルな死んだフリができることは間違いないわ。


「じゃあさっそくやってみましょう!」


「はいっ!」


 ソニアが血糊を持ってきたので、私はその血糊を口に含んで、口から少し垂らした。そのままベッドに横たわる。


「どう?」


 私がソニアに問う。


「バッチリです! すごく死んでるって感じがします! 少なくともパッと見たら、ぎょっとすること間違いなしですよ!」


 ソニアから太鼓判を押してもらい、私も自信がついた。

 この件が終わったら、帝国内の劇団で死体役でもやらせてもらおうかしら。


「じゃあ、ルファス様を呼んできてちょうだい」


「分かりました!」


 ソニアは寝室を出て行った。

 まもなくルファス様を連れてくるだろう。

 しかし、不安もよぎる。もし、全く悲しんでくれなかったらどうしよう。

 例えば、


「そうか、死んだか。死体は掃除しておけ」


 こんな風なリアクションだったら悲しすぎる。

 ノリノリで始めた死んだフリだけど、なんだか後悔もしてきた。

 自分の中で血の気が引いていくのが分かる。

 すると、ソニアとルファス様の声が聞こえた。さあ、死んだフリをしなければ。


「マーガレットが……!?」


「そうなんです!」


 二人が寝室に入ってきた。

 私は目をつぶって、なるべく呼吸は最小限にする。


「マーガレット……」


 ルファス様の声だ。ショックを受けてくれてるのか、少し震えてる気がする。先ほど血の気が引いたのも、いい効果をもたらしてくれている。


「マーガレットおおおおおおおおお!!!」


 ルファス様が慟哭してくれた。

 やったわ、これは予想以上の反応。これは嬉しい。

 嬉しさで笑みがこぼれそうになるが、私は口を引き締める。死んだフリを続ける。


「私を置いていくなああああああああああああああ!!!」


 ああ、最高。私を置いていくな、頂きました。

 私はルファス様に愛してもらえていた。

 薄目を開けてソニアを見ると、私に向けて親指を立ててくれてる。『よかったですね!』と言ってくれてるかのようだ。

 私が死んだフリをしつつ、悲しむルファス様を堪能する。


 程なくして、城勤めの医師がやってくる。

 私の状態を確認しにきたのだろう。私はもちろん生きているので、医師に脈なり心音なりを調べられたら、死んだフリはすぐバレる。

 もう少しこの状況を楽しみたかったけど、ここまでかな。

 しかし、ルファス様は医師を怒鳴りつけた。


「マーガレットに触るな!」


 医師とソニアが驚く。私も驚いてしまう。


「あ、いや、すまない。取り乱した……しかし、マーガレットの聖なる遺体には、誰も触らせたくないのだ」


「承知しました……」


 医師はルファス様の迫力に押されたのか、部屋を出て行く。

 これは嬉しい誤算だわ。おかげでもう少し死んだフリを楽しめる。

 “聖なる遺体”呼ばわりはちょっと痛い気がするけど、それだけ愛してくれてるってことよね。


 ルファス様はソニアに言った。


「マーガレットの遺体はお前が見ていてくれ。マーガレットもお前には心を許していたからな」


「は、はい! 陛下はどうなさるので?」


「マーガレットのために緊急会議を開かねばならん」


 全てをソニアに任せて、ルファス様は部屋を出て行った。

 それを確認すると、私も死んだフリをやめて起き上がる。


「よかったですね、マーガレット様!」


「ええ、あんなに悲しんでくれて……嬉しいわ」


 ルファス様は死んだフリをした私を見て、大いに悲しみ、嘆いてくれた。挙げ句、医師を追い払うほど取り乱してくれた。

 本当にありがたいことだ。


「じゃあ、そろそろネタばらしをしませんか?」とソニア。


 もう目的は果たしたのだから、ソニアの意見は当然と言えた。

 だけど、私は――


「もうちょっと……続けたいわ」


「続けるんですか?」


「ええ、ずっとおあずけを食らってたんだもの」


 ルファス様に愛されているのは分かった。しかし、今までそれを分かりやすく示してもらえなかったのも事実だった。

 自分勝手かもしれないが、それに対する腹立たしさも感じている。

 だから、もう少しだけこの遊びを続行したかった。

 すると、ソニアもうなずいてくれた。


「そうですよ! マーガレット様にはその資格があります!」


「ありがとう!」


 ソニアも、私がルファス様からつれない態度をされてきたことを知っている。だから賛同してくれた。


「じゃあ、これからどうしますか?」


「会議で何を話すかが知りたいわね」


「議題はマーガレット様のことでしょうけど……」


「きっと私の葬式をどうするかという話し合いに違いないわ」


「間違いないですね」


「それを是非、聞きたいわね。それを聞いたらネタばらしをしたいわ」


 会議が終わったタイミングで、生きていたことを告げるのが一番いい気がした。


「しかし、どうやって会議の内容を聞きます?」


「お茶を運ぶための大きめのワゴンがあるでしょう? あれの空洞の部分に私が入って、布をかぶせれば……」


「いいアイディアですね! それでいきましょう!」


 相変わらずソニアもノリノリである。この子のこういうところ、ホント好き。

 私はワゴンの中に入り、ソニアに押してもらう。お茶を運ぶという体で、会議室に向かった。



***



「お茶をお持ちしました」


 ソニアが私をワゴンに入れたまま、会議室に入る。

 すでに会議は始まっていた。


「マーガレットが死んだ」


 ルファス様が重々しく告げる。重臣たちがざわめく。中には嘆いている人もいた。ありがたいことだわ。


「マーガレットは口から血を流していた……おそらくは殺されたんだ」


 これはちょっと予想外だわ。

 ルファス様は私が殺されたと推理しているらしい。


「犯人は絶対許さん。必ず見つけ出して、私の前に連れてこい!」


 重臣たちが一斉に返事をする。

 いや、犯人なんかいないんだけど……いるとしたらそれは私なんだけど。

 私は事態が思わぬ方向に向かっているのを感じていた。


「それともう一つ、マーガレットの葬儀は盛大に行う」


 これは予想通り。


「ルーガイア帝国始まって以来の、最大の葬儀にするぞ!」


 前言撤回。全く予想外だった。

 いやいや、他国から嫁いできた女に、史上最大の葬儀って。

 お金の無駄遣いすぎる。重臣たちが納得しないでしょう。


「やりましょう!」

「マーガレット様のためなら!」

「最大の葬儀を!」


 納得しちゃった。

 中には、私の死に号泣している者もいる。

 確かに帝国に馴染もうと努力してきたつもりだけど、ここまで慕われてたなんて。

 今更ながら死んだフリなんかしたのを後悔し始めていた。すみません、私生きてます。


 ソニアが小声でささやく。


「これはもう、すぐにバラした方がいいですよ……」


「そ、そうね……」


 会議は「私を殺害した犯人を見つけ出す」「盛大な葬儀を行う」ということでまとまり、解散となった。

 私とソニアは先回りして寝室に戻り、再び死んだフリをし、ルファス様が戻ってきたタイミングで全てを打ち明けることに決めた。

 まだこのタイミングなら許してもらえるはず……多分。


 しかし――


「許さん……!」


 寝室に戻ってきたルファス様は激怒していた。

 時間が経ち、悲しみが怒りに変換され始めたのだろうか。

 私は起き上がるタイミングを見失ってしまう。


「許さん許さん許さん許さん許さん……許さんぞ! マーガレットを殺した奴は、七日七晩拷問にかけ、手足を切り落とし、ギロチンで首を切り落としてくれる……!」


 激怒ってレベルじゃなかった。

 とても「生きてました」なんて言えない。

 ちなみに“マーガレットを殺した奴”は私なんです。この謎はどんな名探偵でも見抜けないでしょうね。まさに完全犯罪。完全にやらかした犯罪。


 結局打ち明けられぬまま、ルファス様はどこかに行ってしまった。

 さすがにソニアが私に怒る。


「なぜ言わなかったんですか!」


「だって……怖かったんだもん」


「そりゃ怖いでしょうけど……」


「だ、大丈夫よ。まだネタバラシのタイミングはあるわ。きっと言うから……」


 私は打ち明けるのを先延ばしにしてしまった。

 

 しかし、これは間違いだった。

 時間が経つにつれ、ルファス様の怒りと悲しみは増幅していき、「実は生きてました」をやるタイミングなど全く訪れなかったんだから。


 私はソニアに弱音を吐いた。


「ど、どうしましょう……」


「どうしましょうじゃないですよ! 早くバラさないと……」


「でもあんな状態のルファス様にバラしたら、私がバラバラにされちゃうわ!」


「そうかもしれませんけど……!」


 結局打ち明けられないまま時間だけが過ぎていった。


「どうするんですかぁぁぁぁぁ!?」


「どうしましょぉぉぉぉぉ!!!」


 私は幼い頃、花瓶を割ってなかなか両親に打ち明けられなかった時のことを思い出していた。

 早く打ち明けた方がいいに決まってるのに、どうしてもそれができない。

 私は奈落の底に向けてハシゴをかけ、自ら降りていっているような感覚を味わっていた。



***



 結局打ち明けられないまま二日過ぎ、再び会議が行われた。

 私はもちろんソニアに頼んで、ワゴンの中で会議の内容を聞く。


「残念ながら、マーガレット殺害犯は見つからなかったか……」


 重臣たちからの報告を聞いて、ルファス様が漏らす。

 見つかるわけないんだけどね。なにしろ死んだフリなんだから。とりあえず、これで犯人探しは諦めてくれそうでなにより。


「よし、決めたぞ」


 うんうん、犯人探しは諦めよう。


「我がルーガイア帝国は、全世界に宣戦布告する」


 ――ん?

 何をおっしゃっているのかしら、この皇帝陛下は。


「どういうことです?」重臣の一人が尋ねる。


「考えてもみろ。この厳重な警戒の宮殿に忍び込んで我が愛するマーガレットを殺害するなど、並みの人間には不可能だ。選りすぐりのエージェントが犯人に違いない」


 いや、ちょっと待って。


「私に最も精神的なダメージを与えるにはマーガレットを亡き者にすることだと分かったどこかの国が、暗殺者を送り込んだのだ。そして、マーガレットは……」


 送ってない。送ってない。どこも送ってない。


「となると、もはやこれは国家ぐるみの陰謀だ。世界中に戦争を仕掛け、殺害犯を炙り出すしかあるまい」


 あるまい、じゃないわよ。虫一匹殺すために森を焼くようなものよ。


「ただし、マーガレットの祖国は除外する。あの国がマーガレットを殺害する理由はないからな」


 あら、こういうところはしっかりしてるのね。ありがとう。

 って、こんなこと言ってる場合じゃない。ガチでヤバイ。

 だけど、こんな無茶な戦争、重臣が反対するに決まってるわよね。たかが皇后のために世界大戦を引き起こすだなんて。


「やりましょう!」

「あの愛おしいマーガレット様のためならば……!」

「ルーガイア帝国は勝てます!」


 やる気満々なんだけど!

 いや、少しは止めてよ。どう考えてもおかしいでしょ。しかも、ルーガイア帝国は本当に勝てちゃいそうなぐらい強いっていう。

 どうしよう、どうしよう、どんどん事態がまずい方向に。


「それともう一つ。マーガレットの葬儀の件だ」


 そういえば葬儀をまだやっていなかったわね。

 私の遺体は聖なる扱いされて、今だ手つかずという状況よ。


「市民たちに巨大な墓を作らせよ」


 いや、ちょっと待って。


「帝都の郊外に、史上最大の墓をな。皇后が安らかに眠れるように」


 私あんまり広い部屋だと眠れないタチなんですけど。

 ヤバイヤバイヤバイ、どんどん話が極端な方向に進んでる。

 このままじゃ、世界大戦が勃発して、巨大な墓が出来上がっちゃうわ。

 だけど、これから戦争しようって時に、重臣たちがこんな案に賛成するとは思えないけど……。


「やりましょう!」

「マーガレット様に安らかな眠りを!」

「すぐさま市民たちにお触れを出しましょう!」


 やるんかい。

 だけど、市民たちはきっと猛反対するわね。どうするのかしら。


「是非作ります!」

「みんなの力を合わせよう!」

「大好きだった皇后様のために!」


 市民たちも、誰一人として反対しない。

 イエスマンにも程があるでしょ。

 それだけ慕ってくれてたのは嬉しいけど、でかい墓なんか作らなくていいって。

 いつも通りの生活してちょうだい。それがなによりの供養になるのよ。いや死んでないけど。


 ソニアが青ざめた顔で私に忠告する。


「もうバラした方がいいですよ!」


「そ、そうね……。バラしましょう。ちゃんとタイミングを見て……」


 もうタイミングだのと言ってる場合じゃないのに、私はもはや現実逃避という海でスイミングをしていた。



***



 結局言い出せないままさらに数日が経ってしまった。


 ついに、私の仇を討つための軍の編成が完了してしまったらしい。


「帝国歩兵団、出撃準備完了!」

「魔法兵団、出撃準備完了!」

「騎士団、出撃準備完了!」


 私はいつものようにソニアにワゴンで移動させてもらい、軍隊を見たけど、壮観の一言。

 どんな国だって一日あれば滅ぼせちゃいそうな気がするわ。


「これでマーガレットを死に追いやった者を仕留められる」とルファス様。


 すみません、それ私なんです。


 悪い知らせはさらに重なる。


「皇后様の墓が完成したようです!」


「よくやった!」


 早すぎるわよ!

 たった数日で完成って。市民たちどれだけ本気出したのよ。

 帝都の郊外には、巨大な私の胸像のような墓が出来上がっていた。突貫工事とはとても思えない完成度だ。きっと耐震性も抜群ね。

 いやぁ、ご立派。だけど正直恥ずかしくもある。


「これでマーガレットも安らかに眠ることができるだろう」と満足げのルファス様。


 すみません、このところ私は全然眠れてないんです。


 ルファス様はまもなく全軍を出動させるという。

 ソニアが私に言う。


「もう言うしかありませんよ! 放っておいたら、犠牲者が何万人と……!」


「そうね……言うわ!」


 私も決心した。

 ルファス様に全てをバラそう。たとえ私の身がバラされることになっても――


 ルファス様が寝室に戻ってきた。

 “聖なる遺体”である私に、出陣や墓完成の報告をするためだろう。

 私は覚悟を決めた。遅すぎる気もするけど。


「おはようございます!」


 私は起き上がった状態でルファス様を出迎えた。


「!?」


 ルファス様は目を丸くしている。当然よね、死んだはずの妻が生きてるんだから。


「実は私、生きていたんで~す」


 少しでも場を和ませようと、精一杯おどけてみせる。


「……」


 ルファス様は黙ったままだ。

 小刻みに震えている。怒ってるんだろうか。怒ってるに決まってるわよね。この場で斬られてもおかしくない。もうズバッとお願いします。


 すると、ルファス様は目に涙を浮かべた。

 今度は私も戸惑ってしまう。


「よかった……!」


 ルファス様は私を優しく抱きしめてくれた。


 それから、私はソニアと共に全てを打ち明けた。


「私なんです! 私がマーガレット様をそそのかして……!」


「違うわ、ソニア!」


 ソニアは私をかばってくれた。嬉しかった。

 だけど、この子を処罰させるわけにはいかない。

 絶対にそれだけは阻止しなければ。


「ルファス様、処刑するなら私だけに! ソニアは罰しないで下さい! どうかお願いします!」


 だが、ルファス様は言った。


「マーガレット、君を処刑などするはずがない。ソニアも不問だ」


 あっさりと言ってくれた。

 しかし、これだけで済むはずがない。大勢の重臣や軍関係者も巻き込まれているのだから。


「でも、みんなが納得するかどうか……」


「そうだな。さっそく重臣たちにも君の生存とやったことを知らせよう」


 私は皇后から排斥されることも覚悟したが――


「死んだフリだったんですか! よかった!」

「ビックリしましたよ~!」

「めでたいめでたい!」


 あっさり許してもらえた。

 いや、許しちゃいかんでしょと言いたくなるぐらいあっさりだった。

 でも、巨大な墓を作らされた市民はきっと許してくれないでしょうね。暴動が起きてもおかしくないわ。


「では、市民にも知らせよう」


「はい……」


 私の生存と死んだフリを知った市民たちは――


「マーガレット様が生きててよかった!」

「責めるつもりなんてないですよ!」

「作った墓は、ぜひ別荘にでもして下さい! かえって縁起がいいかもしれませんよ」


 みんな許してくれた。別荘にはしないと思う。


「我が国の国民は領土と同じで、みんな心が広いのだ」


「広すぎるような気もしますけど……」


 ルファス様はこうおっしゃるけど、正直もうちょっと狭い方がいいと思う。


 結局全てを許してもらえた。

 もちろんソニアにもお咎めはなしだ。

 ちなみに世論調査をしたら、元々高かった皇后支持率がさらに上がったらしい。上がる要素どこにあったの?

 嬉しくはあるけど、ちょっと複雑な気分でもあった。


 すると、ルファス様は――


「マーガレット、今回の件、私にも責任がある。仕事に忙しくて、かつ君も帝国に馴染んでいるようだったので、無理に君と会話をすることもないかな、と判断してしまったんだ」


「いえ、そんな……」


「だが、これからはもう君に寂しい思いはさせない」


「ルファス様……」


「だからもう、二度と死んだフリなどしないで欲しい」


「もちろんです!」


 してたまるか。絶対しません。本当に申し訳ございませんでした。

 こうして私の死んだフリ騒動はどうにか一件落着を迎えた。



***



 それからというもの、私はルファス様と会話を楽しむことが増えた。


「マーガレット、最近はますます美しくなったね。以前よりスリムになって、血色がよくなったように見える」


「このところ、ソニアと一緒に運動してますから」


「そうか、今度休みを取れるから、一緒にピクニックでもどうだい?」


「是非行きましょう!」


 死んだフリ事件がなかったら今も夫婦らしい会話はなかったと思うと、死んだフリもしてみるものだな、と思ったりする。それ以上に反省してるけど。

 ちなみに、私の巨大な墓はなぜか観光名所となり、国の財政に大きく貢献しているという。私からすれば黒歴史をみんなに見られてるようなものだけど、自業自得だから仕方ないわよね。


 さて、こんな私だけど、最近は運動に凝っている。


「マーガレット様、今日はバレーボールでもしましょうか!」


「ええ!」


 中庭でソニアとボールをトスし合って汗を流す。

 運動後のストレッチも忘れない。


「しかし、マーガレット様、このところ急に健康に気を使うようになりましたが、どうしてですか?」


 ソニアの問いに私は答える。


「だって……もし私が病気なんかで死んだら、ルファス様何をするか……」


「た、確かに……」


 死に方によってはまた今回のような騒動になりかねない。

 今回は死んだフリだったからよかったが、本当に死んでしまったら、もはやルファス様を止める手段はない。


「世界を守るために、せいぜい長生きしなくっちゃね!」


「マーガレット様はきっと長生きしますよ!」


 運動を終えた私は、ソニアと共にタオルで汗を拭いて、お城に戻った。






お読み下さいましてありがとうございました。

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[一言] この皇帝、奥さんが寿命で死んだら寿命を設定した神に宣戦布告しかねない
[良い点] 聖なるご遺体! [一言] チョロすぎて心配になる国民たちには、このくらい突き抜けた皇后様がちょうど良いのかも? しかし皇帝はやばい奴だったー やはり無表情系は地雷 笑
[一言]  核兵器みたいなボタン1つで都市が消えるような兵器がない世界で良かったなあ、と。
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