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「つ、疲れた~~」
皇都の人混みナメてた!村の祭りなんて比じゃない。比べるのも皇都に失礼だった!!
「ほーら、これを飲むが良いぞ!我の奢りだ。そこの出店で買ってみた、冷たそうな飲み物だ」
「あ~?ありがとう」
花の祝日、今の時間は正午を過ぎて暫くたったってくらいかな?
午前中は三人で、パレードが行われていた西区のメインストリートから皇城広場へと繋がる道の脇に出ている出店を冷やかして歩き、パレードと一緒に移動して行く人混みに揉まれながら移動し、初めて目にする輝術いっぱいの派手で盛大なパレードを見て楽しんだ。そして、それぞれが思う存分出店やパレードを堪能した後、わたし達は少し早めに花桃の案内で渡教師との待ち合わせ場所である、中央区の噴水公園広場へやって来たのだ。
蛍火に奢って貰った、冷たい飲み物が注がれてる紙のコップを受け取り、噴水の周りに置かれているベンチに腰を下ろして、ほっと一息。
「何だか凄い色してませんか?この飲み物……」
そう言って紙のコップの中を覗き込む花桃の顔は、とっても不審そう。まるで毒でも飲まされそうな顔をしているので、わたしも不思議に思って蛍火から受け取った紙のコップの中を覗き込んで見る。
うん、確かにそこに注がれている飲み物の色は、生まれて初めて見る毒々しい色をした飲み物だった。
「ランダムフレーバー茶って言うんだってさ」
蛍火は鼻歌を歌いながら、その名に臆することなくお茶飲み始めた。
わたしは蛍火が奢ってくれた飲みもの名前のランダムって所が気になったけどね。
それに、わたしに渡された紙コップの中身のお茶の色、群青色なんだよ!?
わたしと同じく直ぐに口を付ける事を躊躇っている、花桃の紙コップの中身を覗かせてもらうと花桃のコップの中身は灰色だし……ちなみに蛍火の飲み物の色は濃い緑色だった。何故だろう?普段なら敬遠したい色をしているのに、今は一番まともそうな飲み物の色だ。
友達となったここ二日で、蛍火の性格は大体理解出来て来た。良く言えば大らかで何にでも寛容で、悪く言えば細かい事は気にしないタイプ。そしてめちゃくちゃ好奇心旺盛で、気になる事を気にしたままには出来ないのだ。
きっとそこの出店のランダムフレーバー茶と言うのも、名前を目にしたから瞬間から、飲んでみたくてしょうがなかったんだろう。つまりわたし達は、巻き添え食らっただけ。
わたしの隣に座っている花桃と目が合うと、お互いにしょうがないなっと言う気持ちで、苦笑いしながらわたし達は覚悟を決めた。
……まあ、蛍火は自分が興味があったから購入したんだろうから、わたし達が怖気付いて飲まなかったとしても、笑って許してくれると思う。大らかな人だし
でもせっかく蛍火が面白そう(味は二の次)と思って、わざわざわたし達の分も買って来てくれたのだ。わたし達に飲まないと言う選択肢は無い。
グイッとコップを傾けてみても、やっぱりわたしにはぐい飲みする勇気は無くて、ちょっとだけお茶を口に含んでみた。口に含んで直ぐお茶の味よりもその爽やかに驚いた。
お茶の味自体は不味くは無い。けど美味しくも無い。でも飲めないって程じゃない。ほんわか甘くて、とても口の中がスースーする。ごくんと一口飲み込むと、飲み物が通って行った身体の臓器も一緒にスーって冷えていった。朝の歯磨きの時に使った歯磨き粉の二倍くらいスースーする。
「……飲めますね」
「うん、飲める事は飲めるね。ビックリ。花桃のはどんな味?」
「そうね……桜餅に近い味かしら?でも、この後から来る甘酸っぱい味は、一体何なのかしら?初めての味ですわ」
「なぁっ!!冷たくて美味しいだろ?」
「「美味しくは無い」」
「え!?そうか?」
そうかなぁ?我は中々旨かったと思ったのだか。
そう蛍火は言うけど、蛍火が飲んだランダムフレーバー茶はどんな味だったのだろう。一番普通の飲み物の色をしていたけど……?
きっとこうして一緒に飲んだ相手のお茶の味が気になり、自らチャレンジしたいと思える人が、あの出店の固定客となって行くんだろうな。そしてランダムフレーバー茶を制覇したくなる。
わたしも勇気は無いけど割と好奇心はある方だし、不思議とたまにならチャレンジしても良いかもって気持ちになってるから。
きっと、あのお茶の色で、味が美味しくも無けれれば、不味くも無かった所が、またチャレンジしても大丈夫だと思えた重要なんポイントだったんだ。
良いきっかけ……って言うか奢ってくれて有難う。絶対自分じゃ、商品名を目にした時点で買わなかったと思うから。
帰ったら朝輝にも教えてあげよう。ん〜〜、それとも今度一緒に街に遊びに行った時、一緒にチャレンジするのも手か?朝輝はめちゃ嫌がりそうだけどね。その顔を見てやるのも楽しそうだっと、クスッと笑いながらお茶を一気に飲み干しながら顔を上げると、ふと、海の匂いがした気がした。
ん?もしかしてこのお茶に磯っぽい要素でもあったのかな?
口の中に残る味をムグムグと確認しても、塩気も感じられ無ければ、お口の中は相変わらずスースーしたまま爽やかで、磯っぽい臭いは全く無い。
じゃあ何処から?っと、クンクンクンっと周りの匂いを嗅いでいたら
「……どうかしました?」
「……犬の様だぞ?」
まるで不審者を見る様な目で、わたしを見ている二人と目が合った。
「……いや、何か、海の香りがして?」
「「うぅーみぃー?」」
二人もわたしと一緒になって周りをキョロキョロと見渡し、クンクン匂いを嗅ぐとわたしの真似をして、海っぽい匂いの元を探してくれたけれど見つからず、
「ごめん二人共。折角一緒に探してくれたのに、どうやらわたしの気のせいで……」
済ませようと思った所に不意に流れて来た風が、確かな海の香りをわたしの鼻に運んで来たのだ。パッと反射で風の吹いて来た方を振り向くと、大きな噴水を挟んで向こう側のベンチに、大きな鞄を抱えた少女が俯いて座っている姿が見えた。
間違い無い。あの子のいる方から仄かな海の香りが漂って来る。わたしにしか嗅ぐことの出来ない匂いであるのならば、これは……
「……ねえ、あの子、」
一緒に探してくれた二人に匂いの元を告げよとした時、カラン、カラン、カランと時計塔が鳴らす鐘の音が聞こえて来た。
これは皇都に住む人ならば誰もが知る時報。一日二十四時間で十二回、午前と午後二時間置きに鳴らされる、飛輪で一番の高い教会の時計塔の鐘の音だ。
と、言う事は、もう渡先生と約束していた、午後二時になってしまったという事だ。
「そろそろ、渡教師が来る時間かな?」
「その様ですわね」
約束の時間になったからと言う訳ではなく、公園内の様子から花桃はそう判断したらしい。腕に『飛輪清掃ボランティア』と書かれた腕章を付けている人が公園内に増え始めていたからだ。
「我らは腕章を貰ってこなくて良いのか?」
アレに参加するんだろう?と言って蛍火が指さした方にはテントが張られ、そこにはボランティア受付と書かれた簡易本部見たいなのが出来ている。わたし達が公園に来た時にはテントは見当たら無かったので、正直「いつの間に!?」って感じなんだけど。
「渡教師は「待っていろ」としか言ってなかったから、ここで待っていた方が良いんじゃない?」
……受付とか自分でするに面倒そうだし、それにわたしは今ボランティアより、海の匂いがする少女の方が気になっているんだってと、二人に告げようとした時、目敏い蛍火がいち早く、渡教師が『飛輪清掃ボランティア』の受付の列に並んでいるのに気付いた。
「我らの代わりに、教師が登録しようとしてくれるようだな?」
「そのようね」
「……いや、普通に呼ばれてるからね!?」
早くこっちに来い!とばかりに、大きく手を振って列に並んでいる、渡教師が見えないって訳じゃないでしょ?だってもう目が合っちゃってるし!!
「……なんかもう渡教師が可哀想になって来たし。早く行ってあげようよ!」
だって、渡教師がこっちに向かって手を振っている限り、ここに居るわたし達も目立つしね。実際問題彼の周りの人達も、何だ?何だ?って顔してこっち見てるし。
「仕方ありませんね。行きましょうか」
「そだなー」
わたしがジッと見ていても、最後まで一切顔を上げる事のな無かった、海の香りがする少女の事は気になるけど、それはそれだ。
後ろ髪を引かれる思いはしたけど、わたしには今、補習が免除となる慈善活動に参加する方が大事で、きっぱりと意識を少女からゴミ拾いの方へと切り替えた。
そして、やれやれとベンチから重い腰を上げた二人を追いかけて、渡教師が並ぶテントの方へと三人一緒に歩いて行ったのだった。
お読み下さり有難うございました。