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飛輪警察団物語り  作者: 星鈴トキオ
1、補習な少女たち
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1-6


いい加減しろ自分。


一度寮へと帰り、二人とは玄関で分かれた。……そして、自分が鞄を持って帰らなかった事に気付き今に至る。

蛍火と花桃と夕飯を一緒に食堂で食べる約束をしたので、黄昏迫る夕日の中を慌てて校舎へと引き返す。急がなければ夕飯の約束に遅れてしまうのだ。


鞄くらい一日教室に置いておいても大丈夫そうな物だと思われるだろうが、私の鞄には兄から送られてきた手紙が入っている。

今日出掛けに受け取って封を切らずに鞄の中にしまって置いた物だ。ちなみに、朝書いていた手紙は、前の手紙に対する返事の様な物で、前の手紙の返事を中々出さなかった為、返事を催促する手紙の方が早く来てしまった。手紙の内容なんて読んでなくても何と無く想像がつくもので、帰ってから読もうと鞄の中に入れて忘れていた。


大分生徒が減って静かになった校舎の中を駆け足で進み、扉をがらりと開け教室に足を踏み入れて、初めて気付いた。

自分の席に自分じゃない知り合いが座っていたのだ。教室に彼以外の姿は無い。


「やっと戻ってきたか。教師の話はそんなに長く掛かったのか?」

「朝輝こそ、まだ教室に残ってたの?」

「……鞄があったから、まだ帰って無いんだと思って」


わたしの席で本を読んでいた朝輝は、少し照れた様にそう言いながら本を閉じて立ち上がる。


朝輝の指摘は一部正しい。鞄を忘れた事を思い出したから取りに戻って来たのだ。……一度寮に帰ってしまった事は恥ずかしいから内緒にしとこう。


「そうか、朝輝はそんなにわたしと帰りたくて、待っててくれたのね」

「……そうだな、そう言う事にしておこう話したい事もあったし」

「おおぅ」


スルーされた。

夕食の時間も近づいてるってことで、寮に帰りながら話そうって事になった。

今度はきちんと鞄を持って帰る帰り道。

見上げた空の色は、綺麗なオレンジ色で、明日は絶対晴れるなと思わせてくれた。晴れるのは嬉しい。でもあまり暑くなるのはいただけない。


明後日も晴れそうだし、日焼け止め対策に麦わら帽子は被って行った方が良いかな?でも、慈善活動は学園の授業の一環なので制服で行う。夏服だけど、あんまり麦わら帽子と似合うって制服でも無いんだよね……むしろ街中では浮くか?


「何難しい顔して歩いてるんだ?きちんと前見て歩けよ、転ぶぞ?」

「大丈夫。その前に朝輝が声を掛けてくれるでしょう?朝輝はわたしの事が大好きだから」

「どうだか」


鞄が置いあっただけで待っててくれる優しい人が、わたしが怪我をしそうになるのを黙って見ている訳無いじゃない?


わたしと朝輝は、肆ノ島にあるクジョウという小さな村で暮らし、お互いの家も近く幼馴染みとして育った。

そもそも同じ年頃の子供が、村にはわたしと朝輝以外居なかった。星明お兄さんだって、わたしとは十以上歳が離れているのだ。

わたしが朝輝の遊び相手として借り出されたとしても、仕方の無い事だったのだろう。


わたしが朝輝と出会ったのは五歳の時。家族皆で祖父を頼ってクジョウ村へと引っ越した時だ。残念ながらその頃にはもう祖父は亡くなっていて、わたしが祖父に会う事は叶わなかったのだけど、幸いなことに港近くの高台に祖父が住んでいた家がそのまま残されていた。


祖父が残していた家に住む許可を、管理人となっていたクジョウ村の村長へと貰いに、家族全員で村長さんの家を訪ねた時、わたしは朝輝と出会ったのだ。


初めて朝輝を見た時、こんな可愛い女の子本当に居るんだなぁ~そう思った。


薄紫色のさらりとした長い髪をリボンでオシャレに結い、きらきらと輝く澄んだ藍色の大きな瞳に、真綿の様な白い肌。わたしが一番大事にしているお人形さんよりも整った顔立ちで、美少女ってこう言う子の事なのねと理解した。同じ年でもわたしは彼女の足元にも及ばない。むしろ踏みつけられても笑顔で受け入れられそうだ、と幼心に変な性癖に目覚めそうだった。


星明お兄さんがわたしの事を「可愛い可愛い」と言ってくれるけど、それは家族が贔屓目に見ての「可愛い」であって、こんな女の子と比べられたら、わたしは今度から可愛いなんて、お世辞以外で言って貰えなくなるじゃない!!その時はそう一抹の不安をも覚えた。


わたしは至って超健康児だ。真綿の様な白い肌に憧れていても、肌は小麦色だし、髪はさらさらじゃなくうねりのある癖毛。大きな目が欲しくとも、いつも眠そうねと誤解される細い目だし。


わたしの憧れを形にしたような女の子だと思った。


村長さんはお父さんと知り合いだったらしく、わたしが朝輝の遊び相手を務める事が条件で、祖父の残した家の使用許可を出してくれた。わたしに異論は無い。こんな可愛い子と大手を振って遊んでも良いなんて、村長さんってなんて良い人!!……その時は本気でそう思ってたんだけどね~。


そんな美少女が、まさかこんな美少年に育ってしまうとは!!

朝輝が女の子じゃなくて、男の子だったって知った時、わたしは三日寝込む羽目となった。

まあ、勘違いしてたわたしが悪いんだけど、それだけわたしにとっては事件だったんだよなぁ〜〜色々やらかしてたし、ね?


あれからもう八年か。八年も一緒にいるのか、こーいうのもしかして腐れ縁って言うの?


「お前、明後日はどうするんだ?」

「明後日~?」


何かあったっけ?と首を傾げると、朝輝がちょっとムッとした表情で言った。


「明後日の花の日のパレード!行くかどうか迷ってただろ?結局どうする事にしたんだ?」

「あ~それなら行く事になったよ!友達と!!」

「え!?友達と?」


驚く朝輝に、明後日のパレードに行くことになった理由を話す。教師に呼び出されたの心配してくれていたしね。


「明後日の午後ね、夏季休暇中の補習参加の条件として、パレード後の慈善活動に参加することになったの。んで、どうせ慈善活動するのに飛輪に出なきゃ行けないなら、一緒にパレードも見ようって誘われたんだ。わたしも出店には興味あったし行く事にしたんだよね~」

「……誰と?」

「同じ、補習仲間とだけど……?」


何故かどんどん肩を落として凹んでいく朝輝を見て、もしかして?とある可能性に気付いた。


「もしかして、一緒に行きたかった?」

「……うん」


未だ迷っている様なら俺から誘おうと思ってた……とポツリと小さく呟いた朝輝の言葉が、直ぐ隣で歩いていたのでちゃんと聞こえた。それは、何と言って良いのやら、タイミングが悪かったね!と笑って揶揄出来るような、落ち込み具合ではない。


こういう場合ってどう励ませばいいの?そもそも励ますの?じゃあ、朝輝も一緒に行く?とか誘うべき?

でも、朝輝が知り合いでもない人と一緒にパレードに行って楽しめる性格とも思えない。

それに補習でも無い人が、一緒にパレードを楽しむだけ楽しんで、慈善活動には参加しないで帰るなんて、他の二人は嫌じゃない?まあ、あの二人なら気にもしないかもって気持ちも若干あるけど。


きっと、わたしが朝輝との試験勉強最中に「雅様は見れないけど、皇族のパレードって見た事無いから興味はあるんだよね~」とか「人混みは苦手だけど、村のお祭りの時みたく出店が出るんだって、そんなのもうお祭りだよね!!」とか、勉強の合間にめちゃくちゃ話ししてたんだよね。もしかして、誘って欲しい系だと思われてた?そうなら本当に申し訳ない。


わたしにだって申し訳ないって言う気持ちはある。「ごめん」って言うのは簡単だけど、それだけじゃあ落ち込む朝輝に悪い。


う~~んと、足りない頭をフル回転させた末に、わたしが出した答えがこれまた朝輝を凹ませる原因となった。


「あ、そうだ。じゃあ、朝輝も友達誘って行くと良いよパレード」


向こうで会えたら何か奢るよ!とにこやかに言えば、心底憎いと思われているだろう表情で、


「お前の親友はお前だろう!!」


と、ちょっと涙を浮かべた目で睨まれてしまった。

結局、わたしはこの日何度も朝輝に「ごめんなさい」と謝って、次の雨の日のお休みに二人で皇都に遊びに行く事を約束させられたのだった。



お読み下さり有難うございました。

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