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飛輪警察団物語り  作者: 星鈴トキオ
1、補習な少女たち
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1-3


「先ずは、一組 花桃かとう・シュヒ君。君は、学科試験の成績は問題無く基準点に達しています。しかし、輝術の実技試験の結果、大至急補習が必要になりました。補習期間中は、輝術教師の華蘭からん先生が貴女に付きっきりでご指導して下さるとの事です」

「げぇ」

「『げぇ』とか言わないの!女の子とか言う前に、貴女貴族令嬢でしょう!?」


でも渡先生『げぇ』って言いたくなる気持ちも分かるよ?

一年生の輝術授業の担当って、確か全組華蘭教師だから。勿論わたしも教えて貰っているんだけど、華蘭教師の輝術の実技ってさ、ほんと感覚的で凄いスパルタだから。

輝術を初めて教えて貰った授業の初日、上手く輝力を扱えない一年生達に「死ぬ気でやれば出来るから!」と「こうっ!」って手本を見せてくれた姿が、未だわたしの記憶の中から忘れられないし。きっと生徒全員同じ事思ったと思うんだ。「こうっ!」って「どうだよ?」って話。


『げぇ』と言った、わたしの右隣に立っている女生徒は、その名前を花桃かとう・シュヒと言う。

人参色のふわりとした癖毛に、少し釣り目気味に大きな緋色の瞳を持った、高貴な雰囲気を纏う美少女だ。まあ、実際身分だけで言うなら、この学園の中では王族の次に高貴みたいなんだけど。


彼女のお父様は、暁桜国の皇都からほど近い、一ノ島南方の広大な領地を納める公爵だ。その公爵家の一人娘が彼女つまりは公爵令嬢。皇族にだって嫁げちゃう身分だと言うばどれくらい高貴か分かってもらえるだろうか?


そんな高貴な身分の公爵令嬢にも補習は別として、罰として“慈善活動《ゴミ拾い》”を命じれる飛輪学園凄いな。王立だからか?


一応王立飛輪学園は入学すれば、貴族や平民といった身分は関係無く、完全実力主義をモットーに掲げている学園だ。

しかし暁桜国自体はまだ身分制度が残る国なので、学園の志とは別の所で、学生たちの中に身分制度とう意識は根強く残っている。


学園側もそれは分かっているせいか、入学したばかりの一年生のクラス分けは、貴族と平民で別のクラスに分かれている。

平民が過って貴族の不興をかうことのないようにとの学園側の配慮だろう。その辺の礼儀を授業で学ぶ為にも、一年は貴族と平民を離しておいた方が良いと賢明な判断ですよ!わたしみたいな平民なんて、まだ礼儀も知らないただの悪ガキだもの。


貴族も平民もお互いの在り方が学園の意思と馴染んだ所で、二年生からは成績で分けられたクラスへと進む事となり、三年生では自分で選んだ専門科目のクラスへと進むらしい。


「……慈善活動に参加しなければ補習が受けられないならば仕方ありませんね。私わたくし、ゴミ拾いなんて初めてでワクワクしますわ」


花桃が楽しそうに微笑みながら、ぽんっと軽い音を立てて両手を合わせた。

どうやらこの公爵令嬢は、わたしが想像してた高嶺の花の様な高貴な公爵家の一人娘像とはかなりかけ離れた性格の様だ。仕草は優雅だから高貴な令嬢って事は間違いないみたいだけど。


「ワクワク楽しむようなものじゃないからね?罰なんだからしっかり励むように!!」


釘をさすように言い切った渡先生を見ても、まだ花桃様(わたしは小心者だから語りにもちゃんと敬称を付けるよ!呼び捨てなんてとんでもない)はニコニコしている。

分かっているのか、分ってないのか。いえ先生、多分彼女は分かってやってると思います。それを分かっているのか何かを諦めたのか、やれやれと頭を振りった渡先生は、次にわたしの左隣に立っているもう一人の女生徒に目を向けた。


「……コホン。では次に、ニ組の 蛍火けいこ・カゲツ君。君自身も分かっていると思うが、学科の筆記テストの点数が圧倒的落第点でした。一学期の期末試験でこの点数はどうか?と先生方で話し合った所、授業自体を理解していない可能性がある為、夏季休暇中は毎日補習へ出て来て、ニ組の担任が行ってくださる補講を受けてもらう事になりました。更に授業の進行度を見てもう一度追試テストを受けて合格してください」

「ほう?」

「うちが特殊な学園で助かりましたね。本来なら退学を迫る様な落第点なのですが、蛍火君は実技の成績が良すぎる。その才能を是非飛輪で育てたい!!という実技担当の教師陣の声が多かった。……その声も踏まえた上で学園長より、君を慈善活動に参加させた後で、補習の許可を出すよう命令を受けてます」

「つまり明日の慈善活動に参加すれば、我は補習と追試を受けられるのだな?……ふむ。良かろう」


「流石に留年は嫌だからなぁー父上に叱られる」と零す彼女の名前は、一年ニ組、蛍火・カゲツさん。

暁桜国の壱ノ島から海を挟んだ南方にある弐ノ島に領地を持つ男爵家の娘。先の戦で名声を上げ名誉男爵の地位を得たカゲツ男爵が彼女の父親らしい。


光の加減で銀にも見える薄水色の長い髪を頭の高いところで一つに結び、シャープな目元と髪の色より少し濃い色をした水色の瞳と持つ。日焼けした肌にすらりと引き締まった身体に持つ健康美人。ちょいちょいと口を開いた時に見える八重歯が可愛いの。


なんか彼女凄く運動が出来るみたいで、剣術、体術、輝術と、実技の試験で男子生徒押しのけてトップの成績を取っていた(成績上位者の結果は壁に貼り出されるのだ)。

そりゃあ~実技を教える先生たちが彼女の才能を育てたい!!という筈だよ。どちらかと言えば学園長も実技系の女性だしね。


「君が合格しないとニ組の先生も君も夏季休暇に入れないんだから、ホント真剣に取り組むように……」


多分、夏季補習が終わらないと渡先生も夏季休暇に入れないのかな?今の声とても切ないそうだったもの。



「最後に一年三組、夜宵君」


どうやら次は私の番らしい。渡先生がわたしを見た。


「へいっ!!」


わたしは小心者だから、いきなり教師に見詰められると無条件にビシーッと背筋が伸びるんだよね。そして、恋でも無いのに心臓がドキドキするの。はい緊張!!


「……そこは返事は『はい』でお願いする」

「すみません」


何だか渡先生、物凄く疲れた顔して見てくるし。


「君の場合は、他の二人とは違い学科実技共に合格基準点に達っしていた。……それに君は、他の二人と違って自分が何故呼び出されたか分かるだろう??」

「分かります」


めちゃくちゃ正しく理解しています。分かっているから大人しく呼び出しに応じたんだし。


「他の教科でならともかく、どーして薬学調合やくがくちょうごうのテストでやらかしたの?自分の名前を書き忘れるなんて凡ミス、多分他の先生なら御目溢ししてくれたと思うんだ……本当に運が無かったね」


あれ?怒られると思って来たんだけど、何か「可哀想に」と変に同情されている気がする!?




お読み下さり有難うございました。

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