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飛輪警察団物語り  作者: 星鈴トキオ
1、補習な少女たち
2/26

1-1


 星明お兄さん、お元気ですか?わたしはとても元気です。

早速本題に入っちゃいますが、ごめんなさい、夏休みは補習です。村に帰れそうにありません。

大方の予想通り、馬鹿な妹でマジごめんなー。


「では、いつかまた会えるその時まで、お身体に気を付けてお過ごしください……っと。これで良いかな?」

「……ヒドい内容だな。馬鹿だ。馬鹿の手紙だ」

「馬鹿…の!手紙には違いないんだものしょうがないでしょ!!」


 人が書いている手紙を覗き見るのはマナー違反だ!そう心の中では思いつつも今は仕方ない。

 彼にはこの後、教室を離れられない私の代わりに、この手紙を校舎外にあるポストまで投函しに行って来て貰わなければいけないんだから、どんなムカつく事を言われたとしても怒っちゃダメ。今は我慢。


 学園が近々夏季休暇に入る一学期も後半の今日、わたしの補習が決まった。


 補習とは、一学期の内申点や学期末に行われたテストの成績が、学園の求める基準に達していなかった生徒に行われる、退学者を出さない為の謂わば学園側による救済措置である。


 他の生徒が二ヵ月と言う夏の長い休暇バカンスを楽しんでいる中、わたしは毎日汗水流しながら学園に通い、先生のオッケーが出るまで補習を受ける。

 二学期の授業は一学期の授業とは比べ物にならないくらい難しくなるんだって。

 先生曰く困るのはわたしだから休み中に学び直し他の生徒に追い付いておけ、簡単に言うとそういう事らしい。

 有難い事に先生方自らの夏休みを削って、補習生の勉強を見てくれるんだって。ホントお世話様です。



 今日は週末最後の授業日で花の日、明日は仕事も学園もお休みの雨の日だ。そして明後日は三ヶ月に一度巡って来る花神フルールセアの祝日、つまりは三ヵ月に一度ある有難い連休の日なのだ。


 わたしの家のある村は学園からかなり遠い。手紙の投函は今日済ませておかないと、夏季休暇前に手紙が兄の元へと届かないかも知れない。

 学園の夏季休暇は二ヶ月もある長期休暇。夏季休暇に帰ると約束して村から出て来たから、補習になった事はちゃんと伝えておかないと、わたしの帰省を待つ兄さんに心配を掛けてしまう事となる。

 学園は一応全寮制で、夏季休暇に寮に残る手続きをしておけば、学園から締め出される事も無いし、衣食住に困らない。それでも学園側は学生を預かっている立場なので、保護者には絶対に連絡しておかないと寮にも残れなくなるのだ。この手紙は兄に寮に残ると言うその許可を取る為の連絡でもあるのだ。ね、めっちゃ大事なやつでしょ?


「朝輝は夏季休暇、村に帰るの?」


 手紙を投函に行ってくれる朝輝あさひと呼んだ彼は、わたしと同じ村出身で謂わば幼馴染と言う間からだ。

 ま、気安い関係なので、手紙の内容を見られたって構わない。

 宛名を書き終わって封をした手紙を「はい」と渡しながらそう聞いてみると、「……今年は俺も帰らない」と朝輝は言って「じゃあ行ってくる」と、何だか疲れた様子でふらりと教室を出て行った。


「いってらっしゃーい?」


 わたしの名前は、夜宵やよい暁桜国ぎょうおうこくという名のこの国で産まれ、王都から最も遠い北方にある陸ノ島の村で育った。身分制度のあるこの国で言えばわたしは平民、なので家名は今だ無い。

 癖毛で纏まりのない長い黒髪に、黄色味がかった茶色の瞳を持つ、自分で言うのも何なのだが特に目立った特徴も無い平凡な容姿の女の子だ。

 今年の春に十三歳になったので、現在は王都にある王立飛輪学園おうりつひりんがくえんに在学中。つまりわたしはピッカピカの一年生なのである。


 何故平民でしかもそんなに賢くもないわたしが、暁桜国一名門校と名高く王侯貴族も通うとされる上級学校に入学出来たのかと言えば、それはわたしが輝力を持って生まれた子供だからだったからだ。



輝力とは、輝術を使う上で必要となる力の事。輝力が無ければ輝術は使えなく、輝術は上級学校で使い方を学んで初めて使えるようになる、不思議な術の事らしい。


輝術って凄いんだよー。火出したり水出したり!わたしは飛輪学園に入学してから初めて見た。村に輝術を使ってる人は居なかったから。家に一人輝力持ちが産まれれば、その家の将来は安泰だって言われるくらい高級賃金の職業に就けるんだって。でもそれは上級学校を卒業出来た学生だけらしい。輝術師を名乗るにも資格がいるんだって。


言わばわたしラッキーガールって訳よ。一年生でもう首の皮一枚っぽいけど。


この国には、輝力持ちが産まれたと役所に出生届を出すだけで、13歳になったら輝力の使い方を学ぶ為に、国が管理運営する王立の上級学園へ入学しなきゃいけないと言う義務が発生する。これ最早暁桜国での法律だから隠し立てしたりすると罰則とか有るんだよね。まあ隠し立てする親の方が少ないだろうけど、子供の将来が安泰なら親だって嬉しいだろうし?


輝力持ちの入学は、上級学校に通う為に必須となる入学試験とかは無い。下級学校でどんだけ成績が悪くても上級学校へ入るには全く問題無しなのだ。しかも暁桜国内に存在する王立の上級学校を選べば、授業料と寮費も免除で学校に通えるのだ。

わたしが、王立飛輪学園を入学先に選んだ理由は、村に一番近い上級学校だったからなのである。



そんなわたしみたいな学生の事を、飛輪学園では輝力枠奨学生と呼んでいるだ。普通に推薦入学で入った奨学生とは別枠の存在なんだよね。裏では“誇れない方の奨学生”と言われているらしい。まあ気持ちは分からなくも無いけど、ひどくね?


「朝輝には悪い事しちゃったよなぁ~」


わたしと同じ村出身の幼馴染である朝輝は、紛れなく自身の力で下級学校から推薦状を貰い、入学試験で高得点を出し平民の奨学生の枠を勝ち取った、学年一の秀才である。


わたしは輝術科で朝輝は普通科。その違いは有れど一般教養として習う科目は大体同じなので、わたしは「幼馴染の誼で!」とお願いし、学年一の秀才に期末試験の勉強を教えて貰っていたのだ。

今回の筆記試験は絶対に赤点回避できるだろう。って朝輝が言うくらい徹底的に苦手な教科も教えて貰った、はずなんだけどね。


……わたしはその期末試験でやらかした。自分の名前を書き忘れるという凡ミスを。


そりゃあ、朝輝も疲れた顔するよねぇ~?こりゃもう呆れられちゃったかなぁ~?


言い訳させてもらうなら、あの日は朝までは調子が良かったのだ。連日朝輝に引っ張っられて、図書室に籠りガッツリ勉強さられたから。枕の代わりに教科書を頭の下に置いて寝たりもした。これは頭が痛くなっただけだけど。

わたしの残念な脳にも皺が三本も四本も増えただろうな~ってくらい、勉強させられた。わたし、頑張ったんだよ?興味の無い教科はほぼ赤点、のわたしが。


それがまさか、朝一番試験前に教室に飛び込んできた号外ビックニュースによって、わたしの頭の中が真っ白になってしまうなんて誰が思う!?この日を狙ってやっとしたら誰得だよ!?と本当に思う。時事怖い。


我に返った時にはもう筆記試験は始まってるし、慌てて問題を解くことだけに集中したから、自分の名前を書き忘れるしあの日の筆記試験は散々な出来だった。……実は、名前を書き忘れたことに気付いたのは答案用紙が返ってくる時だったんだけど。


教師に答案用紙返して貰ってあらビックリ!!わたし以上に驚いた顔をしていたのは朝輝だったけどさ。


答案用紙に名前を書いていなかったから、その一教科の筆記試験だけ0点。名前を書いていれば全ての教科の筆記試験で赤点は回避していただけに悔しい。飛輪学園では期末試験で一つでも赤点を取ったら、休暇中に学園に残り補習になるのだ。だからこそ夏季とかの長期休暇前の期末試験は皆必死に勉強するんだけど。夏季休暇に補習とか嫌だもの。


わたしはまだ朝輝の奮闘があって赤点一つだったから、夏季休暇中に学園に補習に通う日も少なくて済むだろうけど、飛輪から村まで帰ってまた来る時間と距離を考えると、学園に残ってバイトしていた方が良い。帰省にはお金かかるしね。


奨学生で授業料と寮費は無料だけど、その他諸々の生活費は自己負担が基本。一応実家から仕送り貰っているけど、わたしはバイトもしている。学園側でね平民向けにバイトの斡旋をしてくれているから、この夏季休暇は稼ぎ時。学生の殆どは帰省して居ないから、いつもなら必ずいる高賃金を狙うバイトのライバルも減ってるだろうし。

大抵早い者勝ちになるんだけど、一年生は受けられるバイトの数も少ないから、まさに学生の少ない今が稼ぎ時!!って訳。


言い訳じゃないけど本当は夏季休暇に帰省する予定だったのだ。帰省費もちゃんと貰ってたしさ。


「夏季休暇には帰るよ!」と星明お兄さんと約束してたから、試験勉強も頑張ったのに……まさか補習になってしまうなんて。まあ、わたし割と下級学校での成績が良くなかった方だから、星明お兄さんは、何枚も手紙を送って来ては「試験大丈夫?」と心配した一文が書いてあった。


……返事あれで大丈夫だよね??わたしは筆まめな方じゃないし、手紙書くは正直苦手で。


「おーい!夜宵君~。渡≪わたる≫教師が職員室に来いってさー」

「はーい!ありがとう~」


態々わたしを教室まで呼びに来てくれたクラスメイトにお礼を言い、これから部活動へ向かうという彼女を見送って自分も席を立つ。

鞄はどうしよう?もう放課後だから、この後は寮に帰るだけなんだけど……多分補習の事だろうし、何だか長くなりそうな気がする。貴重品だけ持てば、殆ど鞄は空だからこのまま席に置いといても大丈夫だろうか?


今教室に残ってるのはわたしだけだし、帰りに忘れずに取りにくれば大丈夫か!!

と、わたしは身一つで、渡教師が呼んでいると言う職員室へと向かった。



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