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「現在行方不明ってどう言う話なのだ?我は、犯人を捕まえたと言うのに警察団員に叱られたんだぞ!?こうしてこの場に連行もされて来た。犯人でも無い我等を捕まえといて、被害者女性は保護もせず逃し、あまつさえ今度は我らが犯罪者にされるとか意味不明すぎるぞ」
確かに蛍火のおっしゃる通り。
まあ、わたし達が加害者になる可能性があったからこうして連行されたのだろうけど。
「記憶が曖昧な団員の調書では証言力に乏しいのです。貴女が引ったくり犯を捕まえたのも一瞬の出来事で、残念ですが目撃証言も取れませんでした。被害者女性の保護も突如として起こった騒動の鎮圧に、少々手を貸しに持ち場を離れたその隙に居なくなってしまったようで……」
「突如として起こった騒動って、もしかして……?」
飛輪警察団本部に連行されるのを嫌がった蛍火が、手合わせと称して「我に勝利した暁には、大人しく着いて行ってやろう!」と、団員相手に大立ち回りを始めたヤツかね?
止める気力も無かったわたしは見ていただけだったけど、騒ぎに気付いた雅様が一瞬で蛍火を制圧するまで、何人かの警察団員と手合わせをして、仕事の邪魔をしていた様な?
あ、もしかしなくてもその隙に、被害者女性が居なくなったのか?ならそれは蛍火の責任……いや、蛍火を止めなかったわたし達の責任でもあるかもね!
口元に笑みを浮かべているものの決して目は微笑んでいない雅様の、意味深な表情の裏側を理解出来た気がする。
つまりは被害者を逃してしまったのはほぼほぼオマエ等のせい、犯罪者になったとしても自業自得って事か!?
あ、ヤバイ。マジでこれは、見捨てられたらヤバイ感じがする。チラリと見た渡教師の顔色も悪い。
「……それで、わたし達は何をすれば宜しいのでしょうか?被害者女性の容姿は覚えている範囲でしか話せませんが、それだけでは無いんですよね?」
飛輪警察団の副団長が、こうして時間を作ってまでわたし達と話がしたいなんて、何かあるに決まっているじゃないか。
「夜宵!?」
「蛍火はちょっと黙ってて!」
蛍火の批難がましい視線をうけたが無視する。
このまま蛍火に話させていたらとてもヤバイ気がした。彼女は未だ被害者女性を逃してしまったのは、警察団のせいだと思っているのからだ。
確かに被害者女性の側を離れてしまった警察団員も悪いとは思う。でもわたし達に非が無い訳でもない。今は蛍火にそれを説明する時間が惜しい。
何より先程から会話に口を挟まない、渡教師と花桃の顔色が悪いのに気付けば、わたし達がこの場へ来る前に、雅様との何かしらの話し合いがあったのに違いないのだ。
蛍火が何と言おうとも、ここからの話しの主導権はわたしが握り、雅様に見捨てられないように立ち回わらなければならぬ。
崖っぷちなのは、犯罪者に成りかねない蛍火もそうだけど、慈善活動中に問題を起こしたわたし達も同じなのだ。
「はい勿論。貴女の想像通りそれだけでは有りません……渡教師に聞いた所、貴女達は現在慈善活動中だとか?」
「それがなんだと言うのだ?」
「あ、もう!黙っててって言ったのに!」
キッと蛍火を睨む。
どうやら蛍火は雅様を敵認定したっぽい。何となくだけど声にトゲがあるし。
「進級試験のテスト結果が思わしくなくて、夏休み中は強化補習と再テストだそうですね?」
「その通りだ!」
「それ、誇らしく言って良いことじゃないからね!?」
むしろ少しは反省してほしい。花桃は複雑そうな表情をしてるし、渡教師も頭の痛そうな顔してる。
わたしは雅様のお顔を見れないので、雅様がどんな表情をしているのかは分からないが、声音からしてまだ蛍火を不快には思っていない様だ。でもいつ蛍火が雅様の機嫌を損ねるか分からないから注意しておかないと。
わたしが止めても蛍火は言う事聞かないしね!!
「では、今回の慈善活動の一環として、貴女達3人に慈善活動の延長戦を引き受けて頂きたいと思います」
んん?慈善活動の延長戦ってどういった事だろう。しかも3人ってそうか花桃も入るんだ。花桃はもう訳知り顔で仕方なさそうに苦笑いしてるし。多分、意味を理解してないのはこの場では、私と蛍火だけなんだろう。
「オマエは何を言っている。慈善活動の延長戦とはどういう事だ?我らは先程慈善活動の任務を完璧にこなし終えた筈なのだが?」
やめて!蛍火さん!!オマエとか言っちゃダメ!警察団に所属してるけど、雅様は王族!皇位継承権は放棄しているけど、この人元々我が国の王子様。思わず机の下の見えない所で蛍火の太腿をペシッペシッと叩いて、何だ?何だ?とこちらを見た蛍火と目を合わせてお願いだから少し自重して!!とわたしは視線で必死に訴えた。
正直アイコンタクトで思っている事を伝えれるだけの信頼関係はまだ出来ていないので、蛍火は明らかに良く解ってない表情で「ん?」っと眉間に皺を寄せるだけだった。つまりは無駄だったという事。
でも、一応こっちに注意を引き付ける事には成功。よって蛍火の雅様に対する敬意の欠片も払ってない言葉は止められたから、今は良しとしよう。
「ええ、確かに貴女達の行ったゴミ拾いの慈善活動は、花桃令嬢と渡教師が『飛輪清掃ボランティア』に回収したゴミ袋を納める事によって終わりを迎えました。ですが貴女達の補習がこれで終わった訳では無いでしょう?むしろ夏休みの補習はこれから始まって、蛍火さんに至っては補習後に行われる追試に合格しなければ進級出来ないと言う崖っぷち」
全く持ってその通り。だからこそこれ以上余計な事に時間を取られる前に、寮に帰って蛍火の追試対策を考えたりしたいんだけど、そう甘い事簡単に許してくれる雅様では無い……だろう。
「そんな中慈善活動の最中に問題を起こし、貴女達二人は警察団へと連行されてしまいました。しかも現在お一人は軽犯罪の容疑者。学生と言え流石にそれはマズいでしょうね?なので少し考えました。
こちらの指定した依頼を、延長戦の慈善活動として引き受け、尚且つ解決してもらう事を成功報酬として、この件はここだけの話として警察団から学園へ報告しないとお約束しましょう」
「……依頼を断る選択肢や、依頼が失敗した場合は?」
「その時は勿論、警察団から学園の方へと貴女方にとっては望ましく無い、連絡が行き事になります。この件についての渡教師とは話し合いはついていますし」
「何だと!?それは脅しでは無いのか」
怒りで顔を真っ赤にした蛍火が、ガタンッと椅子を倒して立ち上がった。
そんな怒っら蛍火の批難がましい視線を受けても、雅様は声音も変えず冷静に彼女を見つめ、諭す様に怖い事を言った。
「そうです。これは脅し…ええ脅迫ですね。この忙しい日に余計な事件を起こし、警察団員に怪我をさせ使えなくした、貴女達に対する罰も込みの依頼ですから」
貴女達はどうやらペナルティが無いと、必死に事に当たらない様ですし。と黒い笑顔を蛍火に向け一瞬で彼女を震え上がらせた雅様は、どうやらわたし達に怒っていない訳では無い様で、この依頼を断るなんて選択肢は、始めっからわたし達には無いみたい。
怒りが鎮静化した蛍火がシュンと大人しく席に座ったのをチラリと見届けてから、わたしは聞いた。
「……分かりました。では、警察団からの依頼とは何なのですか?」
依頼を引き受け解決しなきゃわたし達に未来は無い。そう覚悟は決めたものの、わたし達にも多分得手不得手はあるから、そんなに難しく無い依頼が良いなぁ〜と恐る恐る依頼内容を聞く。
頭脳系だと蛍火は全く当てにならなくなるから、出来ればそこそこ身体を動かす系がいいんだけど……?
「ああ、そうでしたね。まず依頼内容からお話するべきでした。警察団からの依頼内容は『人捜し』です」
『人捜し』それってもしかしてと……思わず反応して、パッと顔を上げると真剣な表情でこちらを見ていた雅様とバッチリ目が合てしまった。
「ええ。貴女達三人に捜して欲しいのは、現場から忽然と姿を消した、引ったくりに遭った筈の被害者の女性です」
その瞬間やっぱりわたしの頭の中は真っ白にフリーズしたのだった。
お読み下さり有難うございました。




