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初恋拗らせ男子と男前乙女  作者: 鈴木みお
5/6

5 フレン視点

「……髪、伸びたな。」

そっとフレンの毛先に指が触れた。

 ボブだった髪は肩につくまでに伸びていた。

「!!…………」

いきなりの事に驚いて地図を落としそうになる。

 思わず視線を逸らしてしまった。

 視線を合わせることができない。なぜだか心臓が破裂しそうに高鳴ってしまう……

 ジェイドのことをいち騎士として、部下として関わらなければと必死に割り切っていた糸が、髪に触れられた時に切れてしまったのだ。


 

 あの日再会してからずっと避けられていた……

 会いたくてたまらなかった大好きなジェイド……


 物心ついた頃にはそばにいた。

 どこか目つきも鋭くて、ダガーのような少し怖い印象。

 食べ物の好き嫌いが多くて、侍女であるフレンの母や奥様がいつも困ったと話していた。

 私には意地悪だったと思う。

 お気に入りのウサギの人形を壊された時は流石に頭に来て言いつけてやった。

 後から母が、ジェイド坊ちゃんはくたびれた人形を治そうと失敗したと聞いて、少し可哀想になった。母からするとジェイドはどうも私の事が好きらしいが、素直になれず、泣かせたり、困らせる事で気を引きたいらしい。

 本当にそうなのだろうか……

 そんな事の知らない奥様や旦那様にこっぴどく叱られて、ご飯抜きになっていた。

 いい気味だとも思ったが、流石に可哀想かと思い、こっそりおにぎりを届けた。

 果物の方が良かった……

 と言っていたが、本当は喜んでいたのが伝わって来た。嘘をつくとき視線をそらせて右耳を触る癖があるのだ。

 

意地悪をするくせに、私が困っていると助けてくれた。

 街の子供達からお屋敷の使用人の子供だと揶揄われた時は真っ先にやって来て盾になってくれた。鬼ごっこをしてなかなか捕まえられなかった時はゆっくり逃げてくれて代わってくれた。

 私の事を守ってくれていたのだ。

 ただ突然キスをしてきたときは驚いて泣いてしまったが。

 このままサリナスやジェイドと一緒に成長していくのだろうと当然のように信じて疑わなかった。

 

 あの日までは――――

 両親が突然亡くなってしまったと聞かされた時。

 いつものように行ってらっしゃい、と二人を見送って、まさかそれが最後のあいさつになるなんて――

 お屋敷に訃報がもたらされたのはその日の夕方だった。

 予定よりも幾分か帰りが遅いのはいつもの事だったため、対して気にすることなく夕食の手伝いやら掃除を終え、本を読んで過ごしていた。

 遠くからジェイドが叱られる声が聞こえてきた。今日は家庭教師の先生がきているのだろう。

 そろそろ授業を終えたジェイドがやってくるはずだ。今日もきっと先生の悪口をいうにちがいない。イライラしていたらまた意地悪されるかもしれない。お気に入りの本は隠しておこうとクローゼットの奥の隅にしまって待っていた。

 しかしいくら待っても彼はこなかった。

 いつもなら、疲れたーとやってくるはずなのに。

 あまりにも静かすぎるお屋敷の様子を不審に思って、そっと玄関の広間まで出て行った。

 「ジェイド……?」

 私の声にその場の皆が息を飲むように振り向いた。奥様の青白い顔が印象的だった。

 


 私は子供ながらに私によくないことが起きたのだと瞬時に理解した。

 「お母様とお父様は…………?」

 「フレン………………!」

 泣きながら奥様がどんなにやさしく抱きしめてくださった。

 だけど悲しくて、悲しくて……不安だらけだった。

 


 夜になって、ジェイドが部屋にやってきた。

 「フレン、大丈夫だから……ずっと一緒だ。大丈夫だから……」

 「ホント?」

 「ああ、安心しろ。この先も俺が守ってやるからな」

 「…………うん」私の隣に座って朝まで一緒にいてくれた。



 

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