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第十二幕・第六話 若村長と使えない兵器

 会議が終わった後、俺はサルヴィアの私室でジェリドも交えて話すことにした。ゼガルノアとガウリーは、サルヴィアの侍女頭のエルマさんに連れて行かれた。


「まああぁぁ!! まあ、まあ!! ノアちゃんが、こんなに立派な殿方に成長されて! ノアちゃんもとても可愛かったですが、大きくなってもとっても素敵ですわ! ああ、でもこのままでは目立ってしまいますわね。さあ、こちらへ。オリガ、ダスティンを呼んできてちょうだい。角や翼は隠せまして? できなくても構いませんわ。服の方を合わせますからね。ああ、王都ならいくらでも布を取り寄せられますのに……! まずはきちんと採寸しないと。ちょっと、ガウリー様。どちらに行かれますの? 貴方様も、リヒター様も、夏のお召し物の準備がありますのよ。さあ、さあ……!」


 などと、怒涛の勢いだった。エルマさんには逆らえないからなぁ。


「あれ、俺もやるの? 夏服なんて、去年のがあるし……」

「普通のことでは?」


 ジェリドは何でもない事のように首を傾げるが、お前も大貴族の坊ちゃんだろうが! 庶民の感覚では普通じゃない!


「俺はともかく、ゼガルノアは、人間っぽい服装をしてもらわないとな」

「人間社会を歩くには、少々禍々しい格好ですからね。……はぁ」


 ノアが自分よりでっかくなったからって、ため息をつくな。


「それで、どういうことなの?」


 ゆったりとしたソファに座っていても、眉間を険しくしているサルヴィアに、俺は『永冥のダンジョン』のコアルームで起こったことを話した。ジェリドも俺が転生者だって、もう知っているから問題ない。


「……そう。話すことができたのね。よかった」


 感慨深そうなサルヴィアは、まずそこを喜んだ。いまの俺は混ざりものだが、本来は『俺』と『リヒター』が、別々に話ができたはずなのだ。そしてサルヴィアにとっては、異世界人である『俺』の方が近しい存在と言えるだろう。


「余っている他人の魂をアビリティで削ることなく、あるかもわからない方法で吸収しようというところが、リヒター殿らしいです」


 ジェリドもメロディたちのように呆れつつも、なんとなく嬉しそうだ。俺はそんなに、毎回おかしなことをしているだろうか?


「とにかく、『俺』さんのおかげで、『永冥のダンジョン』を手に入れることができた。ダンジョンコアのプリマは、自分は動けなくても、自分のダンジョンが存在している地域を所領とする国家と、その周辺の動向は把握しているらしい。とはいっても、歴史レベルのおおざっぱさではあるけどな。それで、エマントロリア遺構が、古代の兵器工場と研究所だってわかったんだ。何のために魂を研究していたのかは、わからないけど」


 それでも、俺が『俺』を吸収するヒントがあるかもしれない。行ってみる価値はあるはずだ。


「問題は、マーガレッタたち……もっと言えば、エルフィンターク王国軍がエマントロリア遺構を占拠するという可能性ね」

「現在のエマントロリア遺構はアンデッドの巣になっており、大神殿が管理しているという事ですが?」

「ガウリーが隊長を務めていた、神殿騎士団第八大隊が駐屯しているはずだ。でも、そんな所に王国軍が行ったら、トラブルにならないかな?」


 王国騎士団も神殿騎士団も、瘴気の発生に居合わせた事と、魔境への遠征失敗で力が落ちている。だが、騎士団を抱える各上層部は、その名誉を挽回するために、無理にでもエマントロリア遺構の攻略に乗り出すことだろう。


「ぶつかり合うのは、必定ね」

「マーガレッタ嬢のせいで、どちらの騎士団もますます力を落とすことになりそうですね」


 うーわー。国防力低下が止まりませんわー。これは危ないですわー……。


「……セントリオン王国が攻めてくることは?」

「ないとは言い切れませんが、いまのところ大義名分がありません。それに、むこうも聖地と大神殿のメラーダ栽培を、大喜びで追及している最中でしょうからね」


 こちらに手出しされないよう、先に手を打っていた賢者殿は静かに微笑むが、何かのきっかけで攻め込まれる可能性は、十分にあるということか。


「可及的速やかに、『神剣ミストルテイン』を見つけて破壊し、エイェルの企みを潰す」


 それが、俺たち転生者がやるべきことだろう。


「うーん……なーんか思い出せそうなんだけどなぁ。なんだったかなぁ?」

「どうした?」


 サルヴィアが突然セージモードになって首を傾げた。これは、前世の記憶を探っているのだろう。


「ミストルテインって、どっかで聞いたことあるんだよなぁ」

「神話以外でか?」

「そう。友達から聞いたような気がするんだよなぁ、すごく強いって……あっ」

「思い出したか」


 淑女の姿形が、なんとも言えないような表情を浮かべて俺を見た。


「エマントロリア遺構って、兵器工場なんだよな? 装甲巨兵って、たぶんロボのことだろ? パルチザンの拠点……あー……『サイレンス・ドーン』シリーズのどれか、かもしれない」

「宇宙世紀大戦な話じゃなくて、大気圏内でのカスタムメカアクションの方か!」


 自分が搭乗する人型ロボットをカスタムして兵装を積んで、鉄と砂塵に覆われたポストアポカリプス的な世界でミッションを達成していく、ファンの多い有名な3Dアクションゲームだ。え、この世界に銃あるのか?


(大砲みたいな兵器があるのは知っているけど、拳銃以上は聞いたことがないな)


 火薬に直接火をつけて鉛玉を飛ばす火縄銃は作れたとしても、衝撃だけで発火する雷酸水銀がなければ、現代でおなじみの銃弾は作れないはずだ。

 雷酸水銀自体は材料も身近で、精製加工技術さえあれば、この世界でも揃えることができる。ただ、その存在をメロディが知らないとは思えず、広めなかったという事は、これ以上火器を発達させたくなかったのだろう。


(まあ、いまのところ魔法だけで十分間に合っているだろうし)


 実現可能かどうかは別として、荷電粒子砲や核爆弾みたいな大魔法だってあるかもしれない。それに、誰にでも扱える銃が普及したら、それはそれで戦争の火種になる。


「リヒター、僕ちょっとワクワクしている」

「気持ちはわかるが、たぶんロストテクノロジーだ。俺たちには理解不能な、不思議構造とトンデモ理論で出来たシロモノの可能性が高いぞ」

「くっ……」


 まあ、銃ってかっこいいからな。見た目だけのモデルガンくらいなら、作れるんじゃないだろうか。


「それで、『神剣ミストルテイン』って、どんな剣なんだ?」

「いや、僕が聞いた限りじゃ、手で持つ剣じゃないよ」


 剣じゃない神剣とは……?


「施設にくっついた、大型レーザー兵器だった」

「は……?」


 エイェルはこの国ごと俺たちを滅ぼす気か? まあ、そうなんだろうな。


「エイェルらしいと言えば、らしいかな。ほら、『護国の鯨』って覚えてる?」

「たしか……ディアネスト王国の王宮にあって、封印を解くには、王家の血が必要だとか?」


 初代『フラ君』のイベントに出てくるやつだな。失敗すると、攻略対象が破滅するっていう……。


「それね、古代人が作った飛空艇らしいんだよ。ただ、どうも戦闘能力があるみたいなんだ。詳しくはわからないけど」

「あー」


 地上戦が主なこの世界での航空戦力は、はっきり言って圧倒的な脅威だ。飛竜などを飼いならしている国は、それだけで戦略アドバンテージがある。

 エイェルは『護国の鯨』を使おうとしていたが、肝心な王家の血を持つ生きた者が、自分が憑依したデニサス二世のみになってしまった。そのせいで、失敗を恐れて封印解除ができなかったのだ。


「たしかに、使()()()()魅力的な兵器ですね」

「そうなんだよな」


 ジェリドも有用だとは認めるが、そもそも使えなければ意味がない。一系統の血でしか封印が解かれないような、現在では失われた技術で作られた骨董品なんて、誰が動かせるんだ。

 現在のディアネスト王宮は、カオスドラゴンロードが暴れたことにより、半分以上が崩壊している。行政機能を持っていた棟以外の復旧は後回しにされているので、『護国の鯨』の発掘は、あったとしても当分先と思われる。


「本当に、ろくなことしねーな」

「それが、厄災の神としての存在理由だからねえ」


 俺とサルヴィアは、顔を見合わせると、揃ってため息をついた。




 俺たちがエルフィンターク王国の旧領に向かう準備を進めていると、むこうの方からも報せが届いた。


「オフィーリアからですわ。やっぱり、マーガレッタが神託を受けたことになって、聖女認定されたようよ」


 サルヴィアの学友で、侯爵令嬢のオフィーリアさんという才女がいるらしい。彼女もサルヴィアと同じ、『フラ君Ⅲ』のライバルキャラなんだとか。


「オフィーリアたちが、むこうで情報収集をしてくれているみたい。一度、彼女に会ってくださいませ」

「わかった」


 そして、ジェリドからも耳打ちされた。


「もしもむこうで、ダニエル閣下にお会いする機会があったら、聞いてきていただきたいことが」


 ダニエルさんはサルヴィアの次兄で、ルトー公爵家に婿入りした人だ。実質的に追放されたサルヴィアが、王都ロイデムで活動する時には、彼の助力が大きいのだとか。


「…………」

「ああ、俺もそれは気になっていた。わかった」

「お願いします」


 サルヴィアは王都ロイデムに向かうが、ジェリドはシャンディラに残って、様々な実務処理をこなすことになっていた。まあ、マーティン様が、ジェリドが帰ってきた時点で、代わりに仕事してくれる人が来たって、全部任せてしまっていたんだけど。

 マーティン様もサルヴィアと一緒に、ロイデムに行くことになっている。サルヴィアが出席する予定の学院の卒業パーティーに、マーティン様の婚約者も出るから、そのエスコートをしなければならないそうだ。

 フィラルド様はミリア様とシャンディラに残って、難民だった人たちの入植誘導と、周辺地域の生態調査をするそうだ。特異進化した魔獣の報告も多いので、冒険者たちからの報告も受け付けるそうだ。


「今回ノアは、コッケ達と一緒にシャンディラでお留守番だ」

「ぷう」

「コッコッ……」


 ノアとコッケ達は不満そうだが、エルフィンターク旧領に潜入するのだから、あまり目立ちたくない。俺自身もそうだし、ガウリーもそうだ。


「人間の街中に行っても、魔獣を狩って遊べないぞ。ここなら、ジェリドやアイアーラさんたちもいるし」

「むむむ……」


 退屈と寂しいを天秤にかけ、結局はのびのびと過ごせるお留守番を選んでくれた。公爵家のシェフが作るご飯も魅力的だった模様。なお、コッケ達の世話は、フィラルド様が嬉々として請け負ってくれた。


「リヒターが浄化範囲を広げてくれたおかげか、平地にも魔獣が出るようになってきたからね。手におえないようなのが襲ってきても、ノア坊がいれば安心だ」


 シャンディラには、需要に対して鍛冶屋などがまだ少なく、装備品の整備に不安がある状態で、巨大魔獣と戦うのは避けたい。ノアやコッケ達がいれば、冒険者たちも安心だという。


「まあ、ノア坊に先越されないよう、アタイらもしっかり稼がないとならないけどね!」


 アイアーラたち冒険者も、ゼガルノアの姿を見て驚いていた。そしてやはり威圧感がすごいので、できればノアの姿でいて欲しいそうだ。


「イイ男を見るのは嬉しいけど、女のアタイだけじゃなくて、野郎どもまで変な目をしていたからね」

「『永冥のダンジョン』でも、魔族たちに懐かれていましたよ」

「あれだけ強者のオーラを振りまいていたらねえ。カリスマって奴かね」


 銅鑼声でガラガラと笑うと、アイアーラは俺の留守中は、外にいるノアを気にかけてくれると請け負ってくれた。ノアもシャンディラ攻略に携わった人間とはトラブルにならないだろうが、ノアを知らない新参者も、今後は増えてくるはずだ。


「そうだ。ノア、お留守番の前に、ちょっとカイゼルの所に行かないか?」

「いく!!」


 目をキラキラさせたノアを連れて、俺はしばらくぶりに、北の森へと向かった。


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