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第十幕・第五話 若村長とカオスドラゴンロード

「あんなの、どうやって倒せばいいんだ?」


 たぶん、小型の旅客機くらいはある大きさだ。城壁で戦った()()()()()()といい勝負だが、実体の質量といい、瘴気の密度といい、咆哮だけで起こす衝撃波といい、強さはケタ違いだ。


「皆さん、ご無事ですか!」


 壊れた宮殿の外から飛んできたジェリドに、俺たちはひとつ息をついた。


「よかった」

「ジェリド、無事でしたのね!」

「はい。必要な書類は回収してリオンに持たせました。レノレノ殿と騎士たちが退避していくのが見えましたので、同行させています。あのドラゴンは、王宮前広場から出てきたようです」

「なんですって」

「どうりで……凄まじい瘴気の密度だと思いました」


 公開処刑が行われた王宮前広場では、処刑されたガルシャフたち以外に、エルフィンターク王国軍の貴族や、多くのディアネスト王国民がいたはずだ。そんななかで、デニサス二世が死の直前に呼び寄せた自称神が引き起こした瘴気の大旋風に巻き込まれたなら、どれほどの負の感情と死体が積み上がった事だろう。


「黒幕は、デニサス二世に憑りついた、自称神だ。あれは、アスヴァトルドでも、リューズィーでもない、極めて邪悪なものだ」

「アフダヤン公爵が連れていかれてしまって、カオスドラゴンロードの頭部に……」

「なんと……とにかく、ここは危険です。私の精霊たちにお任せください。地上に降ります」


 背中から抱きかかえられたような感触がして、ふわっと足が浮く。


「おっ、おぉっ!?」


 俺だけでなく、サルヴィアとガウリーも吊り上げられているのか、戸惑いつつも空中を運ばれ、やがて枯れた芝生の上に降り立った。


「慣れないと、ちょっと怖いな」

「ジェリドはいったい、どれほどの精霊を使役していますの?」

「内緒です」


 ジェリドのやつ、デキる男の余裕の笑顔しやがって。まあ、実際に強いしデキる男だけど!


 その時、上を見上げたジェリドが叫んだ。


「離れましょう! まだ危険です!」


 俺たちが走り出すと、その頭上で交差した影が、謁見場だった穴に突っ込んでいき、大量の瓦礫が落ちていた。


「くっそ。どうやってアレに攻撃を当てればいいんだ」

「わたくしの魔法では、遅くて避けられてしまいますわ。それに、あのバリアは空間魔法によるもの。カオスドラゴンロード自体の防御を突破することだって、並大抵ではありませんわ」

「そこまで硬いとなると、私の魔法では威力が足りません」


 あーーー、もう!!


(一番ダメージが通りそうなメロディとノアはどこに行ったんだよ!?)


「え? あぶねっ……よせっ! サンダーバードは下がっていろ!」


 上空を横切る鳥の影に、俺は慌てて待機命令を出した。空間魔法のバリアなんかあったら、いくらサンダーバードの攻撃力が高くても貫通しない可能性がある。あんな危なそうなドラゴンと一騎打ちなんてさせられない。


「しゃんだー!」

「ノアか!?」


 広い前庭にまで戻ってきた俺たちは、のんきに手を振る二人と一羽と、ようやく合流することができた。


「たー!」

「コッコッ」

「まったく、何処にいたんだ!」


 息を整えるのもそこそこにノアを抱き上げると、ぷくぷくほっぺの上にある真ん丸おめめが、ぱちくりと瞬いた。


「ぷ? りゅーじいといた!」

「りゅーじ……え?」


 まさかなとメロディを見ると、なんだか珍しく疲れたような顔で頷いた。


「それで合ってる」

「マジか」


 なんだってこんな所で、こんなタイミングで出てくるのかな!?


「とにかく、いまはアレをどうにかしないと……!」


 サルヴィアの言う通りだ。いまは詳しく話を聞いている暇はない。俺はノアをおろして、金鶏と一緒に少し下がらせた。


「そうだった。メロディ、【分析】頼む。どうやって倒せばいい?」

「ふむ?」


 俺たちが揃って見上げた時には、宮殿に取り付いたカオスドラゴンロードはこちらを向き、いまにも吐息ブレスを吐きそうな構えをしていた。


「キリエエレイソン!!」


 ずんっ、と俺の体が地面にめり込みそうなほどの圧力を受ける。


「くっ……!」


 咆哮の衝撃波だけでなく吐息ブレス攻撃も防ぎ切ったが、防いだ周りは毒沼のように溶けて瘴気を噴き上げていた。この防御魔法もけっこうマナの消費が激しいから、何回も張り直すのは厳しい。


「どうやって倒せばいい……!?」

「え、リヒターがいれば簡単だって」

「へぁ?」


 緊張感の温度差にアホ面をさらしてしまった俺に、メロディはなんでもないことだと肩をすくめてみせた。


「リヒターは【水神の加護】を持っているからして、その水流魔法なら空間魔法も貫通するべよ」

「はぁ? そんなのアリかよ!?」

「アリなんだって。だから加護なんだよ」


 俺が与えられた水流魔法は加護の内に入り、リューズィーが司る破壊に関して、理論の壁も矛盾の盾も貫通するらしい。


「まあ、私の攻撃も通用するけどね。なにせ空間魔法の専門家だし? それでなくても私は強いし? でもまずは、あの腐れドラゴンを、地面に這いつくばらせるところからっしょ」

「……」


 たしかに、地面にさえ落としてしまえば、サルヴィアの大魔法やガウリーの剣も届く。


「飛ばせるまで、私の魔法で壁作るから。落ち着いて開発したまえ」

「わかった。やってみる。ガウリーとサルヴィアは、あの神を警戒してくれ。ジェリド、精霊に援護をお願いできるかな?」

「お任せください」


 俺は静かにイメージを練るところから始めた。前世でも、ウォータージェットの加工技術があった。でも、距離が離れれば、そのぶん威力が減ってしまう。


(細くして、圧力を高くする。そうだ、ライフリングで飛距離と命中精度を上げるように、渦にすれば……)


 直線的な水流を、渦にする。継続的な飛距離は安定しそうだけど、やっぱり威力が落ちるか?


(たしか、研磨剤を入れることで、硬い金属を切っていたはずだ)


 海の大渦に飲み込まれて、バラバラになった船の破片が散らばっている水流なんて考えたら、肝が縮み上がった。そんな中に入ったら、ミンチになって、確実に死ぬ。


(研磨剤は……そうだな、アイアンメイデンの材料を細かくすれば、腐ったドラゴンにも効きそうだし、最高じゃないか?)


 いい感じだ。

 俺は魔力を練り上げ、神聖魔法の作りかけを、水流魔法に混ぜていく。


(ガルシャフは、自分が死んだ後の国民を心配していた。そういう人を、利用して、貶めるなんて、許せない)


 ふつりと、また俺の腹の底で……混ざり合った魂たちが怒りを訴えた。


(たしかにアイツの言う通り、あのガルシャフになら、『リヒター』は忠誠を誓ったかもしれない。スタンピードを抑えるために、【身代わりの奇跡】を使ったかもしれない)


 それは、混ざり合ったいまの俺でも、そう思う。俺がサルヴィアに協力を提案したように、ガルシャフはリヒターの忠誠に値する為政者だったことだろう。


(いま、助けるから!)


 俺は両手で握ったスタッフオブセレマを掲げ、空を飛びまわるカオスドラゴンロードの翼に、慎重に狙いを定める。また吐息ブレスを吐こうと、こちらに向かって滑空を始めた瞬間。


「水神リューズィーを讃えよ! ボルテクス・ショット!!」


 メロディがバリアを解いた空間を、細長い飛沫が閃光のように貫いていく。

 バツンッ、という音が、中空のカオスドラゴンロードから聞こえた。俺の狙いは皮膜の翼から少しずれ、太腿を削り取ったようだ。


「オオオオオオオオオオオオォォォォンンンン!!」

「外したか!」

「ダメージ通ってる! 続けて!」


 反撃に驚いたのか、カオスドラゴンロードは大きく羽ばたいて旋回し、なかなか狙いを絞らせてくれない。


「もうちょっと近付いてくれないかな」



 ―― なにをやっとるか! 撃って撃って、撃ちまくるのだ!



「はぇ?」


 なんだ、いまの声は?



 ―― 精霊どもよ、吾輩に続けぃ!



「えっ、えっ!?」


 ジェリドの慌てた声が聞こえて、俺は申し訳なくなってきた。いま俺のまわりでは、ジェリドの水精達が過剰労働をさせられているに違いない。


(ええい、すまん!)


「メロディ、墜とすぞ!」

「がってんしょうち!」


 俺は周囲に浮かぶ水流の素に神聖魔法を染み渡らせ、飛翔するカオスドラゴンロードが少しでもこちらに近付いたタイミングで撃ち出した。


「ボルテクス・ショット!!」


 じゅばばばっ、と空高く撃ちあがった幾本もの水流を、カオスドラゴンロードは体を左右に回転させて避けようとする。



 ―― 笑止!!



 渦を巻いた細い水柱が、巧みに避けようとする巨体を追尾して、ついにその翼を貫き、肉に突き刺さった。

 待て。俺の魔法にホーミング性能はない。なんだあの、地対空ミサイルみたいな動きは。


「オオオオオオオオオオォォォォ……」


 墜落したカオスドラゴンロードによって宮殿は押し潰され、もうもうと土煙が上がる。


「……リューズィー、そこにいるなら、もう少し力を貸してくれ」


 俺は自分の【空間収納】から、樽をひとつ取り出して栓を抜いた。


「清らかに刷新せよ! イノセントストーム!!」


 キャロルが作ってくれた聖水を、俺は水流魔法で空に噴き上げ、スプリンクラーのように振りまいた。



 ―― フハハハハァ!! 愉快! 愉快である!!



 地上が聖水の土砂降りになったことは、言うまでもない。


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