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第一幕・第五話 若村長と魔法の特訓

 ブランヴェリ公爵代行と別れた俺は、教会から出る前に、空いてきた一般礼拝堂の隅で祈りをささげた。さいわい、まわりを驚かすような光は出なかったが……。



リヒター(24歳)

レベル:13

職業 :農民

天賦 :【聖者の献身】

称号 :【優しい若村長】


能力 :【空間収納】【幸運】【女神の加護】【身代わりの奇跡】

特技 :農作Lv5、牧畜Lv3、果樹栽培Lv1、回復魔法Lv1、神聖魔法Lv3


武勇 :10  統率:38  政治力:28

知略 :33  魅力:72  忠誠心:15



(ひっ、またレベル上がった……)


 神聖魔法を具体的に習得したからだろうな。


(お祈りするとレベルが上がる理屈はわからないけど、トリガーのひとつではあるんだろうな。とすると……)


 この先、魔境になった元異国では、どこでお祈りができるかわからない。

 サルヴィア嬢にもらったノートを【空間収納】にしまうついでに銀貨を取り出した俺は、教会近くの露店で女神像をいくつか購入した。旅のお守りやお土産に売られているもので、もちろん自宅で祀ることもできる。


(いち、に、さん、し……手元のお祈り用とは別に、二十個あれば、しばらくはもつかな?)


 大量購入のためにおまけしてもらった大きな麻袋の中には、両手に収まる程度の大きさの女神像がごっちゃりと詰め込まれている。俺は人目につかない所で、それをさっと【空間収納】に放り込んだ。こんなに目立つ荷物を持ったままじゃ、宿舎に戻れないからな。


 魔境での行軍がスムーズにいくとは思わない。当然、行ったり来たりすることもあるだろうし、緊急避難的に道を外れることもあるだろう。


(サルヴィア様のレジュメによると、瘴気の浄化は範囲基準になるみたいだ。ということは、起点になる……そう、要のような役割を持つ物を置いたほうが、安定するんじゃないかな)


 せっかく浄化しても、まわりからじわじわ再侵食されたら意味がない。道すがら、お地蔵さんのように女神像を置いていけば、そこを中心として浄化されたエリアを保てるかもしれない。


(まあ、実際にやってみないとわからないんだけどさ。中心じゃなくて、範囲を囲わなきゃダメかもしれないし)


 瘴気を浄化する魔法もまだ試せていないから、ぶっつけ本番の実地で工夫していくしかない。

 それから、回復魔法に関することが書かれた書物を手に入れられないかと本屋をさがしたが、残念ながら薄汚い格好の平民が入れるような店構えではなかった。


(書籍はまだまだ高級品か。活版印刷はあるらしいけど、それも新しい技術なんだな)


 農村にいると、そもそも品物を見ることがないので、希少さや価格帯を知ることがない。サルヴィア嬢に識字を問われたが、庶民の水準は、まあそういうレベルだ。裕福な家庭の子供でなければ、最低限の学問すら学べない。


(とすると、父さんはやっぱりそれなりの教育を受けられた身分だったのか)


 二世代前ということ、先代フーバー侯爵と縁があったこと、それらを考えると、大外れな予想ではないだろう。


(それにしても、アビリティを使うな、か。どうやって使うのか、まだ分からないんだけどなぁ)


 俺の能力は、【空間収納】【幸運】【女神の加護】【身代わりの奇跡】の四つ。そのうち、【空間収納】はゲームのストレージ機能というイメージができたから使えているが、あとの三つは見当もつかない。


(どれも自動発動だと思っていたんだけど、サルヴィア様の口ぶりだと、【身代わりの奇跡】は任意発動ができるみたいだな)


 ステータス画面には説明が一切出てこないが、サルヴィア嬢の【鑑定】なら、詳細がわかるのかもしれない。今度聞いてみよう。



 翌日、補給を終えてラベラの町を出ると、出来るだけ旧国境に近付いたところで野営となった。


 俺はだいぶ大きくなってきたひよこ達を、荷物で囲った地面に放してやり、餌の野菜くずを撒いた。こいつらが立派な成鳥になる頃には、鶏舎のある場所にたどり着けるといいんだが。


「ぴよぴよ」

「たくさん卵を産むコッケになってくれよ」


 この世界のコッケは、まだ品種改良が進んでいないらしく、一年の半分以上は卵を産まない。それでも、旬の春には毎日のように産んでくれるので、飼わないという選択はない。緊急時には肉にもなるし。


「おぅい、リヒターってあんたかい?」


 呼ばれて振り向くと、男二人連れの冒険者がこちらに歩いてきていた。

「ちょっと面貸してくれ」


 俺はひよこをカゴに入れると、冒険者たちにひとけのない場所へ連れ出された。



「そうそう、魔力の扱いは上手いと思うよぉ。本当にやったことなかったの?」


 俺の魔法の教導官として訪ねてきたのは、見覚えのある髭のおっさんに連れられた若い魔法使いの男だった。同じパーティーらしい。


「神官でもないのに神聖魔法が使えるなんてなぁ」

「ヒロゥズ、わかってんだろうな」

「もちろん、しゃべりませんよぉ。俺たちの命綱に、そんな恩知らずなことできるわけない」


 にひひっと笑った魔法使いのヒロゥズは、左目を縦断するように刀傷があり、そのせいか左右の目の色が若干異なっている。年齢は俺と同じくらいに見えるが、冒険者として身を立てて長いようだ。


「やっぱり、珍しいんだな」

「まあ、黙っていたほうがいいだろうな。お前さん、養子なんだろ? もしも生まれがやんごとなきご身分だったなら、あっちこっちから厄介事が湧いてくるに決まってる」


 髭のおっさん……冒険者パーティー『鋼色の月』のリーダー、ジェンが苦々しく言うのに、俺は同意の頷きを返した。

 なにか理由があって養子に出されたのだろうけれど、俺を逃がすため、だったなら、目立ったことをしない方がいいに決まっている。


「だけど、みんなが生き残るのに必要なら、大々的にこの力を使うこともやぶさかじゃない。……その厄介事が、魔境まで追いかけてくるとも思えないしね」

「ははっ、違いないねえ!」

「体張って魔境に来る貴族なんか、サルヴィア様ぐらいなもんだからな」


 ヒロゥズとジェンは愉快そうに笑い、俺は魔力操作に集中した。


(たぶん、気功とかそういうイメージがあるからかな)


 ヒロゥズに魔力の概念から教授されると、俺はすぐにマナを感知し、魔力操作を理解した。体の外に漂うマナと、体の内に流れるマナを混ぜたものが、この世界でいう魔力らしい。両足の裏に大地を感じ、呼吸と一緒にマナを取り入れ、血流に載せて体内を巡り、丹田に溜める。


「ブレス」

「うぉっ!」

「ふぁぉ!」


 ジェンとヒロゥズがひっくり返った声を出して飛び上がる。


「うーん、やっぱり変な感じなのかな?」

「いやいや、そういうわけじゃねぇんだ」

「神官系の支援に慣れてないって言うのもあるんだけど、なんていうかバフみが強すぎて前のめりになっちゃうんだよねぇ」

「バフみ……」

「あと、マナが無駄に飛び散ってる」


 全力でやればいいってもんじゃないのか。……そうだな、普通に歩いていたのに、いきなり車くらいの速度が出せるようになったら、そりゃあ前のめりにもなるか。それなら、出力を少し抑えて、効果が切れないように掛け続けるのが……。


「さっきから頑張ってるけど、気分悪くなったりしてない?」

「大丈夫。……魔力切れって、やっぱり気分悪くなるんだ?」

「まあ、そうだなぁ」


 ヒロゥズが言うには、自分のマナが枯渇すると、頭痛や悪寒、めまいや吐き気で、立っていられなくなるそうだ。


「だけど、それで死ぬことはほぼないよ。その辺にあるマナを吸収していられれば。……たまに、極端にマナの生産が少ない人や、まわりからマナを吸収できない体質の人がいるから、そういう人は要注意だねぇ」

「昏睡状態から衰弱していくと、稀に死ぬことがあるらしい」


 二人とも、聞いたことがあると言うだけで、それほど頻繁にあることではないそうだ。


「俺は?」

「全く問題なし。っていうか、初心者でこれだけポンポン使える人、あんまりいないよ」

「そうなんだ」


 教導官がいることだし、せっかくだから自分の限界を知りたかったのだけど、連続で魔法を使っても、いっこうに疲れた感じがしてこない。初級魔法だからだろうか?


「瘴気について教えてもらえるかな?」

「ああ……瘴気については、俺もよく知らないんだよね。ジェンは?」

「俺もだ。負の感情が多すぎて、マナが変質するらしい」


 うーん。ふわっとしすぎて、よくわからんな。


「スタンピードの原因になることもあるし、逆に被害が大きかったスタンピードの後に発生することもある。戦場や大規模な処刑があった時、身近なところではスラムでも湧く。そういうことだから、今回の瘴気発生は、なるべくしてなったってことだな」

「なるほど」

「だから、正しく埋葬された、管理されている墓地では、瘴気は滅多に湧くことはない。ただし、一度発生すると、不死者がぞろぞろ出てくる」

「面倒くせぇんだわ、これが。グールやスケルトンはしぶといし、ゴーストやレイスなんかは、神官か聖騎士のスキルでなきゃ、ほとんどダメージが通らねぇのよ」

「じゃあ、俺の神聖魔法で、レイスも倒せるようになる?」

「おう、出来るはずだぜ。ぜひ、頑張って覚えてくれ」


 二人ににやぁっと笑われて、俺も苦笑いを返した。あとでサルヴィア嬢のノートから、攻撃に使えそうな魔法を探しておこう。


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