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第六幕・第六話 若村長と水神信仰

 さて、リューズィーへの信仰を増やすにはどうしようか。


 一応、俺には布教という特技(スキル)が生えているんだが、どういう使い方をすればいいのか、わからないんだよな。


「パッシブですから、お気になさらないで」

「さようか」


 サルヴィアによると、それらしい弁舌ができるし、聞いた人の信仰心が勝手に上がるんだとか。カルト教祖になれそうだな。


(『大地の遺跡』のキャンプに行って、布教活動してこようか?)


 でも、女神派のアスヴァトルド教徒を、すぐにリューズィー派にするのは難しそうだ。


「とりあえず、うちの村の礼拝堂を綺麗にしておこう」


 元々リューズィーを信仰していた場所だし、まずは何事も、足元から踏み固めていかないとな。せっかくリューズィーを信仰してこの村に来たのに、礼拝堂が汚れていたら失望させてしまう。


 俺がせっせと教会内の礼拝堂を掃除していると、小柄な影が入ってきた。


「あの……」

「はい? ああ、キャロル嬢」


 くりんくりんと巻いた亜麻色の髪をボブカットにしたキャロルは、やっぱり少年のように見える。ちゃんと声を聞けば、女の子だってわかるんだけど……もしかしたら、本来よりもかなり痩せてしまっているのではないだろうか。あらためてみると、白い神官服は、彼女には重そうだ。


「キャロル、と呼び捨てにしてくださいませ。わたくしには、もう家名もありませんから」


 そんな諦めたような悲しい顔で微笑まれると、胸が痛い。


「じゃあ、キャロル。怪我の具合はどう?」

「おかげさまで、こぶも擦り傷も治りましたし、熱もすっかり下がりました。助けていただき、ありがとうございます」

「手当てをしたのは、サルヴィア様たちだ。お礼なら、俺よりもサルヴィア様にするといい」

「はい。ですが、あの時わたくしとガウリー様を救ってくださったのは、誰でもないリヒター様でございます」


 深々と膝を折って頭を下げられ、俺は困ってしまった。やれやれ、躾の行き届いた、しっかりしたお嬢さんだ。


「そうか。それなら、助かった命を大事にな」

「はい。……あの、この教会は、女神様のものではないのですか?」


 俺が埃を払っているリューズィーの像を見て、キャロルはあどけない菫色の目を丸くした。


「この村は、元々水神リューズィーを信仰している人たちが暮らしていたんだ。いまも、眷属が村の近くでダンジョンマスターをやっているよ」

「まあ! えっと、それは……神様にお会いできる、ということでしょうか?」


 キャロル、意外とミーハーか? 会いに行けるアイドルみたいな言い方だが、十三歳のお子様ではそんな感覚で当たり前か。


「リューズィー本体ではないけれど、眷属のカイゼルとは会話も可能だし、信仰してくれって賑やかだぞ」

「まあぁ!」


 なんかキャロルの表情が輝きだした。えっ、いまのどこに、そんな感動する要素あった?


「その眷属様にお会いしてみたいですわ!」

「え、いいよ。森の中をちょっと歩くけど」

「大丈夫です!」


 興奮して胸の前で両手を握りしめ、キャロルはすっかりカイゼルに会いに行く気満々だ。


「わかった。ノアとメロディが帰ってきたら、一緒に行こう」

「はい!」


 金鶏の案内でジュエリーフロッグの生息地まで行ったノアとメロディは、大興奮で帰ってきて、すぐにでもリューズィーのダンジョンに行くという。俺はサルヴィアとジェリドに、カイゼルのところに持って行ってもいいドロップ品を選別してもらい、キャロルを連れて出発した。


「おーい、カイゼ、ル……」


 昨日来た時には、暗くてスライムでいっぱいだった地下一階が、柔らかな光に満たされ、シンプルながら神殿を模したエクステリアの奥に、祭壇らしきものが出来上がっていた。


「おう、がんばったな」

「ソウダロウ!」


 祭壇の奥からぼよんぼよんと出てきたスライムを、俺はキャロルに紹介した。


「キャロル、こいつがリューズィーの眷属で、名前はカイゼル。このダンジョンのマスターだ」

「は、はじめてお目通り叶いまして、光栄でございます。キャロルと申します」


 膝を折って深々と淑女の礼をしたキャロルを、カイゼルはむにゅんとそっくり返って受け入れた。


「ウム。吾輩ガかいぜるデアル。楽ニシテヨイゾ、きゃろる」

「はい」

「偉そうだが、しゃべるスライムだ」

「ソンチョー!」

「お供え物持ってきたんだが?」

「アッ、ソコニ出シテクレ」

「ほいよ」


 俺は【空間収納】にしまってあったアイテムを、どんどこリューズィーの祭壇に出してやった。魔素水で育てた薬草と野菜、金鶏が生んだ金属の卵、コッケ達から抜け落ちた神々しい羽根、何かの角、何かの毛皮、何かの硬い皮、何かの石っぽいの、何かの爪、何かの足、何かの……。


「ムッホォーーーーー!!!」

「落ち着いて吸収しろ」


 山のように出したドロップ品だったが、出したそばからお供え物置き場に吸い込まれるように消えていく。全部ダンジョンの養分になるのか。


「ウムッ、吾輩、満足デアル!」

「じゃあ、次は私らね。まわりの環境ごと持ってきたから、新しい階層を使った方がいいかもしれないわ」


 なんか今、メロディの奴、さらっとすごいこと言わなかったか?


「デハ、コッチダ」


 カイゼルに続いて行くと、また下に降りる階段があった。その先は、昨日リューズィーの村があった階とは別なのか、真っ白過ぎて平衡感覚すらマヒしそうな、だだっ広い空間が広がっていた。


「よっと」


 メロディが何もない空間に手を突っ込んで引きずり出したのは、たしかに環境だった。


「おっまっ!? どういうこと!?」


 森の木々とその足元に流れる浅い川、湿った大地に積もった落ち葉、そして、二十匹はいそうなジュエリーフロッグ。

 およそ五メートル四方の土地が、地下五、六十センチほどの地面ごと、そこに出現していた。


「オオオオオオオオ!!」


 歓喜の叫びをあげたカイゼルが、ばいんばいんと激しく飛び跳ねる。


「出デヨ!! 現レヨ!! 増エヨ!! 広ガルノダ!!」


 その瞬間、殺風景だった空間に、森が満たされた。落ち葉が積もった湿った土が足元を押し上げ、北の森で見慣れた木々が茂り、岩と砂利の間に湧くささやかな水が、水溜まりや小川を作って流れていく。


「おおっ」


 切り取った場所が浄化範囲の端だったのか、少し瘴気が混じっていたが、カタルシスをかけたら綺麗な空気になった。ほんの数秒で、俺たちは森の中に立っていた。


「むっは、すごい。全部持ってきたかいがあったわ」

「すごいな! いや、カイゼルもすごいが、メロディ、あれはなんだ?」

「言ったじゃん。私、空間魔法が専門だって」


 だからって、ごっそり持ってくる奴があるか。びっくりしたぞ。


「ケロケロ、よかったね!」


 ノアが小川のそばにしゃがみこんで、飛び跳ねているカエルを見ながらにこにこしているが、ジュエリーフロッグにとって、はたしてよかったかどうかは、俺には判断できない。


「めろり、かいじぇる、ありがと。これあげる」


 ノアがリュックに手を突っ込み、大人の握り拳くらいはありそうなデカい魔石を、メロディとカイゼルにそれぞれ渡した。


「おおっ! ノアたん、ありがとう!!」

「フォァ!? ど、どどどどらごんノ魔石!? 吾輩ノだんじょんニ、どらごんガ出セル!?」


 マジか、そいつはすごいな。がんばれカイゼル。


 魔石って何に使うのかと思っていたが、主に魔道具に使うんだと、メロディが教えてくれた。マナを長く留めておくことは難しいが、魔素は魔石になっている間は安定して存在しているから、色々な使い方ができるらしい。


「人間が直接扱えないだけで、世界に循環するエネルギーという点では、魔素もマナと同じなのよ。魔獣の素になることからもわかるように、具現性や持っているエネルギーはマナよりも上だしね」

「へ~。魔石が売れるのは知っていたけど、こっちじゃ魔道具があんまり普及していないからなぁ」

「南大陸じゃダンジョンがほぼなくなっちゃったから、魔石が高騰しているらしいわ」


 俺が持っている、いつでも飲み水を出してくれる水筒にも、魔石は使われているらしい。意外と身近だったが、魔道具自体が高価なんだよな。


「……」

「キャロル? 大丈夫か?」


 いきなりダンジョンスペクタクルを見せられたせいか、ちょっと呆然と突っ立っていたキャロルに話しかけると、はっとしたように目の焦点が合った。


「リヒター様……。あの、カイゼル様、お願いがございます!」

「オ、オウ?」


 こっちはこっちでドラゴンの魔石にうっとりしていたカイゼルも、いきなりキャロルに迫られてびっくりしている。


「ナンダ?」

「わたくしを、カイゼル様のおそばに仕えさせてくださいませ!」

「「「ハイ???」」」


 俺とメロディだけでなく、カイゼルまでも、無い首を傾げるかのようにぐにゃんと揺れ動いた。



 キャロルを落ち着かせて、よく話を聞いてみると、つまりはリューズィーの神官になりたいそうだ。


「だんじょんますたーノ吾輩ニ仕エラレテモ困ルガ、りゅーずぃーヘノ帰依ナラ歓迎スルゾ!」


 神官が誕生すれば、リューズィーへの信仰度も爆上がりなので、俺たちも大歓迎だ。


「だが、いいのか? アスヴァトルドの神殿で、階級だってあっただろ?」

「ああ、このサッシュのことですね」


 キャロルの白い神官服の上にかけられている黄色のサッシュは、神聖魔法や回復魔法以外の魔法に長けている神官が付けるものらしい。ちなみに、赤系が神聖魔法で、青系が回復魔法、両方十全に使える人が紫だそうだ。水色よりも群青の方が上、というように、色が濃いほど階級が高いらしい。


「え、じゃああの時、神聖魔法が使えないのに、浄化をしようとしていたのか!?」

「いえ、得意ではないだけで、わたくしもボーレアス様も、一応使えましたわ。ただ、あの時は上手くいかなかっただけで……」


 恥ずかしそうに俯くキャロルに、俺は視線をそらせた。上手くいかなかったせいで、リーダーの神殿騎士に殴られたんだった。すまん、俺の浄化魔法が神殿で教えるのと違うせいだ。メロディ、そこで鼻で笑っているな。


「わたくし、元々は水魔法が得意ですの。マーガレッタ様に睨まれたわたくしを、大神殿は保護するよりも厄介者扱いしました。それならば、わたくしはカイゼル様とお話ができる、リューズィー様にお仕えしとうございますわ」


 カイゼル様のお髭は、とってもチャーミングですわ、という本音が最後に聞こえたが、まあカイゼルを気に入ったのなら、こちらから強制したわけでもないし、いいだろう。


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