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第六幕・第四話 若村長と王都の狂騒

 村で一番大きな家だが、すっかり公民館か集会所のような扱いになっている。客を泊めることにも使用しているが、そろそろまわりの家の補修もしたいところだ。


 俺が戻ると、すでに自己紹介は終わったらしく、談話室にはエルマさんとキャロルを除く、全員が揃っていた。


「体積が三分の一くらいになりまして?」

「働いたせいだから」


 感心するサルヴィアにメロディは悲しげな表情を作るが、病気したせいでやつれた、みたいな調子で言わないで貰いたい。


「メロディの【アノニマス】って、ジェリドの【人物鑑定】でも抜けないか?」

「おっ、たぶん防ぐと思うけど、後学のために知っておきたい。カモン」


 俺はジェリドに【人物鑑定】を使うように勧めたが、ジェリドはメロディをしばらく見つめた後、眉根を寄せて首を振った。


「わかりません。遮断されているようで、見えませんでした」

「おっほ」

「【アノニマス】強いなぁ」


 ドヤるのはいいが、ダブルピースはやめておけ。


 メロディは秘匿系能力(アビリティ)を持っていると知ると、ジェリドも興味深げだ。見られない、という例が今までになかったようなので、こういう人間もいるという知見は貴重らしい。


「それで、問題の『隷属の首輪』が……これかぁ」


 メロディは椅子に座っているガウリーにずいずいと迫っていき、シャツの襟をはだけさせて観察する。


「どうだ?」

「ふーん。……マレバス、レゾ、エーレンダー」


 その言葉だけで、ガウリーの表情が明らかに変わった。


「当たり?」

「……」

「言えないってことは、正解だな」


 メロディはガウリーの襟を手放すと、自分の席に戻って、どっかりと腰を下ろした。


「その首輪をハメたのは、ジョン・マレバス、マキアネス・レゾ、ロドリゴ・エーレンダーの三人だ。首輪の作成者はイレーン。出来から見ると、たいしたことない錬金術師だな」


 おおぉ、と俺たちが感嘆の声を漏らす中で、サルヴィアの眉がキリキリと寄っていった。


「ジョン・マレバスは神殿騎士団長。ロドリゴ・エーレンダーは、王都ロイデム大神殿の次席大神官ではなかったかしら」

「そうです」


 ガウリーは頷き、また続いた沈黙に、ジェリドが微笑んだ。


「では、三人目のレゾという人物が、重大な秘密に関する、直接的な取りまとめをしている責任者、というあたりでしょうか」

「……」

「当たりみたいだな」

「そのようです」


 主犯たちの名前はわかったが、やはりかなりの上位者だ。彼等に直接ガウリーの首輪を外させることは不可能だろう。


「メロディ、どうすれば外せる?」

「品自体、粗悪とは言わないが、私が知っている中では性能も品質も高くない。ただ、大事に保管されていたんだろうね、年代物の割に劣化していなくて、基本的に、正規の手順でないと外れない。まず、仕様を洗ってみようか」


 メロディは長い脚を組んでひじ掛けに頬杖を突き、指先で細い顎を撫でながら、しばらくガウリーの首元に視線を固定していた。小刻みに紫の目が動き、恐ろしいほどのスピードで情報が精査されていることは、そばで見ていてもわかる。


「ぁ……これ、いけるかな」


 ぽつ、とこぼれたような呟きに、俺たちは無言のまま色めきたった。メロディは目が乾燥したのか、ぱちぱちと瞬きをしながら姿勢を変えた。


「私、エルフィンタークの歴史には詳しくないんだけど、この『隷属の首輪』が作られた当時、たぶんアスヴァトルド教は他宗教よりも力が弱かったか、内部分裂していたんじゃないかな。『女神アスヴァトルドの名において』とあるから、それ以外の神を信仰する人を押さえつけたかったんでしょ」


 自分の【空間収納】からペンとメモ帳を取り出したメロディは、何事かを次々と書きつけていく。


「解除方法も初期設定のまま、テンプレに解除者の候補を役職で入れただけで、個人名での指定がない。これなら、根本をガタつかせれば、解除条件を緩ませるか、無視できる可能性が高い」

「つまり?」

「この村にいるじゃないの。女神アスヴァトルドの加護が厚い人間と、アスヴァトルドに対立する、破壊と刷新を司る水神リューズィーが」


 メモ帳から顔を上げたメロディは、天才魔道具師の顔でにやりと笑った。



 希望が見えて和やかな雰囲気になった俺たちは、熱が下がってきたキャロルも交えて、夕食を同じダイニングでとることが出来た。温かい食事を腹に入れれば、困難に対抗する気力もさらに湧くというものだ。


 その後、「きょうも、じぇーとねんねしゅる!」と言うノアを、嬉しそうなジェリドに任せて、転生者三人組はサルヴィアの家に集まった。小さな家だが、清潔な個室が二つあったのが、サルヴィアは気に入ったようだ。片方は製薬部屋になっているらしい。


 小ぢんまりとしたリビングダイニングで椅子に座った三人の前には、それぞれマグカップがあり、湯気と一緒にコーヒーの香りを立ち昇らせている。

 ちなみに、コーヒーはお湯に溶かす顆粒タイプのインスタントで、メロディ提供のガチャ産品だ。俺はこの世界では初めて飲んだが、美味かった。砂糖とミルクが入っていて、どこかほっとするような、懐かしい気分になった。


「予想以上に早いな」


 メロディからもたらされた王都の情報に、セージモードになったサルヴィアは頭痛を堪えるように、眉間にしわを寄せた。


 王都で王太子とその婚約者……第二王子アドルファスと、サルヴィアの妹マーガレッタのことだが、彼等と商売の専属契約を交わしている三郎ホープによると、エルフィンターク王城を中心に、社交界に異変が起こっているという。

 貴族の子弟がマーガレッタに入れ込む事件が頻発し、それを抑え込もうとする親たちが四苦八苦しているそうだ。魅了系のアイテムが使われたようにも見えるが、『フラ君』用のアイテムはホープたちが持っていて、三郎ホープはマーガレッタに売っていないという。


「とすると、アビリティか魔道具か……」

「その可能性もあるけど、マーガレッタの天賦(ギフト)【花乙女の魅力】の効果だと思う」

「主人公補正強すぎだろ……」

「それプラス、お母様の能力(アビリティ)【女系血統】が強力なんだと思う。いまのマーガレッタには、お母様のステータスが半分くらい上乗せされているはずだ」

「なんぞ、そのチートは」


 思わずといった様子で、メロディもマグカップを口に運ぶための手が止まった。


 マーガレッタと母親のサーシャは、いわゆるピーナッツ母子というやつかもしれない。よく似ていて、同じような感性と行動方針を持っている。一般人ならそれでもいいかもしれないが、王太子妃とその母親の地位を狙うような感性と行動方針を共有しているなんて、悪夢でしかない。


「ヤバい温室で育てられたヤバい花に、箱入り息子たちが吸い寄せられているってことか」


 実ることなく大地を腐らせる徒花だとも知らないで……。


「そういえば、マーガレッタは転生者じゃないのか?」

「たぶん違う」


 すぐに否定したセージによると、マーガレッタは能力【空間収納】を持っておらず、転生者らしい素振りや仕草もなかったという。


「といっても、四六時中一緒にいたわけじゃないから……。気持ち悪くって」

「そうだろうな」


 赤の他人なら、まだ冷静に観察もできようが、同じゲームの主人公で半分血のつながった同い年の妹という、情報量過多な存在が、ひとつ屋根の下で母親にべったりでは、距離も置きたいだろう。


「マーガレッタちゃんって、性格どうよ?」

「ほとんど話したこともないけど……よくはないと思うよ」


 セージは苦笑いを浮かべて、脅されたことがあると教えてくれた。


「女装している男だってことをバラしていいのかって、王城の近衛兵がいるところで言いやがった」

「それ、脅しじゃなくて、完全に嫌がらせだろ」

「そうともいう。まあ、その時僕は、僕が女装していることなんか、マーガレッタが不義の子であることに比べたら隠すことじゃない、って言い返したけどさ」

「「きっつ……」」


 セージくん、はっきり言いすぎではないだろうか?


「いや、ちょうど、むしゃくしゃしていた時だったからさ。ブーメラン刺さったあいつのアホ面、それなりに面白かったよ?」


 やっぱりサルヴィア嬢は、いい性格をしていらっしゃるようだ。


「そのせいか知らないけど、マーガレッタがお母様の子だって周知されちゃった。公然の秘密ってやつ? 僕は別に、お母様が不倫して作った子がマーガレッタだなんて、一言も言ってないのにね。うふふ」

「うふふ、じゃないが。おぬしも悪よのう」

「いえいえ、メロディ様ほどでは。つか、いくら近衛兵だからって、警備上の機密じゃなくて噂だし、人の口に戸は建てられないよねぇ。王城の廊下なんて、姿が見えなくたって、誰が聞いているかわからないのにさ」


 ハハッ、と軽く笑うセージだが、俺とメロディは、貴族怖ぁい、と顔を見合わせてしまった。


「それで、いまのエルフィンタークの社交界は、マーガレッタ中心になってしまっているんだ?」

「そういうこと。ゲームなら、舞台になる学院の中だけで収まっていただろうにねえ……。国政は第一王子のルシウスとその周りが頑張って支えているけど、国王も王太子もガタガタだってよ。マーガレッタにいじめられた令嬢なんか、家にいられなくて神殿に入ったとか……」


 可哀そうになぁ、とメロディは気の毒がるが、俺は首を傾げた。


「それ、キャロルのことじゃ?」

「マジ?」

「えぇっと、なに男爵の娘だっけ?」

「フィギス男爵家の次女だな」


 俺の疑問にセージが答えてくれると、メロディがホープからの手紙を確認して頷いた。


「そう、その子だ。つまはじきにされて結婚も望めないって言われていたけど、フーバー侯爵家からお付き合いの申し込みがあったらしいよ?」

「ぶっ!」


 俺のコーヒーを返せッ!


「きったな!」

「リヒター、大丈夫?」

「ごふっ、げっは、げは……ぜー、はー……うぅっ」


 咽たせいで、鼻と胸が痛い! ハンカチ、ハンカチ……。


「そういえば、リヒターはフーバー家と知り合いなんだった」

「そうなん?」

「はぁ。知り合いじゃなくて、領民だ。キャロルって十三歳だったな。四男のティーターも、今年で十三になったはずだ」


 そのティーターに殴り殺されそうになって、前世の記憶が戻ったことを二人に話したら、絶句された。うん、成人男性を殴り殺せそうな体格の十二歳って、ちょっと想像つかないよな。


「あのオークの嫁にならずに済んだのなら、禍福は糾える縄の如し……いやぁ、あいつのことだから、ボクチンのために魔境で頑張っている、ボクチンのお嫁さんに相応しい、とか言いそうだ」

「うげぇっ。言葉は通じるのに、話が通じない人種じゃん。めんどくさっ!」

「その調子じゃ、当のキャロルが戻らなかったら、神殿もフィギス男爵家も、フーバー侯爵に絡まれるんだろうな」

「まったくとばっちりだが、ブランヴェリ公爵家にまで、どうなっているんだって噛みついてくる可能性もあるぞ」

「それはそれで面倒な……」


 頭を抱えたセージに、俺は心から同情した。


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