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第四幕・第六話 若村長と雲の行方

 俺とサルヴィアは久しぶりに、二人そろってメロディを訪ねた。主に港が使えるようになってから、ウィンバーの町を統治するために誰が来るかという事と、ジェリドを助けたり、新しいダンジョンが出来たりと、色々報告することがあった。

 メロディも、魔道具で知り合いに連絡を取ったらしく、南の大陸から職人がやってくる予定らしい。ハーフダークエルフのメロディがいるんだから、不思議ではないのだけれど……すごいな、ドワーフがいるらしい。


「ここで獲れる魔獣素材の話をしたら、飛びついてきたよ。南の大陸じゃ、ダンジョンがほとんどなくなったみたいでさ」


 それは職人としても困っていただろうな。住んでいる所に魔獣や瘴気の被害さえなければ、現在のブランヴェリ公爵領は魔獣素材の宝庫だ。


「おおー、いいんじゃない、いいんじゃない。今回もすごいねえ」


 メロディはノアが狩った魔獣の素材を吟味しながら、満足そうな声を出した。


「これと、これと、これと……これも買うわ。全部で……これくらいでいかが?」


 まわってきた明細を見て、サルヴィアは頷いた。けっこうな買取り額だ。


「ええ、いいわ。ありがとう、メロディ」

「まいど」


 どっさりと金貨の詰まった袋が支払われ、これでまた、ブランヴェリ家の金庫が潤った。


「こっちからは、観賞用の水槽と、時間停止機能付きの小型マジックバッグね。ノアたん用でしょ? はい」

「ああ。ノアが、ジェリーフロッグを捕まえてきてさ……」

「ぶっほぉ。さっすがノアたん。マジックバックは、あれじゃ足りなかった?」

「いや、ダンジョン産の魔獣なら、もらったリュックで十分だ。ただ、たまにダンジョン産ではない魔獣を狩ることがあってさ」

「おお、お肉の確保ね」


 これから冬に向けて、食料を溜め込んでいかなくてはいけない。ノアがラギ鹿ローグレに似た、食べられる魔獣を狩っても、そのまま引きずってくるので、手提げ程度の大きさで高機能なマジックバッグが欲しかったのだ。支払いはサルヴィアがしてくれるので、俺は要望を言うだけだ。


「それで、新しいダンジョンを作ったんだって?」

「なりゆきというか、偶然というか、な」

「末端とはいえ、水神リューズィーの眷属をダンジョンマスターにしてしまったのだけれど、大丈夫かしら?」

「むほほほほ。なかなか面白そうなダンジョンになりそうだね。まあ、『永冥のダンジョン』の負担を軽くするためにも、じゃんじゃん作って大丈夫でしょ」


 メロディが言う通り、『永冥のダンジョン』の負担を軽くしたくて、ノアはあのスライムをダンジョンコアごとぶん投げたのだろう。あの後探したら、ちゃんとダンジョンの入り口が出来ていた。


「長期的に見て、領地内にダンジョンがいくつもあるのはいいことよ。それだけ人が集まるもん」

「ええ。リヒターが整えてくれたリューズィーの村も、いずれはダンジョン攻略の拠点として使われるようになるでしょうね」


 それまでにはきっと、土地や水から魔素が消えているだろう。


「ああ、そうだ。リューズィーのダンジョンで、傾国桃樹育てさせてもらおう。あれ美味しいけど、その辺に生やしておくのは危ない」


 国が傾くほど美味しいと言われている桃がなる、やたらとアグレッシブで凶暴な桃の木だ。もちろん、動き回る。


「待てい、リヒターさんよ。傾国桃樹おんの?」

「おったで? ノアが捕まえてきて、桃全部もいで食べた。丸裸にしたら木の方は逃げちゃったけど、種が残ったから、植えたら生えてくるんじゃないかな」

「美味しかったですわぁ。甘くて、ジューシーで」

「むわああああっ! 私も、食べたかったぁぁ!!!」

「言うと思って、少し持ってきた」

「ありがとう~~~!!!」


 俺は大きな桃をいくつか【空間収納】から出して、一郎ホープに渡した。


「ジェリドに食べさせたら、だいぶ元気になったから、よかったよ」


 その実をめぐって争いが起きるとまで言われている桃だけあって、めちゃくちゃ美味かった。まあ、いま植えて三年後くらいには、美味しい傾国桃樹になるんじゃないかな。


「そう言えば、ジェリドって『ラヴィエンデ・ヒストリア』のキャラなんだっけ?」

「そう。……ああ、メロディ、『ラヴィ・リア』の人物名鑑、持ってる?」

「残念ながら、まだガチャから出てない。攻略本はあるんだけど、全員は載ってないっぽいんだよね」


 ああ、ストーリーやシステム解説とかが載っている方か。登場人物も少し載っているけど、簡単な紹介しかされてないんだよな。


「ちらっと見たけど、すごい優秀なキャラだね。こいつに任せておけば大丈夫、みたいな」

「そうなんだよ。だから、絶対に味方にしたい。なんとか説得してみる」

「がんばれー。『ラヴィ・リア』キャラの強さは、私も知ってるからさ」

「あら、メロディも『ラヴィエンデ・ヒストリア』を?」

「うんにゃ。私は昔、ライオネルくんの部下だったことがあるんだよ」


 ライオネル? ライオネル、ライオネル……。


「「皇帝ライオネル!?」」

「おう。二代前のロードラル帝国皇帝ぞ?」


 思わずサルヴィアとハモってしまったが、これは驚かないわけがない。


「そうか……。ライオネルと敵対する可能性がないだけ、ほっとした」

「実感こもってるな。まぁ、ライオネルくん、強運込みで、めたくそ強かったからね」

「そうだろうな」


 『ラヴィエンデ・ヒストリア』には、千人以上の登場人物ネームドがいるが、その性能は多岐にわたるし、強さだってピンキリだ。その中でも、皇帝ライオネルの強みは、高いカリスマ性と、賢者ジェリドと並ぶ、非の打ち所がない内政だ。国の内側が盤石すぎて、いくら攻めても削りきれない。そのうち、息切れを起こしたこっちが攻め滅ぼされるので、手を出さないのが一番という……。


「しかし、攻略本読んだだけだけど、『ラヴィエンデ・ヒストリア』面白いな! 味方にしたいキャラだけじゃなくて、お邪魔キャラまでいるんだもん」

「ああ。そういうのは敵方にもぐりこま……」


 そこでふと、俺は頭の奥で記憶が光ったのを感じた。なにか、思い出せそうだ。


「どうしたの、リヒター?」

「いや、なにか思い出せそうなんだ……」


 なにか、すごく重大なことで、割と最近、聞いたような……。



―― サルヴィアが女装しているのはね、女の子を欲しがった母に、生まれてすぐ殺されかけたからなんだよ



「あ……あっ!」


 思い出した。まさか、そんな……。


「サルヴィア、君たちの母親の名前、なんだっけ?」

「え? お母様?」


 きょとんとしたサルヴィアだったが、少し言いにくそうな苦笑いを浮かべて教えてくれた。


「サーシャよ。サーシャ・ロズ・ブランヴェリ」


 ああ、いや、たぶん、そうなんだ。


「……国崩しのサーシャ……大公妃、サーシャだ」


 腰から頭の後ろにかけて、すぅっと寒くなった気がして、俺は椅子にうずくまるように頭を抱えた。


「ちょっと、リヒター! どうなさったの?」

「ごめん、サルヴィア。この前、フィラルド様から少し聞いちゃったんだ。その……女装するきっかけの、話」

「え、ああ……」

「何の話? 私聞いてもいい?」


 メロディがホープを下がらせると、サルヴィアは少し思案するようなそぶりの後、頷いた。


「ええ。これはたぶん、知っておいてもらった方がいいかもしれないわ」


 サルヴィアがこの世に生を受けてすぐ、その命は母親によって絶たたれかけたそうだ。


「正確に言うと、男性機能を潰されそうになったのよ。もし成功して、命は助かったとしても、貴族の男としても女としても、表には出られなかったでしょうね」

「こっわ! お股の間がヒュッてなった。ひっどいなぁ! 母親のすることかよ!」


 メロディが悲鳴を上げるが、俺も全く同意する。


 サルヴィアは五人兄弟で、女の子が生まれない事に、母親のサーシャは酷くいらだっていたそうだ。俺が知っている「大公妃サーシャ」なら、そうだろうな。


「それで、事態を重く見たお父様やおじい様が、わたくしを女の子として育てるよう取り計らったの。実際は、わたくし一人だけ領地で育てられたから、お母様ともほとんど会ったことはなかったのだけど」


 いくら見た目を装ったとしても、殺そうとした母と、殺されそうになった子を、一緒には住ませられないだろう。


「わたくしが男の権利を有したまま、表向きは女として振る舞えたことですが、わたくしのおじい様である、先代のブランヴェリ公爵は、いまのエルフィンターク国王グレアム陛下にとって、大叔父にあたるの。おじい様の頼みだから、陛下も融通をきかせてくれたのよ」


 なるほど。それで国王は、サルヴィアが女装した男だと知っているのか。サルヴィアは以前、自分が男だという事は秘密ではなく、知っている人は知っている、と言っていたが、この国のトップが了承しているのならば、法律上も社交界的にも問題がないだろう。


「そのヤバい母上様は、いまどこに?」

「王都にいるんじゃないかしら? 領地と財産を没収された時に、置いてきたわ」

「えぇ……」


 メロディと俺が呆れるのを見て、サルヴィアはクスクスと笑い、実はね、と続きを語ってくれた。


「わたくしたちには、わたくしと同い年の、妹がいるの。表向きは、お母様が引きとった養子なのだけれど……いわゆる、種違いという存在ね。うちはお父様が婿養子だったから、彼女もブランヴェリ公爵家の血を引いているわ」


 つまり、サルヴィアが生まれてすぐ後に、浮気をして、夫とは別の男性との間にもうけた子供という事らしい。


「サルヴィアパパの遺伝子が強すぎるからって、不倫してまで娘が欲しいなんて、ちょっと頭おかしいんじゃないの?」


 メロディが不快気に吐き捨て、俺も同意の頷きを返す。


「それがね、もっとホラーなのはここからなの。わたくしの妹、マーガレッタというのだけれど……『フラ君Ⅲ』の主人公なのよ」


 がたっと椅子から立ち上がったのは、俺だけではなかったようだ。パーテーションの向こうから、悪寒を堪える様なひぃぃぃという声が聞こえる。


「マジかよ……。乙女ゲーの主人公とライバルがひとつ屋根の下とか、だいぶ無茶があるだろ」

「お母様が養子にすると言ってマーガレッタを連れてきた時、わたくし、熱を出して寝込みましたわ。わたくしたち兄弟はお父様にそっくりなのだけど、マーガレッタはなんとなくお母様に似ているのよ。本当に、気味が悪かったわ」


 さもありなん。聞いているだけで、吐き気がする。


「いまは、そのマーガレッタが王太子殿下……『フラ君Ⅲ』の攻略対象でもあるアドルファス殿下に粉をかけているから、お母様もその伝手で、なんとかなっているんじゃないかしら。マーガレッタはお母様の養子ではあるけれど、まだ正式なブランヴェリ公爵家の子供だとはされていないわ」


 そりゃそうだろう。いくら直系とはいえ、不義の子供だ。でもその状況なら、サルヴィアが放っておくのもうなずける。


「わたくしの話はここまでですけれど、リヒターはなにか気付いたことがおありなのでしょう?」

「ああ。……まず、偶然とはいえ、サーシャに男の子ばかり生ませたサルヴィアパパを婿に選んだ、先代ブランヴェリ公の慧眼に脱帽する」


 これは本当に、人間が自力でどうにかできる問題じゃなかったからな。


「……俺が知っている大公妃サーシャは、『ラヴィエンデ・ヒストリア』に登場するお邪魔キャラだ。攻撃ユニットといってもいい。そのこころは、娘を王妃にすることで影響力を確立し、最終的に国を亡ぼす、凶悪な破滅トリガーを持っていることだ」


 サーシャとその娘は、揃ってこそ力を発揮する。だからこそ、本能的にサルヴィアの母親は、自分の娘を欲したのだろう。




「もしもマーガレッタを王太子妃にしたら……エルフィンターク王国は、滅ぶぞ」




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