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第三幕・第三話 若村長と宝、あるいは金の卵

 とりあえず領土問題は先送りにして、俺とサルヴィアはメロディが作った『さっぱり浄化玉くんDX』を、あるだけ【空間収納】に突っ込んで持ち帰ることにした。


「あっ、ノアに、いいものがある」


 そう言ってメロディは、自分の【空間収納】から取り出したアイテムを、二つほどパーテーションの隙間からよこした。


「あらっ」


 サルヴィアが思わず声を上げたのもわかる。


「可愛いじゃないか」


 それは辛子色の小さなリュックと、踏むとキュッキュッと音が出るサンダルだった。足首の上までしっかり覆ったグラディエータータイプで、どこかに落としてしまう事も少ないだろう。


「サンダルはガチャ品。サイズが勝手にぴったりになる。大人が履くと、音が出るイタいサンダル。でも、DEFが2ある上に、LUKも+1という優れもの」


 やっぱりメロディには、俺たちには見えないステータスが見えているようだ。【分析】の性能はすごいが、もたらされる多くの情報を処理できるメロディもすごいと思う。


「リュックは、私が作ったマジックバッグ」

「メロディが作ったのか!」

「か、可愛いリュックが欲しかった、から……」


 頑丈で大容量だけどコンパクトで可愛いという、矛盾のかたま……いや、ワガママアイテムだ。時間停止機能はないそうだが、それでも見かけ以上の収納力は魅力だ。

 さっそく、サルヴィアがマナポーションをリュックに詰めて、昼寝から起きたノアに背負わせた。ベルトを調整すれば、ぴったりだ。


「マジックバッグまで作れるなんて、天才かしら」

「くっ、空間魔法は、得意というか、専門というかっ! め、めったに、作らないけど!?」


 褒められたのが照れ臭かったのか、メロディの声が裏返っている。


「よかったな、ノア。この中に、ノアのおやつが入っている。それから、靴も履こう」


 サンダルを履いて床に降り立ったノアは、キュッキュッと音を出しながら、よちよち歩き出した。


「か、可愛いですわぁっ」

「これは反則級だ」


 音の出るサンダルで歩く魔王、爆誕。しかし、可愛いからいい。


「ノアが俺たちから離れることはないと思うが、迷子防止にはいいな」

「確かにそうですわね。見通しの悪い場所では、小さなノアを見失いそうですもの」


 キュッキュッキュッキュッ、と音を鳴らしながら応接室を走るノアに、俺たちの顔が緩む緩む。可愛いは正義だな。癒される。


「ありがとう、メロディ」

「ふ、ふひっ。お、おう。あの、じゃあお礼に、お願いいっこ聞いて」

「なんだ?」

「この先にある町を、早めに浄化して、人を入れて欲しい」


 浄化するのは構わないが、入植に関してはサルヴィアの差配次第だ。俺がサルヴィアを見ると、扇を広げて首を傾げていた。


「どのくらいのペースで人が戻ってくれるかはわかりませんが、優先的に復興させることのメリットを教えてくださる?」

「服を買いに行く服がないから、来てくれる服屋を呼びたい。新鮮素材を使ったご飯も食べたい。あと、丘を下った先に、港があって、『風の遺跡』の反対側には、手つかずの鉱山がある」


 どちらかと言うと、後半の方が重要だな。


「わかりました。早急に手を打ちましょう」

「やったぁ!」


 ばちばちと肉が打ち合わされる音が聞こえる。あれは拍手しているのか。


「もしかして、メロディは地質学にも造詣があるのか?」

「そうじゃない。【分析】が、勝手に教えてくれる」

「よし、メロディ。俺たちと一緒に行こう。領地中を連れ回して、レアメタルの鉱脈を見つけるぞ」

「やだぁっ!」


 即断られたが、領地の運営に金策は大事なんだよ!! 資源探しは戦略シミュの基本だろうが。


「リヒター、王宮を押さえられれば、この領地の基本的な資源の情報は得られますわ」

「くっ、やっぱりあのアンデッドを倒すのか。気配だけで、めちゃくちゃ気持ち悪いし、怖かったのに! 戦闘初心者の俺に、ラスボスに立ち向かえと言うのか! 俺はエクソシストでも聖者でもない、ただの農民だぞ!」

「だうっ!」


 キュッキュッキュッキュッと駆け戻ってきたノアが、抱っこをせがんだので抱き上げる。


「なぁ、ノア。どうやったら、あいつに勝てるかなぁ?」

「先日は、夜通しアンデッドを葬り去っていたではありませんの。わたくしも一緒に戦いますから、そんなに弱気にならないでくださいませ」


 ぐぬぬぬ、不安なものは不安だ。あんな、どろぉっとした気配のものを、『ターンアンデッド』だけで倒せるとは思えない。


「……リヒターって、意外と感情豊か」

「それをメロディが言うか」

「まあ、言いたいことはわかりますわ。ゲームでのリヒターは、かなりツンツンしていましたから」

「へぇ」


 だとしたら、田舎で育ててくれた養父のおかげだな。俺の元の性格もあるかもしれないが。


「黙っていれば、クールな見下し系俺様ムーブな超イケメン。黙っていれば」

「ふん、着られる服のない肉塊が、なにか言っているな」

「そうそう、そう言いそうな顔……じゃなくて! こ、このダイナマイトボディは、豊かさの証ぞ!!」

「おやめになって、二人とも」


 不毛な言い合いを止めたサルヴィアが、ため息をつきつつ地図を広げた。この世界では、まだ地図は軍事機密扱いだ。侵攻したエルフィンターク軍が得た情報と、ミリア嬢をはじめとした元ディアネスト王国貴族からの情報を重ねたものらしい。


「港が整備できれば、王都にいるわたくしのお友達と交易が出来ますわ。『大地の遺跡』にある船着き場だけでは、大容量の船を動かすことはできませんし、セントリオン王国との国境沿いを船で移動しますから、悪目立ちしています。それに比べれば、外洋沿岸をルートにした国内の輸送なら、いくら目立っても、誰も文句が言えませんわ。大手を振って、交易ができます」


 いくら瘴気を浄化しても、すぐに領民全員分の作物が出来るわけじゃない。人を戻すと同時に、食糧の確保が急務になる。その点、鉱山の開発ができれば、食糧を買い付けるための資金になる。


「ここを中心に、ディアネストの民を戻しましょう」

「それはいいけど、『大地の遺跡』にいる人たちはどうする? ここまで連れてくるには、遺跡のファストトラベルでないと……」

「むこうはむこうで、やっていただくことがありますから、こちらには連れてきませんわよ?」


 ほら、と地図を指差されて、納得した。


「王都へは、『大地の遺跡』の方が近い」

「ええ。直線距離ならば、王都の『星の遺跡』を中心に、どの遺跡もあまり変わりません。ですが、地表を歩いていくとすれば、森を抜けさえすればあとは平坦で街道もある、『大地の遺跡』からの方が早いのです」


 『風の遺跡』周辺は、乾燥した渓谷が多いために、回り道を余儀なくされることが多い。それに比べて、『大地の遺跡』から森を抜けた先には、国境検問所があったハルビスの町にもつながる街道と、それに沿って、王都まで町や村が連なっている。


 ただ、それはかつてのエルフィンターク軍の進路と同じで、つまりは瘴気に当てられた魔獣や、アンデッドも多いはずだ。


「やることがいっぱいだな」

「浄化はリヒターにお任せします。相手が小型から中型の魔獣だけならば、キャンプにいる冒険者でも対処可能だと思いますから、護衛は彼らにお願いしましょう」

「任された。元々そのつもりだしな」


 俺があちこち浄化している間、サルヴィアは一度本国にもどって、友人たちに話を通してくるそうだ。領地同士の話ならば、ご友人方の親御さんとの話になるだろうし。


「うーん、個人で使える転移魔法とかないのかな」

「あれば便利ですわね」

「あるぞ。使い捨ての魔法封入巻紙スクロールで良ければ売るけど」

「あるのか」


 メロディの【十連ガチャ】、本当にすごいな。使い方と注意事項を聞いて、俺たちはメロディから転移用スクロールを買った。けっこうお高い。


「なるほど、あらかじめ指定した、拠点に帰る為の道具か」

「どこにでも移動する、というより、本来は脱出用という使い方なのかしら」

「スクロール一枚ごとに行先を決めておけるから、けっこう便利なはず」


 俺はノアの玩具にされる前に、スクロールを【空間収納】にしまいこんだ。『大地の遺跡』に戻ったら、早めに登録しておこう。


「では、そろそろお暇させていただきますわ」

「この屋敷の浄化は、もういいんだな?」

「モチのロン。天才な私が作った至宝、『さっぱり浄化玉くんDX』がある。瘴気に対抗し、打ち勝った救世主とは私の事」


 実際、デラックスなのは体型だけじゃないのが、地味にイラッとくる。高性能なのは歓迎されるべき事なんだけどな!


 俺たちは『大地の遺跡』にあるキャンプに帰り、女神像や慰霊碑に組み込んでもらうべく、大量の『さっぱり浄化玉くんDX』を職人たちに渡すのだった。




 コッケの鳴き声と共に朝を迎え、俺は鶏舎で困った顔のフィラルド様に会った。神獣コッケの世話をしてもらっているのに、なんだかいつも困惑させてしまっていて、申し訳ない。


「えっと……今度は、なにがありました?」

「これが、藁の中に……」


 まさか卵を産んだのか!? たま……え? んんっ!?


「卵、かなぁ?」

「……卵型、ではありますね」


 フィラルド様から渡され、俺の手の上に載ったのは、Lサイズほどの卵……型をした、銀色の何か。こっちの一般的なコッケの卵が、日本のスーパーで売られていた卵のSサイズくらいだから、だいぶ大きい。しかも、けっこう重い。


(この重さは、アルミじゃない。ニッケル? 鋼? いや、そもそも……)


「……これ、銀、ですか?」

「やっぱり、そう見えるよね?」


 あはははは、と俺たちは笑い合い、俺は卵型の銀塊をフィラルド様に押し付けた。


「鶏舎と餌代だと思って、お納めくださいッ!!」



 金鶏ィ~~~!!!!!



 ものっすごく身近に、金策チートがいたよ!

 これはジャックと豆の木か? それともイソップ寓話のガチョウか?



「コッケコッケコォォーーーーーー!!」



 埋蔵金を探すどころか、卵型の銀塊を生むなんて、聞いてないぞ……っ!!



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